#170 三騎士団の行き着く先
「Well……さあ私は、あの巨男の母艦に行くわ! WitchAirCraft・Sylph!」
「あたしらもだよお、ミリア、騎士団長いやリーダー!」
「はい、メアリー姐様!」
「はいなあ!」
青夢が指示を出そうとした時より少し前。
法機シルフを駆るマギーと、尹乃のワイルドハントの一部たる怪物郡をそれぞれ近畿・中国方面から操るメアリーとミリアに赤音が多重攻撃を仕掛ける。
「hccps://sylph.wac/、Select 風元素! Execute! ……Well、Freezing!」
「hccps://circe.wac/!」
「hccps://medeia.wac/!」
「edrn/fs/gogmagog.fs?arts=TwinStreamーーセレクト !! ツインストリーム エグゼキュート!!」
「hccps://martha.wac/ セレクト! 子飼いの帯 エグゼキュート!」
法機シルフから放たれた冷気に法機マルタの力により放たれた光線、更に法機キルケ・メーデイアの力により放たれた二股の光線が、半人半木の父艦トール本体を襲う。
しかし。
「Why!? き、効いていない!?」
「め、メアリー姐様!」
「まあまあミリア! こいつ、さっきから不気味に黙ったままだねえ……」
マギーやメアリー・ミリア、赤音が驚いたことに。
父艦トール本体は先ほどから沈黙したように動かず。
さしたる痛痒もないかのごとく、相変わらず全身からやや弱いが火炎エネルギーを発し続けている。
「リーダー! あれをあんたの法機マルタの処女の慈悲で従えちまえば」
「ああ、そうしたい所やねんけど! 今あの炎が邪魔やな、せめて剥き出しでいてくれな……ん!? な、何やありゃ!?」
「! え?」
と、その時。
これまでは沈黙していた父艦トールに、突如として動きが生じた。
何と、たちまちその身からたぎる炎は空まで達し。
尚も空から降り続いている弾幕を焼き尽くす。
更に巨木型の下半身にも動きが生じ。
人の二本足型へと、変化していく。
やがてそれは、のっそりと。
自分が先ほど伸ばした幾重もある枝たちの上に、立ち上がる。
たちまちメリメリと、父艦トールが立ち上がった足元の枝が焼けて行く。
「あれは、まさか!?」
「なあるほど……一刻も早く決着をつけたいということかい! 遂に、この時が来たんだ……」
この様子は東京方面の戦場にいる、全員が見ており。
その中でもバーンとヒミルは、覚悟を決める。
「……盟次君。君の策を、一応は聞かせてくれないかい?」
「! ふん、最後の最後にヒミル殿、お前もどういう風の吹き回しか……」
ヒミルは先ほどの話の詳細を、盟次に尋ねる。
「……私のパンドラの函船の中に、その死爪艦を入れ。法機パンドラに法機ヘル、さらに死爪艦とその他魔男の父艦に雪男の父艦の力を合わせてあれを撃破する!」
「なるほど……なら競争しようじゃあないか! どちらが相手を騙し抜いて盾にできるか。」
「!? お前……なるほど、お見通しか。」
しかしヒミルは、盟次の企みを敢えて見抜いた上で彼の話に乗ろうとしていた。
「君のことだから、何だかんだまだ魔男の騎士団長への返り咲きは諦めていないだろうと踏んでね! うまくいけば……どちらかが殆どの騎士団長の力を手にすることができるさ!」
「……なるほど、な。」
その言葉に盟次も、笑みを漏らす。
「乗ったよ、盟次君。」
「……決まりだな。hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! パンドラの函船 エグゼキュート!」
そのまま交渉成立し。
死爪艦は法機パンドラへと、融合していく――
「愛三! あれって……」
「うん……こっちに向かって来るみたい! 早く、抜け出さないと!」
父艦トールの様子を見ていた愛三も、ギリシアンスフィンクス艦を動かそうとするが。
やはり、中々動けない。
「くっ! 早く、僚艦を救出しないといけないこんな時に!」
力華も巨大骸骨で囚われの僚艦を助け出そうとしておりうまくいかない。
「Yeah……安心して皆! ここは私が!」
「いいやお前たちには無理だエインガナの魔女! そんな貧相な通常機体ベースの法機ではなあ!」
「! 龍男の騎士団長……」
しかし一人意気込むミシェルに対し。
バーンは否定の言葉をかける。
そして。
「……行くぞ、ブラックマン!」
「……はっ! hccps://baptism.tarantism/ セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷鎚形態 エグゼキュート!」
「!? な……り、龍男の騎士団長!」
バーンはブラックマンに命じ。
父艦ニーズヘッグを、かつての父艦バハムートと同じく龍の大口型にも柄を欠いた戦鎚にも見える形に変形させる。
「め、愛三! 早く逃げなさい!」
「そんな……龍男の騎士団長!」
愛三もこの光景には、かつてのトラウマが蘇り震える。
そして。
「……セレクト、ファイヤリング 巨龍の雷! エグゼキュート!」
「くっ!」
「ぐっ! ……え? ぐうっ!」
が、その時。
その父艦ニーズヘッグからは、確かに雷撃が放たれるが。
それはギリシアンスフィンクス艦や自衛艦隊、法機エインガナのいる枝たちの根本のみを破壊し。
たちまちギリシアンスフィンクス艦たちを捕らえている枝たちは、切り離され。
枝たちもぼろぼろと崩れ、ギリシアンスフィンクス艦や自衛艦隊を捕らえていた枷は、解ける。
「バーン騎士団長……」
「勘違いするな、ブラックマン。これからつける決着に女は不要、更にこれからの決着に備えて構成機群を無駄に焼き潰す訳にもいくまい? だからこそ、こうせざるを得んのだ!」
「はっ、バーン騎士団長! どこまでも……ついて行きます!」
「うむ……さあて。」
バーンはブラックマンにそれだけ言うや、振り返って今も立ち上がろうとしている父艦トールを見る。
そして。
「父艦回頭……次は全力を尽くし巨龍の雷を放つ! 発射用意しつつ回頭完了次第突撃開始! 目標、巨男の父艦トール!」
「了解!」
バーンは狙いを、改めさせる。
「く、それぞれから巨男の母艦めがけて龍男、蝙蝠男の母艦も動き出していますわ!」
「……法機は全機撤退して! 後は最終決戦の余波が及ばないように、防御に徹するわ!」
「! 魔女木さん……」
尚もこの戦場を上空から見ていた青夢とマリアナだが。
青夢が徐に出した指示に、マリアナは驚く。
それはすなわち、魔男たちの救出を諦めるということである。
「……予知で散々調べたわ! でも駄目……今この場で魔男たちを救う方法はないわ! だったらもう……後で、必ずあの衛星から救い出すの!」
「……そうね、あなたにしてはいい指揮であってよ魔女木さん! 法機及びウィガール艦、ギリシアンスフィンクス艦たち――魔女の全兵力は撤退の上、防御用意!」
青夢はわずかに涙ぐみながらも決断し。
マリアナが全機全艦にその指揮を飛ばす。
そうして魔女側の全戦力は、東京湾の浜辺まで後退する。
◆◇
「さあ行くよ、盟次君!」
「ふん、言われずとも!」
そうして魔女の全兵力が撤退した所で。
死爪艦と融合しているパンドラの函船は、艦首に展開した槍を衝角のごとく向けて体当たりを父艦トールにかます。
「ははは、龍男も蝙蝠男も終わりだよおお! 俺たち巨男の騎士団が……勝つだあああ!」
自身に向かい来る敵を見て。
アロシグも雄叫びをあげるや、父艦トールを走らせる。
たちまちその脚部が当たった枝は焼け落ちて行く。
「バーン騎士団長おお!」
「ブラックマン、全力全開だああ! セレクト、ファイヤリング 巨龍の雷! エグゼキュート!」
龍男は父艦ニーズヘッグに、滾る雷撃を滞留させる。
こうして艦を爆発的雷そのものと化し、ぶつける算段である。
「ヒミル殿おお!」
「ああ盟次君……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 宿木形態 エグゼキュート! ……さあお別れだよ!」
「!? くっ、ヒミル殿!?」
が、何とヒミルは。
土壇場で艦体より法機パンドラを――ひいては、盟次を分裂させて追放する。
「ははは、どこまでも君の考えはお見通しさあ! 僕の盾になってあわよくば他の騎士団の力も手に入れようとした……でもそうはさせない! 君に助けられるのも出し抜かれるのもごめんなのでね、では!」
「ひ……ヒミル殿おお!」
そのまま元の死爪艦に座乗艦を戻したヒミルは。
一心不乱に、突き進む。
「アロシグうう!!」
「バアーンンン! ヒミルうう!」
そのまま三父艦は、大激突をし。
大爆発を、齎し――
「hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト 栄光の壁 エグゼキュート! ……皆ああ、防御に全力をおお!」
「了解!!!」
その余波を法機戦艦やウィガール艦隊、ギリシアンスフィンクス艦やその他法機たちが。
全て、受け止める。
◆◇
「魔女木さんたち!」
その戦場から少し離れた港で。
矢魔道は戦場の光景を見て叫び、スパナを握りしめる。
整備長たる自分は、前線には立てない。
「……くっ! ず、頭痛が……は、激しい頭痛が……うわあああ!」
しかしそんな中で、いつかと同じく頭痛が彼を襲う。
――ふっ……こんなんで死にたくはなかったな……
――ああ、私も想像以上に甘かったか……まさか、こんなことで……
「くっ、頭痛が! 俺の頭の中に、また騎士団長殿たちの言葉が……」
いや、矢魔道だけでなく。
北海道の剣人も、頭痛に襲われる。
「さあ赤い騎士……目覚めるのです!」
そうしてこの様子を見ていたアリアドネは、歓喜すらしながら叫ぶ。
◆◇
「……くっ、ど、どうなったの戦いは……?」
そうして、ようやく爆発が収まった頃。
青夢は恐る恐る、顔を上げる。
すると。
「はっはっは……やっぱりだなああ! 勝ったのは俺たち、巨男の騎士団だよおお!」
「き、巨男の母艦が……」
やはりというべきか、これまで通りの頑強さでもって巨男の父艦トールのみがあの大爆発を耐え抜き。
これにより、巨男の騎士団の勝利が決した。