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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第二翔 王魔女生私掠空賊会戦
17/193

#16 空賊 VS 凸凹飛行隊

「来ましたか……ならず者さんたち!」


 マリアナは迫り来る空賊の飛行隊を睨み、呟く。


 魔男との三度の戦いを経た後。

 正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船(キャリッジエアシップ)護衛任務を受けていた。


 そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。


 夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われている。


「しかし、飛んで火に入る夏の虫という言葉を意味を教えて差し上げなくてはなりませんね。……さあ雷魔さん、使魔原さん!」

「はい、マリアナ様!!」


 法使夏・ミリアはマリアナからの呼びかけに応える。


 またミリアには、ある思いもあった。


「これでまた、しくじったら私はもう……」


 ()()()()()()()()――


 それはかつて、あのソードに自機をあっさりと乗っ取られた時の苦い思いである。


 あの後、パラシュートで地に降り立ったミリアには空を見上げる以外何もできなかった。


 さらに、これはミリアの預かり知らぬ所ではあるが。

 その際法使夏がミリアを救おうとマリアナに進言した時、マリアナは法使夏にこうはっきりと告げていた。


 ――わたくしの側付きは、高々落ちぶれた元魔男に簡単に制圧されるようであってはならなくってよ。


「……ミリア、大丈夫。私は、あなたを守る。」


 奇しくもその時、ミリアと同じことを考えていた法使夏は。


 マリアナにミリアが見切られぬよう、守るつもりでいたのだった。


「……前方より敵機来襲! マリアナ様。」

「ええ……さあ行くわよ、雷魔さん、使魔原さん!」

「はっ、マリアナ様!」


 そんなことを考えていた法使夏・ミリアは背水の陣とばかりに。


 俄然活気付き、目の前の空賊らの空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)を睨んでいた。


「……セレクト、ウインドカッター! エグゼキュート!」

「……エグゼキュート!!」


 親機たるカーミラを操るマリアナに続き、法使夏・ミリアも術句を詠唱する。


 たちまちカーミラとその子機たる法使夏機・ミリア機からは風の攻撃が、空賊めがけて放たれる。


「キャプテン!」

「ほほう、先制攻撃かい! ……散開して避けるよ!」

「イエス、マム!」


 空賊機らも、親玉たるメアリー・ブランデンの指揮の元。


 やや密集戦法となっていた陣形を散らし、そこに放たれた攻撃を避ける。


「マリアナ様!」

「へえ……ならず者さんたちにしては、そこそこ頭が働くじゃない。しかしわたくしたちも負ける訳にはいかなくてよ……セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」

「はい、マリアナ様! ……セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」


 マリアナらも、次の手に移る。

 発動したのは、空飛ぶ法機よりエネルギーを奪う術句である。


「! き、キャプテン! 出力が、低下して……」

「き、きゃあ!」

「おやおや……お前たち、一旦落ち着きな!」


 たちまち、コントロールが乱れ混乱する空賊機らだが。


 メアリーは、落ち着き払っていた。


「なるほど……噂に聞いてた通りだね! だけどあたしらも無策って訳じゃないんでね……立て直せなさそうな空飛ぶ法機は破棄、退避! まだ行けそうなら敵機から距離を取りな!」

「い、イエス マム!」


 メアリーの命を受け、空賊の魔女らは次の行動に移る。


 エネルギーが少ない者は自機を破棄し、そうでない者は自機に乗ったままカーミラらから距離を取り始める。


「ま、マリアナ様! 今なら奴らの中央を突破できます!」

「い、今ですマリアナ様!」

「落ち着きなさい、焦ることはなくってよ……セレクト、ウインドカッター! エグゼキュート!」

「え!!? え、エグゼキュート!!」


 空賊機の陣形が崩れたのを見た法使夏・ミリアは、一気に正面突破を進言するが。


 マリアナは状況を鑑みて、空賊機一機一機への攻撃を続行する。


「し、しかしマリアナ様」

「使魔原さん。わたくしの命令が聞けないって言うの?」

「!? い、いえ」


 攻撃を続けつつ、尚もマリアナに食い下がるミリアだが。


 マリアナから凄まれ、引く。


「も、申し訳ございません」

「いいわ、今そんなことは! それよりも……奴らに陣形を立て直させないで! 取り囲まれないように、攻撃で散らしておしまい!」

「は、ははあマリアナ様!!」


 ミリアの謝罪も軽く流しマリアナは。

 尚も、指揮を取り続ける。


 マリアナが危惧したのは、報告を受けている空賊の攻撃方法だ。


 ―― セレクト、野人暴食(ワイルドグラットニー) エグゼキュート!


 報告によれば、空賊機からはそんな術句の詠唱が聞こえた後。


 たちまち、空賊機からは黒いエネルギー体があふれ出し。


 それらは顎のような形となって、襲われた輸送飛行船の護衛飛行隊の機体を次々と噛み砕いていったという。


 よって、まずは奴らの機体をできる限り遠ざけることが必須である。


 マリアナは、そう確信し指揮を取り続けていた。


「(ただ、一つ気になるのは……この空賊機たちがわたくしたちのカーミラたちと同じく、普通とは違う空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)じゃないかってことね。)」


 確信を得つつも、その中でも今一つ確信を得られなかったのはそのこと。


 報告にあった技が通常の空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)にはないものであったことなどから、マリアナはこの空賊機があのアラクネから与えられたものである可能性も考えていたのであるが。


「まあ、いいわ……相手が何であろうと! 我が魔法塔華院コンツェルンの行先を阻む者は許しません!」

「はい、マリアナ様!!」


 マリアナはそれらの考えから来る迷いを振り切るかのように、空賊機らに啖呵を切る。


 法使夏・ミリアも共に叫ぶ。


「なあるほど……確かに、()()野人暴食(ワイルドグラットニー)を活かすには数が足りないねえ。」


 メアリーはそんなマリアナらを前に。

 何故か、尚も余裕を湛えていた。


 ◆◇


「ええ、こちら魔女木。現在海域、特に異常なし。……どうぞ、変態ツボワムシ君。」

「む……こちら、()()()()()()! こちらも現在海域、異常なし、そして……あれは不可抗力だった上に、俺は()()()()()()じゃない!」

「あー、はいはい。」

「こら、真面目に聞け!」


 法母周辺空域をそれぞれジャンヌダルク、クロウリーにて索敵に出ていた青夢とソードだが。

 お互いに言い争いながら、報告をしていた。


 昼間よりもさらに捜索範囲を広げての、空賊の海上拠点がないかの捜索である。


「まあ何はともあれ、無駄足だったみたいね……まあ、今魔法塔華院マリアナたちは実戦中らしいし。私たちはあるか分からないけど出撃に備えて、一旦法母に戻りましょ。」

「あ、ああ……」


 青夢の言葉に、ソードは不承不承とばかりではあるが頷く。


 今回の出撃の際には、どちらが海上での留守番か空での護衛かで少々揉めた末に。


「……まったく、なーによ! 魔法塔華院マリアナ。"この前はまぐれで、わたくしに屈辱を味わせられて満足でしょうけど……本来あなたの方が、ただ指を咥えて留守番している役目なのよ"って! あ-、ムカつく!」


 青夢は誰に聞かせるでもなく、呟く。

 結局マリアナのその一言で、青夢はすっかり気力が失せてしまった。


「いいわ、あんな奴! ……ま、空賊って言ってもカーミラがあれば大丈夫でしょ。」

「まあまあ魔女木さん! 魔法塔華院さんも悪気があるわけじゃないんだし。」

「!? や、矢魔道さーん……」


 が、突如矢魔道の声が響き渡り。

 青夢はびっくり仰天である。


 通信回線は、オンのままになっていたのだ。


「え、えっとですね矢魔道さん」

「魔女木さん、実は……魔法塔華院さんたちが心配なんだ。」

「……あ、あー、そうですかー……」

「ん? ま、魔女木さん?」


 青夢は矢魔道の続けての言葉に、肩を落とす。

 結局は、魔法塔華院マリアナですか――


 昼間のソード覗き騒動の際、マリアナの手を矢魔道が握った一件が思い出されたこともあり。

 青夢は、むくれてしまう。


「いやあだって……あのカーミラ、まだ未完成だからね。」

「……え?」


 が、矢魔道のこの言葉には。

 青夢は、首をかしげる。


「いやあ、魔女木さんのジャンヌダルクも……もとはあの二機の幻獣機で完成したわけで。それで、魔法塔華院さんのカーミラも、この前撃破されたあの幻獣機たちでできると思ったんだが。残念ながら出撃には間に合わなくてね。」

「な、なるほど……」


 なるほど。

 確かに、ジャンヌダルクは幻獣機ドラゴンとタラスクにより完成した。


 それは言うなれば、幻獣機なくしてはカーミラやクロウリーも完成しないということか。


「だから僕は……魔法塔華院さんたちが心配なんだ。」

「矢魔道さん……」


 青夢は矢魔道の言葉に、少し恥じ入る。

 ソード襲撃事件の際にも、思ったことだが。


 青夢もマリアナに対して、別に死んでほしいと思っているわけではない。

 さらに。


「……すべての人を、お前が救えって言われてるしね。」

「それは、あの魔女木獅堂の言葉か?」

「!? そ、ソード・クランプトン……盗み聞きなんて最低。」

「む、お前が通信回線を入れっぱなしにしているからだろう!」


 父の言葉を口ずさんだ青夢と矢魔道の会話に、ソードが口をはさむ。


「ま、それはどうでもいいわ。……矢魔道さん。私やります!」

「お、おお……頼もしいね。」

「えへへ♡」

「しかし……どうするんだ?」

「……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」

「いや、無視か!」


 青夢は矢魔道に宣言すると、ソードの質問には答えず。

 ジャンヌダルクの予知能力を使う。


 たちまち、あらゆる情報が青夢の脳内にダウンロードされる。

 しかし、そこで。


「!? こ、これは……」

「? どうした、魔女木の娘。」


 何やらただならぬ様子の青夢に、ソードは質問するが。


「……矢魔道さんすみません! 私このまま、魔法塔華院マリアナたちの所に行きます!」

「え? ま、魔女木さん!」

「いや、またも無視か!」


 青夢はそのままジャンヌダルクで、高空へと向かう。

 今、マリアナたちが戦っている戦場へと。


 ◆◇


「キャプテン!」

「ああ……ふふふ! ようやくお出ましかい!」


 一方、マリアナたちの戦場では。


「な、これは!?」

「ま、マリアナ様!」

「か、囲まれた!?」


 マリアナも法使夏も、ミリアも驚いたことに。

 先ほど三機ほど減らしたはずの空賊機が、また出て来たのである。


 気がつけば、先ほどと同じ数である五機の空賊機にマリアナらと輸送飛行船は囲まれていた。


「くっ……囲まれないようにと言ったでしょう!」

「ひいっ!」

「も、申し訳ありません……」


 状況に苛立ったマリアナの八つ当たりに。

 法使夏とミリアは怯える。


 特に、ミリアは。


「ああ、また私……」


 マリアナの八つ当たりに、過剰とも言えるほど反応し身体が震えていた。


「おやおや……仲間割れかい?」


 マリアナらを取り囲むメアリーは、勝ち誇ったように笑う。





「さあて……精々漁夫の利を得させていただく!」


 そして。


 アルカナは幻獣機ディアボロスに騎乗しつつ、遠くよりこの空戦を見守り隙を窺っていた。

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