#167 三父艦激突
「来ただよおお!」
「ああ、来たねえ……」
「来たさ……真の決戦の舞台へ!」
東京方面に現れたのは、三騎士団の父艦全てだった。
全艦体が燃え盛る巨男の半巨人半木型父艦トール。
龍男の騎士団擁する龍型の父艦ニーズヘッグ。
また艦と銘打ちつつも幻獣機のごとく幻獣を模した形である父艦の中では珍しい、艦そのものの形状である蝙蝠男擁する死爪艦。
この全てが、今東京湾に出揃ったのだ。
「ウィガール艦、前へ! 何としても死守せよ、この騎士団たちの戦いによる余波が街へ及ばないように!」
「はっ!」
指揮を受けた自衛艦隊が、東京湾で並び立ち防御陣形を組む。
「何だあ? 俺たちの邪魔する気なんだべか魔女たちは!」
「放っておけばいいさ、所詮魔女たちにはどうすることもできない……そう、これは僕たちだけの舞台さ!」
「ああ……まあ、魔女共との戦いに決着をつけられていないことも惜しい気はするが!」
しかし騎士団長たちは、それらを意に介さない。
今や彼らの唯一にして最大の関心は、最後の騎士団を決めることなのだから。
「騎士団たちは母艦型幻獣機を近づけ合っていてよ魔女木さん……さあ、どうなさるのであって?」
「そうね……悪いけど、ここでその最終決戦とやらはお開きにさせてもらうわ! 私が……いえ、私たちが!」
「ふっ……まあ、そうでなくってはね!」
この様子を同じく東京湾に浮かぶ法機戦艦から見ていた青夢とマリアナは。
状況を変えんと、意気込む。
「法機戦艦、前に出すわ! 一気にはできないかもしれない、だけど! 少しでも、敵の攻撃を遅らせる!」
「言われるまでもなくってよ、魔女木さん!」
ウィガール艦の戦列の隙間を抜けるように、法機戦艦は前へと進み出る。
「そうだ、相変わらずこの東京方面に当たることができるのはお前たちしかいない……だから頼む、魔女木に魔法塔華院!」
この様子を作戦本部より見ていた巫術山は、二人に聞こえないと知りつつも祈るように言う。
……飯綱法盟次さんを一時的に開放して。彼の助力もなければ、世界とは言わないまでもこの日本が滅ぼされることになるわ!――
作戦会議の場でアラクネが言った言葉である。
しかし本部としては、依然として収監中の盟次を安易に解き放つこともできず今に至る。
更に残る魔男の三騎士団全てがこの東京方面に集中しているとはいえ、未だ蜘蛛男の騎士王たちが動き出すことを警戒するという方針も変えられず。
戦力は依然、全国に分散したままなのである。
「行くべええ、父艦トールうう!」
「行こうか、我らが死爪艦!」
「ああ行こう、父艦ニーズヘッグ!」
半巨人半木の父艦、巨艦、巨竜。
この三勢力は睨み合いを止め、取っ組み合いを始める。
死爪艦は槍持つ父艦ロキの上半身を生やし。
父艦トールは自身の身体を熱し、更に右腕を蛇型に変え。
父艦ニーズヘッグは上空に直撃炸裂魔弾を多数召喚し。
「はあああ!!!」
三つ巴の、ぶつかり合いとなる。
「さあ……どの騎士団の力の餌食になりたいだかあヒミル、バーン!」
「くっ……いいや待ちたまえゴーグ君!」
「むっ! な、何だあ!?」
そのまま父艦トールより右腕の父艦ヨルムンガンド――魚男の騎士団の力と。
全身から滾る炎を死爪艦と父艦ニーズヘッグに向けるアロシグだが。
ヒミルは何と、死爪艦より生える父艦ロキの上半身でもって父艦ヨルムンガンド部へ掴みかかったのである。
「ゴーグ君、ここは一旦冷静になろう。今僕と君の父艦はいくつかの騎士団の力を保持している、しかし……あっちのギリス君のニーズヘッグはどうかな? 彼が持つはただ一つの力だ、だから! まずはそちらから潰すべきじゃないかな?」
「! はは、ヒミル……俺たちに力を貸してくれって言うだか!?」
そうしてヒミルが持ちかけた交渉を、アロシグは鼻で笑い飛ばそうとする。
「何だ何だ! 巨男と蝙蝠男が取っ組み合いになっているとは……これは隙ありだ、ブラックマン!」
「はい! ……hccps://baptism.tarantism/、セレクト ! デパーチャー オブ 直撃炸裂魔弾 エグゼキュート!」
しかしそれを好機と見て。
バーンはブラックマンに命じ、先ほど生成した直撃炸裂魔弾群を一斉に発射する。
たちまち弾幕が、巨男・蝙蝠男の父艦たちを襲う。
「おやおや……言わんこっちゃないじゃあないかゴーグ君!」
「くう……父艦フェンリルう! あれを食い尽くすだよおお!」
慌ててアロシグは、父艦トールに命じる。
すると、父艦の右腕は狼のような形に変わり。
かと思えば、それらは構成機たる幻獣機スパルトイ群に狼の原形を止めたまま分離し。
そのまま大口を開けて、炸裂する直撃炸裂魔弾群を呑み込む。
「ああ、ありがとうゴーグ君……ならば、僕も応えよう! ……セレクト 、ファイヤリング 巨骸の雷 エグゼキュート!」
そうしてお返しとばかり、ヒミルも死爪艦に命じ。
たちまち父艦ロキが持つ槍より、雷撃を父艦ニーズヘッグめがけて放つ。
「むう……ブラックマン!」
「はっ、お任せを! ……セレクト ! デパーチャー オブ 直撃炸裂魔弾 エグゼキュート!」
それに対しバーンも。
再び弾幕を巨男・蝙蝠男に向け。
それらは空中でぶつかり合い、大爆発を起こす。
「くっ、hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト 栄光の壁 エグゼキュート!」
「誘導銀弾、弾幕展開! 何としても防げ!」
「了解!」
それらの騎士団のぶつかり合いは、自衛艦隊も青夢たちもお構いなしとばかりのものであり。
その余波を防がんとして、ウィガール艦隊も法機戦艦も弾幕展開及び砲撃を開始する。
「くっ! かなりの余波であってよね!」
「ええ……でも駄目、防いでばっかりじゃ! このままじゃまた、あの三騎士団は救えない……!」
青夢は法機戦艦で余波を防ぎつつ、歯軋りする。
そう、救うべき者たちに入っているのは一般市民たちだけではない。
あの騎士団長たちもである。
◆◇
「なるほど、始まったのか……」
――ええ。あなたも、いいの何もしなくて?
「……ふん、今更何ができるというのか。」
一方、依然収監中の盟次は。
脳内に響くアラクネの言葉に、自嘲の笑い混じりに返す。
「くっ、何故かアルカナ殿の記憶が見えたことも気になるが……それより、魔女木だ! 東京方面は、大丈夫なのか……?」
北海道方面でも、剣人が。
「姉貴……今頃東京方面は」
「ええ……でも! 私たちは今ここを任されているんだから最大警戒を!」
「は、はい夢零お姉様!」
東北方面でも、龍魔力姉妹が。
「すぐにでも行けそうなのに……もう! 何で私たちじゃなくてマリアナたちが敵と戦えてるのよ!」
「はい、まったくですレイテ様!」
「はい!!」
中部方面でも、レイテたちが。
「メアリー姐様……」
「ああ、まあ案じるこたあないよミリア! またあの蜘蛛の王様が出てきたところで、あたしらが返り討ちにしてやらあいい!」
「は、はい!」
近畿方面でも、メアリーとミリアが。
「アラクネ姐様……こりゃあ、よっぽど飯綱法とかいう兄ちゃんにご執心なんやなあ! ちいと嫉妬してまうわ……まあ冗談はさておいて。」
中国方面でも、赤音が。
「マリアナ様……今頃は東京方面では。」
四国方面でも、法使夏が。
――姫、今東京では。
「ええ、そうね。……まったく私をさしおいて魔男を相手取るとはズルいわ、魔法塔華院たち!」
九州方面でも、尹乃とシュバルツが。
「巫術山教官……東京は大丈夫ですか。力華も……決戦に参加できなくて私と同じ、悔しい思いだろうな……」
沖縄方面でも、術里が。
それぞれ東京の魔男による最終決戦に思いを馳せつつ忸怩たる思いを噛み締めていた。
◆◇
「そうよ、あの騎士団長たちも救わないと! だから……何かないのかしら、あの戦場に直接割り込むやり方が!」
「控えめに言ってかなり難しいお話であってよ魔女木さん……」
再び、東京方面では。
青夢とマリアナは尚も法機戦艦と自衛艦隊の連携攻撃により、騎士団の戦闘の余波を防ぎつつも。
何とかして、魔男の戦闘そのものを止められないかと思っていた。
「やっぱり空中で戦いが繰り広げられてるから、海中を……通りたい所だけど! 雷魔法使夏の法機ルサールカ、愛三さんのスフィンクス艦……はどっちもないし!」
「まあそうであってよ……さあてどうしたものかしら。」
しかし青夢たちは、手詰まりとなっていた。
「hccps://sylph.wac/、Select 風元素! Execute!」
「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾――傾城の美女 エグゼキュート!」
「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
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「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://takiyasya.wac/、セレクト! 髑髏剣 エグゼキュート!」
「!? え!?」
と、その時だった。
術句の詠唱が多数響き、青夢がふと見れば。
「ぐう!? な、何だかあこれはあ!」
「くっ、何だい何だい!」
「これは……魔女共かあ!」
全方位から放たれた攻撃が、巨男・蝙蝠男・龍男の父艦めがけて炸裂していた。
「こ、これってまさか!」
青夢は更に、その攻撃が来たそれぞれの方向を注視する。
そこには。
「待て……私をいや、私たちを舐めるな!」
「네! 私たちも……戦う!」
「女夭のためにも……負けられない!」
「Oui! 折角の力……魔男を討つため以外に何に使うの!?」
「Yeah! 私は、動物も人もその命を守る!」
「Yes! ここで放っておいたら、アメリカに……ママたちにまで火の手が及ぶのは言うまでもないわ!」
「そ、そうよイタタ……日本の自衛隊、舐めたらいけないわよ!」
「おやおや……まさか! これで日本に、全ての強力な法機が勢揃いしちゃうなんてねえ……」
アリアドネが驚嘆したことに。
何と、アラクネが与えた法機のうち盟次と力華、さらには海外組の機体までもがやって来たのである。




