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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第八翔 魔男の黄昏
167/193

#166 三騎士団の決戦

「ダークウェブの、姫君……」


 青夢は東京湾上空を見て、歯軋りする。

 そこに浮かぶ姿は、今彼女が口にした通りダークウェブの姫君アリアドネのものである。


 東京湾では巨男と虎男で相討ちの死闘を演じ、そこへ漁夫の利を得ようとばかりやって来た牛男の父艦グリブルンスティだったが。


 実は生き残っていた巨男の父艦に今しがた、牛男の父艦は潰されて取り込まれていた。


 それを見て青夢や愛三が悲しみを覚えている戦場においてはひどく場違いに見えるほどに、アリアドネは笑みを浮かべている。


「何が……何が、そんなに可笑しいのよ! 人が、これだけ死んでるって時に!」


 青夢はそんなアリアドネに、怒りをぶつける。


「さあて……順調に騎士団の数は絞り込まれましたね。」


 だがアリアドネは、青夢の言葉には答えず。

 尚も、妖しく笑みを浮かべている。


 ◆◇


「あ、あれは……」

「ひ、姫君!」


 空中に浮かぶアリアドネ。


 その姿は、東京方面のみならず。

 中部方面でも。


「ひ、姫君い!」


 東北方面でも。

 今、魔女男の攻防戦が行われている場所全てで見られていた。


「……今をもって残る騎士団は、巨男・蝙蝠男・龍男の三騎士団となりました! よって……これよりその三騎士団は、これより真の最終決戦へと移っていただきます!」

「! 真の、最終決戦……?」


 アリアドネは笑みを崩さぬまま、高らかに言った。


「さあ騎士団長たちも魔女たちも今や満身創痍……そんなことでは真の決戦になど臨めません! 今は猶予を与えることとし、ここは下がりましょう……」

「!? おお、これはすごいだあ!」

「む……ふうむ、確かにこれでは龍魔力姉妹を倒せぬな……」

「くっ……! まあ盟次君、君などと遊ばなくて清々するよ……せいぜい僕の邪魔はしないでくれよ!」

「! くっ、ヒミル殿……」


 そのまま東北に残る龍男の騎士団・東京に残る巨男の騎士団・そして中部で盟次の艦に絡みつかれている蝙蝠男の騎士団の各父艦は。


 徐に構成機たる幻獣機スパルトイ毎に分割され、天高く昇って行く――


 ◆◇


「さあ、そっちを優先してくれ皆! あ、次はこっちだ!」


 三騎士団の撤退より、一週間後。


 戦いの後、東京湾の整備場やドックは総動員され。

 法機戦艦やウィガール艦、ギリシアンスフィンクス艦、その他法機たちの整備が矢魔道の指揮により行われていた。


「さあて、間に合うかなこのまま……」

「ごめんなさい矢魔道さん……」

「ん? あ、いやそんな! 魔女木さんのせいじゃないから。」


 そんな矢魔道に会いに来つつ。

 青夢は彼に謝る。


「いえ、私が……主砲塔を焼いちゃったようなものですし。」

「ははは、戦っていればこうなって当たり前さ! それよりも……魔女木さんたちにダメージがなければ、むしろこいつらは役目を果たしたってことだから冥利に尽きる思いだろうさ!」

「や……矢魔道さーん♡」


 青夢の言葉に矢魔道は、笑顔と共に彼女を励まし。

 青夢は顔を赤らめながら彼を見る。


 それによって少しは、青夢も心が洗われる想いだった。


「そうであってよね……元はといえば魔女木さん、あなたがわたくしのかわいい法機戦艦(アームドマギ)の主砲を使い潰してくれてのことであってよ。」

「あっ、はいすみません……って! 魔法塔華院マリアナ! 愛三さんについててって言ったのに!」


 しかしそんな青夢の気持ちなど何のそのとばかり。

 マリアナが口を挟んで来た。


「そちらは大丈夫であってよ魔女木さん。もう落ち着いた所であってよ。」

「むう……そう、ならいいけど。」


 愛三は先ほどの戦いでレーヴェブルクが戦死したことでまた落ち込んでしまったのだった。


 しかし今は、近くのホテルの部屋で眠っているという。


「そうか……龍魔力さんの妹さんも、魔女木さんみたいに騎士団長を救いたかったから。」

「……はい。」


 矢魔道は青夢に、そっと声をかけ。

 青夢もその言葉には、感じ入る。


 そう、青夢も全てを救いたかった。

 それなのに――


「矢魔道さん……私、説得力ないかもしれないけど、騎士団長たちを救います!」

「あ、ああ魔女木さん……でも、無理をしちゃ駄目だよ。」

「! あ、はい……大丈夫です!」


 青夢は矢魔道に宣言し。

 矢魔道はそんな彼女を労るように、肩に手を乗せる。


「しかし……先ほどの話を聞いていて、ますますあのアラクネさんが信用できなくなってよ!」

「! ……アラクネさん。」

「! 矢魔道、さん……」


 マリアナの言葉に、矢魔道はふと目を移す。

 それを見た青夢も、アラクネを案じていると悟り。


 彼が目を向けた場所――作戦本部に目を移す。





「まさか、勝手にマージン・アルカナを……飯綱法盟次を出撃させるとはなダークウェブの女王。」


 作戦本部では、魔女自衛隊幹部たちに囲まれた状態で。


 アラクネの姿が。

 今の話にあった通り。


 彼女は盟次を無断で出撃させたことで咎められていたのだ。


「申し訳なかったわ。確かに、勝手に出撃させたのはよくなかったわね。」


 アラクネは神妙にではなく、敢えてか明るめに言う。


「ああ、意識だけをあの収監中の身体から抜け出させるなど……まるで我々を嘲笑うかのような行為だ!」


 幹部の一人が言う。

 そう、盟次は。


 身体から意識のみ法機パンドラに接続させて操り、出撃させたのだ。


「その通り。ダークウェブの女王、今回の一件は……如何な、強力な法機を私たちにもたらしてくれたあなたといえど容認できない!」


 別の幹部も言う。


「それは本当に申し訳ないと謝っているわ……申し訳ないついでに、私からお願いがあるの。」

「! お、お願いだって?」

「……飯綱法盟次さんを一時的に開放して。彼の助力もなければ、世界とは言わないまでもこの日本が滅ぼされることになるわ!」

「! な!」


 しかし、アラクネは突拍子もないことを口にする。

 それには幹部たちも、たじろいでしまう。


「どういうことだ!? 既に三騎士団まで減っているんだぞ、そんなに戦力が目減りした状態でそんなことが!?」

「いいえ、目減りじゃないわ! むしろ、数少ない騎士団に12騎士団の力がそれぞれ濃縮されている分強化されている……それが次の戦いで一箇所に集められて決戦をするということはどういうことか分かっているわね?」

「!? な……」


 アラクネは更に、言葉を続けた。


「(そう、あちらは既に総力を上げている……だったら、こちらも総力を上げる必要があるわね!)」


 アラクネは、言葉では盟次のみを戦力として欲しているようだが。


 その実、()()()()()()()()を目的としていた。




「マギー、どうしたんだい?」

「! あらデイブ……ううん、何でもないわ。」


 その頃沖縄では。


 アメリカから、行った時と同じく法機ヘルで宇宙経由の上戻って来たマギーは、同僚のデイビッドに微笑む。


 何とか軍規違反は、バレずに済んだ。


「……Resourcers――魔男たちが最後の決戦をするみたいだ。僕たちは、その最後の決戦がいつになるか分からないから待機だって。」

「Yes……alrightよ。」


 デイビッドの言葉に、マギーは頷く。


「(私の法機Sylph……あれがあれば、そのResourcersの決戦も……ううん、ダメだわ。あれを使えば、私の軍規違反が……)」


 マギーは悩みつつ、思いつきを蹴り飛ばす。




「妖術魔さん……大丈夫ですか?」

「ええ……大丈夫。夢零さん、あなたも大丈夫だったのね……」

「……はい、おかげさまで!」


 福島の病院では。


 直撃炸裂魔弾エクスプロージョンマジックブレット群の爆発に巻き込まれたものの何とか軽傷で済んだ力華を、夢零や英乃、二手乃が見舞っていた。


「だけどそうね……魔男の決戦にはちょっと無理か……」

「! ご、ごめんなさい本当に!」

「! あ、い、いえいいのよ! 本当にあなたのせいじゃないから!」


 力華がぼそりと呟いた言葉に、夢零は謝り倒す。




「어머니……」

女夭(ヌーヤオ)……」

「animals……」

「私の国……」


 一方、陽玄に鬼苺、ミシェルに初花といった海外組も。


 陽玄と鬼苺は、日本に戻っており。

 ミシェルと初花は、祖国にいながらも。


 それぞれ大事な人に、その祖国に思いを馳せつつも魔男の最終決戦についても気にしていた。


 ◆◇


 ――……よくぞ生き残りましたね、巨男・蝙蝠男・龍男の各騎士団長!


「ええダークウェブの姫君……わざわざお声掛け感謝いたします。」

「ああ、かたじけないだあ。」

「麗しき姫君、よくぞ僕のために!」


 一方。

 座乗する、司令室を兼ねる輸送型幻獣機の持つステルス性でもって各々に空中待機している三騎士団長に向け。


 アリアドネの声が、その脳内へと届けられる。


「いよいよ真の最終決戦となります……十分に力は補給しましたね。」

「……はっ、おかげさまで!!!」


 アロシグもヒミルもバーンも、その場で恭しく頭を下げる。




「そうよ……さあ備えるがいいわ、最終決戦に。」

「……姫君。」

「あら、ヴァイス。それに……ウィヨルとフィダールも。」

「はっ、姫君!!」


 そうして声をかけ終えたアリアドネの背後から、声がかけられた。


 そこには仮面の騎士たるヴァイスに加え。


 かつての盟次の近衛騎士たる、ラインフェルト・ウィヨルとサベント・フィダールの姿もあった。


「続々と集まってくれるわね、騎士たち……さあ、精々見届けなくてはね。この戦いの結末を!」


 アリアドネは、彼らに微笑む。


 ◆◇


「……来たわ。」


 そうして三騎士団の撤退より一か月が経とうとしていた時。


「さあ……最期だなあああ!」

「ああ、せっかくここまで来たんだ……このまま僕らがやらせてもらうよお!」

「ああ勝たせてもらうさ……我ら龍男の騎士団がなあ!」


 巨男の半人半木型の父艦トール、蝙蝠男の死爪艦、龍男の父艦ニーズヘッグは一箇所に現れた。


 そう、東京方面へと――

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