#164 因縁の各戦線③
「さあさあ……どうしただか魔女共お! そんな力じゃ俺たちは、倒されないだよー!」
「くっ! ええ、そのようね……あんたは一筋縄じゃいかない!」
東京方面では。
愛三の加勢を受けたとはいえ、依然として巨男の騎士団との膠着状態は続いていた。
青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦とギリシアンスフィンクス艦、そして巨男の父艦トールがぶつかり合うも、その力は拮抗し合っており現在の膠着状態となってしまっているのである。
「もう、早くここから出て行ってよお! せっかくリオルが残してくれた力なのに……このままじゃ!」
愛三は歯軋りする。
この新たな力ですら、父艦トールを潰し切れないのかと。
「焦らないで愛三さん、チャンスは必ずあるから!」
「まあ愛三さん、一人で突き進まれては集団行動が乱れて迷惑であってよ!」
「もうっ、まあたあんたはそんな言い方しかできないんだから!」
愛三を青夢とマリアナは、それぞれに宥める。
「で、でも! 早くあいつを倒さなくちゃ皆が!」
「とにかく待ってて愛三さん! hccps://jehannedarc.wac/、セレクト! オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート!」
尚も焦る愛三を宥めながら青夢は、法機ジャンヌダルクの予知能力を使い必死に策を練る。
そして。
「……! これしかないわ……魔法塔華院マリアナと愛三さん! 私たちの力を合わせましょう……」
「! ほ、本当なのジャンヌダルクちゃん!」
「はあ……また碌でもない作戦ではなくってよね魔女木さん!」
青夢の言葉に愛三は驚き、マリアナは作戦の確実性を訝しんでいる。
「何だ何だあ、何も来ないだか!? なら……こっちから行くだよお! hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 炎の舞 エグゼキュート!」
「くっ、法機戦艦魔法塔華院なんちゃら! セレクト 、ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
しかしそれを隙と見たアロシグは、父艦トールに命じ。
またも松明弾が放たれたのを、青夢が法機戦艦の砲撃でもって迎え撃つ。
「もう四の五の言ってる暇ないんだから魔法塔華院マリアナ! 早く!」
「もう……後で覚えていて欲しくってよ魔女木さん!hccps://camilla.wac/、セレクト、ファング オブ バンパイヤ! hccps://camilla.wac/GrimoreMark、セレクト 神がかりの操血 エグゼキュート! ……ふう、さあいいプログラムを書いてあげてよ魔女木さん!」
「ええありがとう魔法塔華院マリアナ! さあ行くわよ愛三さん……」
「うん、ジャンヌダルクちゃん! hccps://sphinx.wac/ セレクト、大いなる謎!
hccps://sphinx.wac/GrimoreMark、セレクト 王神の槍形態! エグゼキュート!」
「hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
マリアナは憎まれ口を叩きつつも。
こんなこともあろうかと作っておいたグリモアマークレットを使い、まずは自身の演賛能力を強化した上で新たなグリモアマークレットのプログラムを編んで愛三に送り。
それを愛三が詠唱し、更に青夢がかつて自分が作り上げたグリモアマークレットを詠唱し多重詠唱とし。
彼女たちの作戦が始まる――
◆◇
「ああすまぬ、すまぬ、すまぬなヒミル殿お!」
「ああまったく……謝れば何でもいいというものじゃないと何度も言っているだろう!」
ヒミルは今、盟次の艦に組みつかれている自艦・死爪艦の中で歯軋りする。
至近距離で相変わらず、盟次は構成機群による攻撃を仕掛けて来ているのだ。
厄介なことにパンドラの函船の構成機群は、死爪艦の構成機群だったこともあり。
法機九尾狐の時と同じく攻撃の無効化がまったく働いておらずダメージをそのまま負ってしまっている。
「あああああ……まったくどこまでも僕を苛立たせてくれるなあ君は! もはや出し惜しみは無用か!」
ヒミルは更に歯軋りし。
ついに枷を解き放つ決意をする。
「セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 光鎧形態 エグゼキュート!」
「!? ぐっ、またも父艦ロキか……? ……いや、これは!」
死爪艦からまたも生えるように湧いて出て来た上半身を見た盟次は、驚く。
それは先ほど滅ぼした雪男の父艦バーサーカーズマーチ、その必殺形態の姿だったからだ。
当然それは、雷を纏っており。
先ほどまでのお返しとばかりに滾る雷撃が、未だ纏わりつく パンドラの函船 に打ちつける。
「ははは、これでおあいこだねえ盟次君! いや、飯綱法盟次……もはや存在も記憶も、早く僕の認識から消えてくれよお!」
「ふん……ああ返す返すもすまないなあヒミル殿! 私の謝罪は……まだ終わっていないのだよ!」
が、盟次も負けじと。
パンドラの函船の構成機群から、懲りずに砲撃を続けさせる。
「ぐうっ! ああ飯綱法盟次……君は言葉の通じない宇宙人のようだねええ! 最初から交渉になど応じなければよかったよおお!」
しかし闘志を未だ滾らせるは、盟次のみならずヒミルもであり。
尚も艦体より放つ雷撃の滾りを、強める。
「君ごときにここでやられては元も子もない……そうさ、僕が目指すはこんな所じゃあないんだ!」
ヒミルはもどかしげに、叫ぶ。
◆◇
「つくづく悪運だけはしぶといものだな龍魔力の姉妹共! だが……それもまもなく終わる!」
「hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート! !? 英乃、二手乃、そちらに敵艦が!」
「は、はいお姉様! hccps://graiae.wac/deino/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
東北方面では。
爆発の光により龍魔力姉妹が目を眩ませる間に。
バーンは父艦ニーズヘッグを高速移動させ、龍魔力姉妹の法機グライアイ三機による防衛線の中央突破を図ろうとしていた。
それを阻止せんと"目"を発動する龍魔力姉妹だが。
「セレクト 、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート! ……ははは、所詮は馬鹿の一つ覚えか、そんなものでえ!」
「くう、しつこいわ!」
バーンは既に慣れた様で、父艦を原形止めしままに構成機群毎に分かれ。
幻獣機の群れは龍の形を取り、余裕を体現するかのように一旦上昇して見せる。
「仕方ないわ……英乃、二手乃! 一旦離脱しなさい! グリモアマークレットで何とかするわ!」
「! な、お、お姉様あれは!」
「ああ了解したよ姉貴い! さあ二手乃、離れるぞ!」
「え、英乃お姉様!」
夢零は決意し、妹たちを下がらせる。
それは凸凹飛行隊から習い、決戦時のために取っておいたグリモアマークレットだ。
「ははは、最期に妹たちは救おうとはな! いい姉妹の愛情だ! ……ブラックマン!」
「はっ、最期に手向けの花を…… 直撃炸裂魔弾! セレクト 、ビーイング トランスフォームド イントゥ 宿木形態 エグゼキュート!」
そのまま勝利を確信したバーンは。
ブラックマンに命じ、再び直撃炸裂魔弾の槍を夢零の機体に差し向けさせる。
「……自衛艦隊の皆さん、再び誘導銀弾を発射してください!」
「り、了解! ……セレクト 、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「……hccps://graiae.wac/、セレクト グライアイズアイ、グライアイズファング! hccps://graiae.wac/GrimoreMark、セレクト 生ける死剣 エグゼキュート!」
夢零の決意を汲んだ自衛艦隊が発射した誘導銀弾群は、夢零渾身のグリモアマークレットにより剣の形をした銀弾群となり。
そのまま直撃炸裂魔弾群と、ぶつかり合う――
「ははは! まったく呆気ないな! さあ後は姉妹二人を」
「ば、バーン騎士団長! ば、爆発の中から敵弾群が……こ、こっちに向かって来ます!」
「! な……何い!?」
しかし、バーンが笑ったも束の間。
何と今言った通り剣の形をした誘導銀弾の群れは、爆炎の中から躍り出て父艦ニーズヘッグに迫る。
さながら、生きているかのごとく。
「く、回頭せよ!」
「だ、駄目です! ま、間に合いません!」
「くっ……ぐうう!」
バーンも父艦を回避させようとするが。
誘導銀弾群に打ち据えられ、爆発する。
「誘導銀弾はうまく飛んでくれたわ……でも、私は終わりかしらね。」
「お、お姉様!」
「あ、姉貴い!」
それと時同じくして。
先ほどの直撃炸裂魔弾群の爆発も激しく、それは相討ちとばかりに夢零が乗る法機グライアイを呑み込もうとする――




