#163 因縁の各戦線②
「ありゃあ羽の生えた船だか!? ありゃあ一体」
「リオルの力もあってできたギリシアンスフィンクス艦だよ! さあ巨男の騎士団長さん……一発やり合おうよ!」
突如東京方面に現れた、愛三のギリシアンスフィンクス艦を見て。
父艦トール座乗のアロシグは驚愕する。
「ああそうしたいんも山々だべ、んだけど……今、遊んでる暇ないんべなあ!」
「ムッキー! 遊びじゃないもん、本気だもん!」
アロシグの言葉に愛三は、カチンと来る。
そうして。
「セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 炎の舞 エグゼキュート!」
ギリシアンスフィンクス艦と父艦トールが技のぶつかり合いとなる。
「す、スフィンクスの魔女。」
「リオルの騎士団長さん、早く体勢を立て直して!」
「む……止むを得ず。一旦離脱!」
幻獣機飛行艦双猫の戦車座乗のレーヴェブルクは愛三の言葉を受け。
体勢を立て直すべく、艦を一旦離脱させる。
「愛三さん!」
「あ、ジャンヌダルクちゃんたち! だいじょーぶだよ、ここは私が」
「隙ありだよお、スフィンクスの艦!」
「! きゃ!」
「セレクト ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
愛三が目を離した隙に父艦トールが放って来た攻撃を、青夢は法機戦艦からの砲撃により迎え撃ちサポートする。
◆◇
「ふふふ、どうしたあ! そんなことでは戦いになっていないぞお!」
「何を……まだ本気じゃないわ! さあ英乃、二手乃!」
「はい、お姉様! hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート!」
「ああ姉貴! hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング エグゼキュート!」
東北方面では。
父艦ニーズヘッグと龍魔力四姉妹の法機グライアイが、激しくぶつかり合っていた。
「ううむ、埒が明かんな……ブラックマン! お前の魔弾の射手としての腕の見せ所だ!」
「は、バーン騎士団長! …… デパーチャー オブ 直撃炸裂魔弾!」
「! くっ、上空に敵弾多数生成!」
しかしバーンは、切り札を発動する。
それはかつて魔弾の射手として名を馳せたブラックマンの力である。
「さあ直撃炸裂魔弾よ……セレクト 、ビーイング トランスフォームド イントゥ 宿木形態 エグゼキュート! さあ行けえ、忌まわしき龍魔力四姉妹めがけて!」
「くっ、敵弾が槍のような形に纏って行く!」
ブラックマンが父艦ニーズヘッグより命じ、上空の直撃炸裂魔弾は槍状に纏まり。
そのまま地上に振り下ろされる、雷撃と化す。
「姉貴!」
「案じることはないわ……hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
「ふん、またも私の力を! まあいい……セレクト 、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート!」
夢零は即応し、その巨大な雷撃の槍を照準するが。
ブラックマンは当然それを見越しており、雷撃の槍を原型を止めたまま構成弾毎に分かれさせる。
「英乃、二手乃!」
「応!」
「はい!」
「hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート!」
「hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング エグゼキュート!」
「デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
しかし夢零も、それを見越しており妹たちに命じ。
それを受けて英乃・二手乃も自機の力により誘導銀弾の再照準と誘導性再付与を行い。
それらを施された誘導銀弾群は自衛艦隊のウィガール艦たちより躍り出て、直撃炸裂魔弾群とぶつかり合い空中で大爆発を起こす。
「くう!」
「ふん! しぶといな魔女共め!」
これには龍男の騎士団と龍魔力姉妹、共に目が眩む。
「龍魔力さんたち、よくやっているわ……」
「くっ、こりゃあ忸怩たる思いザンス! だけど……まずは待つザンス! そうすれば私にも、勝機が……」
一方、この戦場から離れた所で組み合う力華の法機滝夜叉による餓者髑髏と牛男の父艦グリブルンスティだが。
父艦グリブルンスティでは未だボーンも、機を窺っていた。
◆◇
「やあれやれ……しぶといねえ君はあ!」
「ああ、君もなあ!」
中部方面では。
死爪艦から生える父艦ロキの上半身が宿木の槍を振るうが、それは小回りが聞かず羽虫のように飛び回る法機パンドラを捉え切れない。
「だがここで諦める訳にはいかないなあ! セレクト グラビトンプレッシャー エグゼキュート!」
しかしヒミルは、徐に技を発動する。
すると父艦ロキの上半身部分が口を開き。
何やら衝撃波を撒き散らした。
「! その技は……ぐっ!」
いやそれは衝撃波というよりは。
重力波となり、法機パンドラを――ひいては、それを操縦する盟次を捉える。
fcp> get gravitonpressure.hcml――グラビトンプレッシャー エグゼキュート!――
「これはそうか、私がかつての争奪聖杯に際し女男の騎士団以外を妨害するために放った力……!」
盟次は歯軋りする。
自分が相手に向けていたものを向けられるとは、何という因果かと。
「ははは、動けないだろう? さあここまでだよマージン君! 一息に潰してやるさあ! セレクト、ファイヤリング 巨屍の雷 エグゼキュート!」
その間にもヒミルは、父艦ロキ部分を操り。
身動きが取れずにいる法機パンドラめがけて、光の槍と化した宿木の槍を振り下ろす――
「ふん、やられるかあ! hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! エグゼキュート!」
「む!? くっ、イ、巨屍の雷を防ぐ……いや、吸収していく!?」
が、盟次もおとなしくやられるタマではなく。
かつて法機ヘルを取り込んだ時の能力を応用し、溢れる敵艦の攻撃を次々と吸収していく。
「hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道 エグゼキュート! さあ私に続きなさいジニーたちい!」
「はい、レイテ様!」
「はい!!」
「くっ、魔女たちもかい!」
今度は身動きが取れなくなったのはヒミルの死爪艦の方とばかり。
それまで蚊帳の外にいたレイテの法機モーガン・ル・フェイとその力を分け与えられたジニーたちの一般法機三機が群をなし、艦体へと光の軌跡を生成しそれにより斬りつけて行く。
「ふふ…… hccps://baptism.tarantism/ セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート!」
「くっ! れ、レイテ様、敵機群が!」
「湧いて出たわね……光の速さで抜けるわよ皆! hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道 エグゼキュート!」
「はい!!! セレクト!!! 楽園への道 エグゼキュート!!!」
しかしヒミルは、ならばと艦体を構成機群に分解して動かしてレイテらに当たらせ。
それを不利と見たレイテらは自機を揃って駆り立て、離脱して行く。
「ふん、僕らが動けないと思ったか! 生憎動こうと思えば動けるのさ……さあ! 僕の可愛い幻獣機デッドリースパルトイたち……マージン・アルカナ君を、一息に潰してしまうんだ!」
ヒミルは低く笑うや今度こそ好機とばかり。
自艦のエネルギーを吸ってはいるが依然として身動きのとれない法機パンドラに構成機群を差し向けて行く。
「ふふふ……これで終わりと思うな! hccps://pandora.wac/、セレクト パンドラの函船 エグゼキュート!」
「むっ……くっ、マージン君、君という奴は!」
しかし盟次は、まだまだ足掻きを見せ。
自分に向かって来た構成機群をも、法機パンドラの力を使い取り込んでみせる。
たちまち構成機群は法機パンドラを核として集まり。
それは死爪艦と同じく船そのものの形をした巨大兵器、パンドラの函船を形作る。
「さあ……離脱だ!」
「ぐっ! ……はあなるほど、これでまた振り出しに戻ったという訳かい!」
そのパンドラの函船により膂力を得た盟次は、力技で死爪艦の縛りから脱出・距離を取り再び対峙する。
「くっ、構成機群を減らされたか……父艦ロキ、下がれ! ここからはこの死爪艦の力で当たらせてもらうよマージン君……」
ヒミルは自艦のバランスを取るべく変形し、再び純粋な船の形態へと死爪艦を戻す。
「ほう……これでようやく対等に並び立てたというものかヒミルよ!」
「ああそうだねえ……まあ、君なんかと同類にはされたくないけどねえ!」
盟次とヒミルは舌戦を繰り広げる。
「(そうだ……さあヒミル! 私を恨め!)」
――本当にいいのかしら? それで。
「(!? くっ……女王陛下か!)」
が、相変わらずヒミルに自分をあくまで憎ませようとする盟次に。
アラクネが、そっとその脳内に呼びかける。
「どうしたあ? 来ないならこちらから行くよお!」
「! くっ、このお!」
しかし、その盟次の隙を好機と見てヒミルは。
死爪艦を急加速し、パンドラの函船へと肉薄する。
「hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道 エグゼキュート!」
「セレクト!!! 楽園への道 エグゼキュート!!!」
「おうや……まあた君たちかい! まったく、また邪魔を!」
が、そこへレイテの法機モーガン・ル・フェイ以下三機が飛来し。
死爪艦の周りを飛び回りつつ攻撃を仕掛けて行く。
「む、これは!」
「ああ、そうだわ…… hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト 九姉妹! エグゼキュート!」
「!? く、こ、この感覚は!」
その光景に盟次が戸惑っていると。
レイテが術句を唱え、たちまち盟次は自分と自機に違和感を覚える。
そうこれは。
「あの宇宙での戦いの時と同じか……また私に!」
かつて宇宙でレイテからかけられた術とまるで同じ感覚。
自機がレイテのモーガン・ル・フェイの支配下に置かれて能力を分け与えられた時の感覚である。
――これであなたとレイテさんたちは共同戦線を張らざるを得ないわ……さあ、盟次さん!
「くっ、女王に魔女共! 貴様らはまた!」
盟次はまたも脳内に響いて来たアラクネの声と今の状況に苛立つ。
何故だ、何故私とヒミルの戦いに口を出すのかと。
――あら、あなたこそ……そんな安易な気持ちとやり方で、仮にも魔男の12騎士団の一つの長と戦えると思っているの!
「! な、何?」
アラクネはしかし、そんな盟次の言葉を見透かしたように彼に問いかける。
――そもそもあなたは今、問題をすり替えているわ! あなたをあのヒミルに恨ませて、それであなたの問題は解決するの?
「む、そ、それは……」
アラクネの尚も続く言葉に、盟次は言葉に詰まる。
――そう、あなたも分かっているでしょう? なら……それを今やりに行くの! さあご覧なさい、今あの娘たちがやっていることを!
「! くっ……相変わらず、私のやることの邪魔を!」
そうして死爪艦を取り囲んで攻撃しているレイテたちを見て盟次は、歯軋りする。
よくも――
――いいえ、あれはむしろあなたが自分と向き合う時間を稼いでくれているの! 私の頼みでね。
「! ふん……余計なことを。」
盟次はだがまたも、アラクネに諭される。
そう、今こうして考える時間があるのはあのレイテたちのおかげなのだ。
――でも、そんなに長くはないわ……さあ! そろそろ結論をお出しなさい。
「……そんなものは、とうに出している!」
盟次はそれにより、今こうして覚悟を決めることができた。
そして。
――ならいいわ……さあ! お行きなさい、盟次さん!
「言われずとも! セレクト! 楽園への道 エグゼキュート!」
――レイテさんたち、離脱よ!
「! はい!!!!」
盟次が死爪艦めがけて自艦を急加速し。
それを受けたレイテたちは、自機を離脱させる。
そうして。
「……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態 エグゼキュート! さあヒミル殿、私はもうマージン・アルカナではない……飯綱法盟次だ!」
「ぬ!? くっ、これは!」
盟次は先ほど自機を法機モーガン・ル・フェイに乗っ取られた時と同様、かつての宇宙での戦いと同じ手を使う。
いや、正確にはその際ワイルドハントに自らがやられた手様――構成機毎に艦体を分裂させた形態たる群生形態になり、敵艦に絡みつくという手である。
この手を使い盟次は、自艦パンドラの函船を死爪艦に絡みつかせる。
「君は……僕と心中する気なのかいマージン君!」
「ふん、その名で呼ぶことも私の心も違うぞヒミル殿! いや、私が君にやるべきことは一つだった!」
「ふん、何なんだい飯綱法盟次君!」
盟次とヒミルは、自艦が至近距離となり比較的穏やかに会話を交わす。
「君を、いずれは裏切るつもりだったことは事実だが……少なくとも、あのような裏切り方になってしまったことは大変すまなかった!」
「!? おやおや……どうしたあ! 君が謝るなどと、今日は世界滅亡の日かい!?」
盟次はヒミルに自分を恨ませることではなく本来果たすべきであった真意――謝罪を果たす。
「ああ、あながちそうだな! 今日世界は終わるかもしれん……だから、そうなる前に私は忌まわしきあの女王のお節介に乗せられることにした! ここで君がもし、他の騎士団にやられることがあれば私は! もはや謝罪を果たせぬからな……」
盟次はヒミルに、たじろぐことなく自身の真意を伝え続ける。
「ははは……それで? 謝るから許せというのかい? そんなねえ……謝って済むなら警察は要らないとは言えた立場ではないが言いたい所じゃあないかあ!」
ヒミルも盟次に、思いの丈をぶつける。
「だったらちょうどいいなあ……死んで詫びてくれよお! 今この体勢では相討ちになってしまうから君が離れて、僕に君を倒させてくれよお!」
「くっ! ヒミル、殿……」
ヒミルは更に、怒りを滾らせ。
死爪艦はその意思を汲み取ったかのごとく、艦体を蠢かせる。
それは今絡みついている盟次を、パンドラの函船を、引き剥がそうとする動きでもあった。
「ああ、ヒミル殿すまない……すまない、すまない! セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 各個形態! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「ぐっ!? これは……何なんだい君はあ! 僕に謝りながら、この仕打ちかあ!」
盟次は今度は、自艦を完全な構成機毎に分解するやそれらに死爪艦の周囲を飛び回らせ。
それにより死爪艦の艦体を、構成機一機一機から出させた法機ヘルによる火線により破壊していく。
「ああすまない……すまない……すまない、ヒミル殿! 君は私があんな裏切り方をしなければこうは……クラブ殿を葬るなどということにはならなかっただろう! だから、私が責任を持って葬る……」
「無茶苦茶だってのさあ、その考え方そのものがあ!」
盟次は尚も謝りつつ、死爪艦に攻撃を加えて行く。
◆◇
「消えて行くわね、命が……」
「ええ、姫君……」
この様子をダークウェブの最深部から見つめるアリアドネと仮面の騎士ヴァイスである。
「……そろそろ絞り込まれるわ。そうしたらやらなくてはね。」
「はい、やらなければなりますまい。」
しかしアリアドネとヴァイスは、ふと顔を上げる。
そして。
「ええ、この争奪聖杯の」
「はい、この争奪聖杯の」
二人は、息を合わせて言う。
「……真の最終決戦を!!」