#160 六騎士団総攻撃
「さあ巨男の騎士団長……いざ死合わん。」
「ああいいだよ……試合するだよお!」
関東方面では。
突如として現れた、虎男の騎士団擁する幻獣機飛行艦双猫の戦車と。
東京湾に鎮座しながら魔女たちに攻撃を仕掛けていた半木半巨人型の父艦トールが対峙していた。
「……hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 日光砲 エグゼキュート。」
「セレクト、炎の舞 エグゼキュート!」
そうしてレーヴェブルクとアロシグは、それぞれの自艦たる双猫の戦車と父艦トールに命じ。
双猫の戦車からはかつてサロが放っていた擬似太陽の熱波が、父艦トールからは先ほどと同じ松明弾が多数放たれ。
双方の攻撃は、空中で激しくぶつかり合う。
「こ、こんな所であんなぶつかり合いされたら! 法機戦艦! くっ!」
青夢はその余波を警戒し。
法機戦艦による防壁を強める。
しかし。
「ん? て、手応えが、ない? ……な!? あ、あんたは!」
どうにも余波が来ないことを訝しみ青夢は、防壁の向こう側を見るや。
そこに、まるで町を守るかのごとく巨男の父艦の前に立ち塞がっている虎男の双猫の戦車の姿を認めて驚愕する。
それは狼男の力を使い、この戦いの余波となる熱波を呑み込んで回収し周囲に害が及ばぬようにしていた。
「魔女たち! 今のみ、であるが……リオルが守りしもの、ここでむざむざとやられるに任せるはせぬ!」
「こ、虎男の騎士団長……」
レーヴェブルクは背後の防壁越しに、青夢たちにそう告げる。
「ふん、強がり言ってんじゃないべ! こんなもんじゃないんべよお! セレクト、熱風の舞 エグゼキュート!」
「強がりはどちらか。 セレクト! 日光砲 エグゼキュート。 こちらは自身を含め四騎士団の力あり、そちらより一つばかり多し……」
そうこうする内にも、巨男と虎男の力はぶつかり合い続ける。
そうして出た余波をしかし、レーヴェブルクは自艦の能力でもって吸収し周囲に影響のないようにしていく。
「くっ、このままじゃ!」
青夢はそんな戦場の様子を法機戦艦の防壁越しに見て、歯軋りする。
今でこそ拮抗しているかに見える巨男と虎男だが、聞けば巨男のあの父艦は魚男・木男の父艦による特攻にも耐えるほどの頑強さを持っているという。
ここでも同じことが起きないとは限らない。
すなわち、もし巨男と虎男が一騎討ちにでもなれば――
「……いやダメだわ、そんなこと考えても! そうよ、何かないのかしら……あの戦火の中に飛び込めるような防御力の高いものは……ん!?」
「な、何であって魔女木さん?」
青夢は独り言ちつつマリアナに突っ込まれるが。
ふと彼女の頭には天啓が浮かんでいた。
そう、いるとすればあれである。
それは――
◆◇
「な……か、関東に虎男の騎士団が!? そ、それも巨男の攻撃から魔女を守るようにして戦っているんですか!?」
東北方面、福島の沖合いでは。
今尚繰り広げられている龍男と牛男、さらに龍魔力の姉たちによる三つ巴の戦いの横で。
力華は、巫術山から関東の様子を聞いて驚いていた。
まさか。
「ああ、そうだ……そこで、龍魔力愛三のギリシアンスフィンクス艦が使えるのではないかと魔女木が考えついた。それで、こうして連絡したのだ。」
「な、なるほど……」
力華は巫術山のその言葉に頷く。
そう、青夢が思いついたのはそのことである。
今"控え"になってはいつつも、事実上の戦力外たる愛三は関東に移しても問題はない。
後は、マリアナの法機カーミラによりネットワークを繋げて操作すればよい話ではある。
しかし、そもそもここから動かすには愛三自身の意思が必要なのは言うまでもなかった。
「……分かりました、私が何とか愛三さんに話します!」
「うむ、よろしく頼むぞ妖術魔二等空曹!」
「はっ!」
力華は説得の役目を買って出た。
◆◇
「し、しかし何故魔男の騎士団の力を卿が……」
「ははは、忘れたのかい? 我らが姫君のおっしゃっていたことを!」
「な、何? ……確か」
一方、愛知県沖を戦場とする中部方面でも。
ヒミルの死爪艦と対峙する父艦バーサーカーズマーチの中でクラブは、ヒミルのその言葉に円卓で言われた言葉を思い出していた。
折角これまで戦って来て直接間接問わずに他騎士団を滅ぼしていればいいこともあったと言いますのに。そう例えば……滅ぼした騎士団の力を得るとか。――
「直接間接問わず……そうか! ならば卿は」
クラブは合点する。
そう、蝙蝠男の騎士団は間接的に魔男の騎士団を滅ぼした――もとい、脱落させたことになっていたのである。
「ああだから迂闊だと言ったのさ! のこのことこの僕にやられるためにやって来るなどと、ははは!」
もはや勝ちは決まったとばかり、ヒミルは笑う。
「くっ……ああ、その通りだな!」
「……何?」
しかしクラブは。
ヒミルの発言を、肯定する。
「迂闊だったことは認めよう……だが! まだ勝ちを確信するは卿こそ迂闊というものではないか? 待っていろ……今にその足元を掬い上げてやる!」
「おや! なあるほどねえ……面白い!」
しかしクラブも借りにも騎士団長、ここで安易に降伏したりはせず。
むしろ自分の方から、より加速してヒミル座乗の死爪艦へと向かって行く。
と、そこへ。
「ちょっと待ったああ! 隙ありよおお、皆あ!」
「はい、レイテ様!!!」
「!? おうやこれは、魔女たちか!」
レイテの法機モーガン・ル・フェイと、その力を分け与えられたジニー、雷破、武錬の通常機体たちが両騎士団の間に割って入る。
「おやおや……君たちも仲間に入りたくなったかい!」
「くっ、魔女たちめ! どこまでも邪魔を……いや、待て。」
死爪艦へと迫るレイテ・ジニーの法機たちを、ヒミルは敢えて迎え入れて力を振るい始め。
バーサーカーズマーチの周りにも纏わりつくように飛ぶ雷破・武錬の法機を煩わしげに見つめるクラブは、しかしふとあることを思いつく。
「……ならば魔女たち! この戦いに口を挟んだならば、最期まで役立ってもらわねばな!」
「!? な、何ですって!!」
クラブはそう言い、それを受けた雷破と武錬は戸惑う。
そして。
「……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート! さあパーツ群よ、法機たちを死爪艦へと追い立てよ!」
「くっ、これは!?」
「だ、ダメみたい雷破! 一旦退がらなくては!」
クラブが自艦を分かれさせて再び差し向けた怪物群は、力を分け与えられたとはいえ雷破と武錬が迎え撃つには荷が重すぎ。
彼女たちは、大きく後退していく。
「れ、レイテ様! 雷破と武錬が!」
「あら……二人とも、敵はどうやら強かったようね!」
「おうや……何だ、魔女のお嬢さん方は全員こちらかい?」
そう、クラブの弁にあった通り死爪艦へと。
「も、申し訳ございません!!」
「いいのよ……さあこうなったら、まずはこの船を相手に! hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道 エグゼキュート!」
「セレクト! 楽園への道 エグゼキュート!!!」
レイテは雷破と武錬を宥めつつ、彼女たちやジニーと四人で術句を多重詠唱し。
それにより急加速した法機モーガン・ル・フェイ以下三機が、死爪艦の周りを駆け巡り始める。
「おやおや……これはすばしっこいねえ!」
これにはさすがのヒミルも、少々余裕のない様子であり。
しかしならばと、ひたすら死爪艦艦体から生える父艦ロキに宿木の槍を震わせ続ける。
が、それは大きく小回りの効きづらいものであり。
羽虫のように飛び回る法機群を、捉えられずに空を切る。
「ほほほ! そんなんじゃ捉えられないわよ……っ!? あ、あれは!」
「! れ、レイテ様あれは!?」
「なっ!!」
「な……何だあれは。」
その時だった。
思わずレイテたち四人に、ヒミルまでもが戦いを止めるほどの異常が起こり始める。
それは。
「セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 光鎧形態 エグゼキュート! ははは、ヒミル卿! やはり卿こそ迂闊だったな……たとえ他の騎士団を食らってなかろうともこの力で、差し違えてでも卿を葬る!」
クラブが得意げに唱えた術句により。
それまでは怪物の塊といった印象だった時から打って変わり、熊皮を纏う一体の光り輝く巨人の姿と化した父艦バーサーカーズマーチだった。
「なるほど……ならば、僕も応じようじゃあないかギガ君! この死爪艦とロキの力で君を葬ってあげるよ……セレクト、巨骸の雷!」
「ああ望む所だ! セレクト、狂戦士の雷!」
二つの艦から同時に、座乗する各騎士団長の術句詠唱が響き雷鳴が眩いばかりにその艦体に滾る。
「れ、レイテ様!」
「く、一旦離脱よ! 離れて!」
「は、はい!!」
これは自分たちの手に負えるものではない。
魔法ではなく人間としてでもなく、より基本的な動物の部分たる本能で危機を感じ取ったレイテたちは、自機を離脱させる。
「おや魔女たち……ふん、折角先ほど囮となってくれた返礼をしようとしたのだが、残念だ!」
「ふん、よそ見をしている場合ではないだろうギガ君!」
「ああ、そうだな……」
クラブはそんなレイテたちも巻き込まんとしていたため歯軋りするが。
ヒミルの言葉に、改めて彼に向き直る。
そして。
「……エグゼキュート!!」
「くっ……!?」
そのまま二人が同時に唱えた最後の命令に従い。
二つの艦は、これまでとは比べものにもならないほどの雷鳴を放ち合う――
◆◇
「分かる、愛三さん? 虎男の騎士団は……味方になったと決めつけるのは安易過ぎるけど、でも! 少なくとも尾魔力さん――リオルさんの遺志を無駄にしないようにっていう考えは本当なんだと思う!」
「り、リオルの遺志……」
その頃、再び東北方面では。
力華が通信を介し、愛三を説得していた。
「だから愛三さん……お願い! あなたが関東に行けば、あなたもリオルさんの遺志を受け継いで戦えるの!」
「わ、私も……?」
愛三は心が、動いていた。
と、その時。
「きゃああ!」
「くっ、少し後退よ!」
「ははは、所詮は魔女共だなあ!」
「いいやあ、本当ザンスね! 遊び相手にもならないザンス!」
「! お、お姉さんたち!」
「な、た、龍魔力さん!」
父艦ニーズヘッグと父艦グリブルンスティ。
二つの父艦は協力し合っている訳ではないが、共に向かって来る龍魔力姉妹の法機グライアイに対して同時に攻撃を放ち結果的に共同戦線という形になっていた。
それにより法機グライアイ三機は、こうして後退を余儀なくされている。
「く……お願い! 私も術里と同じく力を手に入れて、強力な法機を持つ他の魔女さんたちの力になりたい! アラクネさん!」
それを見た力華は、咄嗟に願う。
これでは、愛三が姉たちを案じて離れられなくなってしまうとも考えて。
「ふふふ、まだまだ行くザンス!hccps://baptism.tarantism/」
「……サーチ! トゥー ビー ヘルプフル フォー ウィッチーズ!」
「セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート! ……って! あ、あれザンス?」
「……!? こ、これは!」
しかしそれにより、力華が思わず口から出した検索術句がボーンの父艦グリブルンスティへの命令を前に割り込んで妨害し。
力華もまた、ダークウェブの最深部へと落ちて行く――
◆◇
「ようこそ……ダークウェブへ。」
「! あなたは……アラクネさん。」
「ええ……」
そうして力華は。
ダークウェブにて、アラクネと対面する。