#159 隠されていた力
「はあああ……しぶといだなあ魔女共お!」
尚も法機戦艦からの砲撃を受けつつも右腕のヨルムンガンドでそれを防ぎ。
アロシグは本気で煩わしげに、青夢たちに叫ぶ。
「ええ、あなたもね!」
「まったく……あなたこそどこまでもしぶとくってよ巨男の騎士団長!」
今その法機戦艦を操っていた青夢と父艦トールにハッキング攻撃を仕掛けているマリアナは、揃ってアロシグに叫び返す。
「ははは、そらあありがたいお言葉だなあ!」
「今だ、我ら自衛隊も援護だ!」
「了解! 戦闘車両、誘導銀弾群発射!」
これを好機と見た自衛隊は、援護射撃を繰り出す。
「おおお、こりゃまた攻撃だか! んだけんど……そんなんじゃ無理だよお!」
「くっ、これは!」
が、アロシグも即応し。
父艦トール右腕部のヨルムンガンド部を振るい、その口から何やら黒ずんだ紫の波動を放つ。
すると、たちまち放たれた誘導銀弾群は即座に灰塵に帰す。
「あ、あれは一体!?」
「まさか……蛇毒!?」
この様子を見ていた青夢にマリアナも、戦慄する。
蛇の口から出て来たものがものを腐食させたとなれば、それはもはや毒であろうことは言うまでもなかった。
「はっはっはあ! まだまだ止まねえだよお!」
「くっ、法機戦艦! hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト 栄光の壁 エグゼキュート!」
「おおやあ! 今度は守りだか!」
しかし父艦トールが更に放った毒を。
青夢は法機戦艦から放たせた光線の壁により防ぐ。
「いいえ、まだこんなものではなくってよ! わたくしのカーミラで」
「hccps://jehannedarc.wac/、セレクト オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート! ……! ダメよ魔法塔華院マリアナ!」
「! ま、魔女木さん! わ、わたくしの邪魔をするのであって?」
しかしそのまま勇んで、再び法機によるハッキング攻撃を仕掛けようとするマリアナだが。
青夢に止められた。
「あの蛇毒はコンピュータウイルスでもあるの! 当たったら大変なことになるわ!」
「な、何ですって!」
不満げなマリアナだが、青夢のこの言葉に改めて父艦トールを見る。
相も変わらずトールは、ヨルムンガンドとなった右腕を振るい続けて毒の波動を撒き散らし続けていた。
「ははは! さあかかって来るだよ魔女共お、どうしただあ? 怖気付いただかあ!?」
「くう……もう!」
「一旦後退よ、法機戦艦の影へ!」
「むう……止むを得なくってよ!」
トールから響くアロシグの挑発に、忸怩たる思いを抱えながらも。
青夢とマリアナは、一旦乗機を後退させざるを得なかった。
「ああ、さあ魔女だけじゃなくて魔男たちも全員来るだよお! そうすりゃあ、一気に片付けられるだあ!」
「なるほど……確かに、恐ろしいほどその通りね!」
「くっ……あの攻撃さえ無視できていればよくってよ! なのに……」
尚も響くアロシグの挑発に、青夢たちは尚も歯軋りする。
「ううむ、奴の力がこれほどまでとは……しかし、ここは我々だけでやらねばな!」
巫術山は戦場を見つめながら、今分散している戦力を現在の最前線三箇所に集中運用できないかと苦々しく思うが。
それでも作戦本部にはあの懸念があり、戦力を分散せざるを得ないのである。
◆◇
「やれやれ……ここに来てようやくお出ましかボーン殿!」
「ああ……待たせたなザンス!」
東北方面では。
やや速度を落としたことでようやく他者に視認できるようになった父艦グリブルンスティを駆る牛男の騎士団長ボーンは、嫌味を含んだバーンの言葉に返事する。
「牛男の騎士団……ようやくおいでなさったとはね! 二手乃、英乃!」
「はい、夢零お姉様! hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート!」
「おうよ姉貴! hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング エグゼキュート! さあ誘導銀弾、行っけえ!」
それを好機と見た龍魔力姉妹も動き出し。
たちまち新たに父艦グリブルンスティを照準し、ギリシアンスフィンクス艦から誘導銀弾を多数発射する。
「ははは、無駄ザンスよお! セレクト 、高速の牙 エグゼキュート!」
しかしボーンも即応し。
その父艦の高速移動のみで、放たれた誘導銀弾群を回避して見せる。
「な、銀弾を全部ですって!?」
「おいおい……こりゃただもんじゃねえな!」
「そ、そんな……」
これには姉妹たちも驚いていた。
「ふん、まあでも今ここを突破してもあまりいいことはなさそうザンスね……そう、今は遊んであげるザンスよお!」
「な、何ですって!?」
が、ボーンは父艦グリブルンスティの動きを止め。
今東北方面を守る龍魔力の機体群に目を向ける。
「姉貴……どうやらあたしらは、暇潰しぐらいに見られてるみてえだぜ!」
「ふふ、いい度胸だわ! ならここで天下の龍魔力の力を見せつけてあげるわよ!」
無論夢零たちも、それを快く思うはずもなく。
尚も闘志を、滾らせる。
「(そうザンスねえ……まだザンス。まだ……あの巨男の父艦がある限り首都方面には)」
ボーンは尚も龍魔力姉妹と睨み合いつつ。
考えていたのは、首都方面に向かうタイミングについてだった。
◆◇
「では行こうか、ヒミル卿!」
「ああ、できれば遠慮願いたいがねえ!」
そうして、中部方面でも。
父艦バーサーカーズマーチと死爪艦――雪男と蝙蝠男が睨み合っていた。
「そういうなよヒミル卿! 他の騎士団を倒していない者同士じゃないか!」
「ああ……そうだ、ねえ。」
クラブのこの言葉に、ヒミルは不敵に笑う。
後から考えれば、これは不審がるべき点だったのだが。
この時点ではまだクラブは、違和感を持てていなかった。
「さあ行くぞ! …… セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート!」
「へえ……あのワイルドハントのようになるんだねえ!」
そうしてクラブが唱えた、術句により。
父艦バーサーカーズマーチは、艦体を構成する熊の毛皮や狼の毛皮を着込んだ獣人たちの如き怪物たちを分離させる。
それらは今ヒミルの弁にあった通り、あのワイルドハントを構成する怪物群と同じく一つ一つが幻獣機スパルトイの塊なのである。
「ああ、さあ迎え撃って見るがいいヒミル卿!」
「ああ、そうだね……さあ行きな、幻獣機デッドリースパルトイ群!」
怪物群を差し向けつつのクラブの挑発に、ヒミルも乗り。
そのまま艦載機群を、差し向ける。
「おやおや! 卿も随分と慎重な戦い振りだなあ!」
「ああ、徒らに本体たる死爪艦を損耗する訳にはいかないからねえ……さあ!」
ヒミルはそうして叫び。
その怒りを汲み取ってか艦載機群は、加速してバーサーカーズマーチの怪物群と相対する。
「はあああ!」
「ふんん! ……くっ! なるほど、これではやはりダメかあ。」
しかしクラブの差し向けた怪物群により、いとも簡単にそれら艦載機群は打ち破られて墜落して行く。
「ふうむ、どうしたヒミル卿! 手応えがなさすぎるぞ!」
「ああ、もはや……これまでのようだよ!」
クラブはそのまま、バーサーカーズマーチ本体を加速して死爪艦へと迫って行く。
ヒミルはしかし、さしたる抵抗もせぬままに――まるで引き寄せるかのように――バーサーカーズマーチが近づいて来るに任せている。
「妙だが……まあいい! さあ行けパーツ群! 死爪艦をやってしまえ!」
クラブはそこで、少しばかり疑問を感じるが。
それもほんの一瞬であり、そのまま本体にパーツたる怪物群を先行させて死爪艦に肉薄する。
これで、終わり――
「ああかかってくれたねえ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 宿木形態 エグゼキュート!」
しかしその時だった。
突如として父艦にあっては珍しく純粋な船型であった死爪艦の艦体は脈打ち。
かと思えば次には、艦体上部より巨人型の上半身を生やし、さらにその右腕に幻獣機スパルトイ群を集結させて槍を生成し。
迫って来た父艦バーサーカーズマーチめがけ、槍を振り下ろした。
「!? く、セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート!」
「おや! うまいねえ。」
間一髪クラブは父艦をパーツ群に分かれさせて攻撃を素通しし、死爪艦の下を通り過ぎる。
「くっ、ヒミル卿それは!」
「ああ、まったく初見殺しとはいかず残念だよギガ君! まあでも君は迂闊だ……僕もまた、他の騎士団の力を持っていたんだからなあ!」
ヒミルは鼻を鳴らしながら、クラブに言い放つ。
そう、これは。
彼が一時手を組んでいたが、裏切られてさらに脱落したあのアルカナ――盟次率いる魔男の騎士団に与えられるはずだった父艦ロキの力である。
「れ、レイテ様! これでは僕たちは」
「ええ……まったく、なんか厄介なことになって来たわね!」
この様子を見ていた、半ば放置状態のレイテたちは。
あわよくば漁夫の利を狙わんとしつつも、それも現実的ではなくなり歯軋りしていた。
◆◇
――姫、戦場は今や関東・東北・中部の三箇所にございます!
「ええ、シュバルツ。動きたい所ではあるんだけどね……」
――……はっ。作戦には、反します故に。
その頃、九州方面を守っていた尹乃は。
やや忸怩たる思いだった。
それは作戦本部が降した判断に基づき、動くことが禁止されていたためだった。
「敵はまた一騎士団ずつ別個に襲来するかもしれんし、あるいは複数の騎士団で襲来するかもしれん! しかし……残る蜘蛛男の騎士王はまだ動き出してはいない! 故に複数の騎士団が特定の方面に集中する状況になっても、他の方面から戦力をそちらに集中させることはできない。各人は持ち場を動かぬように!」
これが、その判断である。
「まったく……私ならあと六騎士団くらい!」
――! 姫、関東方面に何やら異変が!
「……え?」
が、その時。
シュバルツは尹乃に、関東方面の様子を伝えた。
それは――
◆◇
「な!? あ、あれは」
「こ、虎男の騎士団の戦闘飛行艦!」
「へえ……ようやく来ただかあ、レーヴェブルク殿お!」
その関東では。
「リオルの遺志……遺せし力。僅かたりとも無駄にはすまい!」
レーヴェブルク座乗の双猫の戦車が現れたのだった。
◆◇
「これでようやく役者は揃ったわね……さあ、魔男の12騎士団の最期を見守らなくては。」
その様子をアリアドネは、ダークウェブの最深部で見ていた。
「……お呼びでしょうか、姫君。」
「あら……よく来たわ、ヴァイス。」
「はっ、お呼びにより参上いたしました。」
と、その時。
アリアドネがヴァイスと呼ぶ騎士がやって来た。
その騎士は何やら、右に三つと左に四つの目がついた仮面を着けている。
「ご苦労様。さあ、あなたたちには残りの六騎士団亡き後で働いてもらわないとね……」
アリアドネはヴァイスに、不敵に笑いかける。
かくして真の争奪聖杯は、ゆっくりとしかし確実に終わりへと向かいつつあった。