#158 真の争奪聖杯決戦開始
「さあ……行くんべよおお魔女共お!」
東京湾に自らを打ち立てている巨男の騎士団擁する父艦トールからは騎士団長アロシグの声が響いている。
「ここであなたの思い通りにさせる訳にはいかない……残念だけど行かせないわ!」
「それはわたくしが言いたかったことではあるけれど……よくってよ! ここは魔法塔華院コンツェルンの名にかけて、あなたなど!」
しかし、そこへ。
法機ジャンヌダルクを駆る青夢と、カーミラを駆るマリアナが現れトールの行手を阻む。
「ふん、なら喰らうだあ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 炎の舞 エグゼキュート!」
アロシグは父艦トールに命じる。
すると巨人型上半身は巨木型下半身から燃えたぎる枝を折り。
そのまま青夢たちに投げつける。
「くっ、魔法塔華院マリアナ! あれは法機には荷が重そうよ!」
「承知してよ、ならお使いなさいな!」
「了解……セレクト 、ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
「! く、なんだあこの砲撃はあ!?」
しかし青夢は、マリアナに促し。
彼女の許諾を得るや術句を唱える。
が、その術句により放たれるはずの光の火線は法機ジャンヌダルクからではなく。
ジャンヌダルク、カーミラ両機の後方より飛来し父艦トールの放った燃えたぎる枝を迎撃する。
「やっぱり久しぶりの法機戦艦はイケるわね! えっと……」
「ふん、法機戦艦メイルクロージングプリンセス オブ 魔法塔華院であってよ! あの艦の名も覚えられない飛行隊長などよくもまあその席に収まれるものねえ!」
「いや、覚えられないっつーの!」
その砲撃の主はいつぞやの魔法塔華院コンツェルン開発の法機戦艦であった。
巨大な艦橋に三連装の主砲塔三基を艦前部に備えており。
残る艦後部に法機専用の飛行甲板を備えた、いわゆる航空戦艦型の兵器である。
「邪魔臭いだあ! セレクト! 炎の舞 エグゼキュート!」
しかしアロシグも引かず。
引き続き巨大な松明を、投げつけて来る。
「くう、まったく相変わらずも品のない攻撃ですわね!」
「まだまだ行くよお! 法機戦艦魔法塔華院なんちゃら! セレクト 、ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
再び法機戦艦メイルクロ(中略)の主砲塔が火を噴き、父艦トールの松明弾幕を迎撃していく。
「そういえば、いつぞやの続きをしなくってはよね……hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」
「!? こりゃあ……魔法塔華院だなあ!」
いつぞや――あのかつての争奪聖杯の際に激突した状況と同じく、法機カーミラからハッキング攻撃を受けて多少動きが鈍る巨男の父艦の様子から。
アロシグはマリアナの気配を、感じ取る。
「ああら、今までお気づきではなくって? そうねえあの争奪聖杯の時も、他の女たちにあなたはご執心であってよねえ!」
マリアナはこれまた、そのいつぞやの戦いに際し放った時と同じくあたかも恋人同士のやり取りのようにアロシグに言葉を放つ。
「くうう! ……だけんど! 俺たちが手に入れた力は、この木男の騎士団の父艦だけじゃないだよ!」
アロシグはしかし、動かしづらくなっている父艦トールの右腕をぎこちなく動かす。
すると、その右腕構成機群にも動きが生じ。
たちまち何やら腕が伸びるかのごとく変化を遂げて行く。
「! な、何なのであってあの動きは!? わたくしのカーミラの影響下にあって」
「! セレクト 、ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
「ま、魔女木さん? ……な!?」
そこに違和感を感じた青夢が法機戦艦に砲撃させるが、それを父艦トールは受け止める。
いや、"父艦トールが"というよりは。
「あれって……魚男の!?」
父艦トールの右腕が変化したもの――かつての魚男の父艦ヨルムンガンドが、であった。
その右腕は、大きくしなり。
大口を開けてエネルギーを吸い切ったのである。
「ははは、そうだそうだよお! 俺たちはこの通り三つの騎士団の力を持ってるだあ!」
「なるほど……倒した騎士団の力をそのまま使えるのであってね!」
折角これまで戦って来て直接間接問わずに他騎士団を滅ぼしていればいいこともあったと言いますのに。そう例えば……滅ぼした騎士団の力を得るとか――
マリアナたちは知る由もないが、今の巨男の騎士団擁する父艦の状況は。
まさしく、最後の円卓の場でアリアドネが言っていた言葉をそのまま証明していたのだった。
◆◇
「なあ愛三……メシぐらい食った方が」
「いいよお姉さん……お腹空いてないから。」
「いいわ英乃、そっとしておきなさい。」
「……ああ。」
一方その頃、東北方面を守る龍魔力四姉妹だが。
姉たちが今法機グライアイ三機で守る海域の後方に、"控え"たる末妹と。
彼女専用の法機スフィンクスと、それを格納しているギリシアンスフィンクス艦がこれまた"控え"ていた。
しかし。
「まあ言うまでもないでしょうけど……今の愛三に戦わせる訳にはいかないのよ! ここはあの娘の前を最終防衛線として作戦に当たるわ、私の妹たち!」
「ああ、本当に言われるまでもないぜ姉貴!」
「は、はいお姉様! わ、私もあの娘の姉ですから!」
長姉たる夢零の呼びかけに、次姉英乃、三姉二手乃も力強く応える。
そう、今の愛三は目の前でリオルの死を目の当たりにした悲しみにより戦闘可能な状態ではない。
すなわち妹の前が姉たちの最終防衛線、これは然るべきことであった。
「二手乃、グライアイズアイで索敵を! 鳥一匹見逃すんじゃないわよ!」
「は、はいお姉様!」
「いや姉貴、鳥は一羽だろ!」
「な……し、知ってたわそのぐらい!」
「ははは!」
「……」
姉たちのたわいないやり取り。
それらは意図的に、通信により愛三に筒抜けにされていたのだが。
「……何だよ、まったく愛三の奴!」
「し、しょうがないですよお姉様!」
「そうね……まったく。」
まったく乗って来ない様子の愛三に、姉たちは少々痺れを切らしていた。
「あのー、龍魔力の姉妹方! 力及ばずながら私たちもいますので、よろしく!」
「! あ……し、失礼しました自衛隊の皆様!」
と、そこへ響いた声に龍魔力の姉たちは。
操縦席で居住まいを正す。
そう、この海域は自衛隊のウィガール艦隊もおり。
今の声はその一席で乗務する力華だった。
「……ま、まあ気を取り直して二手乃! さあ、索敵を!」
「は、はい! ……hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート! ……っ!? お、お姉様方これは!」
「どうした二手乃! ……!? あ、姉貴! 母艦型幻獣機――竜型の奴だ!」
「!? やれやれ……まったく何の縁かしらね!」
索敵で早速、二手乃のグライアイの目に捉えられたのは今龍魔力の姉たちの弁にもあった通り竜型の父艦。
そう、それは。
「これはこれは、悍ましき縁だなあ龍魔力共! かつてゴルゴニックシステムを巡る戦いでは大変我々を可愛がってくれたなあ……今回は私たちが可愛いがってやろう!」
やはり何の因果かかつてと同じく、バーンが駆る父艦ニーズヘッグだった。
「生憎おじさまに可愛がられる趣味はないのでごめん遊ばせ……hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
「むう!? ふん……まだ遊んでいたか、我らのものを使って!」
しかし夢零はお断りついでに、"目"を発動し。
それにより艦の足止めを食らったバーンは烈火のごとく怒る。
「バーン騎士団長!」
「おお……そうだな、ブラックマン! 生憎あてがう幻獣機が無く仕方なしに一般騎士に落ち着くしかなかったお前にとってもこの戦いはいい仕返しの場になるだろう!」
「はい、バーン騎士団長! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態! エグゼキュート!」
「くっ、やはりまた分裂するのね!」
しかしバーンは、同じく脱獄していたブラックマンと共に。
これまたあの時と同じく、パーツ群に分裂して見せる。
「安心してな、姉貴! 二手乃!」
「はい、英乃お姉様! hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート!」
「よし……hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング エグゼキュート!」
しかし姉妹たちの動きも、慣れたものであり。
グライアイの能力を使い、再照準と銀弾への誘導性再付加をし。
そのまま父艦ニーズヘッグの、パーツ群を狙う。
「さあ覚悟なさい、龍男の騎士団長」
「!? お、お姉様! 三時の方向より未確認物体が……は、速い!」
「な!? ふ、二手乃?」
「! こ、これは……」
しかしその時。
突如としてグライアイズアイにより見る二手乃の視界に、その目をもってしても止まらぬ速さでそれは現れた。
「な、何だあれは!?」
それは、バーンでも目に捉えられないものだったが。
それでもこの戦場にいる者たちには、分かる。
それが確かに、ここにいると――
「ああ、邪魔するザンス! しかし捉えきれるかな、この父艦グリブルンスティを!」
誇らしげに語るは、何やら巨大な猪型の父艦グリブルンスティを駆る牛男の騎士団長ボーンだった。
◆◇
「ふふふ……やあっと来てくれたわ! あのマリアナたちなんかに手柄取られたままじゃたまらないもの、さあ来なさい魔男たち!」
「はい、まったくですレイテ様!」
「レイテ様!!」
一方、レイテ以下ジニーに雷破に武錬が守る中部地方にも魔男の父艦は現れていた。
「……それも、二つも母艦型幻獣機が来てくれるなんて!」
そう、二つも。
「まさかここで卿と当たろうとはな……ヒミル卿!」
「ああ、どうやら考えていることは同じようだねギガ君……大方、騎士団をどこも倒していない者とまずは当たろうと考えていたのだろう?」
「ああ、まあ……そんな所だ!」
死爪艦と父艦バーサーカーズマーチ――互いの座乗艦を対峙させながら、ヒミルとクラブは睨み合う。
◆◇
「巫術山教官、こちらには龍男と……牛男の騎士団が!」
「そうか……こちらには巨男が。中部には蝙蝠男に雪男が出たことは聞いている。後は虎男か……」
関東の作戦本部で。
力華から報告を受けつつ、巫術山は未だ姿を見せない虎男の騎士団について警戒していた。
が、それ以上に。
「作戦本部は……残る騎士王の動きをも警戒しているか。」
本部には、これら魔男の動きが陽動でありその隙に蜘蛛男の騎士王が攻めてくるという意見もあったのだった。
それもあり巫術山も、騎士王を警戒していた。