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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第八翔 魔男の黄昏
153/193

#152 王獣の守りの果てに

「あなたの、お父さん……?」

「ああそうさ……私の父、飯綱法総佐(いづなほそうすけ)だ!」

「飯綱法……まさか!? い、飯綱法重工の!?」


 宇宙にて。


 アルカナの言葉に青夢は、はっとする。

 先ほどのアルカナの言葉は、彼と青夢に親子二代に渡る因縁を告げるものだった。


 その父の名に青夢には、思い当たる節があった。


 飯綱法重工――今の魔法塔華院や龍魔力、王魔女生が幅を利かせる以前に隆盛だった企業である。


 その元会長こそ、アルカナが父と呼んだ人物だったのだ。


「じゃあ、あなたは」

「ああ、飯綱法盟次(いづなほめいじ)だ! それがこのマージン・アルカナの本名よ!」

「い、飯綱法盟次……」


 アルカナは自ら名乗る。


 ◆◇


 そうして地上でも、方々で激戦となっていた。


「Well……先手必勝よ!」

「おやおや魔女お! 今の俺たちは無敵だあ……触ると火傷すんべよおお!」

「No Way! するもんですか、hccps://sylph.wac/!Select 風元素(エレメンタルウインド)! Execute! さあGeneral Winter、C'mon!」

「ぐうう! さ、寒いだああ!」


 アメリカ本国バージニア州沖合いにて。

 マギーはまだまだ法機シルフを駆って飛び回り。


 自身の弁に違わずに総身を滾らせる父艦トールに対し、大寒波を浴びせて行く。


 それにより父艦トールの周囲は氷結し。

 トール自身も炎が弱り、凍りつく。


「お、おおアントン騎士団長! 悔しいですがあの女なかなか」

「いや待て! あれは」

「! o、Oops! こ、これは」

「ははは、なあんてなあだよ! このトールにはそんな攻撃、効かないだああ!」


 しかしトールは再び、何事もなかったように再起動する。






「ワオオオン! 魔女のクソアマあ、てめえにも! リオル、てめえみてえなプーの騎士にも用はねえんだよ! さあレーヴェブルクう! 出て来い!」


 翻って、地上は日本の北海道。


 愛三が放つギリシアンスフィンクス艦からのレーザー砲撃を受ける自艦フェンリルの中で、ウルグルが吼えて怒る。


「クソアマとか言うなあ! こんな可憐な乙女に!」

「ふん、アホ愛三がそう呼ばれることに異論はないが……お断り申し上げる! レーヴェブルク騎士団長の手にかかればあなたなど造作もないと思われるがそれではつまらない、ならば騎士団長が相手するまでもなくこの私が相手するまでのこと!」

「ムッキー! 何よ何よおバカリオル!」

「ガルルルッ! 何だとお?」

「リオル……」


 リオルの言葉に、ウルグルと愛三は怒る。


「さあウルグル殿、いやウルグル! 我が騎士団長には指一本触れさせまい!」

「ウウ、ワオオオン! 舐めてくれちゃあ困るってもんだぜえ、行くぞ父艦フェンリル!」


 リオルの挑発とも取れる(実際挑発である)言葉に、ウルグルは更に怒りを滾らせ。


 父艦フェンリルを、前進させる。


「来たな!hccps://egyptiansphinx.mna/edrn/fs/medousa.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "(ゴルゴニックアイズ)"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」

「!? こ、こりゃあ……なあるほど、あの魔弾の射手とか言う奴の能力かあ!」


 が、リオルはたちまちエジプシャンスフィンクスの一部たる幻獣機メデューサの能力―― "(ゴルゴニックアイズ)"を起動させ。


 それにより父艦フェンリルの動きを、停止させる。


「よし、今だアホ愛三!」

「偉そーに指示しないでよバカリオル! ……ギリシアンスフィンクス艦ちゃん! セレクト、デパーチャー オブ  誘導銀弾群(シルバーブレッツ) エグゼキュート!」


 リオルの言葉に、愛三は悪態を吐きつつも。

 即応して今も空にあるギリシアンスフィンクス艦から誘導銀弾群をフェンリル目がけて発射する。


「さあああ! 貫いちゃえ王神の槍(グングニル)!」

「ガルルルッ? その技名……ワオオオオン! セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態フォーメーションフロック エグゼキュート!」

「くっ、回避とは! やはり、そう来るか……」


 しかしウルグルは。

 愛三が唱えた王神の槍(グングニル)の名に強く反応し。


 そのまま怒りのままに父艦フェンリルを分離させつつ尚も幻獣機群で艦の原形を形作らせながらギリシアンスフィンクス艦に突撃をしかける。


「ああ、あの宇宙でも"姫"とかいうクソアマから喰らいまくってた忌々しい槍じゃねえかあああ! ああ、すんげえイライラするんだよおお!」

「もおおお、避けないでよお! 獅脚主砲(レーザーパーム)咆哮主砲(ハウリングキャノン)、発射ああ!」

「ガルルルッ! グルルッ! ふん、そんなもんじゃ止まらねえぜええ!」


 王神の槍(グングニル)では止められないと見て愛三は、次には艦砲射撃に移るが。


 ウルグルの怒りに呼応するかのように迫り来る構成機群に分かたれた父艦フェンリルは被弾しても無視せんばかりに速度を緩めない。


「く、止められんか! hccps://egyptiansphinx.mna/、セレクト 大いなる謎モーニングデイタイムクリーチャー エグゼキュート!」


 ならばとリオルも。

 法機エジプシャンスフィンクスから、コマンド無力化の光線を放つ。


 しかし。


「ガルルルッ! ……セレクト、狼の顎(ウルブズジョー) エグゼキュート!」

「くっ、首を、頭を振って払い除けただと!? ぐっ!」

「も、もうギリシアンスフィンクス艦ちゃんの砲撃も!? きゃあっ!」


 ウルグルは父艦フェンリルを減速させながらも、再び一つの艦に戻し。


 そのまま頭に備わる無数の牙を振るい、迫り来るエジプシャンスフィンクスの光線もギリシアンスフィンクス艦のレーザー砲撃も払い除ける。


「さあああ、食ってやるぜえクソアマにクソ野郎おお!」


 そうして父艦フェンリル艦首の巨大な口が開かれ。


 ギリシアンスフィンクス艦にエジプシャンスフィンクス、諸共に呑み込まれるかに思われたその時だった。


「させるか! hccps://egyptiansphinx.mna/、セレクト 王獣の守護(ファラオガーディアン) エグゼキュート!」

「ぐう! グルルッワオオオオオン! こりゃあバリアかよお、小癪な真似をおおお!」


 リオルがエジプシャンスフィンクスより放ったバリアが、父艦フェンリルを大口を開けたままにお預けを食わせる。


「……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット) エグゼキュート!」

「ガルルルッ!? こりゃあ……自衛隊のクソアマ共かああ!」


 更にこれまで攻めあぐぬいていた自衛艦隊から無数の誘導銀弾(シルバーブレット)が援護射撃として放たれる。


「やったー! ありがとう自衛隊の皆さん!」

「ふん、今さらのこのこと!」

「くっ、リオル……現戦場は如何に……?」

「! レーヴェブルク騎士団長!」


 しかし、その時。

 未だ目をやられ動けないでいる双猫の戦車フレイヤーズチャリオット座乗のレーヴェブルクは、自分を守ってくれているギリシアンスフィンクス艦とエジプシャンスフィンクス艦の方へ呼びかける。


 が、リオルは努めて気丈に振る舞う。


「ご安心ください、レーヴェブルク騎士団長! 先ほども言いました通り……騎士団長が出るまでもなく、彼奴ごとき私の手で充分です!」




「そうだ、ウルグル騎士団長が出るまでもない! 忌々しい黒騎士に"姫"、貴様らごとき私たちで充分だ!」


 ――何だと!? 貴様らあ!


「ええ同感ねシュバルツ……あなたたちごときに、私たち()()()などと呼ばれる筋合いはないわ!」


 一方、宇宙の青夢とアルカナのものとは別の戦場でも激戦となっていた。


 北海道へと降下したウルグルの父艦フェンリルを追わんとする尹乃とシュバルツのワイルドハントを、ウルグルの側近率いる魔弾駆逐父艦スコルとハティが阻む。


 それは奇しくも今そのウルグルと戦うリオルと同じく、自分の騎士団長を守ろうという意思の現れでもあった。


「邪魔立てをするなら許さないわ……魔男たちい!」




 更に、これまた宇宙でも。


「さああ、どうしたっしょアンドロメダああ! 僕を苦しめた時みたいなキレはどこ行ったっしょおお!」

「Oui、とにかく来なさい! こっちよ!」


 父艦ケートスを駆るホスピアーを誘い出すような形で、初花が自機アンドロメダを素早く動かしていた。



 更に日本では先ほど、雪男の騎士団が()()を攻めるという予告を出し。


 更にオーストラリアでは、龍男の騎士団長に返り咲いたバーンにより率いられる同騎士団が迫って来る最中であり。


 かくして未だ戦場は、気の抜けない有様が続いていた。


 ◆◇


「さあウルグル! どうだ、我がスフィンクスの守りはあ!」


 またも、北海道では。

 ウルグルの父艦フェンリルによる噛みつきを、リオルはエジプシャンスフィンクスのバリアで防いでいた。


「ムッキー、どさくさに紛れてえ! スフィンクスちゃんは私のだしい!」

「ふん、今誰のものかはっきりしている所だアホ愛三!」

「ムッキムッキムッキー!」


 同じ法機に乗りつつも片や機体外、片や操縦席にいながらリオルと愛三は軽口を叩き合う。


「ガルルル……ウワオーン!! てめえらあ、もう勝ったつもりかよおお! まだまだこんなもんじゃないぜええ! ……セレクト、巨狼の雷インモータリックケラウノス エグゼキュートおお!」

「!? な、ふ、雷鎚形態フォーメーションミョルニルでもないのにあの技を!? ……ぐああ!」

「き、きゃああ!」

「くっ、艦長!」

「ぜ、全艦隊一旦後退せよ!」


 しかし、ウルグルは怒りの炎を止めず。

 むしろそれを顕現させるかのごとく、今開いている父艦フェンリルの口から強大な迅雷を叩き込む。


 それはエジプシャンスフィンクスの守りすら破り。

 自衛艦隊にも、少なからず損害を与える。


「は、はあはあ……ば、バカリオル大丈夫?」

「ふ、ふん! こんな時に人を心配していられる場合か! ああ、何とかな……れ、レーヴェブルク騎士団長!」

「ああ、大事無し……」

「よ、よかったです……」


 愛三と軽口を叩きつつもリオルは、後方のレーヴェブルクの無事を確かめ安堵する。


「ガルルルッ、ワオオオン! ははは、どうしたあ虎男のクソ野郎共お! 所詮手を組んだって魔女のクソアマとじゃあなあ……まあいい、纏めて食ってやるからよおお!」


 しかしウルグルは、尚も有り余る力を見せつけるかのように叫ぶ。


「くう、誰がクソアマだってえ!?」

「止めろ、アホ愛三!」

「ははは、クソアマだからクソアマと言ったのさあ! さあスフィンクスとやらの魔女と虎男のクソ野郎共。仲良く俺の胃袋の中に入れてやろう……セレクト、巨狼の雷インモータリックケラウノス!」

「!? く、またあれが来るのか!」


 愛三は抗議するが、返事ついでにウルグルは術句を唱える。


 それにより父艦フェンリルの艦首は再びガバリと口を開け。


 口腔内に雷を、滾らせる。


「くううう! ギリシアンスフィンクス艦ちゃん、王神の槍(グングニル)行くよおお!」

「待て、そんなものでは無理だ! ……く、どうすれば」


 リオルは愛三を制しつつ、フェンリルを睨む。

 このままあれを発射されれば、自分たちに逃れる術はない。


 自分はともかく、他の二人がやられることだけは避けなければ。


 が、リオルはそう考えかけて。


「……ん? 他の二人? レーヴェブルク騎士団長と……誰だ?」

「え? 何か言ったバカリオル?」

「!? な、ま、まさかお前が……いや、そんなはずは!」

「……は?」


 自問している所へ愛三から窓越しに見られ。

 赤面しはっとする。


 まさか、そんな。


「さあそろそろだぜええ、クソアマ共おお!」

「! もう、あの狼さんめえ!」


 が、ウルグルが状況が、既に猶予がないことを告げる。


「! くっ、もはや確かめる猶予もないということか……ならばそういうことなのだろう!」

「え? な、何言ってんの?」


 愛三が首を傾げるが、リオルは何やら自分で納得する。


 そして。


「……一旦、エジプシャンスフィンクスを下がらせろ。スフィンクス艦を前に出す!」

「え? ば、バカリオル?」


 リオルは愛三にそう告げ、自身と彼女が乗る幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)エジプシャンスフィンクスを後ろに、ギリシアンスフィンクス艦を前に出す。


「ワオオオン! 何だ何だあ! ビビりやがったのかあ!?」


 ウルグルの考えは、大間違いだった。


「愛三、このままでは屈辱だ! せめて貴様には……最大の借りを作ってやる!」

「え? も、もうやっぱりバカなリオル! 全然頭がいい人みたいなこと言えてないよ!」

「ああ、それはすまん……俺が合図したら、お前はあのギリシアンスフィンクス艦から王神の槍(グングニル)を放て!」

「え? かと思ったらなんか素直で気持ち悪いしい! もう、分かったよ!」


 リオルはウルグルも愛三も置き去りに、()()を進めようとしていた。


「(……聞こえているか、魔男の黒騎士!)」


 ――!? な、何だ! お、お前は……虎男の!


「(ああ、いきなりだが……頼みがある。)」


 そんな中でリオルは、密かに宇宙のシュバルツと交信していた。


「まあいい……今度こそてめえらごと食っちまうぜええ! エグゼキュート!」

「今だ愛三い!」

「セレクト、王神の槍(グングニル) エグゼキュート!」



 ウルグルの命を受けた父艦フェンリルが口から雷鳴と共に迅雷を放つと同時に。


 リオルの合図と共に愛三も、ギリシアンスフィンクス艦から誘導銀弾群を放つ。


「ガルルルッ! ……なっ!?」

「え、ええ!?」


 しかしウルグルも愛三も、驚いたことに。


 その槍――否、誘導銀弾(シルバーブレット)はいつになく高速で飛翔してフェンリルの口へと飛び込み。


 そのままフェンリルを貫き、上へ上へと昇って行く。


 しかし、フェンリルは。


「ワオオオン! ははは、虎男のクソ野郎舐めんじゃねえぞ! こんなもん、俺にとっちゃ屁でもねえ!」

「え、そ、そんな! ば、バカリオル、全然効いてないよ!?」


 口腔内の雷はなくなったが、特に動じた雰囲気はない。


「安心しろ、お前にはすぐに勝利を……そして、このスフィンクスをやる! さあ愛三、スフィンクス艦にバリアを張らせろ!」

「え、ええ?」

「早く!」

「は、はい! ……セレクト 王獣の守護(ファラオガーディアン) エグゼキュート!」

「…… hccps://AlsinReol:********egyptiansphinx.mna/、セレクト、ライカンスロープ フェーズ……さらばだ、愛三!」


 急かされるままに術句を唱えた愛三のその声と、リオルの声は重なり、愛三には聞こえなかった。




「見たかしらシュバルツ、今地上からやって来た"印"を!」


 ――姫……ええ、しかとこの目に焼き付けました!


 その時。

 宇宙で父艦スコルとハティと対決する尹乃とシュバルツは、先ほどリオルから言われた通りに動き出そうとしていた。


「ならば行くわ、私たちも…… hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍(グングニル) エグゼキュート!」

「ははは、何だバカな魔女め! ……ん!? こ、この軌道はまさか……う、ウルグル騎士団長オオオオ! ぐうう!」


 ワイルドハントから放たれた誘導銀弾群が見当違いな方角に飛び、嗤うウルグルの側近だが。


 それは地上のフェンリルを狙っていることに気づき、慌ててスコルとハティで防がせる。


 たちまち二つの艦は、誘導銀弾群をその身で受け止める。


「あなたたち! ……仕方ないわね、諸共に貫かれなさいいい!」

「ぐううう、ウルグル騎士団長!」


 しかし誘導銀弾は、スコルとハティを貫き爆散させ。

 そのまま、地上へと向かって行く――




「ワオオオン! 何だ何だまたバリアなんか張りやがってええ! さあ……ぐうう!?」

「!? え、そ、空から何か」


 そのまま、ワイルドハントに放たれた誘導銀弾群は。

 フェンリルを、上から貫き。


 そして。


「わ……ワオオオオオン!? こ、これはあ!」


 何とフェンリルの艦体から、雷が噴き出し。

 そのまま艦は、爆発する。


「ひ、ひいい! ば、バカリオル、こっちに爆発が! ……え?」


 愛三はフェンリルと自機の間にあるギリシアンスフィンクス艦越しにその爆発を見て。


 更に窓の外で機体に座るリオルの様子を見て驚く。

 まずフェンリルの爆発は、何やら絞られたように収縮していったのだ。


 そしてリオルは、何と。

 どういう訳か、機体に仰向けで倒れていたのだ。


「ち、ちょっとバカリオル! 何でこんな時に寝てんの!? ……あれ?」


 愛三は窓を叩いてリオルを起こそうとするが。

 更に外で異変が起きていた。


 それは。


 ◆◇


「ぐうう! な、何が起こったああ!」


 ウルグルは爆発の中で、目を覚ます。

 何が。


「ウルグル殿……さっきまでレーヴェブルク騎士団長を、そして愛三を馬鹿にしていたお返しですよ?」

「な!? り、リオルてめええ! がああ!」


 しかしウルグルは、自分に何やら光の槍を突き刺しているリオルに気づき驚き。


 更に痛みを自覚し、叫ぶ。


「てめえええ! ぶっ殺すぞおお!」

「もう既に死んでいますよ……俺たちは!」

「な……? な、何い!?」


 ――いらっしゃい、ウルグルちゃん?


 ――ワシらもいるぞ、安心しろ寂しくはない……


「ぐっ! て、てめえらあ! や、止めろ離せえ!」


 ウルグルが見れば。

 爆炎の中で、かつて彼が葬った相手――サロとチャットが彼の腕を掴む。


「さあ行きましょうウルグル殿……申し訳ございませんレーヴェブルク騎士団長、そして……愛三よ! どうだ、このプレゼントはあ!」

「な、何を言ってんだクソリオル! や、止めろおお!」


 リオルはそのまま。

 彼自身が爆炎と化し、ウルグルを呑み込む――


「な、何でだよ……ワオオオオン! 俺が、喰われるってのかああ!」

「……ウルグル騎士団長。」

「! お、お前は……?」


 悪あがきをするウルグルだが、自身を呼び止める声にふと気づく。


 それは、側近の姿だった。


「お供いたします……」

「……ふん、つくづくクソ野郎だなあ……俺の人生って奴はよおお!」


 ウルグルは嘆きか歓喜か、断末魔を上げた――


 ◆◇


「や、やったあ! やったよバカリオル! ほら見て、あの母艦型幻獣機が!」


 愛三が喜んだことに。

 フェンリルは大爆発を起こすでもなく、そのまま爆炎諸共蝋燭の火のごとく消えてしまったのだった。


 そうして彼女はギリシアンスフィンクス艦に着艦し。

 愛三は法機を降り、機体上で寝ているリオルに駆け寄る。


 しかしリオルは、ピクリともしない。


「り、リオル? ……そうだ、まだ手繋いだことなかったんたんだよね!? ご褒美に握ってあげるよ……きゃっ!?」


 愛三はリオルの右手を握る。

 が、その体温に気づいて手を退ける。


 手は、冷たくなっていた。


 ―― 安心しろ、お前にはすぐに勝利を……そして、このスフィンクスをやる!


「何で、なの? 何で、あんなにアホ愛三って呼んでたのに……私にスフィンクスちゃんくれるなんて言ったの!? ねえ、目を開けてよバカリオル! またアホ愛三って言いなさいよ、ねえ!」

「……ん? フェンリルが……やったのかリオルにスフィンクスの魔女! ……ん?」


 ふとギリシアンスフィンクス艦の後ろにある双猫の戦車から目を回復したレーヴェブルクが見れば。


 スフィンクス艦の後部甲板では泣きじゃくる愛三と、傍らで仰向けに倒れるリオルの姿があるのみだった――


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