#151 図らずも魔女男共闘
「くそ……何てことだ、あれは!?」
木男の騎士団長アントンは、目の前に現れた父艦トールに自らの目を疑う。
いや、正確に言えばそれは先ほどまでの雷鎚状右腕を持つ父艦トールではない。
「ああ、ああ、あああ! この滾る炎……どうだべアントン殿お! 綺麗だっぺ?」
「あ、ああ綺麗だよ……だ、だから一度止まれ!」
アントンが非常に怯えていることに。
それは全身に炎纏う炎人形態なる姿なのである。
そのトールは無論今も沖合に立っているのだが。
立つ所も、歩き出し踏み出した所も、海水が沸き立ち蒸気を吹き上げて行く。
さながら今トールは、歩く爆炎そのものなのである。
「こ、こんなもの! 聞こえているかいズネイにアップルシード! 諸卿らの力が必要だ、頼む!」
「はっ、アントン騎士団長!」
「任せてくださいな!」
出し惜しみはしていられないとアントンは、配下の騎士に命じる。
「セレクト 死の産声! エグゼキュート!」
「バロメティックスパルトイ群発進!」
たちまち、尚も防御形態を取り続ける父艦ユグドラシルの無数の枝のうち。
一本は父艦マンドレイク、他の一本は父艦バロメッツに変わりトールへと攻撃を仕掛ける。
「ははは、無駄だよおお! 今の炎纏うこの姿は、無敵だよおお!」
「くっ、効かんとは!」
が、父艦トールはさしたる痛痒を受けていない様子であり。
むしろ自らの艦体を滾らせて向かい来る攻撃を焼き尽くして行く。
「くう……このままでは!」
「hccps://sylph.wac/、Select 風元素! Execute! さあ、freezingよresourcerer!」
「! なっ、貴様!」
アントンが驚いたことに。
何とマギーは法機シルフから気象操作により、冷気の援護射撃を、父艦トールに放ったのだった。
◆◇
「さあて……では改めて始めようじゃないか、この真の争奪聖杯を!」
宇宙にて。
新参ながらアルカナは、自らが仕切り役のごとく高らかに意思を伝える。
「ワオオオン! ああアルカナあ、相変わらずムカつく奴だ……食ってやるうう!」
まさに殺る気満々とばかり、ウルグルは吼える。
「ああ、ウルグル殿そう言いたい所だが……残念ながら今君と遊んでいる場合ではなくってねえ。」
「ガルルルッ! 何い!?」
が、アルカナはウルグルとの戦いを素気無く断る。
「魔女木青夢! 貴様……その衛星を狙っているな?」
「マージン・アルカナ……ええ、狙っているってのはちょっと変な言い方だけど。そうね、その衛星に用があるわ!」
アルカナの問いに、青夢は戸惑いつつも答える。
「アルカナああ! てめええ!」
「安心なさい……あなたには私がいるもの!」
「ガルルルッ! そうかクソアマあ……てめえがいたかあ!」
ウルグルが不満の唸りを上げると。
そこへ尹乃が、ワイルドハントを差し向けて来た。
「よし、私も!」
初花も自機アンドロメダを駆り、フェンリルへと突撃を仕掛けようとする。
が、その時だった。
「誰だあああ! 僕を、宇宙から狙い撃ちしたのはああああ!」
「!? な、何!?」
「!? ち、地上から何か……あれは、ぼ、母艦型幻獣機!?」
――あれは、ホスピアー殿! 魚男の騎士団長です!
「な、何ですって!?」
突如として地上から飛び上がって来た影。
それはホスピアーの擁する父艦ヨルムンガンド――から分離した父艦ケートスだった。
「……地上に攻撃――流星弾を放ったのは私よ。」
「!? そうか……貴様かあ!」
法機アンドロメダから通信が、父艦ケートスのホスピアーに伝わり。
言うが早いかホスピアーは、父艦ケートスを法機アンドロメダに突撃させる。
「! hccps://andromeda.wac/、セレクト 星の鎖 エグゼキュート!」
「くっ! 避けるなっしょ、僕もまともに食らったんだから!」
しかし法機アンドロメダは、周囲に銀河を思わせる渦を生み出し。
その銀河の腕を触手の様に無数に展開し、父艦ケートスから自身を守る。
「あなた、アメリカにいたのよね? 私は、アメリカで戦う仲間を助けようと!」
「ふん、元はと言えば! お前が地上に攻撃を放ったのが悪い!」
ホスピアーと初花は、舌戦を繰り広げる。
しかしそこで。
「! 地上への攻撃……そうか、ホスピアーが弱っているなら、他の場所の騎士団も弱っているかもしれねえぜええ!」
ウルグルは尹乃のワイルドハントを相手にしつつ、混線し入って来たホスピアーの言葉を聞き逃さなかった。
「よそ見とは舐められたものねえ!」
尹乃はワイルドハントを、また父艦フェンリルへと突撃させる。
「ガルルルッ! ……悪りいが、てめえともやり合ってる場合じゃねえんだよ! まだこのフェンリルは誰も食っちゃいねえ、だから……確実に食えそうな奴から喰いに行くぜえ! おいスコルにハティ、腹ごなしだ遊んでやれえ!」
「な……私とは遊びですって!」
――貴様あ、姫に向かって!
がウルグルは、尹乃には興味ないとばかり。
魔弾駆逐父艦スコルとハティを手元に呼び寄せ、代わりに彼女に当たらせた。
「くっ、退きなさい! この、狼男の騎士団長!」
「ガルルルッ! ふん、あばよ!」
「ま、待ちなさい! くっ!」
――姫!
そのままウルグルは、父艦フェンリルを地上へと降下させて行く。
その行く先は――
◆◇
「れ、レーヴェブルク騎士団長!」
「く、大事無し……しかし、目は見え難し……」
「レーヴェブルク騎士団長!」
その少し前、北海道では。
アンドロメダから放たれていた流星弾により、双猫の戦車座乗の虎男の騎士団長レーヴェブルクは自慢の目をやられていた。
「な、何か分からないけど今だあ! さあやっちゃって、ギリシアンスフィンクス艦ちゃん!」
「くっ、貴様! 図に乗るな!」
それ幸いとばかり愛三は勢い付くが、リオルとて引かず。
しばらく、またも一進一退の戦いを繰り広げていた。
そうして現在に至るが、やがて。
「こ、これは未確認飛行体が宇宙からだと!? ま、また敵の砲撃か? いやこれは……ろ、狼男の騎士団か!」
「え!?」
「な、何と……くっ!」
「き、きゃあっ!」
リオルの驚きの言葉に、愛三やレーヴェブルクも驚いていると。
凄まじい勢いで海面を打ちつけ、落ちて来たものがあった。
それは。
「ガルルルルルルルル! ははは、虎男のクソ野郎共お! やっぱりくたばりぞこなってたか、こりゃあ喰い頃そうだなあ!」
「う、ウルグル殿……」
宇宙より降下して来た、ウルグル座乗の父艦フェンリルである。
必死に法機機体にしがみつきながら目を見開いていたリオルは、法機の幾倍もの体躯たる父艦フェンリルに驚き圧倒される。
「なんか分からないけど…… 獅脚主砲に咆哮主砲、発射あ!」
「! な、め、愛三!」
「ぐうっ! ワオオオン、魔女のクソアマあ!」
しかし、愛三は恐れ知らずにも。
ギリシアンスフィンクス艦から、フェンリルを砲撃する。
「何かよく分からないけど……あれは私にもバカリオルにも敵なんでしょ? だったら私たちが手を組んで、倒すしかないんじゃないの?」
「な、手、手を組むだと!? き、貴様自分が何を」
愛三の更に恐れ知らずな提案に、リオルはまたも面食らう。
手を組む?
先ほどまでいがみ合っていた者同士が、如何な強大な敵が現れたからと言って?
「あ、言っとくけど手を繋ぐじゃないよ? そりゃあ女の子と手を繋いだこともないバカリオルには刺激ありすぎるだろうけど!」
「な、そ、そんな勘違いをして私が躊躇っていると思ったか! お、女のゼロ人やマイナス一人手を握ったことなど……あ!?」
「……嘘、マジい?」
リオルはやや場違いな愛三の煽りに、うっかり自身がDTであることをバラしてしまい。
愛三は未だウルグルへの攻撃を続けつつ引いていた。
「ふ、ふん! そんなことはどうでもいい! だが……まあその提案も一理はあるか。今レーヴェブルク騎士団長の旗艦を守るためにはアホ愛三、貴様の力が必要だ!」
「あー! それ人に、女の子にものを頼む態度じゃないんだけどなあ!」
「な……ぐっ、この! もし私がこのエジプシャンスフィンクスを完全に物にできていれば、こんな屈辱は!」
リオルは愛三と交渉せねばならない現状を、とても歯痒く思っていた。
だが、もはや拘っている場合ではない。
「くっ、だが屈辱だがやむを得まい……手を貸してくれ、愛三!」
「ください、じゃなくて?」
「……手を貸して、く、く、く、ください……!」
リオルは恥も外聞も捨てて愛三に頼み込む。
「し、シルフの魔女!」
アメリカでも。
今父艦ユグドラシルに向かって来る父艦トールに、マギーがシルフから冷気攻撃を放ち。
半ば共同戦線のようになっていた。
「Well! あなたたち魔男同士が互いに何やってるのかについては興味ないわ、だけど! このままあの燃えた巨人が上陸すれば、私の母国が――ママが、Friendが危ないの! だから今だけ力を貸すわ!」
「くっ……勝手にしろ! ズネイ、アップルシード! まだ敵は健在だ、攻撃続行!」
「はっ!!」
マギーの言葉に、アントンも止むを得ないと悟り。
こちらも、手を組むこととした。
◆◇
「ああこれでようやく私とお前だけの舞台だ! さあ、心置きなく借りを返させてもらわねばな、お前とお前の父には!」
「!? え? わ、私はともかくお父さんも?」
再び、宇宙にて。
アルカナの言葉通り、ようやく二人だけの舞台となった第二電使の玉座周辺だが。
アルカナから初めて聞く情報に、青夢は驚く。
「ああ、そうさ! お前とお前の父には借りがある。私と……私の父にはなあ!」
「え!? あ、あんたのお父さんも!?」
「ああ……そうさ!」
アルカナはあの事故の日に、思いを馳せる。
そう、青夢の父が幻獣機による事故を起こした日である。
――事故機体たる幻獣機は、今後使用及び製造を禁止します。
「……許さぬ。」
アルカナは自分でそのことを言い。
それにより彼の心に、改めて怒りが刻まれた。
「!? こ、これは……アルカナ殿、なのか?」
しかし。
四国方面を守る剣人はその時、自身の頭に浮かんで来た記憶に動揺する。
それはかつて、彼が魔男ソード・クランプトンとして聖マリアナ学園を襲撃した際にも思い出していた記憶。
その時、青夢の父への憎しみの端緒としていた記憶でもある。
しかし今浮かんで来た記憶は、かつて思い出した時とは違っていた。
その事故を起こした機体の爆発を見上げているのは、剣人本人かと彼自身が思っていたのだが。
それは、アルカナに似た少年の姿であり。
更にそれを、上から見下ろしているような構図の記憶だった。
「な、何だこれは……?」
剣人は頭を抱える。
◆◇
「やあこれはこれは、かつての同胞たるメアリー・ブランデン卿にミリア・リベラ卿! 久しぶりだな……」
「! この声は……クラブ騎士団長かい?」
その時、近畿方面を守っていたミリアとメアリーに聞こえて来たその声は。
雪男の騎士団長クラブの声である。
「これより我が艦、バーサーカーズマーチが中国を襲う。さあ心しておくとよい……」
クラブはそう、笑いながら告げる。
「さあて、長き雌伏の時もこれで終わりだ! 我らも行かねば……」
「は、騎士団長!」
その頃。
オーストラリアに、龍男の騎士団の幻獣機父艦ニーズヘッグが迫っていた。
しかし、その騎士団長は。
「……バーン騎士団長!」
「ああ、偽物に乗っ取られていたこの騎士団……また私が率いれるとはなあ!」
何と今収監されているはずの、ギリス・バーンだった。




