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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第八翔 魔男の黄昏
151/193

#150 宙をも貫く執念

「こ、これはどういうことであって魔女木さん!」

「ま、まさか……宇宙に陣取っていた偽太陽が――鳥男の騎士団の艦が破壊されたのか!」


 突如として夜明けの少し前ほどの暗さになった空を見上げ。

 マリアナと巫術山は、混乱している。


 今戦場は、大きく分けて地上と宇宙の二箇所。

 更に言えば、地上も国で言えば日韓米でそれぞれに戦いが行われており。


 宇宙の戦場では先ほど、ある程度の大勢は決したと言える状況になった。


 今は時間で言えば、実際の夜明け時間まであと10分ほどのこと。


 このままあの偽物太陽が空に存在していては危なかったのだが。


 彼女たちがそれで安堵することはなく、むしろ宇宙で何が起こっているのか状況の確認を求めている。


 無論彼女たちの今言った推論が正しいことは言うまでもないが。


 青夢はどういう訳かそれには答えず、何やら考え事をしている様子である。


「……魔女木さん! もう、わたくしを無視することも不届きなのはいつものことであってよ! それだけではなく、あなた教官をも無視なさるの!?」

「……ごめんなさい魔法塔華院マリアナ。そして申し訳ありません巫術山教官! 今無視してしまったことも、先ほど無理を通そうとしてしまったことも……」

「!? な……何であって!? 急に素直に」


 マリアナは堪りかねて青夢を責めるが。

 それに対しての青夢の態度に、驚く。


「いや、もはやそれはよい。しかし魔女木。今一度この状況を説明しろ!」

「はい。では……」


 青夢は訥々と説明する。


 やはり今空が再び暗くなったのは、マリアナたちの推論通り鳥男の騎士団が艦ごと滅ぼされたからであること。


 さらに艦ごと滅ぼされたのは馬男の騎士団も同様であることなどである。


 話を聞き終わるや、マリアナも巫術山も深いため息を吐く。


「……奴らは宣言通り、この世界も他の騎士団も滅ぼす予定なんだな。元より危険な思想と技術を持った連中だ、その本気を疑った訳ではなかったが……」

「ええ、教官。わたくしも改めて驚いています……」


 巫術山もマリアナも、驚いていた。


「でも、諦めるのはまだ早いです! もしかしたら……既に死んでいる魔男も含めて、まだ彼らを救えるかもしれないんです!」

「!? な!」


 が、青夢のこの言葉には。

 巫術山とマリアナは、更に驚く。


「ど、どういうことであって魔女木さん?」


 ――それについては、私からお話します。


「! あ、あなたは……?」

「だ、誰だ!?」


 そこでふと、脳内に女の声が響く。

 それは。


 ――アンヌ・タルクージュと申します。青夢の機体ジャンヌダルク、それに宿っていましたVIです。


「! な!?」


 アンヌの声だった。


 ◆◇


「하、하늘이(空が)!」


 一方、韓国でも。

 やや時差はあるものの、陽玄は尚も幻惑攻撃を続けつつ先ほどまで明るかった空が突如暗くなったことに戸惑っていた。


「ま、マージン君これは!?」

「おお、逝ったか騎士団長たち……」

「な、何だって!?」


 いや戸惑っていたのはこの韓国の現戦場にいるほぼ全てだった。


「fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4


 NAME:> tarantura

 PASSWORD:> ********


 fcp> cd souled


 fcp> mput *.edrn


 fcp> close


 fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4……


 鳥男の騎士団、馬男の騎士団はここに滅びた。


 ははは、できればその断末魔ぐらいは聞きたかったものだ!

 しかしその魂は無駄にはならん……ダークウェブの肥やしとなっている!」


 大体一人を除けば。


「ま、マージン君?」

「ヒミル殿! さあ、我々もああなりたくないならば奮戦しなければなるまい? いやそれとも……君はそうなりたいかな?」

「い、いや何を言っているのかマージン君……そ、そんなこと思っている訳がないだろう?」


 ヒミルもアルカナの態度に少し引きつつ。

 そう、強く返したのだった。


 が、その時である。


「! マージン君……日本の関東から宇宙に向かう飛行物体が! あれは……恐らく法機ジャンヌダルクだね。」

「! 何、まさか奴も()()()()に!? くっ、fcp> get LaplacesDemon.hcml……全知之悪魔(ラプラシーズデモン)! ……いや、まだ奴は気づいていないか。しかし……」


 ヒミルの言葉にアルカナも一瞬空を見上げ。

 考えたのは僅かなこと。


「……ヒミル殿。ここは少し、任せてもよいか?」

「! おや……逃げるのかい?」

「いいや、だが……先ほど飛び去ったジャンヌダルク。あれが宇宙へ行って()()を横取りしないとも限らない状況になってしまったらしくてね。」

「! 何? ……ふうむ、それは厄介な。」


 アルカナの言葉にヒミルは、彼を探る意図をやや表に出しながら考えていた。


 手を組んだとはいえ自分たち他の騎士団長たちを体のいい駒扱いしていたアルカナはやはり彼とて手放しで歓迎できるものではなく、それは今も変わりない。


 だがそれでも手を組んだのは、アルカナが今()()と呼んだものを入手するため。


 よって――あくまでアルカナの弁を信じるならだが――()()が脅かされるならば元も子もないというもの。


 しかしそこで考えるべきは、このアルカナの弁が本当かというところと。


「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾(ナインアーツ)――傾城の美女コンフュージングチャーム エグゼキュート!」

「くっ! この、魔女め!」


 襲い来る陽玄の法機を、アルカナの力無しに止められるかということ。


「ううむ、これでは! 私がいなくば、この死爪艦(ナグルファル)はあっさりと撃沈されてしまうだろうな!」

「な……ふ、舐めないでくれよマージン君! ああ分かった……私たちで食い止めるから、君はその間宇宙にでもどこへでも行くがいいさ!」

「ほう……ありがたい。」


 しかしヒミルは、結局はアルカナを行かせることにした。


 迂闊の誹りは免れ得ないが、先ほどのジャンヌダルクの飛行もあり満更アルカナの言葉は嘘ではないだろうと思い直し。


 そして何より、アルカナがいなければ法機の一機落とせないとあらば蝙蝠男の騎士団の名折れであるとも思い直しての判断である。


「では……お願いする!」

「ああ……せいぜい互いに、()()()までは生き残ろうじゃないか!」

「ああ、そうだな……」


 アルカナとヒミルはやギクシャクした雰囲気で言葉を交わす。


 ◆◇


「ああ、ホスピアー殿……そんな傷だらけで、俺たちに最後まで刃向かい続けたことは語り継ぐべきことかもしれねえだ! だからそれを誇りに、終わっちまうだあ!」


 アメリカ本国バージニア州沖合い。

 もはや法機シルフと木男の騎士団の父艦ユグドラシルを差し置き、戦いは巨男の父艦トールと魚男の父艦ヨルムンガンドの一騎討ちとなりつつあった。


「はーははは、い、言ってるっしょ! 僕たちの……いや、僕の望みは、こんなのでは……」


 ホスピアーは父艦ヨルムンガンドと同様満身創痍ながらも。

 やや強がりを含みつつ、そう笑い返して見せる。


「しかし、ここまで僕を追い詰めてくれた恨み、忘れないっしょ! いや、お前だけに言っても無駄っしょね……あの、宙から降って来た攻撃さえなければ!」


 ホスピアーはそう言うや、天を仰ぐ。

 そうだ、元はと言えばあの天――宙からの攻撃さえなければ。


 ◆◇


「ワオオオオオン、ガルルルルルッ! はーははははは、俺が二つの騎士団を同時に滅ぼしてやったぜええ! クソカマも、チャットの野郎もまとめてあの世になあ! ははははは!」


 その宙では。

 狼男の騎士団の父艦フェンリル内で同騎士団団長のウルグルは尚、勝利の余韻に浸っていた。


「……いつまで笑っているのかしら、狼男の騎士団長さん!」

「Oui……人が死んでるって時に、場違いなことよねえ!」


 が、そんな彼に対して露骨に表情を歪め。

 法機アンドロメダと、法機ヘカテーを核とするワイルドハントは征く。


「ウォオオン! 何だ何だあ、今さら偽善者の振りかあ!? 所詮俺が葬ったのはてめえらの敵だぜえ? てめえらにとっちゃ、むしろチャンスじゃあねえのか!」


 ウルグルは向かい来る彼女たちを煽る。


 ――貴様先ほどから……よくも姫にそんな口を!


「いいのよ、シュバルツ! ……そうね、まあ少なくとも初花(彼女)はともかく、私は偽善者かもしれないわね。」

「ほう……そうかい、なら!」

「でも! ……少なくとも、人が死んで喜んでるあなたみたいな下衆野郎とは一緒じゃないから。」

「ふふふ……ワオオオン! よくぞ言ったなあああクソアマああ!」


 ウルグルは尹乃に煽られ、雄叫びを上げながら父艦フェンリルをワイルドハントに突撃させる。


「待ちなさい! 私だっているわ!」


 半ば無視されたことを怒り、初花は法機アンドロメダを父艦フェンリルへ向かわせる。


 ◆◇


「さあでは! これで止めだんべええホスピアー殿おお! hccps://baptism.tarantism/、セレクト ファイヤリング  巨神の雷インモータリックケラウノス!」

「ふん、こっちのセリフっしょ! ……セレクト、巨蛇の毒牙(ミッドカルズポイズン)!」


 そうして、アメリカでは。

 父艦トールが右腕の雷鎚を振り上げ。

 父艦ヨルムンガンドが口をガバリと開いて牙を露にし、ついに決着をつけようと一騎討ちに臨んでいた。


「くっ、こちらは無視か! いや……ならばここは漁夫の利を狙おう!」

「く、や、やめて! このままじゃ、あなたたちの攻撃が街に!」


 一方蚊帳の外に置かれた木男の騎士団とマギーも、それぞれにこの状況に入り込む隙を窺う。


 そうして。


「……エグゼキュート!!」


 二つの父艦が、必殺技をぶつけ合う。


「く、来たか! hccps://baptism.tarantism/、セレクト 枝籠の中の鳥(ブランチクレイドル) エグゼキュート!」

「! Wow、いいわその形! hccps://sylph.wac/、Select 風元素(エレメンタルウインド)! Execute!」

「ぐっ、こ、これは嵐か!? な、や、止めろおお!!」


 それを見たアントンは、父艦ユグドラシルを防御特化形態へと変貌させるが。


 マギーはとっさにそんな父艦ユグドラシルを風で巻き上げ、そのまま父艦二隻の一騎討ちの余波に対する防波堤とした。


 たちまちトールとヨルムンガンドの一騎討ちは、激しい余波を放ち。


 それは父艦ユグドラシルにより、受け止められる――


「y、Yes! これなら……o、Oops!?」


 それを見たマギーは、余波が街に及ばぬと見て喜ぶが。


 ユグドラシルの向こうに輝く爆炎の中から()()が、空の向こうへと飛び去って行くのを見た――


 ◆◇


「!? ガルルッ、何だ!」


 ――姫、お下がり下さい!


「! くっ、あ、あれは!?」

「q、Quoi!?」


 再び、宇宙では。

 突如として戦場に()()が現れ。


 ウルグルに尹乃とシュバルツ、初花が目を疑う。

 ()()は、どこからか突如飛んで来た風でもなかった。


 その出現方法は例えるならば、それまで透明だったものがいきなり見えるようになったような――


 ――ひ、姫あれはまさか!


「だ、第二電使の玉座(スローンズ)!?」

「ガルルルッ! 何てこった……あれは!」

「なんてことなの……」


 シュバルツも尹乃もウルグルも初花も、もはや戦いも忘れて目の前の光景に見入る。


 それは少し前に行方不明となった第二電使の玉座(スローンズ)だったのだ。


「また会えて嬉しいわ……アンヌ!」

「!? が、ガルルルッワオオオン! き、貴様は!」

「あなたは、魔女木青夢ね……」

「q、Quoi……」


 と、その時。

 青夢の駆る法騎ジャンヌダルクも、先ほどまでのもどかしい思いを振り払うように大気圏を突き抜けて現れた。


 いや、彼女だけではない。


「ははは! ウルグル殿よ、よくぞやってくれた! 邪魔な騎士団長たちを二人も!」

「ガルッ! ほう……お前こそよく来てくれたなあアルカナあ! わざわざ喰いに行く手間が省けたぜええ!」

「! ……マージン・アルカナ!」


 アルカナが駆るブレイキングペルーダも、大気圏を飛び越えて宇宙にやって来た所だった。


 まさに、執念で宙を貫いて来たのである。


 ◆◇


「うおおおお! さあ僕に宇宙から攻撃してくれた奴ううう! 待ってろ、僕が葬ってやるっしょおおお!」


 更に言えば執念で宙を突くは、青夢やアルカナのみにあらず。


 何とホスピアーもだった。

 そう彼は、まだ死んでいないのである。



 そして、死んでいないと言えば。


「くっ、ぐうう! 何だこれは、爆炎が収まるどころか勢いを増しているだと!?」


 またも、アメリカにて。

 自らの父艦ユグドラシルの能力を防御に回していたアントンは、状況のおかしさに首を傾げる。


 何故だ、既に勝負は両者相打ちにより決したはず。

 が、その疑問は次に爆炎の中から熱を帯びて現れた巨大な影により文字通り氷解することになる。


「ふふふ……アントン殿お! 俺、まだ死んでないみてえだよおおお!」

「ま、まさか……アロシグ殿か!?」

「w、What hell!? な、何てことなの……」


 この光景にはアントンのみならずマギーも驚く。

 それは紛れもなく、父艦トールだった。


 が、その艦体全てに炎を纏っている。


「はははっ、さあ第二ラウンドと行くだよおお! この父艦トール炎人形態フォーメーションスルトが、相手してやるだあ!」


 上半身を折り曲げながら父艦トールは、ゆっくりと歩み寄って来た。

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