#149 騎士団長たちの最期
「宇宙に行く、だなんて! 魔女木さん、またそんなことを」
「だけど! 私が行かなきゃならないの、私が!」
作戦本部に向けて青夢が提言したこと。
それは自ら電使翼機関の力で加速された法機を駆り戦場に行くということだった。
「魔女木さん! あなたが規律を乱す行動をすれば、全体の行動に支障が出るの! お分かりであって?」
「っ!? そ、それは」
しかしマリアナの言葉に青夢は、返す言葉がない。
それを考えた時、ふと頭に浮かんだのは今アメリカで戦っているマギーのことだが。
さすがにそれを密告まがいにこの場で言うことは憚られたが、マギーはできている"ひとっ飛びで他の地域を救いに行く"ということができないことには忸怩たる思いである。
「落ち着け、魔女木!」
「! き、教官……」
さらに巫術山も青夢を窘める。
「……貴様の思いも分からんでもない。だが今は皆に示しをつけろ! 貴様は、飛行隊長なんだからな。」
「……はい。」
青夢は先述の忸怩たる思いを抱えながらも、結局はその思いを呑み込むのだった。
◆◇
「さあこれで終いだべええ、ホスピアー殿おお!」
「い、言ってくれるっしょおお! このおお!」
アメリカ本国、バージニア州沖。
法機シルフにより地上から引き離されて今対峙する二つの父艦ヨルムンガンドとトールは今決着を果たそうとしていた。
「さあこれで最後だんべ! ……エグゼキュート!」
「くっ、……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態 エグゼキュート!」
「くうう! まだ悪足掻きをするんべかああ!」
そのまま自艦トールに、振り上げた拳――もとい、雷鎚を振り下ろさせるが。
ホスピアーもまだ尚悪足掻きとばかりに父艦ヨルムンガンドをパーツ群に分離させてトールの鎚撃を回避する。
「ははっ! 当たり前っしょお、こんな簡単に倒れる馬鹿はいないからっしょねえ!」
「おのれえ、ホスピアー!」
トールは目の前をチョロチョロと動くヨルムンガンドに、翻弄されていた。
「Wow……私も、早く行かないと!」
マギーもこれを見てばかりではいけないとばかりに。
自機シルフを駆り、戦場に飛び込もうとするが。
今の戦場には、入り込む隙間が無さそうである。
「くっ、ここまで来たのに……!」
マギーは、歯軋りする。
◆◇
「くっ、い、今何をしたのよおお小娘え!」
「あなたの太陽に、痛打を与えさせてもらったわ!」
「くうう……おのれええ!」
その頃、世界各地に放たれた流星弾の発射元である法機アンドロメダが陣取る戦場たる宇宙では。
先ほどその流星弾により最大の痛打を与えられた鳥男の幻獣機飛行艦とその法機アンドロメダが未だ睨み合っている。
「くっ、こんな所で……魔男――男にも、魔女――女にも、負ける訳にゃいかないのよおお!」
「Quoi! これは……」
しかしサロは、怒りを滾らせる。
ここで、負ける訳にはいかない――
◆◇
「くっ、この……今のは」
「! 今がチャンス! hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾――傾城の美女 エグゼキュート!」
「くう! おのれえ!」
一方、韓国でも。
アンドロメダが放った流星弾は空中で炸裂しており。
それにより死爪艦艦首のブレイキングペルーダに乗るアルカナの目が眩んだ隙に、陽玄は再び死爪艦に向けて技を放っていた。
「ふん、だがもはやその技は見切っている! fcp> get LaplacesDemon.hcml……全知之悪魔!」
しかしアルカナも、今度は予知を発動し。
襲い来る幻惑攻撃の、次なる相手の手を見極めんとしている。
「そうだ……簡単に敗れる訳にはいかん! 私はともかく、他の騎士団長たちには身の程知らずのこの望み! しかしその騎士団長たちもまた抱いている……忌々しい!」
奇しくもアルカナも他の騎士団長も、その一点においては一致していた。
◆◇
「では12騎士団長の皆さん……準備はよろしいですね?」
「はっ、姫君!」
それは、そもそもこの戦い――真の争奪聖杯の始まりとなったあの円卓崩壊の直後に遡る。
「さあ騎士団長の皆さん。あなたたちにはこの争奪聖杯に参戦する上での駒――幻獣機父艦、幻獣機飛行艦が与えられます。それは世界を滅ぼしかねない力を秘めています。」
「はっ、姫君!」
もはや最後となる円卓の場。
その席についている12騎士団長たちを前に、ダークウェブの姫君たるアリアドネは告げる。
「その力でもって他の騎士団を滅ぼし、自分たちの騎士団は生き残りなさい!」
「!? こ、このリンクは……」
そうしてアリアドネは、騎士団長たちにこのURLを示したのだった。
hccps://The13thComflictChalice.tarantism/
「さあ、そこにアクセスなさい。そのURL内にあなたたちの求める力が……必ずあるわ。」
「……はっ!! 姫君!!」
騎士団長たちは戸惑いつつも、リンクにアクセスする。
「(自分こそ、この争奪聖杯を制する!!)」
先述の通り、騎士団長たちは全てその思いを抱いていたのだった。
◆◇
「そうよそうよそうよ! あんたみたいな女も、他の騎士団長みたいな魔男――男も大っ嫌いよお! 私は……私はタンガ・サロ――賢者魔大河という性別そのものになることを願ったんだからあ!」
「くっ! また太陽の出力が!」
そうして、現在の宇宙では。
先ほど受けた流星弾の影響を振り払い、サロは自艦の太陽戦車が纏う太陽の出力を上げる。
それによりこれまた先ほどの流星弾の時とは異なる、眩い光がこの戦場一帯を襲う。
「ぐうっ! クソカマか!」
――姫、少し離脱しましょう!
「ええ、そうね……」
「く、サロ! そしてこの狼も邪魔を……」
これにはウルグルも、尹乃・シュバルツも、そしてチャットも。
サロと初花以外のこの戦場のプレーヤーたちは、自艦を離れさせて行く。
相変わらず太陽戦車の太陽光は地上にほぼ全て指向しているものの、周囲は高熱エネルギーにより更に近づき難くなっている。
「そうよ……この魔女社会になってからというもの! 女たちから差別されることも多くなり、いつしかそんな女たちに合わせて行くうちにその言葉遣いを真似るようになった……でもかと思えば! 次には魔男になれば、それで差別された! だから……だから私はあ!」
それでいつしかサロは、男性や女性などではないサロ――大河という性別であることを認めてもらうことを願うようになった。
「だから……私はあ! もう男にも女にも縛られない、負けない! それを邪魔するあんたにもお!」
「そう、その気持ち自体は否定しない……でもね! それで世界を滅ぼしたら、あなたを否定する人だけじゃない、これから認めてくれる人もいなくなっちゃうのよ!」
初花はサロに、呼びかける。
「黙りなさいよ魔女なんかがあ! 私を否定すんならあんたにも消えてもらうわああ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 日光砲!」
「止むを得ないわね……hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾!」
しかし二人は噛み合わず、結局は止むを得ずに互いに術句を唱え合う。
そして。
「……エグゼキュート!!」
ほぼ同時にアンドロメダから無数の流星弾が、太陽戦車からは日光砲が放たれまたぶつかり合う。
「くう! ワオオオン!! これは、クソカマ……!」
――姫!
「くうう! 中々にこれは辛いわねえ!」
「くっ! ワシもこの程度では!」
これには戦場から少し離れていたウルグルや尹乃・シュバルツ、チャットも顔を顰める。
ぶつかり合った二つの攻撃はそれほどに、巨大な余波となって彼らにも襲いかかり――
――……ひ、姫……
「大丈夫よ、シュバルツ……さて、あの太陽は……っ!?」
そうして尹乃とシュバルツが、目を見開いた頃。
彼らは目を疑うことになる。
そこには。
「ははは……その程度でもはや私は止められないわあ! さあ……小娘え! 今度こそ私の目標の礎になってもらうわあ!」
サロの操る太陽戦車が、力を削がれながらも未だ健在である有様だった。
「くっ、Mademoiselle! ごめんなさい、このままじゃ命令を……」
初花操る法機アンドロメダもまだ宙にあるが、敵を潰し切れないことに歯軋りする。
が、その時だった。
「!? く、な、何この狼は! は、離れなさい!」
「!? あ、あれは!?」
急に、太陽戦車の弱りながらも未だ健在である太陽状のエネルギー体をも無視し。
それまで攻めあぐぬいている様子だった魔弾駆逐父艦スコルが、太陽戦車の艦体に噛み付いたのである。
「な、何を!?」
「ワオオオオン! はははは、クソカマあ! この時を待っていたのさ、貴様の艦を覆う邪魔臭えエネルギー体の黒点! そこがいい具合の大きさになるのをなあ!」
「くっ……ウルグルうう!」
父艦フェンリルからウルグルの声が、サロに伝わった。
「さあ……スコルううう! 喰っちまええ!」
「くっ、諦める訳には……ぎゃあああ!」
「な……くっ!」
ウルグルが命じるままに。
スコルはサロの抗いを嘲笑うかのごとく、その艦たる太陽戦車を噛み砕く。
その光景には尹乃も初花もチャットも、目を逸らす。
そうしてあっという間に、太陽戦車を食い尽くしてしまった。
「ワオオオオオン! ははは……俺が! この俺がまずは鳥男の騎士団を滅ぼしたあ! これで、最後の一席に近づいたぜええ!」
「ええ、ウルグル騎士団長!」
ウルグルは、歓喜の雄叫びを上げる。
「ふふ……ははは、そうだ! そうしてウルグルう! お前はワシが滅ぼすう!」
チャットはウルグルの歓喜するこの瞬間を隙と捉え。
自艦たる月戦車を急加速し、その艦体を捻りしがみついている魔弾駆逐父艦ハティを父艦フェンリルに投げつける。
「ガルルルッ! チャットおお!」
「ははは、これで……ぐあああ!」
だが、チャットの歓喜はすぐに断末魔へと変わる。
何と彼の月戦車は、内側より食い破られて爆散してしまったのである。
そう、今しがたフェンリルに向かい投げつけたはずのハティによって。
「ワオオオオン! ははは、気づかなかったのか? 貴様が今投げつけたハティの大きさが、小さくなっていたことをおおお!」
ウルグルはフェンリルに、投げつけられたハティを食わせながら再び勝利の雄叫びを上げる。
ハティは月戦車の表面に開けた穴から、構成機を少しずつ送り込んでいたのだった。
「くう、何だこれは……ワシは、死ぬ、のか?」
そうしてチャットは、闇の中にいた。
チャットはしかしその中で、自分の運命を悟る。
もう、死んでしまうのか――
実家の幻獣機専用に作られていた整備工場。
しかしそこも、幻獣機製造中止により商売がなくなり。
首を吊ることになった自分の父のように。
「ははは……ワシの人生は、何だったんだろうな……」
――大丈夫よ、ゲイリーチャットさん。
「! だ、誰だ……?」
ふとチャットに響いた声。
それは彼自身は知らぬことだが、あのアンヌの声であり――
◆◇
「!? 空が、暗く……」
「あ、あ……」
一方その頃。
地上では空が、薄暗くなり。
そのことと予知によって青夢は事の顛末を知り、その場にへたり込む。
また誰も、救えなかった――
――泣かないで、青夢。
「(こ、この声! まさか……アンヌ!)」
しかし、その時青夢に届いた声は。
チャットの最期と同じく、あのアンヌの声だった。




