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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第二翔 王魔女生私掠空賊会戦
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#14 私掠空賊現る

「魔法塔華院重工、魔法塔華院製鋼、魔法塔華院……はあ、こうも同じあの魔法塔華院マリアナの名前ばっかり見せられるとゲシュタルト崩壊しそう……」


 魔男との三度目の会戦を経て、数日後。

 青夢は街の至る所にある看板を見て、ため息を吐く。


 何を隠そう、青夢らの訓練学校のある街はマリアナの実家たる魔法塔華院コンツェルンの"企業城下町"なのである。


 青夢たちの訓練学校も。


「学校法人……()()()()()学園、魔女訓練学校……はあ、学校は魔法塔華院マリアナの私物じゃないっつーの!」


 青夢は誰に聞かせるでもなく、悪罵を吐く。

 学校法人魔法塔華院スクーリング。


 訓練学校まで、魔法塔華院コンツェルンの関連企業なのである。


「まあでも……ここって何気に航空発祥の地なのよね。」


 青夢は街の看板の一つ・『航空記念公園』を見て言う。


 これまた何を隠そう、この街の名は埼玉県懐沢(ふところざわ)市。


 この日本に、最初に航空技術が伝わった地らしい。


 魔法塔華院コンツェルンがわざわざこの地(ともすればダサイ玉県など言われる)を企業城下町に選んだのも、その辺にあるのかもしれない。


 さておき。


 そんなことをぶつくさ言いながら、歩いていると。


「あ、青夢!」

「ほら、こっちこっち!」

「ごめんごめん、遅れちゃって!」


 真白と黒日が、喫茶店のテラスより手を振っている。

 あらゆるゴタゴタがあった後の、やっと得られた休日だった。


「あ、アイスティーお願いします!」

「はい、承知しました。」


 青夢は席に着き、店員に注文を告げる。


「……でさ、青夢! 教えてよ。」

「そうそう、極秘任務って奴を!」

「あ、あー……はいはい……」


 が、真白と黒日の話に。

 青夢は、苦笑いを浮かべる。


 そう、"極秘任務"。

 あの日呼び出された青夢は、そこで思いがけず元魔男たるソード・クランプトンと遭遇する。


 更に、その後に入って来たマリアナ・法使夏・ミリアから驚くべきことを告げられた。


 新たな飛行隊・凸凹飛行隊(バンピーエアフォース)を結成するという。


「(私たちのジャンヌダルクもカーミラも、クロウリーも……与えられた張本人じゃないと使えないからって、あのソード・クランプトンも一緒にか……ああ、何でこんなことに)」


 青夢は先が思いやられる現状に、ため息を吐きたくなる。


 あの後、青夢らが件のアラクネより授けられた強力な空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)は(また例によって)魔法塔華院コンツェルン傘下の魔法塔華院技研に送られ技術調査がなされた。


 結果は先述の青夢の台詞通り、与えられた本人しか使用も内部構造の閲覧もできないという徹底したセキュリティ対策ぶりだったため。


 止むに止まれぬ事情ということで青夢らは、魔法塔華院コンツェルン傘下の飛行隊という形でジャンヌダルクらを運用し同社に貢献することになったのだった。


「ちょっと、青夢?」

「え! あ、ああ……あ、あはは!」

「だーかーら、あははじゃなくて! 話してよ、ねーえ?」


 無論、このことについては徹底した緘口令が敷かれており。


 真白と黒日の容赦ない質問攻めにも、青夢は答えられないもどかしさから一層困り果てる。

 と、その時。


「……魔法塔華院コンツェルンはより快適で、便利な生活を皆様にお届けいたします……」

「! あ、あんな所にアドエアシップが!」

「いや、アドエアシップはずっと前から飛んでるでしょ?」


 突然聞こえてきた声の発生源たる、上空を行くアドエアシップを青夢は指差す。


 空には、他にも多数の一般空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)が飛行し。


 更にアドエアシップの周りには、物理的そして電使的にもエアシップを護衛するための機体も飛行している。


 立ち並ぶビルに、空を飛ぶ乗り物の往来。

 これぞ、昔の時代にはよくあった未来予想図そのものであるが。


「まあでも今も昔も変わらないのは……嫌な奴はいるってことかな-!」

「ああ、それってもしかして。」

「今もあの映像に出てる、魔法塔華院のお嬢様?」

「……うん、まあね。」


 青夢の呟きに、今度は真白がアドエアシップを指差す。


 そのアドエアシップ下部に設置されたディスプレイには、マリアナが出演する映像が。


「魔法塔華院コンツェルンはこれからも続いていきます……皆様の、快適な生活と共に。わたくしが、次世代を担います。」


 優雅な立ち振る舞いでマリアナは、映像内でそう喧伝する。


「ちぇっ、なーによ! なーにが皆様の快適な生活ですか!? あんたは社会の皆様より以前に、まず同級生の快適な生活を保証しろっての!」

「お、おお青夢……意外と言うねえ……」


 堰を切ったようにマリアナに対する怨嗟が湧いてくる青夢に、真白と黒日は若干引いている。


「だいたい! あんな澄ました顔でCMなんか出ちゃって! 外面だけいいのも程があるっつーの!」

「おお! もう、もっと言っちゃえ!」

「! ち、ちょっと青夢!」


 青夢の怨嗟は、更に出て来る。

 それを真白は煽り、黒日は何かに気付いて彼女らを止めるが。


「ふんだ、バーカ魔法塔華院マリアナが!」


 青夢は止まることなく、まくし立てる。


「へえ? 誰がですの?」

「だーかーら、あのCMに生意気にも出てるお高いご令嬢が」

「ほう、それは……こんな顔ですの?」

「ん? ああ、まさにそんな顔……え?」


 後ろからのっぺら坊の怪談に出て来そうな台詞をかけられ、青夢が振り返れば。


「魔・女・木・さ・ん♡」

「ひいい!? 出たあ!」


 振り返ればそこにあったご本人・マリアナの顔に。

 青夢は、のっぺら坊を見たようなリアクションで驚く。


 ◆◇


「ふあーあ……ここは、ちょっと暇な空域ね。」

「だーめ、いつ何が起こってもいいように監視をしておかないと。」

「はいはい。」


 夜。

 空路を行く、魔法塔華院コンツェルン傘下の輸送飛行船(キャリッジエアシップ)の中で乗組員の魔女らが退屈そうにしている。


 今は、何ら障害物のない空域。


 何もない空を、ただただ真っ直ぐ進まねばならない時ほど退屈な時はない。


 とはいえ、職務中である。

 魔女らは申し訳程度ではあるが、監視の目を改めて光らせる。


 と、その時だった。


「!? せ、船長! 三時の方向より不明の飛行物体、複数接近中です!」

「! な、何ですって?」


 魔女からの報告に、この輸送飛行船船長は顔をしかめる。

 船長がレーダーを見れば、果たして。


 三時の方向には、多数の機影が映っていた。


「……護衛飛行隊、出撃! 未確認飛行物体を偵察し、敵性物体であれば撃破せよ!」


 船長は伝声管に向かい、控えの護衛機魔女らに命じる。





「……キャプテン、前方より敵機体複数接近中です。」

「よおし、さあお前ら! 仕事が来てくれたよお!」

「イエス、マム!」


 不気味にも黒く塗られた複数の空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)を使う、私掠空賊を率いるメアリーブランデンは、威勢よく部下らに呼び掛ける。


「……よし、来たよ散開! 各個に照準し、検索術句の詠唱を開始だ!」

「イエス、マム!」

「!? くっ、何よこいつら!」

「は、早い!」


 近づいて来たかと思えば素早く散らばったメアリー機以下敵飛行隊に、輸送飛行船護衛飛行隊は翻弄される。


「……サーチ、アサルト オブ 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)! セレクト、野人暴食(ワイルドグラットニー) エグゼキュート!」

「……エグゼキュート!!!!」


 メアリーの後に、他の女空賊らも一斉に呪文を唱える。


「!? きゃあっ!」

「いやああ!」


 たちまち、空賊機からは黒いエネルギー体があふれ出し。

 それらは顎のような形となって、護衛飛行隊の機体を次々と噛み砕いていく。


「な、み、皆! 応答せよ、応答せよ!」


 輸送飛行船より、船長は必死に呼びかけるが。

 護衛飛行隊は全滅したらしく、返事はない。


「さあて……次は船をやるよ!」

「イエス、マム!」


 空賊の飛行隊は、次には当然というべきか輸送飛行船に目をつける。

 たちまちメアリー機らはまたも進路を変え、飛行船へと襲い掛かった。


「くっ……空対空砲用意! 対空防御に当たれ!」

「了解!」


 船長は動揺しつつも、ならばと飛行船の武装を展開する。

 尤も、これは元来商船。


 戦闘用の空飛ぶ法機への対空戦は、あまり想定されていない。

 よって護衛飛行隊が壊滅した今となっては、ほとんど悪あがきに近い戦闘だった。


「! キャプテン、敵船より対空砲撃です!」

「おやまあ……目障りだねえ!」


 まばらな砲撃が迫り、メアリーは眉根を寄せる。

 が、次には事も無げに。


「……ステルスモードだ! ……セレクト、影隠(シャドーヒドゥン) エグゼキュート!」

「イエスマム! ……エグゼキュート!!!!」


 術句を唱え、部下たちにも命じる。

 たちまち空賊飛行隊は、全機が見えぬ状態となる。


「な!? て、敵機がすべて消えました!」

「な、何!?」


 見れば、目視でもレーダーでも機影は見えない。

 輸送飛行船側では、船長以下船員たちが首をかしげる。

 これは、見逃してくれたのか?


 しかし、撤退したという報告ではなく”消えた”という報告である。

 これは。


「!? ぐあっ! て、敵の攻撃か!」

「は、はいそのようです!」


 が、そうこうするうち。

 船体には、攻撃を受けてしまう。


「これは、また別の敵か? それとも」

「くっ! せ、船長! もう機体が保ちません!」

「何! くう……総員、退避せよ!」

「は、はい!」


 船員も船長らも、訳が分からぬまま。

 自船を捨て、撤退するしか方法がなかった。


「キャプテン、船員たちは尻尾を巻いて退避したようです。」

「よおし……ズラかるよ、お前たち!」

「イエスマム!」


 しかしメアリー率いる空賊は、そのまま。

 何故か私掠、という名前を違えるがごとく略奪行為も行わぬまま夜の闇に紛れて行く。


 これは青夢の久しぶりの休日の、ほんの数日前のことである。


 ◇◇


「……そんなことがここ数日、相次いでいましてね。」

「へ、へえ……」

「なるほど……空飛ぶ法機のくせに、幻獣機のような機体だな。」


 場所は変わり、魔法塔華院の屋敷にて。

 椅子に腰かけるマリアナの話を、向かい側に座る青夢とソードは聞いていた。


 やはり極秘の話なので、場所を移したのである。


「何よ、空飛ぶ法機のくせにとは!」

「まあまあ、使魔原さん。……そうね、ミスタークランプトン。あんまり調子に乗るようなら……これですわよ?」

「くっ! わかっている……」


 ミリアをなだめつつ、マリアナは自分の首元を抑えるような仕草をしてソードを脅す。

 ソードは苦々しく返事する。


 首元に何があるのかと思い、青夢が見れば。

 ソードの首元には、何やらチョーカーがつけられていた。


「さて……今回の、わたくしたち凸凹飛行隊としての初仕事は。」

「……ええ。」


 本題に入り始めたマリアナの言わんとしていることは青夢にも分かった。


「……空賊を、蹴散らすことですわ。」


 マリアナは青夢の予想通りの言葉を放つ。




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