#148 王獣相争う/宙から星の攻撃
「ギリシアンスフィンクス艦か……なるほど、それが貴様の足掻きか愛三とやら! だが……それがもはや悪あがきでしかないことを今一度教えてやろう!」
「あ、やっと名前覚えたんだ! それは褒めてあげるスフィンクスの人!」
「ふん、貴様こそこちらの名前を覚えろ! アルシン・リオルだ覚えておけえ!」
ギリシアンスフィンクス艦と、幻獣頭法機エジプシャンスフィンクス。
一度は決着を見たと思われた二つのスフィンクスの戦いは、再燃することとなった。
「だが……既に利はこちらにある! 何故ならこちらには愛三! 他ならぬ貴様がいるのだからなあ。そしてもう一つ……そもそも父艦でもないただの艦が、この幻獣頭法機に敵う筈もない!」
だがリオルは尚も余裕を湛えていた。
それは今しがた彼が放った言葉通りの理由によるものである。
「なーるほどー。でもいいのかなあ、そんなこと言ってえ。」
「ふん、負け惜しみなど……っ!?」
が、愛三も余裕を湛えており。
リオルもそれに冷ややかな態度をしつつ、ギリシアンスフィンクス艦を見て絶句する。
「くっ、ギリシアンスフィンクス艦が!?」
何と、ギリシアンスフィンクス艦は艦橋後部に備えた巨大な両翼を羽ばたかせ。
その艦体を、空へと翔け出させたのである。
「さーあ、これであの母艦型幻獣機とかいうあれと同じものになったんじゃない?」
「くっ……だが! そう慌てることではないな、今更艦が飛んだ所で!」
リオルは面食らいつつも、すぐに気を取り直す。
そう、もはや艦が飛ぶなど今しがた愛三が言った通り魔男の母艦型幻獣機もとい父艦が成し遂げている。
魔女でも既に、ワイルドハントという前例がある。
だから今さら、魔女の艦が飛んだところで驚くところではない。
「リオル……障碍はないか。」
「レーヴェブルク騎士団長! ご心配に与り誠に……しかし、ここは私とこの愛三の舞台! どうか」
「承知。励め……」
「はっ、レーヴェブルク騎士団長!」
その光景を見ていたレーヴェブルクが、助力を申し出てくるが。
リオルは、これを断り。
「さあ行くぞ……愛三い!」
「ええそうだね、バカリオルさん!」
改めて愛三が操るギリシアンスフィンクス艦へと、その愛三が乗りながら自らが駆る幻獣頭法機を突撃させて行く。
「hccps://egyptiansphinx.mna/、セレクト! 大いなる謎 エグゼキュート!」
「さあ獅脚主砲に咆哮主砲、獅翼帆、フル回転だよおおお!」
エジプシャンスフィンクスから放たれたハッキング光線と、ギリシアンスフィンクス艦の主砲塔三基からのレーザー砲撃がぶつかり合い空にマダラ模様を描く。
「ふん、しぶといな! だが!」
そうしながらエジプシャンスフィンクスは法機としての矮躯から来る機動力を生かしギリシアンスフィンクス艦に肉薄しようとする。
「まあだまだあ! 獅翼帆、羽ばたきまくってええ!」
しかしギリシアンスフィンクス艦も艦橋後部から生える両翼たる獅翼帆を羽ばたかせ巨体に似合わぬ俊敏さを見せる。
さらにそれだけではない。
「ぐうう! くっ、巨体故の巨翼! 強風! なるほど、単に巨大なだけではないということか……」
リオルは歯軋りし、エジプシャンスフィンクスを風の有効範囲から離脱させる。
これによりギリシアンスフィンクス艦とエジプシャンスフィンクスは、大きく間合いを取り合う形となる。
「くっ、だが! ならばこれはどうか…… hccps://egyptiansphinx.mna/edrn/fs/medousa.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
「くっ、メデューサちゃんの! "目"を……」
しかしそこでリオルは、切り札を切る。
それはよりにもよって、龍魔力四姉妹が使い逆に魔男により使われて彼女たちを一度は追い詰めた力が再びその末妹に牙を剥き始めていたのだ。
「よおしよし、動きが止まったなあ馬鹿愛三よ! さあ……行くぞ! 幻獣頭法機エジプシャンスフィンクス!」
リオルはギリシアンスフィンクス艦の動きを止められたことを見て取り、再び動き出す。
既に強風は止んでおり、もはや敵の懐に潜り込む上で障壁はない。
その確信がリオルに、エジプシャンスフィンクスを急加速させた。
「さあ、やはり勝利は私だあ!」
「……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態。アボイディング アサルト、エグゼキュート!」
「!? くっ、艦体がパーツに分かれただと!?」
が、愛三はそこで術句を唱える。
たちまちギリシアンスフィンクス艦は、先ほど融合した幻獣機スパルトイ群を分離させる。
それにより、スパルトイ群をギリシアンスフィンクス艦の原形を保たせながら分離させ。
再び羽ばたきを、開始させる。
「これは、やはり我らの幻獣機父艦と同じということか! く、中々に厄介なことだ!」
リオルはまた幻獣頭法機を離脱させ歯軋りする。
本体とも言える愛三がこの法機の操縦席にいるというのに、即座に潰しきれない。
その現状は、彼の苛立ちをより強めて行く。
「しかしよい……これが馬鹿愛三! 貴様との決戦ならばここまで私に苦戦させる貴様は相手にとり不足しないというもの! さあ……改めて行かせてもらうぞ!」
「へー、一応は私のこと認めてくれるんだ馬鹿リオル! だったら私も、もっと行かせてもらうから!」
リオルは、自らがハッチ上に鎮座する幻獣頭法機エジプシャンスフィンクスの操縦席に向けて話し。
愛三も、窓越しにリオルに答える。
一見すれば共闘しているようで、その実敵対している二人はここでも火花を散らす。
と、その時。
「ぐっ、眩しい! これは!」
「!? な、何かお空から」
突如空で炸裂した何かによる光で目を眩まされ。
リオルも愛三も訝る。
いや、彼らのみならず。
「! 目……視界、不良……」
「あ、あれは!?」
レーヴェブルクも自衛艦隊も、これには驚いており。
レーヴェブルクに至っては、目を半ばやられていた。
◆◇
「さあて……行かせてもらうわ鳥男の騎士団さん!」
「ふっふーんだ、私があんたみたいな奴に負けるかって話よおお!」
時は少し前、宇宙では。
今この戦場に上がって来たプレーヤー、初花。
その宙飛ぶ法機アンドロメダは、鳥男の騎士団長サロが擁する幻獣機飛行艦太陽戦車と対峙していた。
その太陽戦車の後ろで、狼男の騎士団が擁する三隻の父艦のうち一つ・スコルが唸るように太陽戦車を睨んでいた。
「魔男同士で喧嘩するのは構わないけど……喧嘩するならおもちゃでやりなさいと言われなかったかしら!?」
「ふん、知ったことじゃないわ! あなたこそ、出てきて早々悪いけどさっさと消えてくれない!?」
もはやスコルは視線外とばかり、サロは初花にその法機諸共狙いをつけている。
「そう、なら……hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 日光砲 エグゼキュート!」
初花のアンドロメダはミサイルを多数生成し差し向け。
サロは太陽戦車より、熱波を吐き出させる。
それによりミサイルと熱波はぶつかり合い、ミサイルは多数が打ち砕かれる。
「おーほほほ! 大したことないわねえ……っ!? ぎ、ぎゃあああ!」
それを見てサロは嘲笑するが。
なんとミサイル――流星弾は破壊されたものの、それらは光の衝撃波となってむしろ熱波の方を呑み込んでしまう。
「くっ! な、何だあの光は!」
――姫、あれは!
「あ、あれって!?」
「くっ、眩しいぜえワオオオン! こりゃあ、クソカマか!?」
これには、太陽戦車から少し離れたところで狼男の父艦ハティと組み合う馬男の月戦車座乗のチャットも。
狼男の旗艦フェンリル座乗のウルグルと、フェンリルと組み合うワイルドハント座乗の尹乃も目が眩む。
「待って、あの流星みたいなもの……いくつかは地上に行っているわ!」
尹乃は目を眩まされながらも、ふとその動きを捉えていた。
そう、先ほど放たれた多数の流星弾のうち。
いくらかは、地上に向けて放たれ。
そのうち北海道に放たれたのが、先述のリオルやレーヴェブルクの目を眩ませた一撃となったのである。
他の流星弾は――
◆◇
「ぐう! な、なんだべえこれは!?」
「こ、これは私のユグドラシルを……ぐっ!」
「ぐああ! おのれっしょおおお!」
「! c、Chance! 今なら離脱できるわ!」
他のもののうち一発は、アメリカにも落ちており。
それは今二つの父艦と法機シルフを捕らえている木男の父艦ユグドラシルを狙い撃ちし。
それにより拘束が解かれた艦と機は、ユグドラシルから離脱して行く。
「Good……これで……ってえ!?」
そうしてマギーは、改めて父艦らを睨むが。
すぐに、異変に気づく。
何と。
「お、おのれっしょ……この僕に、この仕打ちなんてええ!」
ホスピアーの怨嗟を含んだ叫びが上がる。
先ほどの流星弾はユグドラシルの、魚男の父艦ヨルムンガンドを直撃していたのだ。
「くっ……すまんがホスピアー殿、このチャンス利用させてもらうんべえ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト ファイヤリング 巨神の雷! 全艦、必殺形態準備だべええ!」
「あいあいさー!!」
しかしそれを見たアロシグは、弱った獲物は見逃さないとばかり。
その父艦ヨルムンガンドに向けて、父艦トールの右腕の雷鎚を振り上げる。
たちまちその雷鎚の内部に、雷が宿る。
◆◇
「なっ!? ま、まずいこのままじゃ魚男の騎士団長が!」
日本では、青夢が。
このアメリカでの有様をジャンヌダルクの予知により知り、息を呑む。
このままでは。
「どうしたのであって、魔女木さ」
「……くっ、作戦本部! お願いします私を、今すぐアメリカに行かせてください!」
「く、ま、魔女木さん!」
青夢は急いで、作戦本部に提言する。
このままでは、また全てを救えない。
青夢は、それを恐れていたのだ。




