#146 各戦線異状あり
「あれって……あの時のスフィンクスさん!」
愛三は自艦隊へと迫って来る幻獣機飛行艦群を見て、驚く。
それは、幻獣機スフィンクスの騎士リオルが自機により牽引する王獣の戦車とそれが随行する旗艦・双猫の戦車による艦隊である。
「ああ魔女よ、あの仮想宇宙での一件の時はよくも遊んでくれたなあこの私で! この借りは必ずや、そして! 我が機と同じくスフィンクスを名乗る忌々しいその法機……その艦! 何もかも目障りだ、今日この時をもって焼き尽くさせてくれる!」
「其れ即ち汝が願いならば……成すがよし。」
「ありがたきお言葉、レーヴェブルク騎士団長!」
言うやリオルの艦は、旗艦から離れ。
そのまま、海上のスフィンクス艦へと向かって行く。
「我が旗艦、自衛艦隊襲撃……要覚悟。」
旗艦たる双猫の戦車は、その字の如く艦体を牽引する二匹の猫型幻獣機に身を翻させ。
向かうは今のレーヴェブルク直々の弁にもあった通り、自衛艦隊である。
「敵旗艦、空中より接近!」
「旗艦にはこの艦隊が本命ではないと思ったが……なるほど、何やらスフィンクス艦と因縁がありそうなあの飛行艦に当たらせる代わりか! ……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
自衛艦隊は戸惑いつつも、即応する。
たちまちそのウィガール艦体より、誘導銀弾が多数放たれる。
「目障り也。…… セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態。アボイディング アサルト、エグゼキュート。右、左……」
「な!? し、誘導銀弾が全弾すり抜けるとは!」
しかし双猫の戦車は原形を留めたままパーツ群に分かれ。
そのまま向かい来る誘導銀弾を、全てすり抜けさせ回避してしまった。
以前の争奪聖杯でも見せたレーヴェブルク最大の異能とも呼べる、猫類並みの目である。
「おお! さすがはレーヴェブルク騎士団長。さあ私も……龍魔力の妹よ、ここで貴様と!」
「むー! 龍魔力の妹とかそんな名前じゃないもん、愛三だもん!」
「くっ! ふん、これから葬り去る相手の名前など知らぬわ!」
愛三の言葉など、リオルは蔑ろと言わんばかりに返す。
「ムッキー! 獅脚主砲に咆哮主砲、撃って撃って撃ちまくっちゃえ〜!」
愛三により怒りに任せて艦橋部両脇と艦前部、合わせて三基の主砲よりレーザー光の弾幕が放たれる。
「! ふん、そんな砲撃などにはあ! セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態! さあ見えろ見えろ全てよ……私が回避してやる!」
「! ああっ、もう! 避けないでよっ!」
しかし、リオルは自艦に命じ。
パーツ群に分離させたのち、レーヴェブルクには及ばないもののこれまた猫類並みの目でもって砲撃の雨を掻い潜って見せる。
「ははは! さあスフィンクス艦よどうした? もう貴様の喉笛に噛みつこうとしているぞおお!」
そうしてリオルは自艦を率い。
今彼自身の弁にあった通り、スフィンクス艦の艦橋頂上部へと迫っていた。
「くううう! 咆哮主砲ンンッ!」
「ふん! 気休めにもならぬな! さあ……行くぞ我が機スフィンクス!」
愛三は破れかぶれで艦前部主砲より砲撃するが。
主砲撃は大きすぎて小回りに欠けており、パーツ群に分かれている王獣の戦車は一旦散るように回避し。
そのままリオルは、艦首で艦体を牽引していた幻獣機スフィンクスに騎乗して愛三のスフィンクス艦に肉薄する。
愛三には厄介なことに、いつぞやの仮想宇宙の時のごとく艦橋に組み付こうとしていたのである。
「ふふ……呆気なかったな!」
リオルはそのまま幻獣機スフィンクスを急加速し――
「……セレクト、大いなる謎 エグゼキュート!」
「!? ぐっ!」
と、その時。
突如として耳に飛び込んで来た声にリオルは、艦橋に向けていた幻獣機スフィンクスの機首を上にあげて急回避する。
それはスフィンクス艦からではない、その横から来た光線。
それを放った主は。
「ふふふ……ははは! これはこれはこれは……未だ通常法機の機体たる法機のスフィンクスが直々にお出ましとは! 中々に舐められたものだなあ!」
「ムムム! 舐めてなんかないもん、直接戦いに来ただけだもん!」
リオルの笑いに怒りの言葉を返す愛三が駆る、法機スフィンクスである。
いや、法機スフィンクスのみならず。
その傍らには、幻獣機メデューサの姿もあった。
「わざわざそれまで連れて来たということは……とうとう決着か! どちらが真にスフィンクスの名にふさわしいかの!」
「それはちょっとよく分かんないけど……とにかく! 私の法機の機体を完成させるにはあなたの幻獣機がいるから、頂戴!」
「ほう……はははは、本当の馬鹿だな貴様は! あげる、などというと思ったか!」
「ブッチーン!! 馬鹿って言ったら自分が馬鹿なんだよおバーカバーカ!」
「ほう……貴様にはもはや何を言われても腹立たしいなあ!」
愛三とリオルは、しばし舌戦を繰り広げる。
「……hccps://sphinx.wac/!」
「……hccps://baptism.tarantism/!」
しかしすぐに、今度は先を争うように。
「セレクト、大いなる謎 エグゼキュート!」
「セレクト、王獣の施錠 エグゼキュート!」
互いに術句を詠唱し、それぞれの機から放たれた光線が互いに当たる。
「ふうんだ、バーカバーカ! 幻獣機スフィンクス、幻獣機メデューサ、空飛ぶ法機スフィンクス コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム」
「ふん……バーカバーカ言う貴様こそ馬鹿めが! ……さあ!」
またも互いに罵り合いながら、睨み合い。
そうして。
「空飛ぶ法機スフィンクス!」
「幻獣頭法機エジプシャンスフィンクス!」
「エグゼキュート!!」
術句による、舌戦となる。
すると。
「くっ! 法機スフィンクスと幻獣機スフィンクスが引き合うか……さあ鬼が出るか蛇が出るか!」
「さあ来てよお幻獣機スフィンクスちゃあん!」
たちまち法機スフィンクスと幻獣機スフィンクス、更に幻獣機メデューサは引き合い。
空中で三機が、互いに接触し。
融合していく。
「くうう! さあ来い、エジプシャンスフィンクス!」
「来てええ! 私の法機スフィンクスちゃあん!」
法機内部に乗る愛三、そしてコックピット窓の上に座すリオル。
互いの思いを汲み葛藤するかのように法機の幻獣頭の機首の絵は明滅する。
そうして――
「ふ、ふふふ……ははは! やはり俺だったか、スフィンクスの名にふさわしいのは!」
「くっ、す、スフィンクスちゃん!」
法機の機首にははっきりと、幻獣機スフィンクスを思わせる機首の絵が浮かび上がったのだった。
◆◇
「OOPS!! くっ、これじゃ……」
「はははは、やっぱり所詮は法機と父艦っしょ!」
「ああ……俺たちに勝るものは、何もないんだべえ!」
一方、アメリカでも。
バージニア州海岸の沖合いでマギーが駆る法機シルフと、巨男の父艦トール及び魚男の父艦ヨルムンガンドが互いの技によるぶつかり合いを繰り広げていたが。
父艦の方に軍配が上がった所だった。
シルフは跳ね飛ばされるが、ヘリ特有のホバリングにより空中に安定する。
しかし。
「Wow……外側の幻獣機の機体が、欠けちゃってる。これじゃ……」
マギーは歯軋りする。
シルフは元より十二分ではなかった力を更に削がれてしまったのだ。
「さあ、これで!」
「隙ありだべえホスピアー殿おお! セレクト、ファイヤリング 巨神の雷!」
「!? く、やはりお前っしょ! ……セレクト、巨人喰い!」
そうしてシルフを改めて狙おうとする父艦ヨルムンガンドだが。
父艦トールが隙ありとばかり、右腕の長き雷鎚を振りかぶり。
慌ててホスピアーも、即応する。
「や、止めて! ここでその撃ち合いをしたら!」
マギーが叫ぶ。
今度こそ広範囲に被害が及ぶことは、言うまでもない。
しかしそんな声も虚しく。
トールとヨルムンガンドは、今にも互いの技をぶつけ合わんとして――
「くっ!? な、何だべか!?」
「な、こ、これはタコの足っしょ!? い、いやこれは」
「w、wood!?」
が、その時だ。
突如海中より突き上げるように浮かんで来た"木"の枝により。
トールとヨルムンガンド、そしてシルフは絡みつかれて捕らわれてしまった。
「これは……アントン殿っしょか!?」
「ああ、そうさホスピアー殿たち! そしてまた新しい法機か……何はともあれ! 今からこの戦場は、この父艦ユグドラシルが支配させてもらう!」
彼らを捕らえる"木"――幻獣機父艦ユグドラシルから木男の騎士団長アントンの声が響き渡る。
◆◇
「さあ九尾狐! 魔男を、私が……っ!?」
一方、母国たる韓国で陽玄も戦っていたが。
敵艦たる死爪艦に動きが生じて驚く。
その艦首に、何やら竜人のような上半身が生え出たのである。
「やれやれ、できればギリギリまで最前線には出たくなかったのだが……ここは私自ら当たらせてもらおう、心してかかるがよい!」
「むう……아자아자 화이팅,나!」
自機たるブレイキングペルーダを現出させたアルカナに対し、陽玄も自らを鼓舞する。
◆◇
「何!? ほ、北海道で法機スフィンクスが!?」
関東の作戦本部にて。
巫術山は報告に、耳を疑う。
「日本を襲った騎士団に、早速苦戦させられるなんて……なんてことであって!?」
マリアナも歯軋りする。
「(アメリカのマギーさんも、韓国の陽玄さんも……くっ、私が行ければ!)」
青夢も世界の現状を把握し、忸怩たる思いである。
が、その時である。
「!? ま、眩しい!」
「そ、それに暑くなってますわ……これはどういうことであって!?」
急に日差しが強くなり、巫術山やマリアナは更に混乱する。
「これはまさか……鳥男が!?」
青夢も手で日光を遮りつつ空を仰ぐ。
予知を使うまでもない、日光が強まったということは。
◆◇
「グルルッ!」
「くっ、これは太陽風!?」
「ホッホッホ、見たかしら皆さん! 私はここで大人しく喰われるタマじゃないのよお!」
一方宇宙では。
今まさに魔弾駆逐父艦スコルに喰われんとしていた幻獣機飛行艦太陽車が悪あがきとばかり、出力を上げたのである。
◆◇
「く、こりゃ急に暑くなって来たなあ! しかし姐様……皆、混乱しとるみたいやで!」
「そうね、こうなったら! ……初花、いいかしら?」
「Oui、Mademoiselle!」
そうして、中国地方のアラクネと赤音もこれには気付いており。
アラクネは密かに、ヨーロッパへと連絡を入れた。
その人物はユーロ空軍所属のアフリカ系や日系の血を引くフランス軍人。
初花・アリス・バリーである。




