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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第八翔 魔男の黄昏
145/193

#144 それぞれの戦い

「韓国にも、か……まったく、つくづく世界中に迷惑をかける気なんだな魔男共は!」


 巫術山は九州方面からの報告にあった韓国への攻撃に際して苦言を呈していた。


 今韓国に迫るはヒミル率いる蝙蝠男(へんぷくだん)の騎士団が駆る死爪艦(ナグルファル)である。


「(!? な……ま、マージン・アルカナが蝙蝠男(へんぷくだん)の騎士団と手を!?)」


 それは、今青夢が驚いたことにアルカナも助力していた。


「! どうしたの魔女木さん。」

「! そうね……魔法塔華院マリアナに話すのはちょっと屈辱的だけど、本部には話さないとね。」

「な! ま、魔女木さんあなたね」

「どうしたんだ、魔女木?」

「はい、実は……」


 青夢は、マリアナに気づかれたことにより。

 先ほどのマギーの場合とは異なりこれは報告すべきとばかりに巫術山にも話す。


「魔男の騎士団長……あの空宙都市計画をふいにしてくれた奴か!」


 聞き終わるや巫術山は、ため息を吐く。

 彼女は過去の恨みを思い出さんとしてか、空に目を向けている。


「……まあよい。とにかく、韓国のその魔男たちをどうにかしなければな……」


 巫術山はそこでふと視線を戻し。

 思い詰めたように、考え込む。


「他の国が今襲われている現状もあるが、ここは魔男の本国でもある日本だ。さて、作戦本部はどう判断する……?」


 巫術山は自身の背後を見る。

 先ほど入った、魔男の韓国襲撃の一件は既にそこにある本部に伝わっており。


 議論が重ねられていたのだ。


「……あっちでもこっちでも争いばかり起きていて……大丈夫かしら。」


 今度は、青夢が天を仰ぐ。

 そこでも今、戦いは繰り広げられているのだ。


 ◆◇


「ウワオオオオン! 何だ何だクソアマあ、往生際が悪りいぜええ!」

「ええ、あなたを苦しめられるとは望外の喜びよ……褒め言葉として受け取っておくわ。」


 ――はい、姫!


 その頃、その宇宙では。


 尹乃・シュバルツの駆るワイルドハントが、ウルグルの駆る父艦フェンリルとぶつかり合っていた。


「さあまだまだあるわよ! hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍(グングニル) エグゼキュート!」

「グルルルッ! くう、こりゃあ更に苛立つじゃねえかああ!」


 ワイルドハントは尹乃の命令に従い、槍型陣形を成す誘導銀弾(シルバーブレット)群――王神の槍(グングニル)を射出し。


 それは避けた父艦フォンリルの右舷を翳めて行く。

 間一髪の回避劇。

 腕がなければできないことだが。


「ウワオオオオン! ガルルルッ! クソアマ共オオ!」


 それすらも塗りつぶすほどに強い殺気に、ウルグルは支配される。


 そのままフェンリルは、主人の怒りの顕現のごとく口をガバリと開けて首をあらゆる方向に向ける。


 ――姫、少々お下がりを!


「引かないわシュバルツ! この私は――魔男の黒騎士の主人たる私は一歩も引かない!」


 まさに野獣のごとき父艦フェンリルだが、それを前にしても尹乃はワイルドハント艦首に誘導銀弾(シルバーブレット)群――槍を構えさせ睨み続ける。


 それは今自らも言った通り、黒騎士の姫たる矜持ゆえに。


 そしてこれは口には出さなかったものの、何より王魔女生グループの若社長としての矜持ゆえに。


「グルルルル! さあ……クソアマああ!」

「ええ、ウルグルさんとやら! hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍(グングニル) エグゼキュート!」

「……セレクト 狼の顎(ウルブズジョー) エグゼキュートオオオ!」


 そのまま向かって来たフェンリルが、口を開けたままワイルドハントに肉薄する。


 そこに備えられたのは凶悪な牙である。


 それに負けじと尹乃も、ワイルドハントより弾薬の槍を放つ。


 そうして。


「ウワオオンッ! グル……ガルルルッ!!」

「ぐうううう! このおお!」


 そのまま互いに肉薄した両艦の内、ワイルドハントはフェンリルの右舷に自身の右舷をぶつけて更に突き進む。


 そのまま弾薬の槍を、フェンリルの艦体へと浴びせかかって行く。


 が、ウルグルもまた一歩も引かず。

 一矢報いんとばかりにワイルドハントへと、艦首たる狼の頭を噛み付かせる。


 それはワイルドハントに少なからずダメージを与えるが、押し留めることはできず。


 ワイルドハントはそのままフェンリル艦体に自艦体を接触させながら、弾薬の槍を浴びせつつすれ違って行く。


 こうして両艦は、再び離れた。


「ウルグル騎士団長!」

「グルルル……ワウウ……ワオオオオオン! これだよこれだよこれだ!! ああそう来なくっちゃなあ、野生の戦いって奴はよお!」

「う、ウルグル騎士団長……!」


 ウルグルの傍らにいる側近の心配も、杞憂なことに。

 かなりの手傷ではあるが、フェンリルは未だ健在であり。


 座乗するウルグルもその戦闘狂としての本質を、躊躇いなく今晒していた。


 ――姫、大丈夫ですか!?


「……大丈夫よ、シュバルツ! ええ……ええ、ええ、ええええ!! 私も奇遇ながら同感よウルグルさんとやら……これぞ戦いじゃあないのオオオオ!」


 ――ひ、姫!? そ、そのご様子は


 いや、ウルグルだけではなかった。

 尹乃もまた、若社長ゆえのものか戦闘狂としての一面を覗かせる。


 魔法塔華院や龍魔力の娘たちや、その他皆も救ってあげてね?――


「悪いわねアラクネさん……私はただ、自分のためかあるいは、私の騎士のために戦うだけよおおお!」


 かつてこの法機ヘカテーを授かった際のアラクネの言葉を思い出しつつ尹乃は、本人には届くはずのない詫びを言う。


 もはや世界がどうなどという、自分の騎士団がどうなどという大義名分は彼らにはない。


 あるのは、目の前に立ちはだかる敵を滅ぼしたいという獣そのものの意気のみ。


 ――姫、無茶はおやめ下さい!


「ウルグルう!」

「クソアマああ!」


 シュバルツの制止も尹乃の耳には入らず。

 彼女は再び、同じく迫り来るウルグルのフェンリルへと自艦を向かわせる。


 ――姫……これでは、王神の最期そのものだ!


 シュバルツは父艦フェンリルと王神の槍(グングニル)というワードから不吉な予感をしていた。


 それは両ワードと同名のものが出て来る北欧神話の絶対神オーディン、その最期を連想させたのである。


 ――……姫ええええ!


「!? くっ、ワイルドハントが……くう!」

「!? な……クソアマあ! 逃げるのかあああ!」


 それはシュバルツに強い意思――尹乃の命令に背いてでも彼女を助けるという意思――を芽生えさせ。


 フェンリルと今一度艦体をぶつけ合わせようとしていたワイルドハントを、回避させたのだった。



「ワオオオン! よくも」

「ぎゃあああ!」

「くうこのお! 離れろ!」

「ガルッ……? くっ……ははは! クソカマにチャットおおお! とうとうてめえらの最期かああ!」


 ワイルドハントが自身に向かって来ぬ怒りを燃え上がらせるウルグルだが。


 直後それは、背後の状況に気づいたことで収まる。


 それは放っていた魔弾駆(マジックブレ)逐父艦(ットシューター)スコルが鳥男の太陽戦車(ソールズチャリオット)を、そしてハティが馬男の月戦車マーナーズチャリオットに組みついた状況である。


「ははは! さあさあ、やっちまええ!」

「ひいいい!」

「くっ……私たちを物のついでみたいに扱った挙句! こんな片手間に滅してくれるなんてえ……!」


 しかし座乗艦の中でサロは。

 歯軋りをし、拳を握りしめていた。


 ◆◇


「さあTerrorists! ここなら……思う存分戦えるわ!」

「くっ、海に戻されたっしょ!?」

「嘘だべ……この父艦が、単機の法機なんかにいい!」


 一方その頃、アメリカでは。

 マギーが海へと押し戻した巨男の父艦トールと魚男の父艦ヨルムンガンドが、自分たちを押し戻した法機シルフと対峙していた。


「くう……そこを退くっしょ!」

「No way! ここから先はママたちがいる場所……I shalln't move here! 超えたいなら……Try to defeat me! 私を倒してからにしなさい!」

「言ったなっしょ小娘ええ! 容赦しないっしょ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト 巨蛇の波ワールドエンドウェーブ!」

「俺もいること忘れたらあかんべよ! …… セレクト、ファイヤリング  巨神の雷インモータリックケラウノス!」

「OK, C'mon guys! hccps://sylph.wac/、Select 風元素(エレメンタルウインド)!」


 マギーの挑発と共にその自機シルフと、ホスピアーの父艦ヨルムンガンド、アロシグの父艦トールの雷鎚にそれぞれ魔法現象の光が滾る。


「エグゼキュート!!」

「Execute!」


 それは三つ巴の、技の炸裂を生み――


 ◆◇


「さあてヒミル殿……ようやくお目当ての韓国へ着くぞ!」

「ああ……さあ全艦、戦闘用意! これより」

「!? くっ、何だこれは!」


 その頃、韓国では。

 今まさにそこに到着しようとしていた魔男・蝙蝠男連合騎士団の死爪艦(ナグルファル)だったが、ふと動きを止める。


 何やら、艦内がおかしな様になったためである。

 それは。


「こ、これは……舞い散る花か!?」

「な、何者かの攻撃ってかい? まったく、誰の!」


 アルカナとヒミルは突如として湧いて来た、舞い散る花の様なものたちに目を丸くしていた。




「姐様、ありゃ」

「ええ、赤音……彼女もまた、母国を救おうとしているわ。」


 韓国からは少し離れていつつも、その光景を山口県上空から必死に見ようとしている影があった。


 それは中国地方を守る赤音と、アラクネである。

 そう、今アルカナたちを襲う現象は。


 また一人、母国を救おうと立ち上がった者により引き起こされた。



 ◆◇


「そ、そんな! 韓国まで!?」


 日本に法機について学ぶため来ていた女性留学生陰陽玄(ウム・ヤンヒョン)は、韓国にいる母からの電話に我が耳を疑う。


 時は、少し前に遡る。

 避難により敢えて韓国が見えなくもない長崎に来ていた陽玄は、そのまま海岸から歯痒そうに韓国の方を見る。


お母さん(オモニ)……」


 ――……力が、欲しいのね?


「!? ぬ、ヌグイェ()!?」


 と、その時。

 彼女の脳内にも、アラクネの言葉が響き渡る。

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