#13 その名は凸凹飛行隊(バンピーエアフォース)
「なるほど……中々にやるじゃあないか魔女諸君。」
この戦いを、見ていた者がいた。
自機たる幻獣機ディアボロスに騎乗する魔男の騎士団長、マージン・アルカナである。
訓練学校を襲った、ソード・クランプトンの一件から数日後。
その次には幻獣機タラスクが、この訓練学校を襲い。
青夢は自機であるジャンヌダルクを発進させて対処するが、未来予知によりジャンヌダルク単機では対処できない敵と分かり。
止むを得ず青夢は、マリアナに新たな空飛ぶ法機ウィッチエアクラフトカーミラを得させ。
彼女が操る空飛ぶ法機・カーミラと、それにより子機化された法使夏機・ミリア機との(不本意ながらの)共闘により、どうにか幻獣機タラスクは撃破されたのだった。
そうして、次は。
捕らえられたソードの警察への引き渡しのため、その護送機直衛の任務を帯びた青夢たちは今護送機を取り囲んで引き渡し場所へと向かっているのだが。
青夢ら護衛飛行隊は魔男の騎士であるダルボとマギーの攻撃を受けて絶対絶命の危機に陥っていた。
更に、ソードも自力で拘束を破り。
護送機を抜け出してミリア機を乗っ取り、そのまま魔男の幻獣機部隊に合流しようとするも。
ダルボとマギーから、既に魔男の円卓にてソードは用済みとの決定が下り始末される予定と知り愕然とした。
そうして自暴自棄になったソードは。
破りかぶれに、ダークウェブへとアクセスする。
そこで彼は、アラクネの導きにより空飛ぶ法機クロウリーを手に入れる。
そうして、戦いはマリアナ対マギー、ソード対ダルボの必殺技撃ち合いとなった。
そうしてマギー、ダルボは敗れるも。
最終フェーズであるライカンスロープフェーズへと移行し。
両者の幻獣機は幻獣機ドラキュラとして、一つになったのである。
その力により、絶対絶命に陥る青夢たちだったが。
土壇場で現れた矢魔道が引っさげて来た、幻獣機の技術を用いたジャンヌダルクの新機体により。
ジャンヌダルクは真の魔女の力を発揮できるようになり、幻獣機ドラキュラは撃破されたのだった。
「! おお……始まりましたか、我らが王よ……セレクト、コマンドプロンプト エグゼキュート!」
が、アルカナは戦場での幻獣機ドラキュラ撃破後。
何やら気配を感じ、コマンドウィンドウを眼前に展開する。
そこには。
fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> tarantura
PASSWORD:> ********
fcp> cd souled
fcp> mput *.edrn
fcp> close
何やら、コマンドの羅列が映る。
「……これで、既にいる堕電使もお喜びでしょうなあ……」
アルカナは、にやりとする。
「……!? また、アップロードされて来たのね……」
その頃、ダークウェブでも。
アルカナがコマンドウィンドウで見ていた一連の流れが行われていることを、アラクネも気配で感じ取っていた。
◆◇
「……終わった、か。」
「ああ、そのようだな。」
青夢は、糸が切れたようになる。
これでまた、あの騎士たちは救えなかったという無力感からである。
「!? そ、そうですマリアナ様! み、ミリアを助けなければ!」
が、戦場では。
法使夏が、慌て始める。
ソードに乗機を乗っ取られ、墜ちてしまったミリア。
友を、助けねば――
が、マリアナは。
「いいことですの、どうせパラシュートで無事ですのよ。」
「! ま、マリアナ様……」
法使夏はマリアナのすげない言葉に、驚く。
「し、しかしミリアはいきなりあのソードって男に突き落とされて……って! そう言えばあんたしれっと私たちに混じってるけど、元はと言えばあんたを護送しようと! ……そうよ、よくもミリアを!」
「!? う、うむ……」
ソードは法使夏の言葉に。
自分も図らずもミリアを突き落としてしまったことを疚しく思っていたために口籠る。
「そうね、だけど……わたくしの側付きは、高々落ちぶれた元魔男に簡単に制圧されるようであってはならなくってよ。」
「ま、マリアナ様!」
「うーん、それはちょっと酷いんじゃない魔法塔華院マリアナ……」
が、マリアナは尚もミリアを貶し。
これにはさすがに法使夏も青夢も、苦々しく思う。
と、その時だった。
「ははは、クランプトン君! 早くも新しい環境に慣れたようで、元同僚として誇りに思うよ!」
「!? あ、アルカナ殿!」
「え!?」
突然の声と共に現れたのは、何やら恐ろしげな幻獣機に乗った男である。
その左目元には、十字傷があり。
その跨がる幻獣機も、ソードのかつての乗機である幻獣機ドラゴンを思わせるが。
生やす角も翼も、ボディも更に強壮な印象を与える巨大なものだ。
「ああ、魔女諸君には初めまして……魔男の12騎士団が一つ、魔男の騎士団長マージン・アルカナと申します。」
「!? 魔男の、騎士団長?」
「……ほう?」
「あ、ああ……」
「くっ……」
名乗るアルカナに対し青夢もソードも法使夏も、今平静を装っているマリアナさえも息を呑む。
この男はこれまでの魔男とは、まるで違う――
既に知っているソードは経験として、初対面の青夢らは第六感のお告げとして身体にそう刻み込まれた。
「があああ!」
「ああ、失礼いたしました我が機ディアボロス……fcp> get demonwing.hcml……魔王旋風!」
「くっ!?」
「うっ!」
アルカナは、自機たる幻獣機ディアボロスを宥めつつコマンドを唱える。
たちまち、ダウンロードされた技によりディアボロスは。
巨大な翼を広げ、勢いよくはためかせる。
それにより強大なエネルギー波が生まれ、それが青夢たちを襲う。
「こ、この力……」
「くっ……セレクト、アトランダムデッキ――吊るされた男 バランシングワイズ!」
ソードは、せめてもの抗いを見せる。
たちまち、空飛ぶ法機クロウリーに向けられた魔王旋風は。
その何割かが、幻獣機ディアボロスに跳ね返される。
「ほう! かつての仲間にも躊躇なく刃を向けるか……ははは!」
「くう!」
「ぐっ!」
「うっ!」
「きゃあっ!」
アルカナは呵々大笑し、それに応じてか幻獣機ディアボロスも翼を更にはためかせて大風を起こす。
それにより護送機と矢魔道機を守っていたジャンヌダルク、カーミラ、クロウリー、そして法使夏機は大いに苦しむ。
「ううむ、さらにさらに! 君は魂の契約からも逃れた訳か……いいだろう! 今回は君に代わり契約を果たした騎士アンフィス・フェルゼンに免じて不問とする。」
「な!?」
「え?」
そのアルカナの言葉と共に、大風はピタリと止む。
それに伴い、青夢らが前を見れば。
「……どこに、行ったの?」
幻獣機ディアボロスの姿も、アルカナの姿も消えていた。
「……いいさ、魔女たちよ! ……これは、ほんの序章に過ぎない。じきに来る本番を、待っているがいいよ。」
「くっ、アルカナ殿……」
アルカナの声のみが響き、ソードは歯軋りする。
かくして、護送機直衛のための戦いは幕引きとなった。
◆◇
「……私、何やってるんだろう。」
戦場となった空を見上げながら、ミリアは半ば自失状態となって原っぱに腰掛ける。
ソードに乗機から突き落とされた直後、パラシュートにより命は助かったものの。
法使夏との約束を果たせなかったことで、落ち込んでしまったのである。
◆◇
その後、ソードは無事警察の手に引き渡され。
ミリアも救助された。
かくして青夢たちの日常は、戻りつつあった。
「……いやだから、それはかくかくしかじかで。」
「うん青夢! それでわかるとかマンガじゃないんだからさ!」
「青夢、そんなに言えないこと?」
「うっ……」
訓練学校の、食堂にて。
青夢は他クラスの親友である魔導香真白と井使魔黒日を相手に、先日の襲撃事件の話をしていた。
とは言っても、青夢がジャンヌダルクを得たことなど諸々の事情は口止めされており。
そう易々と、話せるものではない。
「まあ、言えないんならいいんだけどさ……青夢、あの事件で怪我でもしなかったかなって心配で。」
「! 魔導香……いや間違えた真白。」
「いや、別に間違えてないよ?」
青夢は真白の言葉に、胸が空く想いがした。
ややこしいが、彼女の場合魔導香は苗字で真白が個人名である。
特徴としてはショートヘアであり、ロングヘアの黒日とは対照的である。
いや、対照的なのはそれだけではない。
「!? ごめん黒日、あんた白すぎて眩しい。」
「うん真白、あんたが黒すぎるだけだから。」
対照的にも、尚且つまたもややこしくも。
真白は色黒であり、黒日は色白なのである。
「ははは、やっぱりこの流れ変わんないね!」
「うん青夢、あんたは名前の通り青いね。」
「てか、大丈夫? やっぱり」
「あ、ああううん! 別に何もないわよ!」
青夢は真白、黒日に事も無げに返す。
彼女たちがふざけて『青い』と言っているのではなく、本当に青いのである。
が、その理由こそ青夢は言うわけにはいかない。
形としては、幻獣機とはいえ。
自分が、人を――
だなんて。
と、その時だった。
「おほん! 魔女木、ちょっと」
「き、教官! や、止めて下さいよ、またあの魔法塔華なんちゃらから何吹き込まれたのか知りませんけど!」
急に教官に話しかけられ、青夢は反射的にマリアナによる言いがかりを疑うが。
「ううむ、魔女木! 今回は魔法塔(中略)さんは関係あるが関係ない! お前に極秘任務だ。」
「……え?」
教官から今一つ釈然としない言葉を投げかけられ、青夢は首を傾げる。
極秘、任務?
◆◇
「はあ、はあ……もう、真白と黒日言いくるめるの大変だった……」
青夢は既に這々の体で、呼び出された教官室へ向かう。
極秘任務と言いつつ、教官がそれを思わせぶりにも真白たちの前でそれを言ったことにより。
興味深々となった彼女たちの質問攻めに遭ってしまっていたのである。
さておき。
「失礼します……って!?」
「な……ま、魔女木の娘!」
が、教官室を開けるなり。
青夢が驚いたことに。
「そ、ソード・プランクトン!」
「いや、誰がミジンコだ! 俺はクランプトンだ!」
なんと、そこには警察に引き渡されたはずのソードが。
尤も、ミジンコとまでは青夢も言っていないのだが。
「いやミジンコじゃないわ、ツボワムシよ!」
「だから、クランプトンだ!」
青夢も、突っ込むべきはそこじゃないのだが。
さておき。
「おほん!」
「……! あ、す、すみません!」
「す、すまん!」
教官が咳払いをすると、青夢もソードも佇まいを正す。
「……この度、魔法塔華院コンツェルン社長もとい、魔法塔華院さんのお母さんより仰せつかった使命がある。」
「は、はい! ……って、使命?」
「……何だと?」
教官のこの言葉に、青夢もソードも首を傾げる。
使命?
が、そこへ。
「! ま、魔法塔華院マリアナ! 雷魔」
「あー、はいはい魔女木さん! 点呼じゃないんだから、いちいち名前をお呼びになる必要はなくってよ?」
「そうよそうよ!」
「トラッシュは引っこんでろっての!」
「な!?」
マリアナ・法使夏・ミリア(結局、これで点呼のようになってしまったが)が入って来る。
そのままマリアナは、手元に持っている紙を広げる。
「……おほん! ええ、魔女木青夢さん、ソード・クランプトンさん……そうしてわたくしたち三人、合わせて五人。この五人で……飛行隊を結成するようにと、母から指令が下っております。」
「……ええ!?」
「なっ!」
青夢とソードは、大いに驚く。
◆◇
「いいかしら? この魔法塔華院コンツェルンも今や一大企業として皆様にご贔屓いただいているけれど……その地位も、決して絶対安泰などではないということはお分かりね。」
「……はい、重々承知しておりますわお母様。」
マリアナはいつものごとく縮こまりながら、母に応える。
「今回、学校が魔男というテロリストに襲われたことに加え……我が企業を追い抜かん勢いで、王魔女生グループや龍魔力財団が台頭して来ています。……つきましては。」
「は、はい!」
母はキッと、マリアナを見る。
嵐――すなわち、重大な話の前兆である。
「……あなたの命の恩人たる魔女木さん、そして元魔男のミスター・クランプトン、あなたとそのお付きの雷魔さん・使魔原さんで飛行隊を結成し! 未だ学生さんの御身ではあるけれど我が企業に協力していただきますわ。」
「はい、お母様……ええ!?」
が、この話は。
母の言うことには疑問を呈さぬよう教育されているマリアナさえも、疑問を禁じ得ないものだったのだ。
◆◇
「……では、そういうわけで。」
「……いや、ええ!?」
無論、青夢やソードはより疑問を禁じ得ない。
こんなメンバーと、組まなくてはならないのか。
自身を虐めているお高い令嬢とその取り巻き、さらには自身の命を一度は狙った元魔男。
青夢にとっては考えられる限り、最悪の組み合わせである。
「隊名も決めてありますのよ……凸凹飛行隊と!」
「は、はあ!?」
が、マリアナは青夢やソードの困惑は置き去りに。
話を更に進める。
「ええ、落ちこぼれと犯罪者とお嬢様と私たち側近……これ以上ないピッタリの名前でしょ?」
「そうよ、誇りに思いなさいトラッシュに元魔男!」
「な、何だと!」
「はあ……」
法使夏とミリアのセリフに。
ソードは怒り、青夢はため息を吐く。
かくして。
青夢とこの凸凹な飛行隊の日々は、幕を上げたのである。
◆◇
「では、社長命令よ! ……魔法塔華院コンツェルン領の企業城下町へ、私掠行為を行いなさい。」
「イエス、マイボス!」
王魔女生尹乃は、電話越しに命令を下す。
若くして王魔女生グループのトップに立つ、少女社長である。
「さあて……そろそろ潰しにかからないとね、魔法塔華院コンツェルン。」
尹乃は、不敵に笑う。
「……よおしあんたら、マイボォスから直々に任務だよ!」
「イエス、マム!」
薄暗い船体の中で私掠空賊の船長、メアリー・ブランデンは部下の魔女たちに命じる。