#136 救国の乙女vs売国の女王
「魔女木青夢……やっぱり最初から身体などどうでもよく思って始末しておくべきだったわ! つくづく厄介な存在そのもの……不愉快極まりないわ!」
――ええ、同感よ私の蒼騎士!
戦乙女の宙飛ぶ法騎イザボー・ド・バヴィエールから、激しい怒りが湧いて出る。
その乗り手たるペイルと、法騎の意思たるバベルの二人分の怒りである。
――青夢。好き放題言われてるけど?
「アンヌ。……ええ、それは申し訳ないわ。だけどおあいこよ、ペイルさん! 私を、アンヌをさんざっぱら好き勝手にしてくれた件は棚上げするつもりなの?」
が、怒りは相手方からも同じく二人分湧いて出ていた。
戦乙女の宙飛ぶ法騎ジャンヌダルクの乗り手たる青夢と、法騎の意思たるアンヌの二人分である。
「ええなるほど、傍から見たらそうであることは認めるわ……けどねえ! 私にとってはどうでもいいの……あんたを消すこと以外にはねえ!」
――あら蒼騎士さん、忘れているわ……私をねえ!
「おっと失礼……女王様、あなたもだったわね!」
しかし、ペイルもバベルも一歩も引かずに言い返す。
「なるほど……分かったわ、あなたとは分かり合えない。それでも……私は、あなたを救いたい!」
青夢は、そう答える。
「ふん、まだそんなことを! ……そも、分かってんのあんたあ! まあ間接的にとはいえこの電賛魔法システム資源の枯渇――"飢え"を齎したのはあのシュバルツとか言う黒騎士だけど……直接的に齎したのはあんた! 更に言えば、生命の実を拒否して人類が永遠の命を得る機会を潰した――"死"を齎したのもあんた! 分かったかしら……あんたは、黒騎士であり青騎士にもなったのよ!」
「……ええ、そうね。」
「……はあ、あんた、本当に分かってないわね!」
ペイルは青夢に、ここぞとばかりに言う。
「こっちの話になんでも頷いていりゃ、自分は全てに自覚的な振りができるんでしょうけど……そうはいかないわ! 私がここで、落とし前をつけてあげる!」
「私の落とし前は、私自身にしかつけられない! だから……私自身がつける!」
「なるほど……よく分かったわ、これ以上話すことはもはや何もない!」
舌戦では揺さぶりをかけられないと見るや、ペイルは法騎と化したイザボー・ド・バヴィエールを駆る。
「ええ……行きましょうアンヌ! ……そしてごめんアンヌ、私あなたにあのコンピューティエーニュ包囲戦の時に」
――青夢、もういいの! 改めて……一緒に戦いましょう!
「ええ……ありがとう、アンヌ!」
青夢も、アンヌに謝罪しようとしたが。
アンヌはそれを遮り、青夢を促し。
青夢もまた法騎ジャンヌダルクを駆り、イザボー・ド・バヴィエールと対峙する。
「魔女木青夢うう!」
「ペイル・ブルーメ!」
「hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
「くっ……なるほど。自身を無数の光弾と化すのね、悪くないわ!」
青夢は自機に命じ。
命を受けたジャンヌダルクは、変わる変わる瞬間移動をしつつ光線と化して突撃を仕掛ける。
「hccps://IsabeauDeBaviere.row/、セレクト 王権否定!
hccps://IsabeauDeBaviere.row/GrimoreMark、セレクト 王監獄 エグゼキュート!」
「! くっ、これは王冠型の……バリア!?」
が、ペイルも黙ってやられる者ではなく。
自機に命じ、エネルギー体による檻を生成し身を守る。
「ええ、これはそれだけのものではないわ……さあ、鬱陶しいわねえチョロチョロと!」
――大丈夫よ、如何に奴らがチョロチョロと素早く動き回った所で……私たちには敵わない!
「ええ、そうよ……さあ、いらっしゃい我が監獄へ!」
「!? くっ、アンヌ!」
ペイルとバベルは、手を打つ。
すると王冠型の檻は、法騎ジャンヌダルクが飛び込んで来る所を開き取り込もうとする。
――青夢! 無理ね回避は!
「分かったわ……なら!」
「ははは、ええ、飛んで火に入る夏の虫ね!」
――いらっしゃい、我らが敵よ♡
回避を試みるが、無理と悟った青夢は。
そのまま一直線に進み、檻に取り込まれた。
◆◇
「くう、あちらにあるブルーメと魔女木青夢の戦い! 奴が私以外に倒されるなどと……耐え難いな!」
一方ペイルと青夢の戦場より少し離れた、狼男・鳥男・木男の三騎士団長とアルカナ対尹乃とシュバルツの戦場では。
「さあて……埒が明かなくなって来たわねえ、どうしたものかしら!」
各勢力の座乗艦たる彭侯とワイルドハントは、艦載機群を繰り出してそれぞれ半ば間接的に戦っていた。
尹乃の言う通り、戦線は膠着状態にあり。
埒が明かなくなっていたのである。
――姫、こちら……第二電使の玉座外では法騎ジャンヌダルクと法騎イザボー・ド・バヴィエールが交戦中! そしてジャンヌダルクが……い、イザボー・ド・バヴィエールの力に囚われた模様!
「! イザボー・ド・バヴィエール……なるほど、あの時の借りが、あの法機にはあったわねえ!」
が、尹乃は。
第二電使の玉座内に分身を置くシュバルツの報告を受け、過去の屈辱を思い出す。
第二電使の玉座へ、そこで起きていた当初解せなかった事態を直接確かめようと法機――ひいてはワイルドハントを駆り立てた折にイザボー・ド・バヴィエールに妨害された屈辱。
その屈辱が、ふと先ほどのアルカナの様子を思い出させた。
! あ、あれは……ジャンヌダルクか! まさか――
ああら……他の女に浮気されちゃ堪らないわねえ!――
くっ! 忌々しい!――
あれは明らかに、ジャンヌダルクを狙っていた。
ならば。
「……ねえ、その母艦型幻獣機の人! あなたたちも確か、ジャンヌダルクにご執心だったわよね?」
「何だ? だから何だと言うのか!」
「今すぐ、イザボー・ド・バヴィエールの人に連絡して! ここへ来てって。そうすれば……イザボー・ド・バヴィエールが今捕らえてるジャンヌダルクとご対面できるわよ?」
「……何?」
これはいわば、(形ばかりとはいえ)仲間を売る行為とも言えるが。
――姫。
「シュバルツ、いいでしょ? あの十魔女蒼とかいう女には……一杯食わせ返さないとね!」
――……はっ、元より姫のご意志のままに。
「ええ、さすがは私の黒騎士!」
シュバルツは言葉を紡ぎかけるが、尹乃がそれを制した。
「さあ……どうかな、三騎士団長諸氏。」
――ふん、誰だろうが問題ないぜ! ウォーン! あのクソアマ共を!
――ええそうね……私もいいわ!
――ああ、相手が誰だろうと問題ないな。
ペイルを呼び相手を交換することについて、三騎士団長たちは異存なく同意する。
「……決まりだな。よし……聞こえているか、ブルーメ! こちらにジャンヌダルクを抱えたまま来てはくれないか? 相手を交換しようじゃないか、私の相手であるワイルドハントと卿のジャンヌダルクを」
「へえ……いつの間にそんな話に? まあ、私の同意は……得られないからよろしく!」
「……何?」
そのまま、ペイルに呼びかけるアルカナだが。
ペイルには拒否される。
「私とこのジャンヌダルクの戦いに口を挟むというなら……あなたでも容赦しないわよ?」
「ほう? ……ワイルドハントの"姫"よ! ブルーメに確認したがどうやら……答えはノーだそうだ!」
交渉は決裂のようである。
アルカナは、尹乃にもそう告げた。
「……あら? そうなの……でも諦められるかしら、アルカナさんとやら?」
「……いいや、貴様とよりも今は、あの魔女木青夢と戦いたいなあ!」
「ええ、私もあなたはお断り……なら、決まりよね?」
「……ああ。」
が、アルカナも尹乃も折れず。
互いに艦載機群を戻すと、そのまま対峙の体勢を解き。
かと思えば、そのままイザボー・ド・バヴィエールとジャンヌダルクの戦場へと各々の自艦を発進させる。
「まあお互いに! あの第二電使の玉座は不可侵ということにしましょ。」
「ああ……言うまでもなく! あれは我らが大願でもあるからなあ!」
戦場へ向かいながら、尹乃とアルカナは語り合う。
が、その時。
「! あら…… 第二電使の玉座に引っ付いていたカーミラやクロウリー、ルサールカも発進したわ! これは、また邪魔者が増えるのかしら?」
「ああ、まったく……煩わしい!」
仮想世界での戦いはもう終わったのか。
その程度に、尹乃とアルカナは考えていた。
が、その次にそれどころではない事態が起きる。
「! な……!」
「! あ、あれは……!?」
――ウワオーン! おいおい、クソアマ共が増えたのか!?
――い、いいえそうじゃないわ……あれは!?
――え、幻獣機があんなに! し、しかもあれは幻獣機スパルトイではない……あれは!?
尹乃とアルカナ、更には三騎士団長が我が目を疑ったことに。
なんと第二電使の玉座周囲には、無数の魔男たちと彼らが乗る幻獣機群が現れたのである。
「こ、これは何であって!?」
「ま、マリアナ様!」
「これは……?」
驚いたのは、今しがた第二電使の玉座を発進したマリアナたちも同じだった。
先ほどアントンが言った通り、それらは量産型の幻獣機スパルトイではなく。
「女王の命とあらば仕方ない……行くぞ! このベレトの騎士シャルル・ヴィクトリュークスに続け!」
「応!!」
それぞれ、専用のワンオフ機に当たる幻獣機に乗っていた。
それらは全て、悪魔を模した幻獣機たち。
声響かぬ宇宙の真空であっても、脳に直接響く声で話し。
今出て来た幻獣機群の一つ、幻獣機ベレトを駆る騎士の姿は。
「あ、あれは!」
「ふ、フラン星界の国王陛下であって!?」
「ば、馬鹿な!」
シャルルその人だった。
――蒼騎士が言った通りよ。私とジャンヌダルクの戦いに口を挟む者は何人たりとも容赦しない……さあ、女王命令よ我が騎士たち! 邪魔者を排除しなさい!
「……女王陛下の命とあらば、御意に!」
宇宙服も着けぬ、軽装の鎧姿のままシャルルを始めとする騎士たちは自機を駆り。
迫るマリアナたちや、ワイルドハントに彭侯へと向かって行く。
◆◇
「あれは……し、シャルルさんに第一部隊長さんたちが! な、何で?」
それをイザボー・ド・バヴィエールに囚われたジャンヌダルク内で見ていた青夢も。
忘れもしない、シャルルやフラン星界の人々そのままの騎士たちの姿に驚愕する。
――ああ、あなたは知らないでしょうけど……そこのアンヌさんには言った通りよ! あくまであのネメシス星はVIを戦闘マシンにするためのものだと……その育成の結果として、私は彼らを現実世界に召喚したという訳! どうかしらあ?
「な……そんな!」
誇らしげに言うバベルの言葉を受けても、青夢は尚我が目を疑っていた。
「さあて……これでもまだ言うかしら? 全てを救う、なんて!」
ペイルは笑い飛ばすように言う。
「まあ何はともあれ……これで、邪魔者はいなくなったわよ?」
「ええ……そうね!」
こうして。
ペイルと青夢は、この王冠型の檻内で再び対峙する。




