#132 ネメシス星決戦開始
「な、何なの?」
青夢は四つ首人を見つめる。
それは、青夢を何やら見つめ返していた。
――そうか、お前は最初の人間の……
「え、え?」
四つ首人は何やら呟くが。
青夢は、まったく意味が分からない。
――……この術句を唱えよ。hccps://Eve:********@MaxwellsDemon.edn。
「!? え……ち、ちょっと!」
が、四つ首人は徐に。
青夢に対し、一つのURLを示す。
それは、もしや。
「これって……楽園のアドレス!? で、でもあなた……見た感じ、ここの番人さんみたいだけど?」
青夢は上を仰ぎ見て、四つ首人に尋ねる。
が。
――要らぬのか? ならば
「ま、待ってよ! まったく、何なの…… hccps://Eve:********@MaxwellsDemon.edn! !? な……」
有無を言わさぬ様子の四つ首人の言葉に、青夢は慌てて術句を唱える。
すると、青夢はたちまち法機を手にした時と似たような感覚に襲われ――
◆◇
「進めえ! 今度こそ我らブリティ星界軍が勝利するのだ!」
「オー、オー!!!」
そんな中、ブリティ星界軍は。
フラン星界南西部の都市ボルトーへと攻撃を仕掛けて来ていた。
「クイーン・バベル殿、もう少し後方でもよろしいのでは……?」
「いいえ、よいのです! 私には、自ら招いた客人がおりますから!」
「客人……?」
ブリティ星界軍の兵に、バベルはにこやかに答える。
そんな彼女は、何やら蝙蝠のような翼を持つ者の背に乗っていた。
が、それは背中を丸めており。
顔は見えない。
「おや……来たようですわ。」
そうして、ブリティ星界軍の進む先にそれは、現れた。
「見えたぞ、侵入者たち!」
「そんな呼び方……わたくしたちは!」
「黙って従い、敵と戦え! ……仲間の命が、惜しければな。」
「……それは、承知していてよ。」
半ば脅されて従軍しているマリアナや剣人と、フラン星界軍である。
法使夏は、後方の補給部隊に捕われている。
マリアナや剣人を、脅すためだ。
「これはこれは、歓迎するわフラン星界軍の皆さん!」
「! く、クイーン・バベル!?」
そこへ、フラン星界軍が驚いたことに。
クイーン・バベル――かつて、フラン星界をブリティ星界に売った女王。売国妃の汚名を被る彼女の姿が、ブリティ星界軍の中にあった。
「ええ、お久しぶりですわ……私が売った、つまらぬ国の人々よ!」
「な、何い!」
「弓兵、構えよ! 我が国の仇そのものである、クイーン・バベルを――穢らわしき売国妃を、討ち取れい!」
「はっ!!」
その姿にかつての恨みを思い出したフラン星界軍より。
無数の矢が、飛来する。
「クイーン・バベル殿! お下がりを」
「ああ、間に合っています! さあ私の可愛い……ナアマちゃん、やってお仕舞いなさい!」
「くっ!? と、突風が!」
が、バベルは怯まず。
自身が乗る背中を丸めた使い魔、曰くナアマを操り。
その背に生やす翼より突風を起こし、飛来する矢を全て防ぐ。
「あら、誰かと思えば……少し変わってはいるけど、どこかで見た顔じゃなくって?」
「あら……ええ、そうね。」
「く、クイーン・バベル殿?」
「な、何?」
そこへ。
マリアナの声が響き、バベルは相変わらず背を丸めたままのナアマを飛び立たせる。
そこで見上げたマリアナとバベルは、目があった。
「歓迎するわ……あなたたちも!」
「十魔女さん……なのであってよね?」
「ええ……少しばかり老けたかしら?」
「……いいえ、そんなことはなくってよ。」
「あら、ありがとう。」
彼女たちは、中身のない言葉同士をぶつけ合う。
「さあて……あら? 招待客が一人足りないようだけど?」
「ああ、まあ今は後方にいてよ……わたくしたちをこうして前線に立たせるための人質としてね! hccps://camilla.wac/、セレクト サッキング ブラッド エグゼキュート!」
「! あらっ!」
バベルを口車に乗せる算段のマリアナは、手筈通りその隙と見て自身の使い魔フィーメイルバンパイヤから攻撃をナアマへと加えるが。
バベルはあっさりと、それを躱す。
「くっ、駄目であって!?」
「まあそう焦ることはないわ……少しくらいはお話しましょうよ?」
「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 節制――領域調整 エグゼキュート!」
「! あらっ! もう。」
歯軋りするマリアナに、バベルは小憎らしくも微笑みかけるが。
そこへ剣人も、攻撃を仕掛ける。
「もう……躱したからいいようなものの、当たったら危ないじゃない!」
「いいや、躱していないぞ?」
「何ですって?」
「うわああ、ち、地が沈む!」
「! な……ああらっ!」
バベルはわざとらしく眉根を寄せて抗議するが、剣人の技は彼女が避けた先で炸裂し。
ブリティ星界軍の下地をぬかるませ、バベルのナアマにもバランスを崩させる。
「まったく……こちらはまずはお喋りからと言っているのに」
「あなたなどとお喋りをすることはなくってよ! hccps://camilla.wac/、セレクト サッキング ブラッド エグゼキュート!」
「ああら! あらあら……油断ならないわねえ!」
バベルが再び前を向いた時には、既にマリアナからの攻撃が来ており。
またもバベルは、慌ててナアマに回避させる。
「(ミスター方幻術……何度も言うようであるけど)」
「(ああ、魔法塔華院……あいつに空間支配の力を使わせないよう畳み掛けて行くんだな!)」
あらかじめフィーメイルバンパイヤの能力により構築された脳波ネットワーク内でマリアナと剣人はやりとりをし。
そのまま、作戦通り次々と畳み掛けて行く。
「どうしたのであって? 逃げてばかりではどうにもならなくってよ!」
「そうねえ……けれどあなたたち! 相変わらず蒼騎士の言う通り、法機の――その使い魔の使い方がなってないわ!」
「ふん、口だけは達者であってよね! セレクト ファング オブ バンパイヤ!」
バベルの挑発も、受け流し。
マリアナはフィーメイルバンパイヤにて、自身が空間把握の技を使う。
「うわああ!」
「す、すごいです部隊長……奴ら、ブリティ星界軍を!」
「ああ……かのアンヌとペイルを彷彿とさせる力か。」
マリアナたちの後ろに控えるフラン星界軍も、先ほどまでの彼女たちへの疑問を蹴り飛ばして見入る。
「さあ、これでこのエリアはわたくしの!」
「……ほーっほほほほ! ああ、ありがとう。これで私のグリモアマークレット・皆奴隷化が発動するわ!」
「な、何ですって! ……くっ!」
「ぐああ!!」
バベルの話が今一つ見えず、混乱するマリアナたちだが。
その直後彼女たちやフラン星界軍は、動きを止められてしまった。
「う、動きが……」
「hccps://IsabeauDeBaviere.wac/arts/fs/SlaveRiser.fs?attacked=CriticalAssault。
hccps://IsabeauDeBaviere.wac/GrimoreMark/SlaveRiser……さあ、皆平伏しなさい! 私の前に!」
「くっ、これはあの……十魔女さんの力であって!?」
マリアナは苦しみつつも、懸命に相手の言葉から情報を拾い上げて行く。
グリモアマーク。
それがどんなものかは判然としないが。
「そう言えば、あのペイルとかいう人も……」
マリアナは更に、現実でのペイルとの戦いを思い出す。
hccps://IsabeauDeBaviere.wac/GrimoreMark、セレクト 王冠片弾 エグゼキュート! ――
「(くっ……hccps://camilla.wac/GrimoreMark! ……!? こ、これは!?)」
マリアナが意を決し、見よう見真似で唱えた術句。
それは彼女の脳内に、あるワードを表示させた。
HowToUseGrimoreMark。
「(せ、セレクト……エグゼキュート!)」
破れかぶれでマリアナは、術句を唱える。
すると――
◆◇
――こちらは首尾は上々よ、蒼騎士!
「ええ、ご苦労様。いいえ、お疲れ様……ダークウェブの、真の女王陛下!」
「!? な、何!?」
一方。
現実世界の第二電使の玉座コントロールルーム内ではシュバルツと、ペイルが対峙していたが。
仮想世界内のバベルからの言葉に対するペイルの返事に、シュバルツは驚く。
アラクネさん。あなたは偽物だと、今の女王であるとあのブルーメさんは言っていてよ。ということはつまり……本物の女王、前の女王がいるということではなくって? ――
この宇宙に来る前の作戦会議中、マリアナが言っていたことだ。
「まさか……あのクイーン・バベルがアラクネ殿の前の女王だと?」
「あら、まあ聞こえちゃったわよね……まあ、正確には真の女王の」
――蒼騎士。
「おっと……口が過ぎたわね。」
「ほう……そうだな、お前には聞かなくてはならないことがある。」
ペイルは口を噤み、改めてシュバルツと睨み合う。
「あら? まあ大方、真の女王陛下に関しての話の続きでしょ?」
「話が早いな……さあ、聞かせてもらいたいな。」
「……ふふっ、やーよ!」
シュバルツの頼みに、ペイルは舌を出して拒絶の言葉を返す。
「そうか……ならば、力づくだ!」
「へえ……今のあなたにそれができるかしら?」
「何?」
――くっ、シュバルツ! こんな時に敵襲よ!
「! ひ、姫! ……な!?」
が、シュバルツがペイルに挑もうとしたその時。
シュバルツはヘカテーの機体に融合している自身の本体を通じ、襲来した敵を見て驚愕する。
それは。
「感謝するのだな三騎士団長諸氏……私がいなければ」
「ワオオン! 分かってるさ、へん!」
「もう、いちいちしつこいわよ!」
「と、とにかく……これさえ有れば!」
何と、宇宙に来る際に撃墜したはずの幻獣機父艦彭侯――の、枝の一つに宙飛ぶ魔人艦ブレイキングペルーダが取り憑いたもの――が第二電使の玉座めがけ迫っていた。
「さあ、どうするかしら?」
「くっ……」
ペイルの挑発的な笑みに、シュバルツは歯軋りする。
◆◇
「……ん? ここは……楽園、なの?」
一方、四つ首人に導かれるがまま楽園に入場した青夢は。
自分が薄布を纏うだけの姿であることや周りの景色が変わっていることに気づくが、特に動揺はなかった。
そこが確かに、楽園と言えるほどの長閑さだったこともある。
鳥は歌い、花は咲き乱れ。
熟れた果実が、木のあちらこちらに結ばれている。
――ようこそ、楽園へ。
「だ、誰?」
――元よりここにある実は一種を除いて食してもよし。すなわち、生命の実もまた然り。
「い、いやちょっと……って、え!?」
その時である。
何やら先ほどの四つ首人とも違う、男性の声が聞こえ青夢は問うが。
その答えではなく返って来た言葉に、青夢は驚き。
「ほ、本当ですか!? せ、生命の実を?」
こう、尋ねる。
生命の、実。
それがあれば、アンヌを。
フラン星界の皆も、ブリティ星界の皆も。
現実世界の皆も、救える。
――ああ。ただし、一つ条件がある。
「じ、条件?」
――人類よ……かつてお前たちが選び取り今も持つ知恵の実を捨てろ。それは生命の実とは二者択一、すなわち……片一方のみ選べるものであるからして。
「ち、知恵の実……? 何それ?」
青夢はその問いに首を傾げる。
知恵の実?
今も、持っているもの?
が、その刹那。
「っ!? ち、知恵の実……り、知恵の実!?」
何故か青夢の脳内に、情報が降って湧いた。
そう、電賛魔法を行使できる人工の頭脳たるシステムである。
――かつて人類は、生命の実を選び損ない。その知恵の実を選び、自らの社会に齎した。
「も、齎し……!? ま、まさか!」
青夢は更に驚く。
まさか、その知恵の実を選び生命の実を選び損なった人類とは。
「お、お父、さん……?」
青夢の父にして電賛魔法システム最大の功労者たる、魔女木獅堂だ。
――さあ、再びにして二度とない機を与える! 人類よ……そなたは生命の実を選ぶか?
「わ、私は……」
青夢はそこで、ふと思い悩む。
無論、生命の実は求めていた。
それが有れば、皆を救えるだろう。
しかし。
全ての人を、お前が救え――
父が、こう言っていた父が選ばなかったとはどういうことなのか。
青夢はそこで、悩んでいたのだ。
――全てを、救いたいのだろう……?
「! ……私は。」
青夢はしかし、意を決する。
そうして。
「はい。……生命の実を、人類に下さい!」
こう、答えたのだった。