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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第七翔 暗黒通神衛星ネメシス大戦 
132/193

#131 ヴァルミニーの戦い

「こ、これが……」

「宇宙、なんですねマリアナ様……」

「ええ、その通りであってよ!」

「なるほど……私も二回目だけど、いつ見ても衝撃は大きいわねえ。」


 ――ええ、全くです姫……


 大気圏を離脱したワイルドハントは、そのまま第二電使の玉座(スローンズ)へと迫って行くが。


 今回が初宇宙の法使夏と剣人、のみならず二回目のマリアナや"姫"――尹乃やシュバルツも思わず、見える景色に驚嘆する。


 目の前に広がる青い惑星――彼女たちの母星たる地球。


 更に、遠くに見える地上の比ではなく鮮明に見える星の数々。


「……まあ、何はともあれ。わたくしたちはここに、飛行隊長を救いに来たのであってよ!」

「は、はいマリアナ様!」

「あ、ああその通りだなすまない……」


 かつての宇宙作戦選抜チームが宇宙でレイテに言われた台詞をマリアナが言い、法使夏たちを窘める。


「まあ何度も言うようで何だけど……"姫"様、黒騎士さん、そしてこの場にはいらっしゃらないけれどアラクネさん。わたくしたちはあなた方を完全に信用した訳ではなくってよ!」


 ――な……き、貴様!


「まあ待ちなさいシュバルツ。……そうね、こちらも完全に信用されたとは思っていないわ。」

「へえ……」


 そしてマリアナと"姫"――尹乃は早速剣呑な様子だ。


「まあ私たちはあのアラクネさんに借りがあるから、彼女の頼みとあらば仕方ないわ。」

「あら……ありがとう。」


 言葉とは裏腹に、まだ二人は剣呑な様子である。


「お、おほん! ……"姫"、魔法塔華院。そろそろ第二電使の玉座(スローンズ)だが。」

「あら、そうであってね。」

「そうね、第二電使の玉座(スローンズ)――ネメシス星への上陸作戦を開始しなければね。」

「! そ、そうよね……あれが、ネメシス星……」


 剣人の言葉に一同は、目を同じ所へ向ける。

 第二電使の玉座(スローンズ)


 それはかつてマリアナや青夢たちが取り組んだ作戦・空宙都市計画(コード・ザ シティ)の舞台の一つだったが。


 今や、その中に仮想世界を内包する異星――文字通りの人工衛星である。


 その形、更にかつての任務の記憶によりマリアナは、そして他のメンバーも。


 今一つ異星に降り立つという実感がないままに、上陸作戦を開始する。





「……さあ、ここだ。」

「ええ、道案内ご苦労様であってよ。」


 そうして、ワイルドハント内から自機を駆りこの第二電使の玉座(スローンズ)内に入り込んだマリアナ・法使夏・剣人は。


 シュバルツ――の幻影に導かれ。

 コントロールルームへと、やって来た。


「……魔男や、あのブルーメとかの不逞な奴も見当たらないな。」

「ええ、今のところは。」

「……行きましょう、マリアナ様!」


 周囲を最大限に警戒しながら、マリアナたち三人はコントロールルームへと入る。


 念のため宇宙服着用の上で、重力は切ってある。


「……恐らく魔女木青夢は、フォートルジュにいる。フラン星界南部だ、そこにフラン星界国王はいる。」

「あら、随分とお詳しくってよね?」

「……まあな。」


 マリアナからの言葉に、シュバルツは少し言葉を濁す。


 マリアナもさすがに、何かあるとは察しつつも。


「……時間がなくってよ。行きましょう!」

「はい、マリアナ様!」

「ああ……無論だ!」


 その感覚にいつまでも拘う時間はなく。

 剣人や法使夏を促し、改めて仮想世界ネメシス星へと入って行こうとする。



 ◆◇


「進め進め! あの忌まわしきドラゴンが消えた今、フラン星界軍など我らが歯牙にも掛からぬ者たちよ!」

「応!!」

「ぶ、部隊長!」

「くっ……た、退却だ! 後退せよ!」


 フラン星界ヴァルミニー村にて。

 ブリティ星界軍は、送り込まれて来たフラン星界軍を悉く撃退していた。


 フラン星界軍はアンヌと、青夢及びレッドドラゴンを欠いた状態であり。


 一方ブリティ星界軍もブラックプリンスとその配下の使い魔たちを欠いた状態ではあるが、アンヌを捕らえたことで勢い付いており。


 逆にそれにより勢いを削がれつつあるフラン星界軍に、痛打を与えつつあった。


「ははは! どうだまいったかフラン星界軍!」

「ああ!? し、将軍様、参りました!」

「ははは、そうかまいり……って! お前がまいってどうする!」


 が、ブリティ星界軍将軍が高笑いをしたその時だった。


「遠慮はいらなくってよ……やっておしまいなさい雷魔さんにミスター方幻術!」

「はい、マリアナ様! hccps://rusalka.wac/ 、セレクト、儚き泡バブリングパニッシュメント エグゼキュート!」

「ぐあっ!? こ、これは!」

「そ、空より我が陣……ち、中央に奇襲攻撃ありい!」


 突如として空より、三つの影が現れた。


 そこに乗る人影たちは、宇宙服ではない軽装ながらも鎧をつけた姿だ。


 その内一つの、人魚の姿をした法使夏の使い魔たる電使言霊(スピリプト)フィーメイルクラーケンから泡の水流が放たれ。


 それがブリティ星界軍中央に炸裂し、ブリティ星界軍の兵らはかき乱される。


「そ、総員少し後退だ!」

「あれは退路か……させるか! hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ!(ザ デス)――裁きの鎌(デスパニッシング) エグゼキュート!」


 堪らんとばかり、後退を始めるブリティ星界軍の道を。


 剣人もまた、自らの電使言霊(スピリプト)キメラを動かし。


 その獅子の口より、風の刃を出し敵軍の退路をぶった切って塞ぐ。


「ひ、ひいい! た、退路がああ!」

「何か分からんが……今だ! 敵軍は追い込まれている、止めを刺すぞ!」

「応!!」


 フラン星界軍は戸惑いつつも、一気にブリティ星界を攻め。


 更に、そこへ遅れてやって来た援軍が加わり。

 ブリティ星界軍は、壊滅し大敗北を喫したのだった。




「礼を言う、この度は」

「よくってよ……わたくしはマリアナ・魔法塔華院。」

「ほ、法使夏・雷魔!」

「剣人・方幻術だ!」

「ほ、ほう……何はともあれ、助けてもらい感謝する。」


 そのまま地へと降り立ったマリアナたちは、フラン星界軍部隊長と会う。


「! ぶ、部隊長……」

「ん? ……うむ。」

「……あら?」


 が、部隊長の後ろに控えていた兵の一人が彼に耳打ちする。


 マリアナは、何やら不穏な空気を感じ取ったが。


「マホトケイン、殿か。……汝らは、一体どこから?」

「! そ、そうであってよね……ええ……」


 直後にその部隊長に問われ、頭を抱える。

 この世界の地名は、ほぼ知らない。


 知っているとすれば――


「! あ、あー! ま、マリアナ様あれを!」

「! ……もう、何であって雷魔さん! こんな時に……っ!?」


 が、その時。

 法使夏の叫びに、そちらを見遣ったマリアナは驚く。


 なんと、そこには。


 青空に巨大な弧を描き、空高く見える巨大な星――紛れもない、母星たる地球の姿が見えた。


 ここは本当に地球の衛星なのだと、身をもって知らされるというものだ。


「な、何だ? 地母神ゲーが」

「部隊長様、であってよね? 信じていただけるかは分かりませんが……わたくしたちは、あの星より来ました!」

「! なっ……」

「ま、マリアナ様!」

「魔法塔華院……」


 戸惑う部隊長に、マリアナはいっそかき乱せとばかりにそう告げた。


 ◆◇


「何と……ではそなたらは、地母神ゲーの星――チキュウ、と言ったか。そこより参ったと?」

「はい、その通りですわ。」

「間違いありません!」

「国王陛下、嘘偽りなきことをお誓いする。」


 かくして、フォートルジュの王城にて。

 国王シャルルは、塔の上から門前に連れて来られたマリアナたちに謁見する。


 使い魔たちは、一旦引かせた。


「うむ……まず、我が軍に助力いただいたことを感謝する。」

「いえいえ、わたくしたちは」

「国王陛下……お下がり下さい!」

「!? な、何であって!?」


 が、シャルルが礼を述べた時だった。

 なんと、マリアナたちを取り囲んでいた兵たちが一斉に、刃を向けたのである。


「な、何事か!」

「驚かせてしまい申し訳ございません……此奴らは、パレス包囲戦の折にブリティ星界軍に与していたとの情報が幾多の兵より齎されまして!」

「な、パレス包囲戦……っ! そう、あれであってね……」


 マリアナは部隊長の言葉に、ふと気づく。

 そうだ、パレス包囲戦。


 あの時、確かに彼女たちは半ば騙されてとはいえブリティ星界軍に味方していたのだった。


「ま、マリアナ様!」

「! ら、雷魔さん!」

「動くな! 動けばこの女の命は!」


 そこで法使夏を人質に取られてしまった。


「だ、だが! 俺たちはフラン星界軍を」

「おおっと、その手は食わんぞ! あれは壮大な自作自演である可能性がある、さあ国王陛下!」

「う、うむ……」

「国王陛下!」


 かくしてマリアナたちは、地下牢に監禁されることになってしまった。


 ◆◇


「なあ、魔法塔華院……ここは、ログアウトできないな。」

「ええ、何故かそうであってね……このままこの世界で死ねば、どうなるか分からなくってよ。だから、雷魔さんも」


 地下牢にて。

 隣り合う牢に監禁された剣人とマリアナは語り合う。


 法使夏は、別の場所だ。


 こうなれば出直すかと、ログアウトを試みたマリアナたちだが。


 待っていたのは、それが不可能だと分かるという結果のみだった。


「ああ……このまま、どうすればよいのか。」

「急げ!」

「! な、部隊長さん?」


 が、その時。

 血相を変え、先ほどの部隊長が牢に駆け込み。

 徐に、鍵を開け始める。


「ええい、侵入者たちよ……陛下のご命令だ、フラン星界軍を率いてくれとな!」

「え、わ、わたくしたちが!?」

「な……急になんなのだ!?」


 ――ようこそ、我が世界へ。


「! こ、この声は!」

「と、十魔女、さん!?」


 戸惑うマリアナたちだが。


 突如響いて来た声は、紛れもない蒼――法機イザボー・ド・バヴィエールに宿るVIたるクイーン・バベルのものだった。





「き、貴様は!」

「お久しぶり……いえ、まあこうして直接対峙するのは初めましてかしら? 黒騎士さん。」

「……蒼騎士か。」


 一方、現実のネメシス星コントロールルームにて。


 やって来たのは、凸凹飛行隊と同じく宇宙服を着た青夢――の身体を奪った蒼騎士ペイル・ブルーメである。





「ブリティ星界の民の皆様……ご機嫌よう。私はフラン星界より亡命して参りまして今はこちらにご厄介になっておりますクイーン・バベルと申す身。」


 浮かんだバベルの幻影は、優雅な態度を崩さぬままブリティ星界の民たちに呼びかける。


 時は、少し前に遡る。


「……さあて。皆様、この前より憎きフラン星界に私たちのブリティ星界は敗れて参りましたが、それも今敵将たるアンヌ・タルクージュがこちらの手に落ちし今となりましては過去の話――と、したい所なのですが。そうも申しませぬ事態が、起ころうとしています……」

「な、何ですと!?」

「そ、それはどういう」

「……不届きにも、あの地母神ゲーの使いなどと宣う者たちがフラン星界に与し私たちの国を脅かそうとしているのです!」


 民たちは、ざわめく。

 まさか。


 しかし、バベルは更に続ける。


「……然らば、私自ら使い魔を駆り! 兵の皆様と共に戦おうと思います! 共に地母神ゲーの使いを騙る悪魔の手先たちを、討ちましょう!」


 ◆◇


「くっ! まだまだ、レッドドラゴン!」


 ――ほう、そこまでして生命の実を求めるか!


 一方、フラン星界の西の果てでは。

 謎の空飛ぶ四つ首の人影より放たれた雷撃の弾幕――曰く、回転炎剣防壁ファイヤーソードウォールにより阻まれつつも。


 青夢はレッドドラゴンを駆り、諦めずに楽園の入り口へと挑んで行く。


「ええ……これも、全てを救うためよ!」


 ――何?


「!? か、雷が止んだ?」


 が、青夢のその言葉に。

 落雷は、突如止む。


 ――貴様……まさか。


「え、え?」


 ――(そうか、この娘は……)


 全ての人を、お前が救え――


 四つ首人は、青夢を見つめて空に佇む。


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