#129 ネメシス星上陸作戦開始
「さあ、移動せよ……」
「はい! 行こう、ミリア!」
「はい、メアリー姐様!」
作戦本部からの指示を受け。
まず、高知県沖を水流が進む。
水流内には、あの宇宙作戦の時と同じく。
横一線で四隻を成す二列並びのまま突き進む――合計八隻もの潜水法母の姿が。
潜水法母はいずれも、これまで水流内に入ったことがある法機たちとは違いその中に浮かぶ形ではなく。
上半分を水流内に入れ、下半分を水流外に出した状態で突き進んでいる。
海中を突き進む水流――それは言うまでもなく、法使夏のルサールカによるものである。
しかしルサールカは。
無論、今回宇宙まで行くメンバーに使い手の法使夏も含まれているためこの水流内にはいない。
今はカーミラの力によりルサールカと繋がった法機キルケ・メーデイアが潜水法母八隻の先頭を行く。
「うん、頑張ろうミリア!」
「な……ふ、ふん法使夏! あんたなんかに言われたくないわよ!」
「あ、ごめん……でも、私はまたミリアといっしょに戦えるってだけで嬉しいの!」
「くっ……い、今は作戦に集中してなさい!」
法使夏の言葉に、ミリアは少し顔を赤らめ。
しかしすぐに、前を向く。
「ああ、やったるでえ皆! 宇宙まで、皆を送り届けたらなな!」
「はい、騎士団長!!」
その上空には、赤音の乗るマルタが。
◆◇
「まさか私たちも……こんな形で参加することになるとなね。」
――申し訳ございません、姫。私があのままブラックプリンスとしての任を全うできていれば
「もうこの期に及んでそれは無いものねだりも甚だしいというものね……仕方ないわ、今は私たちが直接あの星――第二電使の玉座もとい暗黒通神衛星ネメシスに至るよう方法を考えなくてはね!」
――はっ、姫!
一方。
種子島周辺海域の海中を行くは、シュバルツと尹乃が操る法機幻獣機母艦ワイルドハントである。
尹乃の法機ヘカテーの能力・三形態により、海中も移動できるのである。
「まあシャクだけど……この状況、利用させてもらうわ!」
――はっ、姫!
「シャクなのはこっちよ、まったく……私たちが何であの"姫"様のお守りをしないといけないの!」
「ええ、まったくですね……嘆かわしい。」
「まったく、まったく!!」
その上空には。
レイテ操るモーガン・ル・フェイと、そこから力を分け与えられたかつての生徒会新候補たち三人の機体が群を為していた。
◆◇
「さあ、行っくよー!」
愛三の元気な声と共に、スフィンクス艦は三基の砲塔を旋回させる。
場所は鳥島沖である。
その傍らには、発射台となる民間船舶が。
「張り切ってるわね、愛三!」
「まあでも……ポカはするんじゃねえぞ!」
「な! ムッキー、英乃お姉さん!」
そしてその上空には、龍魔力の姉三人のグライアイが。
「ふふ……」
「雷魔さん、遊びに行くんじゃなくってよ! 気を引き締めなさい!」
「あ……も、申し訳ございませんマリアナ様!」
「待っていろ……魔女木!」
前の宇宙作戦時と同じく、宇宙に行くメンバーがいずれの方面にいるかは明かされていない。
「教官……」
「妖術魔二等空曹、白魔二等空曹! またも私たちがあいつらを導かなければならない……行くぞ!」
「……はい!」
巫術山は力華・術里を鼓舞する。
かくして、凸凹飛行隊の面々を宇宙――ひいては、暗黒通神衛星ネメシスと化した第二電使の玉座へと連れて行く作戦は開始されたのだった。
◆◇
同じ頃、当然と言えば当然なのだがこの発射部隊に迫る影があった。
「おおお、ウォーン! あのクソアマ共め、□●✖️▽◇」
「あらあ、まったく品がない男ね!」
「なんだと、クソカマあ!」
「く、くくくクソカマああ!? あんた、よくもレディーにいい!」
「だあああ! もう、うるさいぞウルグル殿にサロ殿!」
なんと、今回は。
狼男・鳥男・木男の三騎士団連合で妨害作戦が行われていた。
荒い気性のウルグル・乙女気質(?)のサロ・神経質なアントンという組み合わせはミスマッチも甚だしい気がするがさておき。
「とにかく……種子島はこちらが抑える! だが油断するな……前に私を欺いた奴らだ! どこかに別働隊を潜ませているに違いない!」
「あら、それはアントンちゃんあんたの間抜けさじゃない? あたしの高知方面が、本命かもよお?」
「な、サロ殿お!」
「うるっさいぞ、クソ共お! 俺の鳥島沖が本命に決まっている!」
何はともあれ。
種子島の木男、高知方面の鳥男、鳥島沖の狼男は妨害作戦を始めた。
◆◇
「やあれやれ……結局は騎士団を動かすことになるのね。」
「申し訳ございません、姫君。」
魔男の円卓の場にて。
今しがた出撃させた三騎士団連合部隊を見て、アリアドネはため息を漏らす。
「まあいいのよ。さあて……今度こそ大丈夫でしょうね?」
「はっ……必ずや!」
アルカナはアリアドネに対し、大きく頷く。
◆◇
「ウォォン! クソアマ共お!」
ウルグルは座乗する幻獣機父艦マーナガルムを動かす。
今回動かせるのは、リソースを切り詰めるためか各騎士団毎に幻獣機父艦一つである。
「獅脚主砲に咆哮主砲! 発射あ!」
「おおっと! 来たなあだが! クソアマ共の攻撃なんざ!」
愛三は、スフィンクス艦より砲撃を放つ。
が、ウルグルはそれを自艦の分離により躱す。
「hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
「む! くう……このお! クソアマ共お!」
が、すかさず。
夢零がマーナガルムを、目により停止させる。
「まだまだだ! hccps://graiae.wac/eyno、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート!」
「くっ……セレクト! 各個形態 エグゼキュート!」
英乃がそれに対し、余さず目標を照準しようとするが。
ウルグルも負けじと、マーナガルムを幻獣機スパルトイ毎に分離させる。
「さあさ、黒騎士い! よくもあたしたちを裏切ってくれたわねえ……やってやるわ!」
「はっ!」
サロ率いる鳥男の騎士団は。
その艦たるロックバードを動かし、種子島沖を進むワイルドハントを睨む。
その巨艦の羽ばたきは海面を、海中を震わせる。
――姫!
「まったく……やはり鬱陶しいわねえ魔男共! hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assembled=false――セレクト、アンアセンブライズ エグゼキュート!」
「ああら! 分離させて戦うなんてねえ!」
しかし、尹乃も。
ワイルドハントに融合させている怪物たちの数体を分離させてロックバードを襲わせる。
「でもダメよお! あたしを」
「あんたこそダメよ、私たちを忘れてちゃ! ……総員、散開! hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト 楽園への道 エグゼキュート!」
「くっ……これは!? あんたたち、まさかいつぞやの!」
が、サロが海中から飛び出して来た怪物たちを相手取ろうとしたその時。
脇からは、レイテの部隊が躍り出る。
そうして。
「はい、レイテ様! ……楽園への道!」
「エグゼキュート!!」
「ぐううっ! このお!」
四機は指示通り散開し、その軌跡を斬撃のごとく幻獣機父艦ロックバードに叩き込んで行く。
サロはその動きから、かつて仮想宇宙空間で相手取った法機たちと気づいた。
「こっちも忘れてないわよね!?」
「なっ!? くっ!」
サロはレイテたちを忌々しげに睨むが。
先ほど放たれたワイルドハントの分身たちからも攻撃を加えられる。
「ぐぬぬぬ……あんたたちいい!」
「さあ、高知沖、そして海中に水流……どこまでも、私を苛立たせてくれるな!」
幻獣機父艦マンイーティングツリーを操るアントンは、海中を睨む。
それはかつて宇宙作戦を妨害した際に、自分たちを欺いたあの杼船用母機。
その発射準備の光景を、彷彿とさせる。
「おおっとお! あたしがいるんやで、さあ! どうするつもりなんや?」
「ふん……フレイか!」
赤音のマルタが迫り、アントンは空も睨む。
ここで、赤音が処女の慈悲を使えば終わる。
が、アントンは。
「ふふふ……hccps://baptism.tarantism/、セレクト 枝籠の中の鳥 エグゼキュート!」
「ん!? ね、姐様、敵艦が海中に」
「そのまんま橋頭堡にしようってかい、甘え……な!?」
徐に、キルケ・メーデイアの起こす水流の進む方へマンイーティングツリーを海面に打ち立てるようにして停泊させると。
瞬く間に枝を伸ばし、水流を抱き込むようにして捕らえる。
「教官!」
「くっ……」
「姐様!」
「水流、一旦停止! くっ、こりゃあ……」
たちまちキルケ・メーデイアと女神の織機搭載の潜水法母艦隊は、巨大な枝の揺り籠内に捕らえられてしまった。
「心配せんとき! あたしが」
「おおっと、待てフレイ! ……近づくと、こうだぞ?」
「くっ、雷撃が!」
が、赤音がマルタを駆り寄ろうとするが。
アントンは、揺り籠の周りに雷の網を張り巡らせる。
それは内部のキルケ・メーデイアからも見えた。
「ははは、同じ手は食らうまいよ! さあ……白旗を上げるか?」
アントンは、勝ち誇ったように今周りを飛び回るマルタへと告げる。
「くっ、中々痛いところ突いて来よるやないか……」
赤音も、これには歯軋りする。
「hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト!」
「楽園への道!」
「エグゼキュート!!」
「くううう……キー!! どこまでも可愛げのない小娘共お! もう可愛いなんて思ってやらないわ、潰してやるうう!」
一方、種子島でワイルドハント及び旧生徒会新候補部隊と戦う鳥男の騎士団だが。
ワイルドハントの分身及びレイテたちの機体、特にレイテたちの機体の方に大苦戦させられていた。
「魔法塔華院! これならワイルドハントの中にいる俺たちが今から」
「何言ってんのよ方幻術! 今は無理に決まってるでしょ、ミリアが苦しんでるのを尻目にするなんて!」
「な、ら、雷魔……しかし」
一方、凸凹飛行隊は。
実はワイルドハントの中におり、隙を見てワイルドハント諸共飛び立とうとしたが。
その隙は今であると見ている剣人に対し、法使夏が抗議する。
「そうね、ミスター方幻術一旦黙っていて欲しくってよ! ……まだであってよ、各方面の抑え込みが不十分である以上は。」
マリアナも、剣人の提案を却下する。
そう、敵を苦しめているのは今のところ種子島だけであり。
むしろ高知、鳥島ではこちらが苦戦させられている方なのだ。
「ほらほら、どうした? 貴様の力を使えば、それで終わりだろ?」
「ああ、そうしたい所ではあるんやがなあ……」
そして、特に追い詰められている高知の守備隊は。
その発射部隊を抱え込む幻獣機父艦マンイーティングツリーからアントンが、尚も旋回するばかりのマルタを煽っている。
このまま両者の睨み合いが続くかに思われた、その時だった。
「hccps://vouivre.wac/、セレクト デパーチャー オブ 金剛鎌弾 エグゼキュート!」
「!? ぎゃああ!」
「!? な、何や? な、中から攻撃が! つ、突き破ったやて!?」
突如として枝の揺り籠内より、何やら誘導弾のようなものが複数躍り出て揺り籠の方々を破壊したのである。
「じ、術里……?」
「し、白魔二等空曹!?」
「やりました、教官、妖術魔二等空曹! 私たち自衛隊にも、法機が!」
揺り籠内の潜水法母に搭載された女神の織機パーツ内の術里からは、歓喜の声が響いていた。
◆◇
「私たちにも!」
「力があれば!」
――あれば、どうするのか?
「!? え? だ、誰?」
話は、少し遡る。
マンイーティングツリーの揺り籠内に囚われた時、術里は力を熱望するが。
そんな彼女の脳内には、ふと誰かの声が。




