#12 真の魔女
「ら、ライカンスロープフェーズ……? な、何ですのそれは?」
マリアナは、目の前の状況が呑み込めず困惑している。
訓練学校を襲った、ソード・クランプトンの一件から数日後。
その次には幻獣機タラスクが、この訓練学校を襲い。
青夢は自機であるジャンヌダルクを発進させて対処するが、未来予知によりジャンヌダルク単機では対処できない敵と分かり。
止むを得ず青夢は、マリアナに新たな空飛ぶ法機ウィッチエアクラフトカーミラを得させ。
彼女が操る空飛ぶ法機・カーミラと、それにより子機化された法使夏機・ミリア機との(不本意ながらの)共闘により、どうにか幻獣機タラスクは撃破されたのだった。
そうして、次は。
捕らえられたソードの警察への引き渡しのため、その護送機直衛の任務を帯びた青夢たちは今護送機を取り囲んで引き渡し場所へと向かっているのだが。
青夢ら護衛飛行隊は魔男の騎士であるダルボとマギーの攻撃を受けて絶対絶命の危機に陥っていた。
更に、ソードも自力で拘束を破り。
護送機を抜け出してミリア機を乗っ取り、そのまま魔男の幻獣機部隊に合流しようとするも。
ダルボとマギーから、既に魔男の円卓にてソードは用済みとの決定が下り始末される予定と知り愕然とした。
そうして自暴自棄になったソードは。
破りかぶれに、ダークウェブへとアクセスする。
そこで彼は、アラクネの導きにより空飛ぶ法機クロウリーを手に入れる。
そうして、戦いはマリアナ対マギー、ソード対ダルボの必殺技撃ち合いとなった。
そうしてマギー、ダルボは敗れるも。
良からぬ未来を予知していた青夢は、ソードとマリアナにマギーの幻獣機グレムリン・ダルボの幻獣機ドラキュラを融合させてはならないと叫ぶ。
が、逆に青夢のその助言により。
インスピレーションを得たマギーとダルボは、幻獣機グレムリンと幻獣機ドラキュラを融合させ。
そのまま、コマンドを詠唱する。
ライカンスロープフェーズ、と。
「やれやれ……よりにもよって、最終フェーズを躊躇いもなくとは。」
「ええ……遅かったわ。」
事情を知っているソードと青夢は、この有様を惨憺たる思いで見つめる。
目の前には。
「がああ!」
「ぐああ!」
見た目こそ、幾多の子機と合体し巨大な蝙蝠になったというだけの幻獣機ドラキュラがいる。
しかし、その実態は先ほどまでマリアナと死闘を繰り広げていた幻獣機グレムリンをも融合させた強化型機体なのである。
何より、ある事情を知るソードと青夢は戦意をやや削がれつつあった。
しかし。
「がああ!」
「ぐるる!」
咆哮を上げて向かい来る幻獣機ドラキュラには、そんな青夢たちの戸惑いなどお構いなしである。
「くっ……皆、避けて!」
「ふん、言われなくたって!」
「くっ!」
「いやあ!」
青夢の叫びに、マリアナ・ソード・法使夏と青夢本人も乗機を反転させるが。
「ひいい!」
「!? くっ!」
ごく普通の空飛ぶ法機であるためか、護送機は避け遅れてしまう。
「くっ!」
「……セレクト、ファング オブ ザ バンパイア! エグゼキュート!」
が、青夢が手を拱いていると。
マリアナはすかさず護送機をジャックし、避けさせる。
たちまち幻獣機ドラキュラの突撃は、空を切る。
「さすがはマリアナ様!」
「ふん、当然よ! ご覧になって、魔女木さん!」
「ああもう、まだ敵はいるっつーの!」
「きゃあっ!」
「! 雷魔さん!」
得意になって油断している隙を突かんとばかり、幻獣機ドラキュラは法使夏機を襲った。
かろうじて法使夏機は避けるも、またドラキュラは彼女の機体を狙う。
「ひいいっ! ま、マリアナ様!」
「このっ、幻獣機! ……セレクト、ファング オブ ザ バンパイア! エグゼキュート!」
法使夏の求めに応じ、マリアナはカーミラより技を放つ。
たちまちその技は、幻獣機ドラキュラを襲うが――
「ぐるる……がああ!」
「くっ! わたくしの技が、効かないですって!」
幻獣機ドラキュラはどこ吹く風とばかりに、その巨大な翼をはためかせる。
「くっ……セレクト、オラクル オブ ザ バージン!」
青夢が、予知の技を発動しようとしたその時である。
「がああ!」
「ぐああ!」
「!? ひっ!」
それを察したかのように、幻獣機ドラキュラよりエネルギー弾がジャンヌダルクめがけて放たれる。
突然の事態につき、誰も対応できない――
と、その時。
「がああ!」
「!? え?」
どこからともなく、二つの火球が飛来し。
一つはジャンヌダルクに放たれたエネルギー弾に、もう一つは幻獣機ドラキュラ本体に当たる。
たちまちジャンヌダルクの眼前でエネルギー弾は相殺され。
幻獣機ドラキュラ本体も、かなりのダメージに悶えている。
さらに、それだけではなかった。
「間に合ったみたいだね……魔女木さん!」
「え……ま、まさかその声……矢魔道さん!?」
急に飛んできた、見たこともない機体の中から矢魔道の声が聞こえて青夢は驚く。
それは、何やらゴツゴツとした突起に覆われた機体である。
青夢にはそれが、何やら見覚えがあり――
「!? まさか……あの時の幻獣機を!」
やがて合点する。
これは幻獣機タラスクの鎧を、ボディに使っているのだ。
◆◇
「や、矢魔道さん……それって、幻獣機のボディを」
「ああ……あのドラゴンみたいな幻獣機のエンジンと、アンキロサウルスみたいな幻獣機のボディを使ったんだ! これならこのジャンヌダルクの必殺技にも、自壊しないんじゃないかな?」
「え……♡」
青夢は近くにやって来た矢魔道の言葉に、ときめく。
矢魔道は、学校の職員たる魔女に操縦してもらい駆けつけていた。
さらに、青夢のために新たな機体を作ってくれたとあれば、ときめかざるを得ないだろう。
「な……! 俺の幻獣機ドラゴンを!」
ソードは驚くが。
「さあ、魔女木さん!」
「はい、矢魔道さん! ……hccps://jehannedarc.wac/、サーチ コントローリング ウィッチエアクラフト・ジャンヌダルク! セレクト、ジャンヌダルク リブート エグゼキュート!」
青夢はソードを無視し。
矢魔道に言われるがまま、青夢と矢魔道・その運転役魔女は機体を乗り換える。
そうして矢魔道による新機体に青夢が移り呪文を詠唱することで、新機体は光り輝いた。
「うん、あの幻獣機を使っているってちょっと複雑だけど…… こ、これなら出来そう♡ よおし!」
青夢は、幻獣機のボディが使われていることには戸惑いつつも。
愛しの矢魔道が作ったと聞いて俄然、活気付き。
次には戦場を睨む。
「おい、魔女木の娘!」
「ううん魔女木さん……まあ、よかったんじゃなくて?(何よ……トラッシュが、色気づくんじゃなくってよ!)」
「ふん、トラッシュのくせに!」
青夢は少々理不尽にも、今護送機直衛をするメンバーから非難を受けるが。
「さあさあ皆、あの幻獣機を足止めして! 私がその間、必殺技エネルギーをチャージするから!」
「な! む、無視するな!」
「わ、わたくしたちがまたあなたの引き立て役を!?」
「ち、ちょっと調子乗らないでトラッシュ!」
非難を物ともしない青夢に、マリアナ・ソード・法使夏は大いに戸惑う。
が。
「がああ! ぐるるがああ!」
「ほら、あの幻獣機が息吹き返して来たから!」
「くっ……止むを得んか。」
「……そうね。行きますわよ雷魔さん! ……セレクト サッキング ブラッド エグゼキュート!」
「はい、マリアナ様! ……セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」
「がああ! ぐるる……」
結局皆、状況を読み。
そのまま、クロウリー・カーミラ・法使夏機が組んだ術式は幻獣機ドラキュラを弱らせる。
先ほどまでは技の効かなかった幻獣機ドラキュラであったが。
ジャンヌダルクの新機体より放たれた、幻獣機ドラゴンの竜炎心臓由来の強力な火球により大ダメージを負ったようである。
「……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
青夢はその間にも、必殺技の支度にかかる。
たちまち機体後部に十字架状エネルギーが展開されるが、これまでの訓練機体では上げられていた軋みがないことに彼女は気づく。
「すごい、これがあの幻獣機のボディ……だけどあの幻獣機には、悪いことしたな……あの時この機体があったなら、今みたいに私だけこの重荷を背負えるのに……」
青夢は感動しつつ、幻獣機タラスクの時を思い少し落ち込む。
そうして今も、その時と同じになっている幻獣機ドラキュラを照準しつつ覚悟を決める。
結局は、こうするしかないのだと。
「何をしている!」
「そうよ、早くお撃ちなさい魔女木さん!」
「トラッシュ、もたついてんじゃないわよ!」
そうこうするうち、ソードたちよりクレームが入る。
「……今やるわよ! さあ、真の魔女の力を受けてせめて眠りなさい……エグゼキュート!」
青夢はそのクレームを受け、遂に実行する。
たちまち、ジャンヌダルク後部より収束されたレーザー波が放たれ。
それは瞬く間に、幻獣機ドラキュラを取り込む。
「がああああ!!」
幻獣機ドラキュラは断末魔と共に、一瞬の内に破壊された。