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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第七翔 暗黒通神衛星ネメシス大戦 
126/193

#125 独断攻勢と別れ、真実

「何!? それは、誠か……?」

「はっ……」

「……くっ!」


 またも戦勝の報が齎されると期待していたシャルルだが。


 パレス包囲戦の失敗には、当然というべきか大きく落胆の色を示す。


 時は包囲戦の数日後である。


「申し訳ございません……ブリティ星界軍の奴らめが、どこよりかき集めましたか強力な手駒たちを……」

「うむ、それは察しがつかぬでもない。あのペイルとアンヌのレッドドラゴンが苦戦するとあらば……な。」


 シャルルは更に、部下からのブリティ星界軍戦力について話を聞き内心震える。


 一体一体がレッドドラゴンに匹敵するほどの使い魔を手駒として多数従えていたというブリティ星界軍とは。


 それは部下の言う通り、どこからかき集めて来たのか――


「……考えても仕方あるまい。とにかく、ペイルとアンヌ、ひいてはレッドドラゴンは温存せよ。あの者たちを万に一つでも失えば、我が国は今度こそ癒えぬ傷を負うことになろう。」

「……はっ! 承知いたしました……」






「……という訳で、私たちは軍の指揮から外されるんですって。まあ、陛下がそうおっしゃっているなら仕方ないわ。」

「……そうね。」


 城の一室にて。

 アンヌは先ほどまで席を外していたペイルに、その間に従者が告げて来たことを話す。


「やっぱり、私があの時」

「ペイルのせいじゃないよ! あんな戦力を敵が抱えているなら、私たちじゃどうにもならないだろうし。」

「うん……ありがとうアンヌ。」


 尚も落ち込むペイルを、アンヌは慰める。


「……でもごめん、アンヌ。私はまだやることがあるの。戦わなきゃ……」

「た、戦わなきゃって……私たちは、もう指揮権がないんだよ?」

「私聞いたの……コンピューティエーニュの話を!」

「こ、コンピューティエーニュ?」


 が、ペイルの話は。

 アンヌを驚かせる。


 コンピューティエーニュ――あのパレス北部の町にして、一度はブリティ星界の手に陥ちながらもシャルルの戴冠直後に再びフラン星界側へ投降した町である。


「そこを、ブリティ星界軍が狙ってるの!」

「でも、私たちは……」

「うん、軍を動かせない――それは、何となく察しがついてた。……だから、密かに今義勇兵を集めているの。」

「!? ち、ちょっとペイル……まさかあなた、勝手にコンピューティエーニュを攻める気!?」


 アンヌは息を呑む。

 もはやそれは、勝手どころの騒ぎではない。


 反逆すら疑われてもおかしくない行為である。


「アンヌ! ここで行動を起こさなきゃ、私たちは――このフラン星界は、ここで終わっちゃう!」

「……ペイル……」


 しかしペイルの目を見て。

 アンヌは、説得が通じないことを悟る。


「既に義勇兵はいくらか集まってる、そう遠くないうちに数が揃うはず。……だから! 陛下には内密に、私たちだけでコンピューティエーニュを守りに行くのよ!」

「……分かったわ、ペイル。でも、一つ約束して。今度はちゃんと情勢を見極めて、不利なら即撤退するって。」

「アンヌ……ええ、分かったわ!」


 アンヌの説得は諦めつつも自身を案じる言葉に。

 ペイルはにこりと微笑む。




 そうして、パレス包囲戦での大敗よりひと月ほど後。


「さあ……皆、コンピューティエーニュの北部にあるブリティ星界軍の砦に攻撃を仕掛けるわ、行くわよ!」

「応!!」


 ペイルとアンヌは、いつも通りというべきか使い魔レッドドラゴンを操り。


 集まった義勇兵たちを率いて、味方内にも敵にも密かにコンピューティエーニュ北部ブリティ星界軍駐屯地へと奇襲をかけに行く。


 そうして一行は、コンピューティエーニュ城に入り。

 更に同城のフラン星界側守備隊を加えて兵力を増やし。


「さあ皆……この一戦にフラン星界軍の再起がかかっているわ、城外へ出るわよ!」

「応!!」


 そのペイルの言葉と共に、城門が開けられ。

 ペイルとアンヌ騎乗のレッドドラゴンを先頭に、義勇兵と守備隊連合軍は駐屯地へと奇襲を仕掛けに出る――


「部隊長、やはり奴らです! やって来ましたよ!」

「ふふふ、さしづめ飛んで火に入る夏の虫といったところか……使い魔共、前へ! 戦闘開始!」

「応!!」

「!? ま、待って! 全軍、動き止めて! 防御体勢へ!」

「え!? あ、アンヌ?」

「hccps://jehannedarc.wac/、ビクトリー イン オルレアン! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト 堅牢光壁(ソリッドバリア) エグゼキュート!」


 が、駐屯地の異常に気づいたアンヌは軍の動きを止め。


 レッドドラゴンに向けて、術句を唱える。

 それは、タラスクの防御性能だけを一時的に多く引き出し防御に特化させる術である。


 たちまちレッドドラゴンの翼は巨大化及び鱗一枚毎の肥大化により硬質化し。


 更に光のエネルギーを纏うことにより、防御性能を大幅に上げた。


「くっ!? あ、アンヌ、この攻撃は」

「見えたの、ブリティ星界軍の砦に多数の使い魔の影が……また奴らは、多数の使い魔を従えているのよ!」

「な、何ですって!?」


 その防壁へと攻撃が多数炸裂して行く手応えを感じ。

 さらにアンヌの説明にペイルは、震撼する。


 そう、ブリティ星界軍はまたも戦力を強化していたのである。


 ◆◇


「どういうつもりかしら、凸凹飛行隊の皆さん?」

「やはり、あなたも法機で出ていただけたわ……さあ、お話してもらわなくてはね! あなたが、何者であってか?」

「そ、そうよ十魔女蒼!」

「この前の、あの仮想世界での戦いについてもなあ!」

「……ふっ。」


 ネメシス星でコンピューティエーニュの戦いが行われていた、まさにその頃。


 とある洋上で、各自が自機に乗っている青夢・マリアナ・法使夏・剣人と。


 同じく自機を駆る蒼が、対峙していた。





「魔女社会の……いえ、全世界の皆様初めまして! 私の名前は十魔女蒼です。魔法塔華院コンツェルン私兵部隊・凸凹飛行隊に協力させていただいている魔女です。今日は皆様に、どうしてもお伝えしたいことがあり参りました……」


 世界の方々で飛ぶ飛行船のモニターに映る、金髪の少女・蒼。


 話は、パレス包囲戦直後に遡る。


 モニターから今見えるは聞こえるは、魔法塔華院コンツェルンによりこの場を設けられた蒼の演説だ。


「お……おおおお!!」

「OH〜!!」


 蒼の呼びかけに対し、その画面越しの世界中の人々は威勢のよい掛け声で応える。


「単刀直入に申し上げます……今、世界を脅かしているのは……」


 そのまま蒼は、全世界に向けて告げる。

 第二電使の玉座(スローンズ)――全世界には未公開の情報であるためまずはその説明から――には仮想世界があり。


 それはいわば異星と言えること。

 そうして、今の全世界における電賛魔法(リソーサリー)システム障害はそこからの攻撃――いわば、異星人の侵略によるものであること。


「(今、世界は驚いているでしょうね……)」


 蒼の演説を脇で聞くマリアナは、彼女を見つめつつカメラの向こうに思いを馳せる。


 直接見えるわけではないが、世界中の人々がこの話を受け入れられず混乱する様が目に浮かぶようである。


 無理もない、自分たちもこの場に先んじて聞かされた時は同様だったのだから。


 今回は世界の人たちに向け、緊急用の衛星回線を使っての電賛魔法(リソーサリー)システム奪還作戦――すなわち、フラン星界への攻撃への参加を呼びかけていた。





「お疲れ様、蒼さん!」

「あ、ありがとう青夢さん! ああ、緊張した……」


 そうして、演説が終わるや。

 青夢は、蒼を讃える。


「お疲れ様であってよ、十魔女さん。……でも申し訳なくってだけど、わたくしは今回の作戦には参加できなくってよ。」

「! え?」

「ああ、すまないが十魔女さんとやら……俺もだ。」

「えええ!?」

「ま、マリアナ様? ほ、方幻術?」


 が、マリアナと剣人は何故か蒼にそう告げる。


「ま、マリアナ様が参加なさらないのでしたら……ごめんなさい十魔女さん、私も。」

「どうしたのよ皆、軽くストライキ?」

「まあ……そんな所であってよ……」


 そんな彼女たちを青夢は訝しむ。

 が、次には蒼の方を向き。


「ごめんなさい、蒼さん。私たち凸凹飛行隊は……」

「ええ、なら仕方ないわ……ありがとう。」


 さすがにメンバー全員にこう言われては敵わぬと、彼女に断りを入れた。






「……さあて、説明してもらおうかしら? これはどういうこと?」


 そうして、蒼を除いた凸凹飛行隊のメンバーだけで集まるや。


 青夢はマリアナらに、問い質す。


「あら、あなたこそ何もお気づきにはならなくって魔女木さん? 何かの違和感に。」

「? さあ……」

「はあ、まったく……それでよくもまあわたくしたちの飛行隊長ね!」


 マリアナの問いにただただ首を傾げる青夢に、彼女は呆れのため息を漏らす。


「まあ魔女木さんが気づかないのは所詮その程度だからかも知れなくってだけど……雷魔さん! あなたは本当に分からないのであって?」

「わ、私は……も、申し訳ございません! マリアナ様が何についておっしゃっているのかさえ……」

「まったく……それではあなたも、わたくしの側付きの名折れであってよ!」

「も、申し訳ございませんマリアナ様!」


 マリアナに(半ばとばっちりではあるが)怒られた法使夏は縮み上がる。


「どうもあの十魔女さんは変ね……まああのアラクネさんも信用はできないけれど、それは置いておいてよ。あのお二人は協力関係にあるように聞いていたのに、どこか噛み合わない印象を受けてよ。」


 マリアナは法使夏らに呆れつつも、自分の考えを話す。


「ああ、俺もこの前の仮想世界での戦いで違和感を受けた。あの敵側のドラゴンが繰り出して来た技は、俺がかつて持っていた幻獣機ドラゴンの技だったのだ。」

「それは……たまたま同じ技だっただけではなくって?」

「いや、あれは幻獣機の必殺技だ! 他ならばいざ知らず、必殺技は幻獣機それぞれに唯一無二なんだぞ!」


 剣人も、やや熱の入り過ぎた様子ではあるが自らの考えを告げる。


「まあまあ! ……でも。確かに変ね……だとしたらあの蒼さんとアラクネさんは、何か隠しているのかしら?」


 青夢は剣人を宥めつつ、ふと首を傾げながら言う。


「はあ、ようやくであってね魔女木さん……その通りであってよ! だからわたくしたちは、確かめるのであってよ……あの人たちについてね。」


 マリアナは呆れつつも、そう叫ぶ。

 こうして、凸凹飛行隊はわざと法機で出奔し。


 それを捕捉した蒼が、同じく法機でもって彼女たちを尾けて来るよう仕向けたのだった。


 ◆◇


「さあさあ、どうだ! これぞ我らがブラックプリンス様より与えられた軍たちだ……かかれかかれえ!」

「応!!」


 一方、ネメシス星のコンピューティエーニュの戦いでは。


 ブラックプリンスにこの奇襲に備えて送られていた援軍――言うまでもなく、蒼の呼びかけに応えた現実の世界中の人々だ――はこれまたブラックプリンスにより与えられていた使い魔の数々を使い攻めて行く。


「早く、コンピューティエーニュ城へ!」

「で、でも……城まで逃げても、あの使い魔たちが!」

「くっ、そうね……」


 殿を務め、ブリティ星界軍の使い魔部隊を引き受ける

 ペイル・アンヌのレッドドラゴンだが。


 このまま入城しても、あの敵軍に城ごとやられてしまうとアンヌは思い悩む。


 そうして。


「ごめんね、ペイル……」

「!? え、アンヌいきなり何? ……ま、まさか!?」


 急に謝って来たアンヌに、ペイルは違和感を覚えるが。


 すぐに彼女のとり得る行動に、思い至る。


「あなただけは生き延びて! ……全軍! 私が敵陣に飛び込んで時間稼ぎをする間に、コンピューティエーニュ城からも出て撤退しなさい!」

「あ、アンヌ殿!! ……はっ、やむを得ませぬ!」

「アンヌ!」

「……hccps://jehannedarc.wac/edrn/fs/dragon.fs?assault=FrameStorm……フレイムストーム、エグゼキュート!」

「アンヌうう!」


 そうしてアンヌは、最後の指示を軍とレッドドラゴンに降し。


 自身はブリティ星界軍の使い魔部隊の中央へと飛んで行き、ペイルをレッドドラゴン諸共高空域へと飛ばした。


「や、やめなさい! れ、レッドドラゴン、言うことを聞いてええ!」


 ペイルは泣き叫ぶが。


 地上に見える、敵使い魔部隊の中央に降り立ったアンヌはどんどん小さくなって行く。


「そ、そんな……嘘、よ……あ、アンヌ……」


 ――ええ、見たかしら? 全てはあなたの……以前にも言われたと思うけれど()()()夢のせいよ!


「!? あ、あなたは……」


 と、その時。

 徐に響いたのは、以前にも脳内に響いて来た声。

 しかし、やはりそれが誰であるかはすぐには出てこない。


 それでも――


 ――思い出すのよ、ペイル・ブルーメ! 


 知っているなどというレベルではなく、確実にいつも一緒にいた相手であることは間違いない。


 そう、この声の主は――


「あ、あなたは……わ、私なの!?」


 そこでようやくペイル――いや、()()の青夢は気づく。


 そうだ、この声はいつも自分が発し自分で聞いていた声だ。


 知ってはいるなどというレベルではない。


 ――ふふふ……ははは! ええ、さあ何もかも思い出すのよ、ゲーの夢(現実世界)のことも含めて!


「くっ……ぐううあ!」


 そうして、そのまま。

 青夢は、自分に流れ込む情報に苦しみ――


 ◆◇


「そうよ、魔女木青夢! さあせいぜい苦しみなさい……さあて、やっと来たわね、この時が! さあ来なさい、私の可愛い法機ちゃん……hccps://IsabeauDeBaviere.wac/、セレクト! カミングヒア エグゼキュート!」

「!? え!?」

「な!?」

「な、何故お前が!?」


 再び、現実世界。


 対峙していた蒼のイザボー・ド・バヴィエールが術句の詠唱により動き出したことに、凸凹飛行隊の面々は驚く。


 が、凸凹飛行隊の面々が驚いたのはその唱えた人物に関してだ。


 何とそれは――


「魔女木!」

「魔女木さん!」

「魔女木!」


 青夢だったのだ。


「ええ、やっと乗ることができるわ……こんなままならない法機ではなく、私の法機にね! さあ、女王様?」

「ええ……あなたの意思とあらばいつでもよ、蒼の騎士!」

「!? え!?」

「と、十魔女さん?」


 更に凸凹飛行隊は驚く。

 何とイザボー・ド・バヴィエールに乗っていた蒼が、ふと姿を消したのである。


「十魔女蒼という名前は私の本来の名をこの娘――クイーン・バベルに与えたもの。私の本来の名はペイル・ブルーメ……この世界に死をもたらす、蒼騎士よ!」

「あ、蒼騎士……?」


 蒼の、騎士?

 まさか。


「そう、私は魔女木青夢などではない……魔女木青夢の人格はあの遠い空の果て――暗黒通神衛星(ダークゾディアクス)ネメシスの中の仮想世界に閉じ込めたわ。今の私はそのネメシスの中の仮想世界で生まれたVI――人工知能よ!」

「じ、人工知能……?」


 もはや想定外の言葉のオンパレードに混乱する凸凹飛行隊の面々などどこ吹く風とばかり。


 青夢――いや、()()()ペイル・ブルーメは矢継ぎ早に、次々と真実を告げて行く。


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