#124 世界の敵
「さあ、誰かは知らんが……フラン星界軍の先頭に立つ乙女とやら共! 我らがブリティ星界の野望をこれまで悉く潰して来てくれたこと、後悔させてくれる!」
「ふん……そこは元々私たちの都よ! それを奪った者たち――ブリティ星界軍! 私たちの怒りを受けるがいい!」
「そうよ……その意気よペイル!」
ネメシス星フラン星界の旧王都にして、今やブリティ星界軍の占領下にあるパレス。
そこを包囲するフラン星界軍とブリティ星界軍は、まずは舌戦を繰り広げた後。
「さあ……かかれ!」
「! hccps://jehannedarc.wac/、ビクトリー イン オルレアン! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト 栄光の壁 エグゼキュート!」
「くっ、ペイル!」
ブラックプリンスの言葉と共に城壁から顔を出していた怪物たちより一斉に光弾やら炎弾が放たれ。
ペイルはレッドドラゴンの口より出た光線により張り巡らされた障壁を生成する術句を発動させて事なきを得る。
が、それも防戦一方では長くは保つまい。
「くっ、アンヌ!」
「そうね、ペイル! いつまでも防いでばかりでは――後手に回っていては負けてしまうわ、急がないと!」
光の壁の中でアンヌも、叫ぶ。
「さあさあ、遠慮するな守備軍の諸君! 奴らこそ我らがパレスをも陥落させ! 電賛魔法システムを完全に侵そうとしている侵略者そのものだ、倒し尽くしてしまえ!」
「おおー!!」
しかし、ブラックプリンスも負けじと。
更に自軍たるブリティ星界軍を煽り、このパレスを攻略しようとするフラン星界軍へと敵意を強めさせていく。
が、なんとそのブリティ星界軍には。
「ま、マリアナ様!」
「ええ、あれがわたくしたちへと攻撃を続けて来たドラゴンそのものであってなのね!」
「ああ、その様だな……」
マリアナや法使夏、剣人の姿もあったのだ。
◆◇
「……そろそろ、お話しなくてはなりませんね。私がダークウェブの女王より仰せつかっていることを。」
「え? 何であって十魔女さん。」
時はパレス包囲戦の前日、縦浜の別邸にて。
いきなり蒼が凸凹飛行隊メンバーに、そう告げた。
「単刀直入に申し上げます……今私たちの電賛魔法システムを侵食しつつある者たち、それは……異星人なのです!」
「!?」
「な、何ですって!?」
異星人?
何を言っているのかこの娘は。
が、蒼はまだ話を続ける。
「いきなり異星人と呼ばれても皆さんは驚かれるかも知れません……しかし! 確かにあそこにそれはあるのです! 彼らの母星と言える、第二電使の玉座が!」
「だ、第二電使の玉座!?」
ますます凸凹飛行隊の混乱は深まるばかりだ。
あの第二電使の玉座が、異星人の母星?
「はい、第二電使の玉座――所謂宇宙ステーションですが。その内部にある電使計賛機内には、VRの仮想世界が広がっているのです! そしてその中には……ゲームならばNPCにあたる人々が住んでいます! 今回私たちの電賛魔法システムを脅かしていたのは、そのNPCたちなのです!」
「なっ……!?」
更なる説明は、凸凹飛行隊のメンバーを更に驚かせて行く。
「お分かりいただけましたでしょうか? つまり……今回の一連の騒動は、宇宙ステーション――人工衛星を本星とする仮想世界からの侵略だったのです! ですからこれを、異星人の侵略と最初に表現させていただきました……」
蒼は深々と頭を下げる。
「信じられない方が殆どかとは思いますが、ここは……今のダークウェブの女王様である、アラクネさんに捕捉していただきます。アラクネさん、私が今言ったことに嘘はありますか?」
蒼は斜め右後ろを振り返り、そこにいつのまにかいるアラクネの姿を見る。
「あ、アラクネさん!」
「いつの間に?」
「さっきから話を聞いてもらっていました。さあ……どうなんですかアラクネさん?」
「……そうね。」
蒼はアラクネに笑いかけるが。
アラクネは少し、険しい表情をしている。
そして。
「……いえ、ありません。」
「……だそうです。お分かりいただけたでしょうか?」
蒼はにっこりと微笑む。
「そんな……」
「ま、マリアナ様!」
法使夏と剣人は驚きつつも、アラクネのお墨付きとあらば皆が信じようとし始めていた。
「(やはり何かありそうであってよね……あの十魔女さんと女王様の間には。)」
しかしマリアナはその中でも、相変わらず彼女たちの間に流れるややギクシャクとした空気を訝しんでいた。
「蒼さん。……約束します。凸凹飛行隊隊長として、あなたに力を貸します。」
「!? ま、魔女木さんあなた勝手に!」
が、そんなマリアナの心中を知ってか知らずか。
青夢は半ば独断で、蒼に協力を申し出る。
「だけど、魔法塔華院マリアナ。他に、有効手段は思い浮かばないでしょ?」
「……まあ、そうではあってよね……」
青夢の言葉にマリアナは、押し切られた。
「ありがとう、青夢さん! ……では皆さん、力を貸してください! 以下のURLに、皆さんがアクセスしてくだされば……それだけで、反抗作戦の成功率は高まります! どうか!」
そして、蒼は。
hccps://zodiacs.mc/palace
このURLを示し、皆に呼びかける。
「これは、あの第二電使の玉座へのパスです……さあ! 共に、侵略者たちを討ち取りましょう!」
◆◇
「hccps://rusalka.wac/ 、セレクト、儚き泡 エグゼキュート!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 愚者――データフォアゲティング エグゼキュート!」
再び、ネメシス星パレス包囲戦にて。
パレスの城壁から顔を出していた人魚と獅子の怪物――使い魔フィーメイルクラーケンとキメラに、それぞれ法使夏・剣人より術句が伝えられ。
それに応えたフィーメイルクラーケンとキメラより、それぞれに攻撃が放たれる。
「くっ、光の防壁に綻びが!」
ペイルがまいったことに。
フィーメイルクラーケンの泡纏う水流は、栄光の壁にまず泡のいくらかが爆発して綻びを生み出し。
更に、そこに細かい泡が入り込んで行き次々と爆発していく。
おまけにキメラの能力により、今光の壁を維持しているプログラムが無効化されて来ているとなれば栄光の壁は維持できなくなって行く。
「ペイル!」
「大丈夫よ、アンヌ! ……hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン!
hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
しかし、ペイルは綻びかけた光の壁の隙間より。
無数の光弾をレッドドラゴンに発射させ、攻撃こそが最大の防御とばかりに攻めて行く。
「く、光弾が!」
「心配することはなくってよ…… hccps://camilla.wac/、セレクト サッキングブラッド エグゼキュート!」
が、そこにマリアナが自身の使い魔たるフィーメイルバンパイヤに命じ。
たちまちペイルからの光弾たちを、エネルギーを吸収していき無効化していく。
「ペイル、攻撃が!」
「くっ、敵も使い魔を使って来るなんて! このままじゃ」
「よし、次は私だ! …… hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assembled=false――セレクト、アンアセンブライズ エグゼキュート!」
「!? て、敵軍の使い魔が!」
ブリティ星界軍の予想外の猛攻に苦しむペイルたちフラン星界軍の所へ、泣きっ面に蜂とばかりに。
ブラックプリンスの唱えた術句により、更に城壁より彼の使い魔たちが這い出す。
「……かかれえ!」
そのまま、またもブラックプリンスに命じられるがままに。
使い魔たちは城壁より、猛攻を加えて行く。
「ぐあああ!」
「ぎゃああ!」
「み、皆……!」
その攻撃は、如何な連戦連勝のレッドドラゴンといえど防ぎようがなく。
たちまちペイルの後方に構えるフラン星界軍にまで波及して行く。
「……くっ、アンヌ! ちょっと……」
「ペイル……えっ!?」
進退窮まったペイルは、ふと同じくレッドドラゴンに騎乗するアンヌに耳打ちする。
「さあさあどうした、フラン星界軍よ! それではわざわざ旧王都たるこのパレスまで来た意味はないぞ! まったく、腰抜け共が!」
ブラックプリンスからは、嘲笑が漏れる。
「(姫……お待ちくださいませ。必ずや、このシステムを今度こそ掌握してご覧に! ……ん?)」
もはや勝利を確信しつつあった、ブラックプリンスだが。
ふと、フラン星界軍に攻撃が炸裂して起こっている爆煙の中に見えた影に首を傾げる。
それは――
「隙ありよおおお!」
「!? あれは……あれがドラゴンか!」
爆煙の中を突っ切り。
ドラゴンに騎乗する、ペイルが城壁へと突撃を仕掛ける。
「……だが、仲間の防御を放棄するとは愚かなり! 我が使い魔たち、軍よ、やってしまえ!」
しかしこれによりブラックプリンスは勝利への確信をより強め。
ペイルのドラゴンへの攻撃はそこそこに。
「hccps://rusalka.wac/ 、セレクト、儚き泡 エグゼキュート!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 戦車――戦車の法撃 エグゼキュート!」
「hccps://camilla.wac/、セレクト サッキングブラッド エグゼキュート!」
自身と自軍の使い魔を動かし、フラン星界本隊へ攻撃を仕掛ける。
たちまちフラン星界軍の本隊には攻撃が炸裂し、爆煙が立ち込め――
「ははは! よし、これであとは上空を……な!?」
もはや勝ったとブラックプリンスは高笑いするが。
その時だった。
「な……!? 攻撃が防がれている!?」
彼が驚いたことに。
なんとブリティ星界軍の攻撃は、フラン星界軍の一般兵にまでは波及していなかった。
それは。
「よし……! よく、頑張ったわタラスク!」
アンヌが騎乗する使い魔タラスク――レッドドラゴンの二つに分かれたうち一体である。
レッドドラゴンは分離し防御に特化したタラスクのみをその場に残すことにより。
タラスクは攻撃ではなく、自身の純粋な頑強さのみで耐えてみせたのである。
そして、それが意味するところは。
「……上がお留守よ! hccps://jehannedarc.wac/edrn/fs/dragon.fs? FrameCore.power=full――セレクト フィーンディック ヘル エグゼキュート!」
「なっ!? ぐあああ!」
そのまま上空の――レッドドラゴンではない――ドラゴンにペイルは命じ。
たちまちその口から放たれた特大の炎が、城壁上へと炸裂する。
「ふ、フィーンディック ヘルだと!?」
その獄炎が、炸裂する中。
剣人は、確かに聞いていた。
かつての魔男時代、自身が青夢に対して放った幻獣機による攻撃の術句を――
「はあ、はあ……」
「ペイル、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……こんな傷くらい……」
そうして、ペイルは地上へと降り立つ。
見れば、彼女は肩に攻撃と思しき傷を負っていた。
「大丈夫じゃないわ! ……総員、撤退よ!」
「あ、アンヌ!」
しかし、アンヌはそんな彼女に戦闘の続行を許さない。
「どちらにせよ、あんな大軍では分が悪すぎるわ! だからここは……一旦退却し、体勢を立て直しましょう!」
「くっ……分かったわ……」
ペイルはアンヌの言葉に従い。
そのまま軍と共に、撤退する。
「て、敵が引いて行きます!」
「くっ、先ほどのはこのための時間稼ぎか……まあよいだろう。」
報告を受け、ブラックプリンスは。
ようやく爆煙の晴れた城壁の向こう側を見れば。
そこにフラン星界軍の姿は、既になし。
「まあよい……何にせよ、ひとまずはこのパレスを守り切った! 大儀であったぞ、皆!」
「おおお!」
ブラックプリンスの言葉に。
ブリティ星界軍は、歓喜する。
「や、やりましたねマリアナ様!」
「ええ、そうであってよね……」
「ああ……」
「!? ま、マリアナ様に……ほ、方幻術も!?」
しかし、法使夏が驚いたことに。
マリアナと剣人は、それぞれに状況を訝しんでいた。
「……まあいいじゃない! これで、蒼さんにいいお土産話ができるわ!」
「はあ、魔女木さん……あなた、最近わたくしたちを動かすばかりで戦ってなくなくって?」
「! ま、まあそれは飛行隊隊長だし……ね?」
「まったく、厚かましくってよ!」
マリアナは青夢に、嫌味を言う。
「(まあ待っていなさい……いずれは戦ってあげるから、ね? さあ……もうすぐあなたには、地獄が訪れるわ……)」
青夢は、しかしマリアナたちには見えないように。
城壁の向こう側を睨み、不敵な笑みを浮かべたのだった――




