#120 フラン星界進撃
「ま、マリアナ様……これは一体……」
「ええ……そうであってよね!」
マリアナの母が会見に臨む姿をテレビで見つつ。
法使夏とマリアナは、考え込む。
今凸凹飛行隊の面々は、縦浜の魔法塔華院別邸にいた。
会見の内容は、先の凸凹飛行隊と謎のドラゴンの戦い以来その戦場周辺で頻発している電賛魔法システムのアクセス障害である。
「まさかあの時……私たちが通信設備を!?」
「いいえ、電賛魔法システムは大部分が宇宙の電使衛星からわたくしたちの脳への直接接続によるものであってよ! ……ということは。」
法使夏の言葉にマリアナも、新たな可能性を考える。
そう、宇宙で何か起きているのでは? という可能性だ。
「しかし……それなら報告があるはずだから、その可能性はなさそうであってよね。」
「あ、はい……」
しかし、その可能性はすぐに蹴り飛ばされる。
「……あのドラゴンは、どう関係しているんだろうな。」
「! ミスター方幻術……まさかあのドラゴンが、何か関係していると思われて?」
が、ふと剣人が放った言葉に。
マリアナも法使夏も、はっとする。
「いや、あくまで可能性の話だ……しかし実際、お前たちも薄々考えていたはずだ。あの戦闘以来こうなっているのなら、やはりあのドラゴンそのものが原因ではないかとな。」
「……では、どう関係していると思われて?」
「! そ、それは……」
剣人の言葉通り凸凹飛行隊の面々は、皆その可能性を考えたが。
そこで今度はマリアナが言った通りのことにぶつかってしまうのである。
「……そうね、あのドラゴンが原因にしても。私たちがここであーだこーだ言ってても仕方ないんじゃない?」
「! 魔女木。」
「魔女木さん、今さら話し合いに加わってお話はそれだけであって?」
しかしそこで、青夢が徐に口を開き。
マリアナは彼女に、やや嫌みを返す。
「ええ。だって、情報が少ない中話し合っても仕方ないでしょ? まあそのドラゴンが原因だとしたら……少し後手後手には回っても、また出て来た時に倒せばいいんじゃないかしら?」
「……どう倒せるというのであって? あれは」
「お、お嬢様! 一大事です!」
と、そこへ。
メイドが血相を変えて部屋に飛び込む。
「……今は話し合い中であってよ。用件は?」
「は、はい……ま、またど、ドラゴンが現れまして。龍魔力財団の企業城下町だったため四姉妹方が今交戦中とのことです。」
「!? な、何ですって?」
その言葉にマリアナたちは驚く。
「これは、まさに噂をすれば影という奴ね。さあ、行きましょう!」
「はあ、まあ気は進まないけれどそうするしかなくってよね……」
「ご、ご安心くださいマリアナ様! 私がお守りしますから!」
「よし、行くぞ魔女木!」
青夢の言葉に。
凸凹飛行隊の面々は各々の反応を示す。
「(まあだけど、魔法塔華院マリアナ……一瞬とはいえあのドラゴンにこちらから干渉できていたから要注意ね。更に……龍魔力四姉妹。末っ子がカーミラと同じくシステムそのものに干渉できる力を持ってる。なら、急がないと。)」
しかし"青夢"は。
その心の中に、本来は味方であるはずの凸凹飛行隊や龍魔力四姉妹への懸念を抱えていた。
◆◇
「うむ、ペイルにアンヌ。此度の武勲、大儀であったぞ。」
「ありがとうございます、王太子殿下!!」
ネメシス星フラン星界南部、フォートルジュ王城内謁見の間にて。
王太子シャルルの言葉に、ペイルとアンヌは頭を下げる。
時は、ペイルとアンヌ率いるドラゴン――レッドドラゴンがオルレアンからブリティ星界軍を退かせた戦いの直後である。
「これからもそなたたちの力を存分に活かしてほしい! これで諦めかけていた王位に、またつけるかも知れぬな……!」
「! は、はい!! 王太子殿下のために!!」
シャルルのこの言葉に。
ペイルとアンヌは、より深く頭を下げる。
「おお……殿下! ついにそのお言葉を!」
「王太子殿下、そして乙女たち万歳!」
シャルルが王位への願望を口にしたことにより。
謁見の間の従者たちは皆、彼に歓喜の声を上げる。
◆◇
「よかったわねペイル……このまま行けば、パレスも奪い返せるわ!」
「! そうね……待ってて、お父さんとお母さん!」
その夜。
城内の彼女たちに割り当てられた部屋で、ペイルとアンヌは希望に胸を躍らせる。
「ねえアンヌ……また、ゲー様の夢を見せてくれない?」
「ええ、奇遇ね! 私も同じことを言おうと思っていたの。」
「! ま、まあ!」
しかし初勝利をしても、ペイルもアンヌも。
より少しでも多くの力を得たいと思い。
その力があるであろう現実世界を、見ようとしていた。
「hccps://AnnuTarukuji:******@gea.tarantism/dream!」
「hccps://AomuMameki:******@gea.tarantism/dream!」
そうして彼女たちは術句を輪唱し。
再び入って行く。
ゲーの、夢の中へ――
◆◇
「! ……あ、ここは。私の寮部屋か……」
「ほらペイル、気づいた?」
「! あ、アンヌ……」
ふとペイルが気づくと。
そこには見慣れない光景が広がっている。
何やら、ベッドに。
音と光を出す板――てビレだか胸ビレというらしい、いや間違えたテレビだった――が見える。
そして、アンヌの姿も。
「あ、そ、そういえば……アンヌは、ここでは何て名前なの?」
ペイルははっとし、アンヌに尋ねる。
そう、ペイルがここでは青夢という名であるように。
アンヌにも、何かこの世界での名があるはずだ。
「ああ、樽奇術アンヌ。この魔女訓練学校の転校生。だから、呼び方はそのままアンヌでいいよ!」
「あ、そうなの……わ、分かったわ!」
しかしアンヌは、アンヌのままだった。
ペイルはそこに妙な安心感を覚える。
と、その時である。
「……先日の謎の生物による襲撃は、魔法塔華院コンツェルンの部隊により撃退されました。しかし、電賛魔法システムの接続障害は未だ続いており……」
「!」
「! え、あ、アンヌ?」
ペイルははっとする。
アンヌは手近に置いてあった何やら平たく比較的縦長の板――これも確か妹コントローラー、間違えたリモートコントローラーというらしい――を徐に取り、テレビを暗くして見せた。
「ね、すごい魔法でしょ? さ、また法機の蔵に行きましょう。」
「え、ええ……」
ペイルはやや首を捻りつつ。
アンヌと共に、法機の蔵に向かう。
◆◇
「……あった。」
「うん、これだね! さあて……View」
「こらあ、誰だい!」
「! ひっ!」
そうして蔵に忍び込んだペイルやアンヌだが。
今回は前回のようには行かず。
誰かに見つかってしまう。
「! き、君は魔女木さん!」
「! や、矢魔道……さ〜ん♡」
が、その人物を見て。
ペイルの頭は、かつてマリアナや法使夏や剣人を前にした時よりも早くこの夢の中の設定に馴染む。
それは、この青夢の想い人であり。
魔女訓練学校の訓練機整備長――のみならず、ペイルたちが調べていた法機をはじめとする強力な法機群の改造にまで通じている人。
矢魔道士である。
「? 彼女は?」
「あ、はいっ! 転校生の樽奇術アンヌさんです!」
「初めまして。」
「ああ、初めまして。」
「ち、ちょっ!? あ、握手?」
が、ペイルはアンヌを矢魔道に紹介した後。
矢魔道と握手をするアンヌに、やや嫉妬を覚える。
「いやあ、生徒さんが増えるのは嬉しいなあ! ……っ!?」
「! や、矢魔道さん?」
が、その時。
突如矢魔道を、謎の頭痛が襲う――
――あ、あの……ぼ、僕! あなたのことが好きになっちゃいました!
――あら、ありがとう♡ ……でも、あなたには多分それ以上に好きになるものができるわ。
「(!? こ、これは……小さい頃の記憶……っ!?)」
矢魔道の脳内に浮かんだのは。
かつて、あのアラクネに初めて会った時の記憶。
――そ、そんなものはない!
――今はなくてもできるわ……そうね、例えば法機とか。
――ぼ、僕は! あなた一筋だ!
――あら、ありがとう♡ でもねえ……好きなものに夢中になれる人が、かっこいいって私は思うけどなあ。
――な、なら……僕は、法機を極めます!
それはかつて、今の夢を宣言した時の記憶だった。
「(へえ、あの頃は僕もませてたなあ……ん!?)」
――あら……嬉しいわ♡
が、そのアラクネの瞳に映る自分の姿を見た彼はたじろぐ。
それは何とその頃幼いと思っていた自分の、全く幼くない姿だったのだ。
「……さん!」
「(な、何なんだこれは?)」
「矢魔道さん!」
「……ん? あ、ご、ごめん……」
と、ふと矢魔道は気づく。
ペイルとアンヌが心配そうに覗き込んでいる。
どうやら、頭痛で苦しみ蹲っていたようだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「な、何でもないよ! さ、さあ。もう部屋に帰りな、教官にでも見つかったらドヤされちゃうよ?」
「あ……は、はい!!」
矢魔道は、ペイルとアンヌに部屋に戻るよう言うと。
自身は一人、法機の蔵――もとい、格納庫に残る。
「はあ、はあ……何だろう、今のは。」
矢魔道はそこで、独り言ちた。
◆◇
「結局! 新しい術句得られなかったねアンヌ……」
「まあ、しょうがないわよ! さあ、今日も戦わないと!」
「……ええ、そうね!」
その数日後――それは現実世界でまたドラゴンが確認された日。
ペイルたちは軍を引き連れ、レッドドラゴンに騎乗し。
ネメシス星フラン星界オルレアンの東にあるジョウジョーという、やはりブリティ星界の手に落ちた町にいた。
「ええい、あれが噂に聞くドラゴンか……だが! 恐れることはないぞ、こちらにも火を吹くものがいるからな! 火砲を向けよ、発射用意!」
そしてジョウジョーとペイル率いるフラン星界軍を隔てるノワール川橋要塞にて。
待ち構えていたのは、ブリティ星界軍だ。
「……行くよ、レッドドラゴン! hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
「放てええ! hccps://gea.tarantism/、セレクト ファイヤリングフォートレス エグゼキュート!」
ペイルがレッドドラゴンに命ずる、光弾の連射と。
要塞からの火砲の連射は、ほぼ同時だった。
「うん、いいわペイル! そのまま」
「くっ! あ、頭が!」
「! ぺ、ペイル!」
しかし、その時。
ペイルはオルレアンで感じたような、頭痛を再び感じ――
◆◇
「くっ、このドラゴン光弾を放って来るわ!」
翻って現実世界。
とある海辺の街。
三機の空飛ぶ法機グライアイと、スフィンクス艦に取り囲まれ。
再び現れたドラゴンは今、無数の光弾を放っている。
「hccps://graiae.wac/、セレクト グライアイズアイ! ……愛三、綻びがあるわ!」
「おっけー! hccps://sphinx.wac/、セレクト 大いなる謎 エグゼキュート!」
が、そのドラゴンの攻撃の綻びはグライアイにより見つけられ。
そこめがけてスフィンクス艦による暗号化攻撃が、ドラゴンに当たったのである。
するとドラゴンは、たちまち動きを鈍らせる。
「や、やったお姉さん!」
「よし! さあ英乃に二手乃、今こそ」
「hccps://IsabeauDeBaviere.wac/GrimoreMark、セレクト 売喧嘩妃、エグゼキュート!」
「! み、皆退避!」
「!? き、きゃあ!」
が、その時だった。
突如そんな龍魔力四姉妹に、攻撃が向かう。
しかしそれは、姉妹にではなく。
ドラゴンに当たるかと思いきや、やはり擦り抜ける。
「おっと、まだあなたたちに邪魔される訳にはいかないの……hccps://IsabeauDeBaviere.wac/、セレクト! 売買領域 エグゼキュート!」
と、そのまま攻撃の来た方向より何やら法機がやって来た。
「な、何であってあれは!?」
「え、ええマリアナ様……」
「あ、あれは……?」
「……」
そこへようやく自機に乗り戦場に迫って来ていた凸凹飛行隊が、首を傾げる。
「あら? ……確か凸凹飛行隊の皆さん、ですよね? 初めまして。私の名前は十魔女蒼です。」
「! な、何ですって?」
「と、十魔女……? マリアナ様、ご存じで?」
「い、いいえ! わたくしも」
が、そんな彼女たちに気づいた法機から自己紹介をする。
「そしてこの娘は私の可愛い可愛い法機ちゃん、イザボー・ド・バヴィエールです。」
「! ま、まさかその法機は」
「ええ……ダークウェブの女王からもらったものです!」
更に彼女は、自機も紹介する。
――ほうら、どうかしら女王様? これがこちらの世界よ。
「ええ……素晴らしいわ! あんな箱庭とは訳が違う、どこまでも続く世界……」
何と、十魔女蒼と名乗った少女の脳内にはあの蒼き騎士の声が。
そして、その少女からはあのクイーン・バベルの声が出ているのだった。




