表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第一翔 凸凹飛行隊(バンピーエアフォース)始動
12/193

#11 その名はクロウリー

「あ、アラクネ……それがあなたの……ん!?」


 アラクネに見惚れつつ、ソードはやがて合点する。

 そうか、この女は。


 青夢やマリアナが強力な空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)を手にする度にその機体に重なるように空に浮かび上がっていた、あの女だと。


 訓練学校を襲った、ソード・クランプトンの一件から数日後。


 その次には幻獣機タラスクが、この訓練学校を襲い。

 青夢は自機であるジャンヌダルクを発進させて対処するが、未来予知によりジャンヌダルク単機では対処できない敵と分かり。


 止むを得ず青夢は、マリアナに新たな空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)カーミラを得させ。


 彼女が操る空飛ぶ法機・カーミラと、それにより子機化された法使夏機・ミリア機との(不本意ながらの)共闘により、どうにか幻獣機タラスクは撃破されたのだった。


 そうして、次は。

 捕らえられたソードの警察への引き渡しのため、その護送機直衛の任務を帯びた青夢たちは今護送機を取り囲んで引き渡し場所へと向かっているのだが。


 青夢ら護衛飛行隊は魔男の騎士であるダルボとマギーの攻撃を受けて絶対絶命の危機に陥っていた。


 更に、ソードも自力で拘束を破り。

 護送機を抜け出してミリア機を乗っ取り、そのまま魔男の幻獣機部隊に合流しようとするも。


 ダルボとマギーから、既に魔男の円卓にてソードは用済みとの決定が下り始末される予定と知り愕然とした。


 そうして自暴自棄になったソードは。

 破りかぶれに、ダークウェブへとアクセスする。


 ――サーチ、ビーイング オーバー ザ 魔男!


 魔男を、超えるという願いによって。

 そうして辿り着いたのが、今の謎の空間である。


「あんた……魔女たちが空飛ぶ法機を手にした時に現れていた女か!」

「ほほほ……ええ、その通り。」

「! そうか……あんたが!」


 アラクネの微笑む様に、ソードは怒り。

 彼女に、食ってかかる。


「まあまあ! それよりも……あなたの話をしましょ?」

「! くっ、離れろ!」


 アラクネに抱きしめられ。

 ソードは大いに照れて離れる。


 予てより、魔女を憎み生きてきたソード。

 無論女性との関わりなど、まるでない半生だっただけに免疫はない。


「ふふふ……悪ぶっている割には意外と初心なのね、かわいい。」

「くっ! だ、黙れ! お、俺にそんな侮辱を」


 ソードの顔は、ますます紅潮する。

 女性への免疫のなさを見抜かれた上に、かわいいなどと。


 ソードはすっかり、プライドを傷つけられた思いである。

 が、アラクネは離す素振りは見せない。


「く……アラクネと言ったな、離せ! 俺は、俺はもういいんだ! 俺には、もうどこにも居場所なんか」

「ええ……かわいそうに。」

「……ふん、今度は哀れみか!」


 アラクネは離すどころか、腕の力を強めている。

 ソードはますます、屈辱を感じる。


 おのれ、こんな哀れみまで――


 だが、アラクネは。


「ええ、あなたが今感じているのは屈辱……そんな感情、自分なんかどうでもいいって人が持つかしら?」

「!? く、そ、それは……」


 ソードはまたも、図星を突かれる。


「それに、あなたをここに導いたのは……あなた自身の、望み。」

「俺の、望み……?」


 ソードはそのアラクネの言葉に、はっとする。

 ここに来る前に、奪ったミリア機にて唱えた検索術句。


 あの時は、ただただどうでもよさから発した言葉だったと思っていたが。


「それも、自分なんかどうでもいいって人が、出す言葉かしら? 人がふとした瞬間に出る言葉や見せる顔が、その人の本当の姿なのだとしたら……それが、あなたの本当の姿なんじゃないの?」

「俺の、本当の姿……俺は前から、あんなことを望んでいたというのか……? ……っ! くっ、なぜだ!」


 アラクネの言葉を聞きながら、ソードは言い知れぬ思いに支配される。

 そして、そのためかソードの目から涙が一筋流れる。


 あんな望みを、まだ魔男の一員であった頃から抱いていたというのか――


「……受け入れがたいでしょうけど、まずは受け入れてあげて。少なくとも、それも本当のあなたの一つなのだから。」

「本当の俺の、一つ?」


 アラクネはソードの顔を覗き込む。

 ソードはまたも、ドキリとする。


「そう。さっき、わたしはあなたについて、あなたは自分のことをどうでもいいと思っていないといったけれど……それも違うわね。そうやって自暴自棄になっている今のあなたも、まぎれもなく本当のあなた。でしょう?」

「……ああ、そうだな……」


 ソードはアラクネの更なる言葉に、ようやく笑顔を見せる。

 そうだ、まだ自分のプライドを捨てきれていないことも事実。


 しかし、自暴自棄になっていることも事実。

 ならば、まずはそんな自分を認めねばなるまい。


「ふん……まさか、魔女に説得されるとはな。」

「あら、私魔女じゃないわよ?」

「! な、何?」


 が、ソードは。

 何気なく放った一言がアラクネに否定され、驚く。


 魔女では、ない?


「そ、そうだそもそも……ここは何だ?」


 ソードは、先ほどから抱いていた疑問をアラクネにぶつける。


 何やら真っ暗な中に、光の網目が広がる空間。

 ここは――


「言ったでしょ? ここはダークウェブ。あなた方が普段使っている」

「そ、そんなことは先ほど聞いた! し、しかしダークウェブはこんなものでは」


 ソードはアラクネに、食ってかかる。

 確かに、戦闘時にはいつも利用していた。


 しかし、それはこんな空間ではなかったはず。

 何故。


「なるほど、覚えてないのね。」

「な、何?」


 ソードはアラクネの言葉に、ますます困惑する。

 が。


「まあいいわ。どちらにせよ……今は、そんなこと話している場合じゃないでしょう?」

「! あ、ああ……そうだな。」


 アラクネは至極冷静に、ソードに思い出させる。

 今が、戦闘中であったことを。


「さあ……もう一度、あなたの望みを。」

「ああ……hccp://baptism.tarantism/! サーチ、ビーイング オーバー ザ 魔男!」


 ソードは、改めて望みを言う。

 そう、オーバー ザ 魔男。


 魔男を、超える――

 そして、ソードの前には。


「!? こ、これは!」


 hccps://crowley.wac/。

 彼が驚いたことに、そして青夢とマリアナの時と同じように、このURLが浮かんだ。


「さあ、それぞあなたの力……今こそ、解き放ちなさい!」

「あ、ああ……セレクト、hccps://crowley.wac/! ダウンロード!」


 ソードは尚戸惑いつつも、その力をダウンロードする――


 ◆◇


「うっ!」

「くっ、ま、眩しい! 目が、目があ!」

「! こ、これはまさか!?」

「ま、まさか……あの者は魔男、魔女ではないのよ!」


 現実世界では、ほんの一瞬の後。

 突然光り出した、ソード操るミリア機にその場の全員が目を眩ませる。


 この現象に見覚えがある青夢とマリアナは、信じられないものを見た気持ちだ。


 魔男であるソードが、まさか――


「なるほど……まさか俺が、こっちの立場になるとはな!」


 ミリア機の中から、まだ困惑しているソードの声が聞こえる。


 そう、青夢に敗れたあの日。

 どちらかと言えば、青夢機がこの現象になっているのを傍観する側であった。


 それが、今では。


「アラクネ、さん……」


 尚も光るソードの乗機に、アラクネの幻影が浮かび上がり。


 青夢もマリアナも、これにはさすがに現実を受け入れざるを得なくなる。


 まさか、ソードがとは。


「さあ、ソード。あなたの力――空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)クロウリーで、手始めにあの魔男たちを超えてごらんなさい。」

「ああ……そうさせてもらう!」

「ふふ……そう、それでいいの。」


 アラクネはソードを促し終わると、微笑んで姿を消す。


「な……何事なのですかこれは!」

「あ、ああ……オーマイガー!」


 今度こそ事態が分からず、マギーは困惑し。

 ダルボは先ほどの演技としてのものではなく、心の底からの『オーマイガー』を言う。


「ああ……さあて、蝙蝠男の騎士団員! 俺を始末してもらおうか!」


 ソードはミリア機――いや、空飛ぶ法機クロウリーから叫ぶ。


「くっ……ええ、そうさせていただきますよ! ……セレクト、アシッドクラッキング エグゼキュート!」

「くうう! 俺っちも! ……セレクト、バットクラウド エグゼキュート!」


 マギーとダルボの各幻獣機から、攻撃が放たれる。

 マギーは目に見えぬクラッキング、ダルボは目に見える分身による体当たり攻撃だ。


 これに対し。


「…… hccps://crowley.wac/、サーチ アサルト オブ ウィッチエアクラフト・クロウリー! セレクト、アトランダムデッキ! ……(ザ デス)――デス オブ ライン エグゼキュート!」


 ソードは、クロウリーの能力を使う。

 アトランダムデッキ――タロットの大アルカナ(絵札)22から一つ選び、それに因みつつ状況に合わせつつ技を創造する技だ。


 果たして。


「!? わ、わたくしのカーミラの接続が?」

「! くっ、アシッドクラッキングが!」

「うわっ、俺っちのバットクラウドが!」


 この技により、通信が切断され。

 カーミラのネットワークが切られ、また幻獣機グレムリンのクラッキングが無効化され、更に幻獣機ドラキュラの分身たちが一斉にコントロールを失って墜落した。


「! あ、私の機体が……」


 法使夏機も、グレムリンの支配下から解放された。


「ふう、やっとジャンヌダルクも……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」


 青夢も、グレムリンの妨害から開放され。

 改めて、予知を行う。


 しかし、その間にも。


「くっ……私を舐めないでください!」

「ああ……俺っちも!」


 マギーとダルボは、体勢を立て直し始める。


「!? こ、これは?」


 マリアナは、ふとあることに気づく。

 それは、先ほどのグレムリンの攻撃による一種のコンピュータウイルスが、カーミラ内に残存していることだ。


「これは、もしかして……よし、やって差し上げますわ! ……サーチ、クリティカル アサルト オブ ウィッチエアクラフト・カーミラ! セレクト、ファング オブ バンパイア! エグゼキュート!」


 マリアナは、直ちに技を発動する。

 その能力を、向けた先は――


「くっ! この私の幻獣機グレムリンを逆に、クラッキングしようなどと!」


 マギーだった。


「……まあ、良いでしょう! "逆に"、"逆に"! あなたの空飛ぶ法機を返り討ちにして差し上げますよ!」


 マギーはそれでも、譲らない。

 こちらが深淵を覗き込めば、深淵もまた然りとはよく言ったもの。


 ならば、"逆に"、"逆に"。

 今繋がっているこの経路を使い、攻撃するのみである。


「……サーチ、クリティカル アサルト オブ 幻獣機! セレクト、ミスチーフ オブ グレムリン! エグゼキュート!」


 マギーも、必殺技を撃ち。

 たちまちマリアナとマギー、必殺技の撃ち合いとなる。


「ま、マギーちゃん! よおし、その間に俺っちは」

「いや、俺が相手だ!」

「くっ、裏切り者のソード野郎!」


 その間に魔女たち護送機直衛部隊を攻撃しようとするダルボだが、そこへソードの駆るクロウリーが立ちはだかる。


「さあて……サーチ、クリティカル アサルト オブ ウィッチエアクラフト・クロウリー! セレクト、アトランダムデッキ――愚者(ザ フール)、フーリッシュワイズ エグゼキュート!」

「くっ、このお! ……サーチ、クリティカル アサルト オブ 幻獣機! セレクト、ジャイアントバット エグゼキュート!」


 ソードとダルボも、必殺技の撃ち合いとなる。

 ダルボは、新たに子機である分身を多数生み出し幻獣機ドラキュラに合体させ巨大な蝙蝠を成して突撃する。


 そこへ、ソードのフーリッシュワイズが直撃し――


 ◆◇


「なっ!? く、これは!?」

「ほほほ……あなたが差し向けてくれたウイルスは、すでに解析済みだったのよ!」


 一方、幻獣機グレムリンと空飛ぶ法機カーミラの撃ち合いはカーミラに、軍配が上がった。


 既にグレムリンへの抗体を持っていたカーミラが、グレムリンのクラッキングを退けたのである。


 カーミラはたちまち、幻獣機グレムリンのデータを破壊していく。


「お、おのれ! み、認めない……私がこんな所で! だ、ダルボ……癪ですがあなたに後は」

「ぐああ!」

「だ、ダルボ!?」


 が、そのダルボ率いる幻獣機ドラキュラも。

 ソード率いるクロウリーのフーリッシュワイズ――子機を錯乱させる技により、自らの必殺技に蝕まれてしまう。


「おお、これはすごい!」


 ソードは自らの力に、喜ぶ。


「おーっ、ほほ! やっぱり、わたくしに逆らう者は皆こうなるのよ!」

「さ、さすがですマリアナ様!」


 マリアナも高らかに笑い、法使夏も彼女を称える。

 が、その時。


「ソード・クランプトン、魔法塔華院マリアナ! 幻獣機グレムリンとドラキュラを融合させないようにして!」

「!? 何?」

「何ですって、また魔女木さんあなた指図して」


 突然の青夢からの呼びかけにソードとマリアナは、大いに困惑するが。


「!? なるほど……ならば!」


 マギーはその話に、合点し。

 そして。


「……hccps://gremlin.edrn/、アカウント:マギー・フェルゼン、パス:********……セレクト、ライカンスロープ フェーズ! エグゼキュート!」

「!? な、ライカンスロープフェーズ!?」

「え?」

「ま、マギーちゃん、そ、それは」


 マギーの突然の詠唱に、ソードとダルボは大いに驚き。


 マリアナは事情が分からず、困惑する。


「……サーチ、アサルト オブ 幻獣機、セレクト アシッドクラッキング! ……ダルボ、あなたに託しましたよ、大分癪ですがね。」

「や、止めてくれマギーちゃん!」

「……エグゼキュート!」


 珍しく笑顔を浮かべるマギーを、ダルボは必死に止めるが。


 マギーは、最後の力を振り絞り詠唱する。

 そして、次の瞬間。


 マギーはふと、気を失い。

 同じく停止した幻獣機グレムリンと共に、墜ちる。


「ま、マギーちゃん! ……ぐっ!」


 が、その瞬間。

 暴れて共食いをしていた幻獣機ドラキュラと子機が、大人しくなる。


「マギーちゃん……へ、分かったよ! なら俺っちも!」

「や、止めろダルボとやら!」


 後を追おうとするダルボを、事情を知るソードは止めるが。


 当然ダルボが、それを聞くはずもなく。


「……hccps://dracula.edrn/、アカウント:ダルボ・アンフィス、パス:********……セレクト、ライカンスロープ フェーズ! エグゼキュート!」

「くっ!」


 ダルボもまた、発動する。

 幻獣機の最終形態・ライカンスロープフェーズを――


 そして。


「……がああ!」

「ぐああ!」

「なっ……何が、起こっているんですのこれは!?」

「くっ……これで最期か!」

「ああ……また、救えなかった……」


 事情を知らぬマリアナ・法使夏はただただ困惑し、事情を知る青夢・ソードは頭を抱える。


 そしてダルボは先ほどのマギーと同様、突然気を失い。


 幻獣機ドラキュラは子機との合体形態のまま、呻めき声を上げる。


 その呻めき声は、それまでの幻獣機ドラキュラとは違い。


 まるで、人の呻めきのようであった。

 そう、あの幻獣機タラスクのような――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ