#118 乙女の反撃
「まったく、まさか本物のドラゴンがいるなんて! これは何なの?」
法使夏は目の前の敵――本物のドラゴンを睨むが。
もとよりそれに問うても返事などある訳がない。
あるとすれば。
「くっ、また回避!」
「ああ、もう鬱陶しいわね! ……hccps://rusalka.wac/ 、セレクト、儚き泡 エグゼキュート!」
返事代わりの光線が放たれ、凸凹飛行隊はまたも回避し。
ならばと法使夏は、自機より泡の攻撃を放って見せる。
たちまち泡の塊たる水流は、ドラゴンへと迫り――
「!? な!」
が、そこで法使夏は――いや、凸凹飛行隊の面々は予想だにしない光景を見た。
なんと、泡がドラゴンを擦り抜けその背後に炸裂する。
「ば、馬鹿な! 何だ今のは……」
剣人はドラゴンを睨む。
相変わらずドラゴンは、ただただ唸るのみだ。
「くう、ならばわたくしの一撃をお見舞いして差し上げてよ! hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ バンパイヤ エグゼキュート!」
マリアナはドラゴンに向け、ハッキング攻撃を仕掛ける。
しかし。
「! て、手応え……と言うより、何か抵抗感が!」
マリアナは自機の攻撃が敵に当たったことを感じるが。
やはりというべきか、それ以外は何もできずじまいである。
が、それはドラゴンにも少し感じ入らせる部分があったのか。
不愉快そうに、マリアナの機体を睨む。
「そうだな、お前に問うても仕方がない……答えは戦いの中にこそ! hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 魔術師――炎法撃 エグゼキュート!」
剣人はそんなドラゴンの様子に、覚悟を決め。
クロウリーに向けて術句を唱える。
たちまちクロウリーからは火炎エネルギー流が射出されるが。
それに気づいたドラゴンも、再びその火炎エネルギーにぶつける形で光線を放つ。
それにより空中では、エネルギー乱流のぶつかり合いとなる。
「! 今よ魔法塔華院マリアナ、雷魔法使夏!」
「言われなくても分かっていてよ魔女木さん! hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ バンパイヤ エグゼキュート!」
「hccps://rusalka.wac/ 、セレクト、儚き泡 エグゼキュート!」
その様子を見た青夢の言葉に、マリアナも法使夏もここぞとばかりにドラゴンへ攻撃を放つ。
剣人の攻撃と拮抗している今、ドラゴンに他の攻撃は不可能であり。
その隙を突こうという訳である。
たちまち攻撃は、ドラゴンのがら空きの胴へと迫り炸裂――
「! くっ、また効かないというのであって!?」
「そ、そんな!」
せず。
またも法使夏の攻撃は、ドラゴンの胴を擦り抜けて手近の場所に炸裂し。
マリアナの攻撃は擦り抜けこそはしなかったが、やはり僅かな手応えの他は何もダメージを与えられた様子はない。
「くそっ、これでも駄目か! くう、ドラゴン、か……」
剣人はそれでも尚、ドラゴンの光線と自身の炎を拮抗させている。
そして、かつての自機――幻獣機ドラゴンを思い出す。
青夢について行くことを決めた今となってはその自機を失った戦いも黒歴史ではあるが。
「苛々させてくれる! 誰だか分からないが!」
それでも、かつての自機を思わせる現在の敵には嫌悪が湧かずにはいられなかった。
剣人の怒りの情を汲み取ってか、クロウリーの炎は更に強まっていくが。
それに負けじとしてか、ドラゴンが放つ光線も強まる。
そして――
「くっ!?」
「きゃっ! ま、眩しい!」
かつて、かの幻獣機父艦バハムートと戦った時のごとく。
たちまち凸凹飛行隊は、クロウリーの炎とドラゴンの光が対消滅により眩く輝く――
「!? え!?」
「な、ど、どういうことであって? あのドラゴンの背に、人が!?」
「な!? あの人影は……誰、だ?」
しかし、その光の中。
マリアナ、法使夏、剣人は見た。
それは先ほどまでの戦いではまったく見られなかった、ドラゴンに騎乗する人物。
それは二人いて――
「……っ! あ、あら?」
「ま、マリアナ様ご無事ですか!? ……って、あれ?」
「? て、敵はどこに?」
やがて光は消えるが、目を開けた凸凹飛行隊の面々はまたも晴れぬ疑問を抱えることになる。
なんと、ドラゴンが消えてしまったのだ。
「た、倒したのか……?」
剣人は辺りを見渡す。
が、当然というべきかドラゴンの姿はなく。
また、その残骸らしきものも見当たらない。
「……まあいいわ。さ、もう敵は去ったみたいだし撤退しましょ。」
「! あ、ああ……」
結局、不可解さはあったが。
青夢という飛行隊長の言葉もあり、凸凹飛行隊は撤退して行く。
「しかしあの人影……どこかで」
去り際、剣人は戦場だった場所を見る。
先ほど光の中に見えた人影は、どこか既視感があったのだが――
「や、やったぞ!」
「今まで近づくことすらできなかったこのオルレアンの砦が、陥ちた!」
「やはり神の奇跡だ、ブルーメにタルクージュ!」
同じ頃、ネメシス星フラン星界――いや、厳密には元フラン星界領ながらもブリティ星界に制圧されていた町・オルレアンにて。
フラン星界軍の兵士たちが讃えるのは、ブルーメとタルクージュという二人の少女――
「やったね、ペイル!」
「え、ええ……ありがとう、ドラゴンとタラスク。」
そう、ペイル・ブルーメとアンヌ・タルクージュである。
そして、彼女たちが騎乗していたのは。
何と、現実世界で凸凹飛行隊と一戦交えていたあのドラゴンだった。
◆◇
「お願いします! 私たちを王太子様に会わせてください!」
「ならぬ! 貴様のようなどこの馬の骨とも分からぬ者をお目通しするなど、文字通り馘が飛ぶような真似を誰が!」
「そ、そこを何とか!」
「やかましい、ならぬと言っておろう!」
「きゃっ!」
「ぺ、ペイル!」
ネメシス星フラン星界南部。
話は、ペイルがゲーの夢に送り込まれた翌日――その現実世界でドラゴンと凸凹飛行隊の戦闘があった日より数日前に遡る。
事実上の臨時王都である、フォートルジュ。
その中心にある城の門前でペイルとアンヌは衛士にシャルルへの目通しを懇願するが。
衛士長は聞く耳もたぬとばかり彼女たちを無碍にあしらい、ペイルを突き飛ばす。
「何の、騒ぎか?」
「!? ははあ、よくぞお戻り下さいました王太子殿下! 申し訳ございません、この者たちはすぐに」
「!? お、王太子殿下! あなたが!」
「! こ、これ貴様」
その都近衛騎士たちを率いて騎馬にて戻って来たシャルルは、城前の騒ぎに気づくが。
そこへペイルが、縋るようにシャルルに近寄るのを衛士長も近衛騎士も阻止しようとする。
「鎮まれ! 見たところ若き娘……そのような無抵抗な娘に力を振るうなど騎士と衛士長の名折れであるぞ恥を知れ!」
「!? は、ははあ!」
が、そのシャルル自身の鶴の一声により。
衛士長や近衛騎士は手を止める。
「王太子……殿下……」
「大丈夫か? 衛士長、この娘たちを城内へ。」
「はっ! ……はあ!?」
うずくまるペイルとそれに付き添うアンヌを見かねてか、シャルルはそう指示を下したが。
それに戸惑う衛士長たちである。
「傷を負わせたのは卿らであろう? さあ、こちらに……すまない、大きな傷にはなっていないようで良かった。」
「あ、は、はい……」
シャルルはペイルとアンヌを、そのまま城内へと引き入れる。
◆◇
「……誠にすまなかった!」
「あ……い、いえいえ! そんな」
城内。
近衛騎士がずらりと並ぶ謁見の間にて。
手当を受けたペイルとアンヌに、シャルルは平謝りしている。
彼女たちも、王太子より平身低頭な態度を取られたとありやや決まり悪げに感じていた。
「その詫びと言っては何であるが……ペイル、アンヌと言ったな。私に用があると聞いたが、何の用だ?」
「! ……はい、王太子殿下。」
が、シャルルから水を向けられ。
ペイルとアンヌは、居住まいを正す。
「単刀直入に申し上げます! 私たちには……ブリティ星界を倒す力があります。」
「!? な、何!?」
二人のこの言葉には、シャルルのみならず。
近衛騎士たちまでもが、騒ぎ出す。
「ざ、戯れ言を! そ、そんな話が」
「待て。……ならば問おう、そなたらよ。何をもって、ブリティ星界打倒が為せると申すのか?」
「……はい。」
しかし騒ぎのあるその場を治め。
シャルルは今一度、二人の少女たちに問う。
「……hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト ファミリアサモニング エグゼキュート!」
「!? な、何だその呪文は……ぬっ!」
「! う、うわああ!」
「そ、それは!?」
が、またも場は騒ぎになる。
それは――
「殿下、お騒がせしてすみません。しかし……私たちがブリティ星界に抗える力と言いましたのが、この力である以上よくご覧いただきたいのです。」
「う、うむ……」
ペイルとアンヌが今の術句により呼び出したもののせいである。
それは、一匹が翼を生やしたドラゴン。
もう一匹が翼はない代わりに厚い鎧で身体を覆ったドラゴン――タラスクである。




