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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第七翔 暗黒通神衛星ネメシス大戦 
117/193

#116 フラン星界

「あーあ……これからどうなるんだろ。」

「何してるの、ペイル?」

「! あ……アンヌ。」


 ネメシス星の一国・フラン星界のゲー紀元暦1405年。


 王都パレス郊外の農地で水を汲みつつ、ペイルは物思いに耽っていた。


「なんか心配事?」

「うん……ブリティ星界との戦争のこと。」

「ペイル……それは、私たちが心配しても、仕方ないことでしょ?」

「それは、そうだけど……」


 それを心配するのは、親友のアンヌだ。

 ブリティ星界――フラン星界とは海を隔てた隣国である。


 両国はフラン星界の王位継承にブリティ星界が干渉して来たことで、長らくいがみ合い戦争状態が続いていたのだ。


「ああ、汗を掻くのはええ気分じゃ……さあ、ゲー様にお祈りを! hccps://gea.tarantism/blessing、サーチ ブレッシング アス!……さあ、我らが地母神ゲー様! 何卒我らに……」


 道を行けば、近所の農夫の老人が豊穣の祈りを捧げていた。


 そう、地母神ゲー。

 今青空に巨大な弧を描き、夜でも空高く見える巨大な星――フラン星界では偉大なる母なる女神として崇拝を集める存在である。


 その祈りは、地母神ゲーから魔法を授かるための呪文でもあった。


 自らの検索ワード(祈り)を伝え、地母神ゲーより恵みをもらうための――


「ん? あ、ああ! ば、婆さんや! 今、ゲー様から呪文を授かったぞ! 雨を降らす魔法じゃ!」

「まあ……おじいさん、それでは早く唱えましょう!」

「よ、よおし……っ! い、いや待つんじゃ!」

「ん? ……あっ!」


 老人は妻に嬉々として呪文を伝えるが。

 やって来た馬車に気づき、口を噤む。


「道を開けよ! 皆、頭が高いぞ! このお方をどなたと心得るか、このフラン星界の美しき女王陛下たるバベル様であるぞ。直れ!」

「は、ははあクイーン・バベル陛下!」

「さ、ペイル私たちも!」

「う、うん! ば、バベル様!」


 馬車は畦道を進みつつ、護衛の騎士たちが居丈高に振る舞い。


 その馬車に乗るクイーン・バベルも日差しを上げ外を見る。


「く、クイーン・バベル陛下! このような下々の輩共などにご尊顔を拝見させるなど」

「いいえ、ここは国において最も重要な作物ができる場所です。しかとこの目に焼き付けておきませんと。」

「へ、陛下!」


 バベルはそのまま、馬車から降りて来た。

 護衛の騎士たちはすっかり慌てた様子である。


「へ、陛下あ!」

「ペイル、さあ頭をさらに下げて!」

「は、はい!」


 いや、慌てたのは騎士たちだけではなく。

 ペイルやアンヌ、農夫婦たちもだった。


「いいのよ、そんなそんな……あなたたちの頑張りにこの国はかかっています、これからも頑張って!」

「! は、はい!!」


 バベルはそれだけ言うや、馬車に戻り。

 そのままフトゥーコルスワ村を後にする。


「……ただいま!」

「お帰り、ペイル! アンヌ! お父さんもう帰ってるから、早くお昼にしましょ。」

「はーい!!」


 母が台所から顔を出し、帰って来たペイルとアンヌを迎える。


 二人はそのまま、席についた。


 が、ペイルは。


「!? お、お父、さん……?」

「ん? どうした、ペイル?」

「!? う、ううん何でもない……」


 何やら胸が疼きペイルの目は少し揺れたが。

 すぐに気を取り直す。


「何? クイーン・バベル陛下が? ……ああ! それはお父さんも見たかったなあ!」

「うん、おじさまにもあれは見てほしかったなあ! ねえペイル? ……っ! ぺ、ペイル?」

「……ご、ごめん何だか……」


 しかし、その後で食事が進む間。

 ペイルは何故か、泣き出してしまう。


 これは、一体――


 ――全ての人を、お前が救え。


「ペイル!」

「ど、どうしたの? 気分でも悪いの?」


 父と母も、心配している。


「うん、ごめんお父さんお母さん……本当に何でもないから!」


 が、ペイルは。

 涙を拭い、何とか笑顔を作る。




「クイーン・バベル陛下の、おなーりー!」

「母上! お帰りなさいませ。」

「シャルル。ええ、只今戻りました。」


 その頃。

 王都パレスの王城に戻って来たバベルは。

 従者ほか、息子のシャルルからの出迎えを受ける。


「母上御自ら農村のご視察とは……わたくしめにお任せいただいてもよろしかったものを」

「いいのですシャルル。今はわたくしが女王である以上、それはあなたが王になられた時になさればいいことですもの。」

「母上……」


 息子の言葉に、バベルは謙虚な言葉を返す。

 が、そう言う間にも彼女の視線は窓の外へと注がれていた。


「(あの地平線の向こうにブリティ星界……そして、空の果てには地母神ゲーが――いいえ、地球が!)」





「眠れないの?」

「うん……ブリティ星界との戦いは、年々激しくなっているじゃない? そんな時に私が、寝ててもいいのかなって……」

「まったく……ペイルは考え過ぎねえ。もしかして、昼間の涙もそれ?」

「! そ、そんなんじゃ……とにかく! この国は今危険なの、だから!」

「それは、私たちが心配してもしょうがないでしょ?」

「うっ……」


 その日の夜。

 ペイルとアンヌは寝室で語り合っていた。


 灯りを点けるのは油の無駄なので、月明かりの下である。


「そんなことだと……ゲー様の夢はお預けよ!」

「! あ、ひ、ひどーい!」


 しかしアンヌの言葉に、ペイルは抗議する。


「じゃあ、寝る?」

「! え、ええ……そうね。」


 が、アンヌに誘導される形で。

 ペイルは寝ざるを得なくなった。


 いつもこうなるが、まあ今夜は仕方ない。

 ペイルはひとまず、納得することにした。


「空より見守ってくれている地母神ゲーの夢……さ、今夜も楽しみましょう!」

「さあて……hccps://AomuMameki:******@gea.tarantism/dream、ログイン、エグゼキュート!」



 そうして、呪文を唱えると。

 ペイルの意識は、眠りの中へと落ちていった――


 ◆◇


「あれ? ここって……」

「ん? どうしたの青夢?」

「え!? あ、い、いや……いやあ〜、今日も紅茶美味しいねえ〜!」


 ペイルは夢の中に入り、ふと呆けていたが。

 見ればそこは、何やら自分以外二人の少女と囲むテラスのテーブルが。


 しかしペイルはその内一人の少女に声をかけられはっとする。


 そうだった。

 私はこの夢の中では、アオム・マメキ――もとい、魔女木青夢だった。


 ペイルはそう思い出し、自分自身に言い聞かせる。


「え、えっと二人は……ま、真白魔導香さんと井使魔黒日さんよね!」

「! ち、ちょっと青夢!」

「え? ……ぐう!? く、黒日……さん?」

「いや青夢ちゃん、いつも言ってたよねえ? 魔導香と真白、名字と下の名前間違えるのは別に間違いじゃないけど……体色で間違えるなって!」

「!? あ、ご、ごめん真白、さん……」


 が、ペイルはすぐに逆鱗に触れることになった。

 そう、ややこしいが色白のロングヘアが黒日。


 色黒のショートヘアが真白である。

 間違えてしまった。


「だあれが、腹の中まで真っ黒だってえ!?」

「ち、ちょっと真白! 何回も言うけど青夢はそこまで言ってないし今名前通り青くなってるからやめてあげてよ!」


 真白に掴みかかられたペイルは――こちらの名前でまで名前通りに――青くなって行く。


「! え、ええそうね黒日……ごめんなさい、私が間違えていたわ!」

「ご、ゴホッ! ゲホッ!」

「だ、大丈夫青夢?」


 黒日の宥めにようやく応じた真白は、手を離す。

 ペイルは、肩で息をする。


 ◆◇


「す、すごーい! 何この塔?」

「え? ビルがそんなに珍しい?」

「あ! そ、そうだね……び、ビルなんて全然珍しくなーい!」


 しかし、外に散策に出ると。

 ペイルの気持ちは晴れた。


 ゲーの夢とはやはりすごい物だと実感したからだ。

 こんな塔――真白と黒日曰く、ビル――は王都パレスでもそうそうあるものではない。


 が、次の瞬間にはペイルの気持ちはまた曇ることになる。


「こんな所にいたのであってね、魔女木さん! まったく、お友達と遊ばれるのも大事ではあるけれど……宇宙選抜に選ばれたからと言って調子に乗っていてはいけなくってよ!」

「あ! え、えっとま、魔法塔華院マリアナ……さん?」

「……はい? 何よ魔女木さん、どうしたのであって?」


 ペイルは目の前にいる少女の姿に、夢の中での設定をまたも思い出す。


 そしてはっとする。

 そうだ、この少女は。


 いや、この女は――


「や、やだ私、さん付けで呼んじゃった! そうよ、魔法塔華院マリアナ……あなたは私をいじめ抜いてくれていた! そんな人を」

「今さらそんな過去の話を持ち出されても仕方なくってよ! まあ言ってあげる義理もないのでいいのだけれど……そういう根に持つタイプは嫌われ者の典型であってよ!」

「な!? な、何ですってえ!」


 ペイル、いや青夢がそう言うや。

 マリアナも負けじとばかり、言い返す。


「こらあ、魔女木! あんた、いつにも増して生意気よ!」

「あ、あなたは雷魔法使夏さ……い、いや雷魔法使夏! そ、そうよ、あなたも私を!」

「はあ? 本当に何言ってんの今さら?」


 法使夏もマリアナと同じ反応である。


「ま、魔女木。お前どこか悪いのか?」

「! あなたは方幻術剣人く……い、いや方幻術! あなた元々敵国の騎士で、私を」

「! そ、それはもはや済んだことだろう!」


 剣人も、法使夏・マリアナと同じ反応だ。

 正確には敵国ではなく同国なのだが。


 さておき。


「ち、ちょっとあなたたち何ですか!」

「青夢に何の用です?」


 真白と黒日は、剣呑な雰囲気でマリアナたちに食ってかかる。


 ペイルの記憶では確か、これもいつものことだったらしいが。


 さておき。


「ええ、そうであってよね。……御用があるから魔女木さん、魔法塔華院コンツェルンまでいらして頂戴! 以上!」

「え? ……あ、は、はい!」

「!? ん?」

「な、魔女木がマリアナ様のお言葉に縮こまるという普通のことができた!?」

「ほ、本当に何があったんだ魔女木?」

「え? あ、あはは……」


 ペイルは思わずマリアナの言葉に気をつけしてしまい、周りの困惑を誘う。


 そうだ、あの女に普段はそんなことはしないのだ。

 ペイルは気づいたが、もはや後の祭りであった。


 ◆◇


 何はともあれ。

 時間の経過と共にペイルにも、この夢の中の世界が理解できるようになって行った。


 この世界とフラン星界とでは、違うことも多いが。

 同時に、同じ所も多いということ。


 まず、この世界にも魔法があり騎士がいる。

 剣も魔法もあるのだ。


 そして、呪文も似通っていた。

 ただ、技術は段違いであり。


 まず宇宙――空の果てを飛び越えた所らしい――にまで行ける技術がこの世界にあり。


「まあ今回の宇宙作戦失敗は……実に、残念でしたわ。」

「はい、お母様……」


 今ペイルの目の前で話しているマリアナの母――フラン星界で言えば大商会の会長らしい――が言う様にペイルが演じる青夢も、その宇宙に行ったという。


 更に、先ほど騎士もいると言ったが。


「魔男の騎士との戦いでは更に、最終的な手柄はあの呪法院さんに持っていかれたとか。しかもマリアナさんあなた……敵の手に一度は落ちたそうですね?」

「はい……申し訳ございません。」


 その騎士――これはフラン星界と同じく、大半が男らしい――は女性たち魔女の勢力と対立しているらしいということなども分かった。


「まあ、政府はあの元女男の騎士団方と手を組み法機の安全性強化の方向で話を進めるようですが。私たちも、次の手を考えなければ。」

「(じ、女男の騎士!? 何か分かんないけど……まあ、女性の騎士もいる、いやいたってことなのね。)」


 ペイルはマリアナ母の話にやや困惑するも。

 ひとまず、自分を納得させる。


 が、その時である。


 ――ペイル、起きて!


「(!? あ、アンヌ!? ぐっ!)」


 突如アンヌの声が響き。

 かと思えば、次には衝撃が彼女を襲い――


 ◆◇


「ん!? な、何どうしたの?」

「ペイル……ごめん、早く起きて! 火の手が迫ってるの!」

「え……? !? きっ、きゃあ!」


 飛び起きたペイルだが。

 アンヌの言葉に周りを見れば、自分は草原に寝かされていた。


 そしてなんと、自分の村が炎上しその火が間近に迫っていることにも気づく。


「とにかく、早く! 逃げましょう!」

「で、でも! お、お父さんとお母さんは!?」

「……だ、大丈夫よ! 先に逃げているから!」

「そ、そうよね……」


 ペイルは後ろ髪を引かれる思いだが。

 アンヌの言葉をまずは信じることにし、今は逃げる――


 ◆◇


「! 魔女木さん、どうしたのであって?」

「あ、すみません会長! ちょっと、目眩が……」

「まあ……宇宙疲れかしら、大丈夫魔女木さん?」


 その頃、ゲーの夢の中の世界――もとい、現実世界では。


 何とペイル――いや、青夢に意識があった。


「(さあ、これからが始まりよ……元はこっちの、今はあっちの私!)」


 青夢は、心の中でほくそ笑む。

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