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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第六翔 空宙都市計画
115/193

#114 戦乙女の宙飛ぶ法騎vs宙飛ぶ魔人艦

「な、ま、魔女木さんそれは!?」

「す、戦乙女の宙飛ぶ法騎スペースライドオブワルキューレ!?」


 突如飛び上がった青夢の乗機に、マリアナも夢零も驚く。

 その機体には、間違いなくブースターはない。


 だというのに、この宇宙空間を一切の不自由なく飛び回っている。


 争奪聖杯が終わり、一か月と半月ほど後。

 魔男襲撃に備えて厳戒態勢が敷かれていた市井も、その態勢が解かれ日常が戻って来た矢先。


 青夢たちはまたも、大きな動きに巻き込まれることになっていた。


 それが、この空宙都市計画(コード・ザ・シティ)


 争奪聖杯の一件により信頼性が低下した法機に代わり、宇宙ステーションへと吸引光線により上昇し宇宙ステーション間は新たな飛行手段たる空宙列車エンジェレクトロンズマーチにより移動するというものだ。


 しかしそのためには、実際に女神の杼船(アテナーズシャトル)――すなわち、スペースシャトルに乗り宇宙作戦に従事する必要があり。


 そのための訓練が、今日この僻地の山奥でのサバイバルをもって開始されていたのだが突如として魔男の十二騎士団が一つ・狼男の騎士団が襲来し。


 これを教官たる巫術山たちが、その新兵器たる仮想電使戦機により迎え撃っていたのだが。


 狼男側の現実世界にまで影響を与える技により、術里の擁する仮想電使戦機がやられてしまい窮地に陥った所に赤音率いる元女男の騎士団がやって来て攻防となるが。


 そこへ参戦したマリアナと元女男ら、そして巫術山らとの共同戦線が何とか危機を回避したのである。


 その後も度重なる厳しい訓練を乗り越え、仮想空間における模擬宇宙飛行へと移った青夢たちだが。


 最終選抜も兼ねたその訓練開始の矢先、突如として鳥男の騎士団が現れ戦闘となるも青夢たちは辛くも退け。


 これにより選抜に青夢・マリアナ・夢零・レイテが内定し。


 木男の騎士団との発射台攻防戦になりつつも、辛くも空中の母機から発射された杼船(シャトル)に乗った青夢たちは宇宙へと至る。


 宇宙での作業に取り掛かろうとした矢先に当初アルカナに率いられた宇宙仕様の艦ワイルドハントが彼とシュバルツを乗せやって来たが。


 実はシュバルツと通じていた尹乃の命令により、アルカナはシュバルツに追放されていた。


 が、アルカナはこうして今や魔女同士の宇宙戦争となっている戦場に戻って来た。


 そして青夢を乗機もろとも、大気圏へと突き落としたはずだったが。


「またもあの忌々しいダークウェブの女王か……まさかあの魔女木青夢に、電使衛星マジカルコンステレーションの力まで与えたとは! だが、まだ力を手にしたばかりのひよっこなどには!」


 しかしアルカナも、負けじとばかり飛び出す。


 正確にはアラクネではないのだが、予知能力をもってしてもタランチュラやアリアドネ、アラクネの絡むことは分からない彼にはそれも分からず。


 いつも通りアラクネの仕業と思い、向かって行くのである。


「なっ……わ、我が姫を差し置いて!」

「構わないわシュバルツ……なるほど、あれが前の争奪聖杯で出てきたという法機ね。」


 先ほどの囮のパンドラの函船(パンドラズアーク)とワイルドハントは置いてけぼりを喰らう形である。


 パンドラの函船(パンドラズアーク)に生えた砲身に先ほどまで滾っていた火力の光は、たちまち消えた。


 故にシュバルツは抗議の声を上げたのだが、尹乃は極めて冷静に戦況の分析に当たる。


「魔女木青夢う! またもどこからか力を取り寄せてみせたか……まあ、悪運だけは良いものと褒めてやろう!」

「ええ、あんたも……随分連敗しまくっている割にはしぶとく生き残ってくれているじゃないの!」

「なっ……貴様あ!」


 そうして飛び上がって来たブレイキングペルーダとジャンヌダルクは、対峙する。


 両者のその対峙はかつての争奪聖杯最終戦の時の光景を彷彿とさせるが、その時との決定的な違いはやはり戦場が宇宙である点だ。


「見ているがいいその減らず口……今すぐ潰してやろう!」

「それはありがた迷惑ね!」


 青夢もアルカナも睨み合いばかりではなく。

 ただちに攻撃に移る。


 それぞれに、機体胴部――先端が尖ったものから、零戦のような平たい形状に変わったものだ――の、かつて花弁型プロペラがあった場所から爆炎を噴き出し加速したのである。


「あんたのそのブレイキングペルーダとかいうのも、宇宙を飛べるのね!」

「ああ! これぞ宙飛ぶ魔人艦(スペースボータウラス)ブレイキングペルーダの能力だ! さあ、精々餌食となれ!」


 青夢とアルカナは、牽制しあい間合いをとりつつも。


「hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」

「fcp>get DemonSolarWind.hcml――黒い太陽風デモンソーラーウインド!」


 技のぶつけ合いとなる。


「さあ、このまま……くっ!」

「おやおや……やはり近づけないなあ!」


 アルカナは自機から淀んだ太陽風――青夢のジャンヌダルクに接続されていたブースターを破壊した技だ――が放たれ。


 再び数多に分かれた光線に自らがなり突撃しようとする青夢のジャンヌダルクを阻む。


 ジャンヌダルクは一旦その場を離脱し、再び間合いを取る。


「まあとはいえ、出し惜しみしてる場合じゃないっつーの! hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」


 が、次には。

 再び魔人艦へと、突撃して行く。


「ふふふ、まだ来るとはまさに飛んで火に入る夏の虫だな! fcp>get FallenEngelWing.hcml――堕天使旋風フォールンエンジェルウイング!」

「くっ、更に太陽風が! だけど……負けるわけには!」

「! おやおや……ここに入って来るというか!」


 アルカナも更なる一撃で魔人艦周囲を覆うが。

 青夢は二つの攻撃が重なる範囲のうち、僅かな綻びを見つけそこに法騎を突撃させる。


「くっ! ちょっとキツイけど…… hccps://ophiuchus.mc/ophiuchus.engn、セレクト スラスティング モア エグゼキュート!」


 それでも尚阻まれる法騎であるが、更に電使翼機関(ジェットエンジェン)の出力を上げる。


 機体の胴部後方から噴き出る爆炎は更に激しくなり両翼の形となり。


 たちまち魔人艦の攻撃を無視し、青夢の法騎は魔人艦へと迫る。


「く! 中々やるじゃあないか……だがそれまでだ! 黒い太陽風デモンソーラーウインド!」

「hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」


 そのままアルカナと青夢の、一騎討ちとなる。

 青夢のジャンヌダルクは、聖杯により機体を強化し電使翼機関(ジェットエンジェン)で加速し。


 アルカナの黒き太陽風を纏う魔人艦と激突する。


「マージン・アルカナああ!」

「魔女木青夢うう!」


 そのまま両機は、すれ違い――


「……くっ! hccps://Hades.char/、セレクト リペアリング 戦乙女の宙飛ぶ法騎スペースライドオブワルキューレジャンヌダルク エグゼキュート!」

「ふん、また当然の結果だな!」


 すれ違い様に放たれた両機の攻撃のうち、魔人艦の方の攻撃が青夢の法騎に当たり片翼が欠ける。


 青夢はすぐに、聖杯で回復させる。


「さあて、後は地上に……っ!? な、何い!?」


 そのまま地球へと目を向けたアルカナだが、次には思い切り渋い顔を浮かべることになる。


 なんと――


「さあ先っちょさん? もっとキリキリ動いてくれる?」

「先っちょ言うなあ! 言っとくけど、私があんたを利用してるのよ?」


 なんと地球の衛星軌道上を走り一周していた空宙列車砲(ベリアルズフレイム)たちが、尽く破壊されて行くのである。


 破壊しているのは、空宙列車砲(ベリアルズフレイム)に無謀にも尾いて周り凄まじい速さで地球一周中のワイルドハントだ。


 だがその姿は、先ほどまでとは異なっていた。


 ◆◇


「姫……私たちも行きましょう!」

「ええ、そうしたいところだけれど……私はあなたの力を借りたとしても、まだジャンヌダルク(あの機体)に比べて聖杯の力が足りないわ! どうすれば」


 時は、少し遡る。


 法騎と魔人艦の戦いを見てシュバルツは尹乃を促すが。


 尹乃は戦力不足を懸念しており、考えあぐ抜く。


 と、その時。


「ちょっと……あんたたちい! 私のこと、完全に忘れてはないかしらあ!」

「!? あなたは、そういえば(・・・・・)さっき取り込んだ生贄(スケープゴート)さん!」

「ああもう……そういえばなんて言われると腹立つわね! よくも私を!」


 それは先ほど、ワイルドハントを魔男の幻獣機父艦クリプティッドファザーフードよろしくパーツごとに分離した際、そのパーツ群内部に持ち前の高速移動を駆使して入り込んで来たレイテと彼女の専用機モーガン・ル・フェイである。


 しかし尹乃は、レイテ機パーツ群内部に入り込んで来たのをこれ幸いと。

 そのパーツ群をワイルドハントに再合体させ、彼女を乗機もろともに取り込んでいたのだった。


「だました上にこの仕打ちなんて……まあ私を取り込んだついでに押しつぶそうとでも思ったんでしょうけど残念だったわね! この機体はあの魔女木さんも得ている聖杯の力を得ているから、如何に通常機体ベースといえど即座に修復できるのよ!」


 が、レイテはせめてもの腹いせとばかり。

 尹乃に言い放ち鼻を鳴らす。


「!? ちょっと待って……あなた、今なんて?」

「は? ま、まあ残念だったわねって言ったのよ!」

「いやそこじゃないわ、その後よ!」

「は、はあ!? だから、私の法機は!」


 しかし尹乃は、レイテの話の一部分に注目した。

 それは、聖杯の力(・・・・)を持っているという部分だ。


「……このまま潰されたくなかったら協力しなさい! 私の方は法機と幻獣機と電使翼機関(ジェットエンジェン)の持ち合わせがある、だから! あなたの法機と聖血の杯(ブラッドサーバー)の持ち合わせを貸していただかないとね!」

「な! か、勝手に……ぐう!」


 尹乃はそのまま、ワイルドハントの中のモーガン・ル・フェイに対する締め付けを強くする。


「ぐう、このお! hccps://Athena.char/、セレクト コネクティング! エグゼキュート!」

「そう、それよ! その力よお! さあ、来なさい我が騎士よ!」

「はっ! 我が姫のご命令とあらば! ……行くぞ、幻獣機シュガール!」


 驚いたレイテが、機体を回復させるために聖杯の力を使う様を見て尹乃も、シュバルツに命じる。


 シュバルツもまた、自機たる竜型幻獣機シュガールを呼び出し。


 それに飛び乗るや、司令機から抜け出て。

 主人の待つ、ヘカテーの下へ来た。


「……幻獣機シュガール、そして騎士シュバルツ――幻獣機ミュルミドーン、法機ヘカテー! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)ヘカテー、エグゼキュート!」


 そうして、シュバルツが術句を唱えた瞬間。

 何とシュバルツは、たちまちその人としての姿が歪み。


 かと思えばその姿は、次には翅を広げた蟻のような形状になる。


 それは彼ら魔男の騎士団由来の騎士がボディとして使うにあたりあのタランチュラ――蜘蛛男の騎士王直衛騎士団より直々に与えられた蟻型幻獣機ミュルミドーン。


 やがてシュバルツの変形したミュルミドーンとシュガールは、ヘカテーの機体に絡みつき。


 元女男の騎士団たる赤音やミリア、メアリーの法機がそうであるように、その機体を形作る。


「ご苦労よシュバルツ……hccps://Princess:xxxxxx@gemini.mc/gemini.engn、セレクト、コネクティング! ダウンロード 電使翼機関(ジェットエンジェン)、エグゼキュート!」


 そうして尹乃が、術句を唱えるや。

 その機体に、電使翼機関(ジェットエンジェン)の力がインストールされる。


 すると――


「!? こ、これは!?」

「おお……ね! 私の思った通り……これよ、これこそ最高の力だわ!」

「くっ……姫ええ!」


 そうして、尹乃の法機・幻獣機・電使翼機関の力と。

 レイテの法機・聖杯の力が噛み合わさろうとしている。


 青夢のジャンヌダルクと同じく。


「! いや、待って……まあそうね、ここは……いいわ、あんたたちの策に敢えて乗ってやるのもまた一興よね! ならいいわ、ただし姫様! あくまで力を貸してもらうのは、私の方よ! hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト 九姉妹ナインリソーサレシーズ! エグゼキュート!」

「! くっ、この感覚は!?」

「ひ、姫!」


 しかし、レイテは考え直し。

 かつてマリアナや夢零、そして新生徒会候補メンバーにしたように、尹乃にもモーガン・ル・フェイの力を分け与える。


 すると――


「! こ、この感覚は……ああ、何て快感なの! これが法機・幻獣機・聖杯・電使翼機関の揃い踏みした感覚だなんて……ああ、恍惚だわ!」

「くっ……普通に気持ち悪い言い方ね呪法院! まあでもいいわ……そうね、形はどうあれこれがその感覚なのね!」


 モーガン・ル・フェイとヘカテーは今、前者の能力により繋がっている。


 そのネットワークを介しての四大要素の共有により。

 ワイルドハントは今、一切の制約なしの全身全霊をかけた駆動を開始する――


 ◆◇


「やれやれ……どこまでも魔女とは忌々しいものだな! 私の邪魔をしおって!」


 アルカナは顔を顰めながらワイルドハントを睨む。

 その姿は。


 艦首より戦乙女の法騎ライドオブワルキューレと化したモーガン・ル・フェイの上半身が出ており、艦体のあらゆる場所から電使翼機関(ジェットエンジェン)の爆炎を噴き出し飛行する姿。


 さながら擬似戦乙女の宙飛ぶ法騎スペースライドオブワルキューレとも呼ぶべきものだった。


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