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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第六翔 空宙都市計画
110/193

#109 宇宙作戦開始

「ここが、宇宙……」

「ええ、この景色を前にすれば、誰も疑いを挟む余地はないのではなくって?」

「いや、別に疑ったりはしてないけど……」

「そうね、綺麗……」

「ええ、誰かが言ったように……地球は青かったのね。」


 宇宙に築かれた、いわゆる宇宙ステーションたる電使の玉座(スローンズ)の展望台にて。


 青夢たちは目の前にある、壮大な弧を描き青く輝く惑星――他ならぬ青夢たちの母星、地球――を見て圧倒される。


 争奪聖杯が終わり、一か月と半月ほど後。

 魔男襲撃に備えて厳戒態勢が敷かれていた市井も、その態勢が解かれ日常が戻って来た矢先。


 青夢たちはまたも、大きな動きに巻き込まれることになっていた。


 それが、この空宙都市計画(コード・ザ・シティ)


 争奪聖杯の一件により信頼性が低下した法機に代わり、宇宙ステーションへと吸引光線により上昇し宇宙ステーション間は新たな飛行手段たる空宙列車エンジェレクトロンズマーチにより移動するというものだ。


 しかしそのためには、実際に女神の杼船(アテナーズシャトル)――すなわち、スペースシャトルに乗り宇宙作戦に従事する必要があり。


 そのための訓練が、今日この僻地の山奥でのサバイバルをもって開始されていたのだが突如として魔男の十二騎士団が一つ・狼男の騎士団が襲来し。


 これを教官たる巫術山たちが、その新兵器たる仮想電使戦機により迎え撃っていたのだが。


 狼男側の現実世界にまで影響を与える技により、術里の擁する仮想電使戦機がやられてしまい窮地に陥った所に赤音率いる元女男の騎士団がやって来て攻防となるが。


 そこへ参戦したマリアナと元女男ら、そして巫術山らとの共同戦線が何とか危機を回避したのである。


 その後も度重なる厳しい訓練を乗り越え、仮想空間における模擬宇宙飛行へと移った青夢たちだが。


 最終選抜も兼ねたその訓練開始の矢先、突如として鳥男の騎士団が現れ戦闘となるも青夢たちは辛くも退け。


 これにより選抜に青夢・マリアナ・夢零・レイテが内定し。


 木男の騎士団との発射台攻防戦になりつつも、辛くも空中の母機から発射された杼船(シャトル)に乗った青夢たちは宇宙へと至る。


「まあ……私たちの任務は、宇宙観光ではないでしょ?」

「! そ、そうね……さあ! 任務――この電使の玉座(スローンズ)を完成させないと!」

「ここだけではなくってよ。あの向こう側に見える、空宙列車エンジェレクトロンズマーチの終着駅になるあの電使の玉座(スローンズ)もであってよ!」

「あ……そ、そうよね!」


 が、レイテの言葉により。

 青夢たちは我に返る。


 そう、今回はこの素晴らしい景色を見るために宇宙に来たのではない。


 彼女たちの任務は、あくまでも今マリアナが言った通り。


 二基の電使の玉座(スローンズ)――より正確には、そこに搭載された地上からの吸引光線システム――の完成である。


「まったく、それをお忘れだなんて……魔女木さん、それではあなた、一応はリーダーの名折れではなくって?」

「な! よ、余計なお世話よ魔法塔華院マリアナ!」


 青夢はマリアナに指摘され、やや慌てる。


「と、とにかく! 地上に到着の一報を入れないと。」

「あら、逃げる気かしら? 待ちなさ……っ!」

「あらマリアナさん、まさか、無重力と重力の違いに戸惑っているのかしら?」


 青夢は少々誤魔化し気味に、通信スペースへと急ぐ。

 ここは宇宙ではあるが、この電使の玉座(スローンズ)二基や空宙列車エンジェレクトロンズマーチの内部には人工重力が働いている。


 そのために青夢たちは、一度大気圏突破後に無重力状態に慣れた後にまた重力のある状態に晒され困惑することになった。


 さておき。


「……応答願います、地上本部! 応答願います、こちら空宙都市計画選抜! 応答願います……」

「……こちら地上本部、自衛隊宇宙作戦隊教官巫術山だ!」

「!? 巫術山教官! こちら空宙都市計画選抜、魔女木・魔法塔華院・龍魔力・呪法院! 先ほど無事に、第一電使の玉座(スローンズ)へと到着いたしました!」


 通信スペースに辿り着いた青夢たちは。

 粘り強く地上本部へ交信するが、ようやく本部は応答する。


「ああ、無事辿り着いたか……こちらも、先ほど魔男の妨害部隊が撤退した所だ! まあまず第一関門突破と言いたい所だが……これが終わりではなく、むしろ始まりだ! 気を抜くな!」

「は、はい!!!!」


 巫術山はそのまま、青夢たちに地上の様子を伝え。

 そのまま青夢たちに対し叱咤激励の言葉を掛け。


 その言葉に青夢たちは、居住まいを正す。


「では、くれぐれも作戦通り……明朝、第一電使の玉座(スローンズ)には魔女木・龍魔力が残り! 第二電使の玉座(スローンズ)には空宙列車エンジェレクトロンズマーチにより、魔法塔華院・呪法院が移動。それが完了次第第一・第二電使の玉座(スローンズ)で同時に、吸引光線システム構築作業を開始せよ!」

「は、はい!!!!」


 巫術山の指揮に、青夢たちはまたも、威勢のいい返事を返す。


 ◆◇


「いよいよなのであってね……さあて、先ほども教官に言われた通り、気を引き締めなければならなくってよね!」

「そうね……」


 その日の夜――とは言っても宇宙なので空模様は相変わらずだ――に、青夢たちは居住区内仮眠用スペースにて。


 夕食となる宇宙食を口にしていた。

 地上の食に比べればやや味気ないが、既に訓練で一度食し済みの彼女たちにすれば。


 慣れたものではなくとも、そこまで抵抗のあるものではない。


「さあて、そろそろ寝なくてはよね……では、お休みなさい。」

「じゃあ、私も。」

「え、ええ……」

「では私も……お休みなさい。」


 そうして、食事が終わると。

 そのまま皆それぞれベッドに入って行く。


 これが修学旅行か何かならば、話すことややることもあっただろうが。


 やはりそこは選抜メンバーであり、話すこともやることもないとばかりに皆就寝する。


 まあ、宇宙では水も食糧も貴重なのだ。

 下手にそれらや翌日の任務のための体力を浪費するよりは、寝たほうがいいという理由もある。


「(まあそうよね、さあて……私も寝ないと。)」


 青夢は、部屋が消灯されたのを見届けると。

 自身も既に入ったベッドの中で、眠りに落ちて行く――



 ――魔女木、青夢……お前は何を望む?


「……誰?」


 青夢は暗闇の中で、ふと誰かの声が聞こえ。

 ふと周りを見渡す。


 誰も、周りにはいない。


「……あなたは誰?」


 ――ふふふ……お前こそ、自分が誰か分かっているのか? そもそも……お前は本当に、ここにいるのか?


「……は? 意味分かんない。昔お父さんから言われたの。私が自分の存在を疑っても、疑うということは疑う自分がいるから、それこそ自分がいるっていう証だって! だから……私自身が存在するなんて、疑うまでもないことよ。」


 ――……ふん、しぶといな。


 謎の声の主の自身を試すような言動に青夢は気丈に返し。


 それを聞いた声の主は、やや残念そうな声を出す。


「それに、私の望みは……全てを救うことよ!」


 ――ふふ……それもお前の父親に言われてのことか? お前は、つくづくファザコンのようだな!


「ファザコンて……あんたが何でそこまで知ってんのかは知らないけど。もうそれは私自身の望みよ! どこの誰か分からないあんたに、そんなこと言われたくない!」


 ――ふふふ……ははは! そうだな、お前は違う……いいだろう!


「……へ?」




「……ん……起きちゃった。」


 青夢はそこで目が覚めた。

 見れば、まだ時刻は午前1時だ。


「何だったのよ……もう……」


 青夢はそうして、また眠る。


「(ええ分かったわ私の騎士……さあ! 早く私を迎えに来て!)」


 しかし、その時。

 レイテも青夢同様、夢の中で。


 青夢が相対した声の主と、対面していたのだった。


 ◆◇


「ではこれより! 第一・第二電使の玉座(スローンズ)での吸引光線システム構築作業準備を開始します! それにより……魔法塔華院・呪法院両名!」

「はい。」

「はい。」


 そうして、明朝。


 青夢たち四人は宇宙服着用の上で、第一電使の玉座(スローンズ)空宙列車エンジェレクトロンズマーチ乗り場にいた。


 そうしてリーダーたる青夢の言葉に、マリアナとレイテは答える。


「ではこれより、作戦通り空宙列車エンジェレクトロンズマーチへと両名は乗り込み、第二電使の玉座(スローンズ)へと移動を開始して! そして到着次第その旨をこちらへ連絡、それを合図に吸引光線システム構築作業を同時開始します!」

「ええ、了解していてよ!」

「……了解。」


 青夢の作戦説明に、マリアナとレイテは答え。

 そうして、空宙列車エンジェレクトロンズマーチへと乗り込んで行く。


 四両編成のそれは、うち第二電使の玉座(スローンズ)方面側の二両は客車となっており。


 残る第一電使の玉座(スローンズ)側の二両は、システム構築用の部品を載せた貨物車となっている。


 なので、当然マリアナたちが乗り込んだのは客車側だ。


 そうして二人の選抜メンバーと部品を載せた空宙列車エンジェレクトロンズマーチは、自動運転により後部噴流器より炎を噴き。


 第一電使の玉座(スローンズ)の乗り場を、その推進力でもって離れて行く。


 天然の線路である、衛星軌道上を走って。



「……さあ夢零さん、私たちも行きましょう!」

「ええ、そうね!」


 列車が離れたのを見送り、青夢と夢零は展望室へと向かって行く。


「(まあ、大丈夫よね? ここは宇宙だし……)」


 青夢はしかし、一抹の不安を抱いていた。

 訓練や、宇宙への打ち上げで予知の余裕はなく、よって先を見通してはいないが。


 昨夜の夢を見たからか、何か胸騒ぎがするのだ。

 しかし、魔男が来るはずはない。


 何しろ、宇宙なのだから。

 青夢はそう自身に、言い聞かせていた。


 ◆◇


「まったく、あなたと共に作業をすることになってとはね呪法院さん。」


 空宙列車エンジェレクトロンズマーチの一両目に移動して来たマリアナは、レイテに声をかける。


「ええ、私も驚きです。……何もなければよいのですが。」

「何と?」

「いいえ、別に。」

「まあよくってよ、さあ……まだ第二電使の玉座(スローンズ)までは時間があってよ。少し座りましょうか。」

「ええ。」


 レイテの言葉に、マリアナは少々眉根を寄せつつも押し黙り。


 そのまま、緊急時に備え宇宙服を着用しているが故に人工重力が切られ無重力になっている車内を少し歩き。


 そのまま手近の二人掛け座席に、腰掛ける。


 レイテはしかし、通路を挟んで反対側の二人掛け座席に腰掛けた。


 さしづめ二人の、距離感を表しているというべきか。

 さておき。


「まあ呪法院さん……あなた、精々……頑張」

「ま、マリアナさんこそ……精々……」


 しかし、二人は。

 席についた所で急に、睡魔に襲われ。


 眠りに、落ちて行く――




「……ん? ここは……」


 ――お前は、何が望みだ?


「……誰で、あって?」


 マリアナは暗闇の中で、ふと誰かの声が聞こえ。

 ふと周りを見渡す。


 誰も、周りにはいない。


 ――安心しろ、ただの夢だ。


「夢? そう……ならば、仕方なくってよね。」


 ――ああ、そうだ。だから仕方ない……お前の心の内を、存分に吐き出せ。


「ええ、これは夢なら……そうね、そのぐらいしてもよくってよね。」


 いつものマリアナならば、少しはおかしいと思ったであろうが。


 何故かマリアナは、さしたる抵抗感もなくその声の主の言葉を受け止める。


 そうして周りの景色は、変わる。

 それは何と。


 マリアナたちが今乗っている、空宙列車エンジェレクトロンズマーチの屋根の上だ。


 そして、その進行方向とは逆に見えるのは。

 無論、青夢たちのいる第一電使の玉座(スローンズ)だ。


 ――あそこにはお前を差し置き飛行隊長に就任した相手と、憎い商敵がいるぞ、マリアナよ。


「……ええ、そうであってよね!」


 声の主の言葉に、それまではやや寝ぼけたようであったマリアナも。


 それによりかつての屈辱を思い出し、歯軋りする。

 かつて、龍魔力四姉妹にコンペティションで抜かれる所だった屈辱。


 かつて自分を差し置き、凸凹飛行隊長に就任した青夢に感じた屈辱。


 ――そうだ、それがお前の望みならば……この夢で、存分に晴らせ!


「……ええ、指図されるまでもなくってよ! ……っ!?」


 またも響いた声の主の言葉に、マリアナが強い闘志を滾らせると。


 刹那、マリアナは第一電使の玉座(スローンズ)の陰より、何やら巨大なものが現れる様を見た。


 ◆◇


「ち、ちょっと待った! な、何あれは!?」

「!? な、あ、あれは……!」


 一方、第一電使の玉座(スローンズ)でも。

 展望室でマリアナたちからの通信を待っていた青夢と夢零は、驚き外を見る。


 いや、正確には外の上を見る。

 なんと、青夢たちのいる第一電使の玉座(スローンズ)の頭上を何やら巨大な構造物が通過して行き。


 それは今二基目の電使の玉座(スローンズ)に向かおうとしている空宙列車エンジェレクトロンズマーチの上に付き纏うようにして停まる。


「あ、あれってまさか!?」


 青夢は目を凝らす。

 巨大な構造物は、その巨大さ故に全体像を見て取ることはできないが。


 その一部分ずつを見れば、何なのかは想像がつく姿をしていた。


 それは。


「ま、まさかあれは母艦型幻獣機!? いや、それにしては……」


 夢零が声を上げる。


 その巨大な構造物はある所からは龍のような頭を生やしている。


 それは夢零が今言ったように母艦型幻獣機――すなわち幻獣機父艦クリプティッドファザーフードを思わせる特徴だ。


 そこだけを見るならば、それがあの(龍魔力四姉妹にとっては忌まわしい)バハムートと同じ龍型の幻獣機父艦クリプティッドファザーフードだと断定できただろう。


 しかし、それは本当にそこだけを見ればの話だ。


 その巨大な構造物はまたある所からは馬のような頭を、またある所からは棍棒を持った鬼の上半身を生やしていることを始め、各所にあらゆる怪物の姿が見て取れる。


 さながら、怪物の群勢をそのまま固めたかのような醜怪な見た目である。


「ははは! まあこれを見て驚かぬ者はいないだろうな……さあ、シュバルツ! これからもっと面白いものを見せてやれ!」

「はっ、我が騎士団長閣下!」


 さらに、まだ青夢たちは知る由もないがその司令室たる幻獣機内には。


 魔男の騎士団長アルカナと、"アイアコスの鍵"たる同騎士団所属の騎士イース・シュバルツがいるのである。


「さあ魔女たち……まさか宇宙でまで相見えようとは完全に想像の埒外だっただろう、だが! これはまだ序の口である……更に想像を上回る結果を見せつけてやろう!」


 アルカナは目の前の、青夢たちがいる電使の玉座(スローンズ)を見つめ。


 口元を上げ笑う。


「さあシュバルツ……このワイルドハントの力を見せてやれ!」


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