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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第一翔 凸凹飛行隊(バンピーエアフォース)始動
11/193

#10 俺の居場所

「さて……おそらく魔男の騎士団が俺を迎えに来るだろう。」


 護送機の窓にソードは、身を乗り出し外を見る。

 彼の足元には、伸びている青夢たちの教官が転がっていた。


 訓練学校を襲った、ソード・クランプトンの一件から数日後。


 その次には幻獣機タラスクが、この訓練学校を襲い。

 青夢は自機であるジャンヌダルクを発進させて対処するが、未来予知によりジャンヌダルク単機では対処できない敵と分かり。


 止むを得ず青夢は、マリアナに新たな空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)カーミラを得させ。


 彼女が操る空飛ぶ法機・カーミラと、それにより子機化された法使夏機・ミリア機との(不本意ながらの)共闘により、どうにか幻獣機タラスクは撃破されたのだった。


 そうして、次は。

 捕らえられたソードの警察への引き渡しのため、その護送機直衛の任務を帯びた青夢たちは今護送機を取り囲んで引き渡し場所へと向かっているのだが。


「(まだレーダーには映っていませんが、二時の方向より幻獣機が多数接近して来ています! これから指示する通りに、護送機を動かして下さい!)」

「わ、分かりました……」


 ソードに気取られないようマリアナにカーミラの力を使ってもらい青夢は、護送機のパイロットを務める魔女に直接意思でもって語り掛ける。


 魔女は今にも泣きだしそうだが、それでも職務を放棄するわけにもいくまいと懸命に操縦桿を握っている。

 彼女以外の乗員は、先述の通りソードに組み伏せられたのである。


「……おい! このまま護送機をゆっくりと、二時の方向に進めろ。いいか? 妙な動きをすれば……」

「ひ、ひいい! は、はい!」


 ソードは青夢から魔女への密命を察したわけでもなかろうが。

 魔女の頭に手を置き、有無を言わさぬ勢いである。


「ま、魔女木さん!」

「ええ、聞こえています……直衛飛行隊、二時の方向へ転換!」

「ふん、あなたの指示で動くのは癪だけれど……行きますわよ、雷魔さん、使魔原さん!」

「はい、マリアナ様!!」


 青夢の指示に、不本意ながらも法使夏・ミリアは従い。

 そのまま自機を、方向転換する。


 二時の方向。

 これも、ソードが予知したわけではあるまいが。


 ちょうど、魔男の幻獣機部隊がこの護送機隊めがけて進んで来ている方角である。


 ◇◇


「あれは……蝙蝠男の騎士団か!」


 やがて、魔女と魔男は相見える。


 レーダーにはすでに、反応があったが。

 今は、少し目を凝らせば見える方向に魔男の幻獣機部隊が見えるのである。


 ソードは護送機の中より、その有様を見て。

 幻獣機の紋章から所属騎士団を察し驚いている。


 前回の幻獣機タラスクは、明らかに龍男の騎士団所属だったのだが。


 今回、ソードの所属騎士団ではない蝙蝠男の幻獣機たちがお目見えである。


 これはまさか――


「バーン騎士団長……俺のせいで……」


 ソードは全ての事情を察した。

 一人――すなわち、ソードのみならず。


 あの幻獣機タラスクまでもが敗れたことで、龍男の騎士団長バーンの立場がなくなったのである。


「くっ……何とかして戻らなければ……」


 ソードは、焦りを募らせる。


「あ、あの……私はどうすれば……」

「あ? そんなの……とにかく、このまま操縦し続けるに決まってるだろ!」

「ひ、ひいい! は、はい……」


 護送機の操縦役魔女は、ソードに恐る恐る尋ねるが。

 ソードからぶっきらぼうに返され、泣き叫びながら操縦を続ける。


 ◆◇


「よし……総員、戦闘準備!」

「ふん、命令には及ばなくってよ! ……雷魔さん、使魔原さん!」

「はい、マリアナ様!!」


 青夢は、内部に今孕んでいる問題を憂いながらも。

 戦わぬ訳にはいかないと、皆を促す。


「……hccps://jehannedarc.wac/、サーチ アサルト オブ ジャンヌダルク! セレクト ウインドカッター!」

「……hccps://camilla.wac/、サーチ アサルト オブ ウィッチエアクラフト・カーミラ! セレクト、ファングダガー!」

「セレクト、ファングダガー!」

「セレクト、ファングダガー!」


 魔女たちは、皆臨戦体勢に入る。




「……来ましたね、魔女共が。」

「ああ……こりゃあ腕が鳴るねえ! hccp://baptism.tarantism/、サーチ! アサルト オブ 幻獣機! セレクト、バットクラウド!」


 一方、魔男も。

 ダルボは、攻撃体勢に入る。


「……エグゼキュート!」

「エグゼキュート!」

エグゼキュート(エグゼキュート)!」


「エグゼキュート!」


 そうして、魔女・魔男は。

 ほぼ同時に、技の撃ち合いとなった。


 ジャンヌダルクからは風の一撃が、カーミラとその子機たる法使夏機・ミリア機からはエネルギーの刃が放たれ。


 ダルボ操る幻獣機ドラキュラは、周囲の分身たる幻獣機を多数体当たりさせるべく差し向ける。


 たちまち二方向の攻撃は、激しくぶつかり合う。

 ドラキュラの分身たちは、尽く魔女の攻撃により倒されて行くのだった。


「おお! オーマイガー、俺のかわいい分身たちが!」


 ダルボは何やらわざとらしく、ホゾを噛んで見せる。


「ふん、口ほどにもないわね魔男の奴ら!」

「待ってミリア! ……あの幻獣機、動かないわよ?」

「! そうね、隙だらけよ……」


 法使夏とミリアは勝ち誇るが、ふとマギーとその幻獣機・グレムリンが動かず無防備になっていることに気づく。


 これは、チャンスである。


 ――……この心と身体も、マリアナ様に捧げましょう!

 ――ええ……私たち、二人で!


 あの約束を、果たすための。


「行くわよ……ミリア!」

「ええ……法使夏!」


 法使夏機とミリア機は、そのまま。

 今幻獣機ドラキュラの分身が尽く撃破された戦線を高度を上げて乗り越え。


 そのまま、幻獣機グレムリンに騎乗するマギーめがけて突っ込んで行く。


「ち、ちょっと! 勝手に戦線を離れちゃだめ!」

「ふんトラッシュ! あんたの御託はもううんざりよ! ……セレクト サッキング ブラッド エグゼキュート!」

「……セレクト サッキング ブラッド エグゼキュート!」


 青夢の静止を聞かず、法使夏機とミリア機は幻獣機グレムリンごとマギーを狙う。


「ま、マギーちゃん!」

「案ずることはないですよ……ダルボ!」

「ああ……何てな!」

「!? え?」


 が、一旦はマギーを案じる素振りを見せたダルボの声に彼は事も無げに返し。


 ダルボも戯けて見せ、法使夏とミリアはそこで訝しむ。


 こいつらは、何を?

 と、その時である。


「……サーチ、アサルト オブ 幻獣機。 セレクト アシッドクラッキング エグゼキュート。」

「え……? きゃあっ!」

「いやっ!」


 静かにマギーが唱えた、術句により。

 法使夏とミリアは、自機にかつてない違和感を感じる。


 そして次の瞬間、彼女たちの意思に反してそれぞれの自機は動き出してしまう。


「なっ、雷魔さん使魔原さん!」


 マリアナもこれまでは静観していたが、これには驚く。


「くう……だから言ったじゃない!」


 法使夏とミリアに、先ほどの忠告を御託と言われ撥ね付けられた青夢はお冠である。


 御託は御託でも、ジャンヌダルクの能力・オラクル オブ ザ バージン――すなわち乙女の()()()なのだ。


 だから一聞の価値はあったのだが、そんなことを法使夏もミリアも知る由はなかったのである。


 が、彼女らの機体とマリアナを介してネットワークを成している青夢らにも異常が起こり始める。


「くっ、魔法塔華院マリアナ! 早く雷魔さんと使魔原さんの機体の接続を切って!」

「え……? くっ!」


 ジャンヌダルクとカーミラも、それぞれ青夢・マリアナの意思に反した動きこそしないが。


 それぞれ、操作のしづらさがのしかかって来た。


「くっ……魔女木さんこれは!」

「くっ……奴らの力よ魔法塔華院マリアナ!」


 マリアナの質問に、青夢は苦しみながら返す。

 まずい、このままでは。


「ふふふ……さあて! 先ほどのお返しですよ。」

「おお、やっちまえマギーちゃん!」


 マギーはそのまま、法使夏機とミリア機を操り。

 ジャンヌダルクとカーミラ、更に護送機にぶつけんとする。


「いやああ! マリアナ様!」

「きゃあっ!」


 法使夏とミリアは、後悔に襲われる。

 自分たちのせいで――


 彼女らは自らの軽率さに、嫌悪感を覚えるが。

 さりとてどうすることもできず、ただただ操られるのみである。


 ◆◇


「よし……何とか外に出たか。」


 護送機の扉を開け。

 ソードは機体にしがみつきつつ、()体を乗っ取る()を伺っていた。


 そんな所へ、マギー操る法使夏機とミリア機の突撃である。


「ははは、やはり愚かな魔女め! 我ら魔男の恐ろしさを思い知ったか!」


 ソードは勝ち誇る。

 そしてふと、思いつき。


 そのまま、しがみついていた護送機の機体を蹴って飛び移るは。


「きゃあっ! ……いやっ! な、何よあんた!」

「悪く思うな、愚かな魔女よ! こいつは俺が、使ってやる!」

「きゃっ!」

「くっ、止めろ! 殺しは……くっ!」

「!? み、ミリア!」


 ミリア機であった。

 たちまちソードはそのまま、ミリアを脅そうとするが。


 勢い余ったミリアの抵抗により、誤って彼女を操縦席から突き落としてしまった。


「まったく……止むを得まい! ……サーチ、コントローリング 空飛ぶ法機! セレクト ターン レフト、エグゼキュート!」


 ソードはそのまま、止むを得ず。

 操縦権を乗っ取って、マギーの下へUターンする。


 出来るとは、思えぬが――

 しかし、そんなソードの懸念はよそに。


 ミリア機は、そのままソードの意思通りにマギーらの下へ。


 ◆◇


「なっ!?」

「ちょいちょい……何で!」


 一方、マギーとダルボも。

 自身の意思に反して戻って来るミリア機に驚く。


「くっ……この私のハッキングを受け付けないだと!」

「ああ、心配すんなマギーちゃん! ……サーチ! アサルト オブ 幻獣機! セレクト、バットクラウド!」


 動揺するマギーだが、ダルボはすかさず臨戦体勢を取り直す。


 今度こそ、殱滅を――

 が、その時。


「待て! 俺は龍男の騎士団所属、ソード・クランプトンだ!」

「! ほう……?」

「へえ、こりゃあおったまげた!」


 ミリア機からソードの声が聞こえ、ダルボは一旦攻撃を中止する。


「なるほど……よくぞ、ご無事でしたね。」

「ああ……すまない! だが俺の落ち度は、バーン騎士団長に非があるものではない、どうか俺にその弁解の機会を! 魔男の円卓の場にて与えてほしい!」


 ソードは、ミリア機より懇願する。


「……ええ、わかりました。まあひとまず、どうぞこちらへ。」

「! うむ、ありがたい……」


 ソードの懇願に、マギーは応じ。

 そのまま安心したソードは、マギーらの下へミリア機を進める。


 が、その時。


「ええ……()()()、生きていましたね! おかげで、始末する手間が出来てしまいましたよ!」

「な!?」

「ああ、まったくだなマギーちゃん! ……エグゼキュート!」


 マギーとダルボは、掌を返し。

 たちまち、ドラキュラの分身をソードへ差し向ける。


「なるほど……俺はやはり甘かったか。」


 ソードは驚きつつ、ある意味では覚悟していたためにそこまでは驚かなかった。


「やはり俺には、もうどこにも居場所が――」


 が、その時彼の脳裏に浮かんだのは。


 ―― くっ……まさか、私が負けただと!


 青夢に敗れた時の、屈辱。

 そうだ、まだその雪辱は果たしていない。


 ならば、生きる。

 そう決意したソードの頭脳は、凄まじき速さで回り始める。


 そのままソードはあの時を、思い出す。

 あの時。


 訓練学校を襲い、乗機である幻獣機ドラゴンにて青夢に止めを刺そうとした時だ。


 ―― ……hccp://baptism.tarantism/

 ――サーチ! セイビング エブリワン!

 ――サーチ! クリティカル アサルト オブ 幻獣機! ……ははは、これで……ん?


「……! そうか!」


 ソードは、合点する。


 あの時、そのまま青夢とマリアナに止めを刺そうとするソードだったが検索されたはずの候補が、頭にインストールされてこず首を傾げていた。


 だが今、ようやくその訳が分かった。


 青夢が彼の検索に割り込んでいたのである。


 本来ならば検索エンジン切り替えの時などだけでいいはずのエンジンURL詠唱を、わざわざ彼が行った後に。


 あの、”セイビング エブリワン"の術句を唱えて――


「くっ……おのれ魔女木の娘め! 俺に、恥を……」


 ソードは、屈辱に打ち震えるが。

 今はそんな時ではないと思い直し、前を向く。


「もうよい。 ……hccp://baptism.tarantism/! サーチ、ビーイング オーバー ザ 魔男!」


 ソードは、破れかぶれで検索術句を唱える。

 魔女社会では無法者であることなど、既にどうでもいいが。


 もはや魔男にも居場所がなくなったとあらば、自分そのものがもはやどうでもよい。


 ならば、どうせできはせぬだろうと思いつつもせめて、魔女の力に触れてやろうと。


 しかし、その時である。


「ははは……ん!?」


 ソードはそこで、おかしな感覚に捉われる――


 ◆◇


「ん……?」


 ソードはふと、目を覚ます。

 ここは、どこか。


 見れば、真っ暗な空間に。

 光の線で繋がれた網のようなものが下に見える。


 ここは――


「ようこそ……ダークウェブへ。」

「!? ……あ、あんたは?」


 ふと声をかけられ、ソードは面食らう。

 そうか、ここはダークウェブ。


 魔男が使用している、魔法検索システムの禁断領域である。


 しかし、それはこんな空間だったか?


 ソードは訝りつつも、目の前の人物を見る。

 そこにいたのは。


 何やら闇の中に浮かび上がる、女性の上半身。


「……何て、美しいんだ。」

「……ありがとう。私はアラクネ、あなたの望みをもう一度。」

「……え?」


 その女性――アラクネは優しく微笑む。

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