#103 図らずの模擬宇宙戦闘開始
「さあさあ行くわよあんたたちい!」
「あいあいさー!」
「あ、あいつら何で!?」
青夢らが浮かぶ、仮想宇宙空間。
そこに響くは、女魔男ではない正真正銘の魔男による女言葉。
鳥男の騎士団長サロに率いられた、巨鳥の群れである。
争奪聖杯が終わり、一か月と半月ほど後。
魔男襲撃に備えて厳戒態勢が敷かれていた市井も、その態勢が解かれ日常が戻って来た矢先。
青夢たちはまたも、大きな動きに巻き込まれることになっていた。
それが、この空宙都市計画。
争奪聖杯の一件により信頼性が低下した法機に代わり、宇宙ステーションへと吸引光線により上昇し宇宙ステーション間は新たな飛行手段たる空宙列車により移動するというものだ。
しかしそのためには、実際に女神の杼船――すなわち、スペースシャトルに乗り宇宙作戦に従事する必要があり。
そのための訓練が、今日この僻地の山奥でのサバイバルをもって開始されていたのだが突如として魔男の十二騎士団が一つ・狼男の騎士団が襲来し。
これを教官たる巫術山たちが、その新兵器たる仮想電使戦機により迎え撃っていたのだが。
狼男側の現実世界にまで影響を与える技により、術里の擁する仮想電使戦機がやられてしまい窮地に陥った所に赤音率いる元女男の騎士団がやって来て攻防となるが。
そこへ参戦したマリアナと元女男ら、そして巫術山らとの共同戦線が何とか危機を回避したのである。
その後も度重なる厳しい訓練を乗り越え、仮想空間における模擬宇宙飛行へと移った青夢たちだが。
最終選抜も兼ねたその訓練開始の矢先、それは突如として現れた。
「魔女ちゃんたちい! あたしが可愛がってあげるわあ、さあ!」
「な、何かベタベタした感じ! 嫌よ!」
「はあ!? あたしのどこがベタベタだってえ? ……小娘共があ、潰すわよお!」
サロは煽るように、青夢たちに叫ぶが。
青夢はそこに生理的な気味の悪さを感じて拒絶反応を示し。
サロが激怒し、迫る。
「来る! だけど……どうすれば」
「……hccps://camilla.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機カーミラ! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「! ま、マリアナ様!」
しかし、考えあぐぬく青夢たちを尻目に。
マリアナはかつての山での状況と同じく、法機を召喚する。
たちまちマリアナの乗機は、カーミラの姿になっていく。
魔男が攻めて来たということは無論、電賛魔法システムに接続しているということであり。
それを見抜いての行動である。
「ま、魔法塔華院マリアナ! あんたまた」
「もはや仕方ないのではなくって? ここに教官方がいない以上、わたくしたち自ら独自に判断するしかなくってよ!」
「くっ、まあ今回ばかりはあんたの言う通りかもね……」
マリアナを咎める青夢だが、返す言葉はなく。
そして、無用な話をしている時間もなく。
「……hccps://jehannedarc.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機ジャンヌダルク! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「……hccps://crowley.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機クロウリー! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「……hccps://rusalka.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機ルサールカ! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「hccps://graiae.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機グライアイ!!! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!!!」
「hccps://sphinx.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機スフィンクス! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
マリアナに触発された、法機を持つ皆が自機をコンバートする。
「(私は……ここでは表立って戦えないのが問題ね。)」
「(まあいいわ……私の騎士、よくぞやったわ!)」
一方。
法機を持っておらずこの状況をまずは指を咥えて見ているしかないはずのレイテや尹乃だが。
互いに知る由もないものの、偶然にも同じことを考えていた。
「よし、行くわよジャンヌダルク! だけど、皆気をつけて! あいつらは現実世界にまで影響を及ぼす攻撃ができる、だからもしあいつらの餌食になったら!」
青夢は通信回線を開き呼びかける。
今目の前にいる敵は見るからに騎士団こそ違うが、少なくとも同じ魔男側にそういった技術があることは事実である。
つまりあの騎士団の餌食になれば、現実でも少なからず傷を負うことになるということだ。
「その程度分かっていてよ魔女木さん! あなたこそ精々、醜態を晒さないようにすることであってよね!」
「な!? もう魔法塔華院マリアナ!」
マリアナは青夢の言葉に、怒る。
言ってくれる。
「ごちゃごちゃ話している暇はないのよ、小娘共お!」
「くっ!? ……こ、この感覚、やっぱりやりづらい!」
そこへ鳥男の騎士団からの光線が飛来し青夢たちは散開し避けるが。
やはり擬似的とはいえ無重力空間。
いつもならば機体を傾けた際に感じられる重力がないなどの調子を狂わされる事態ばかりがあり、青夢は歯軋りする。
「まあ、ともかく……魔法塔華院マリアナも皆も! まずはチーム単位で行動しないとダメよ、あいつらに各個撃破されたら世話ないわ!」
青夢はしかし、ひとまず調子を取り戻し。
皆に呼びかける。
「まあそうであってよね……不本意ですけれど、合流しますわ!」
「まあそうね……マリアナから命令されたんじゃないだけまだマシか!」
「了解よ、魔女木さん!」
それを聞いたマリアナやレイテ、夢零は青夢の下に集結する。
「よし、早く私たちも!」
「そうだな……早く」
「あんたたちに指図されたくないわよマリアナの腰巾着に龍魔力!」
「ああ、僕たちはレイテ様のためにある!」
チーム2の法使夏、英乃も皆を纏めようとするが。
ジニーと武錬はそれに反発する。
「さあ潰してあげるわよ魔女の小娘たちい! hccps://baptism.tarantism/、セレクト ビーイング トランスフォームド イントゥ 群集形態 エグゼキュート!」
「! 総員、一時離脱!」
「きゃあ!」
「くっ……言ってる場合じゃないでしょ!」
しかしそうした獲物の隙は見逃さないとばかり。
散開した魔女たちの機を青夢がかつて恐れたように各個撃破すべく、サロ座乗の旗艦ロックバードがパーツ毎に分離し各構成機群より砲撃を仕掛ける。
それを魔女たちはかろうじて、離脱することにより避ける。
「俺たちも、できる限り合流しなければ」
「聞けないわ! レイテ様でもないあんたの言葉なんて!」
「お、おい!」
チーム3も纏めようと、剣人もクロウリーで逃げ回りつつ呼びかけるが。
やはりレイテ一味である雷破の反発に遭い、剣人は面食らう。
「みんな、喧嘩はよくないよ!」
「そ、そうです! ここは同じチーム同士なんですから」
「あら、あんたたちも黙ってなさい! 初日にベソかいてた龍魔力の下っ端たちなんかが!」
「な、何よー!」
「や、やめなさい愛三!」
見かねた愛三と二手乃は宥めに入るが。
ミイラ取りがミイラになるとばかり、愛三が喧嘩を買ってしまい。
二手乃は、止めようとする。
「まったく、あの娘たちは扱いづらいわね……ジニー、武錬、雷破! 今は別チームでも私たちの絆は唯一無二よ、それぞれのチームでベストを尽くしなさい!」
「! は、はいレイテ様!!!」
しかし、これまた見兼ねたレイテの鶴の一声に。
ジニーたちは、ひとまず各チームメンバーの下に集おうとする。
「ああら、お仲間同士群れるつもり? ……甘えんじゃないわ小娘共お!」
が、当然サロもこれを見逃さず。
分離させていたロックバードパーツ群を、群れ全体の巨鳥としての原型を止めつつ魔女たちに向けて行く。
「hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」
「! くっ……魔法塔華院の小娘ね、キーッ!」
そこへ、マリアナがカーミラにより。
ハッキングを仕掛け、ロックバードの動きを止める。
「hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
「hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート! 呪法院さん、仮想恋電使之弓矢を!」
「マリアナではなく龍魔力と言っても私に命令しないで! ……セレクト、仮想恋電使之弓矢 エグゼキュート!」
「ありがとう! ……セレクト グライアイズファング エグゼキュート!」
そのまま、青夢たち他のチーム1メンバーも後に続き。
それぞれに思い思いの攻撃を、サロのロックバードへと仕掛けていく。
「どう、鳥の魔男さんたち!」
「だけど、奴らは本当に仮想世界だけ攻撃して来るの? もしかしたら……」
青夢も攻撃を続けつつ、ふと考える。
まず、これまでの戦いの共通点から。
◆◇
「くっ、仮想世界の艦被弾!」
「ふん、まああの魔法塔華院の機体を除いて他は、こっちのシステムそのものには影響がないわね! しかしやってくれたわね……このまま仮想世界の機体諸共すぐにでも葬り去りたい所だけれど!」
現実高空域にあるロックバード本体司令室機内でサロは、ハンカチを噛む。
今受けている攻撃がほぼ仮想世界だけの被害だとしてもあまり気持ちのいいものではない。
調子に乗るな、目に物見せてくれる。
サロはそう考えつつも、まだ決定打は打たないでいた。
それは。
「位置把握はまだなの!?」
「は、システムログ解析中です! 今しばらく。」
「早くなさい……じゃないとあんたたちから潰すわよお!」
「ひいっ! は、はい!」
そう、今調べていた。
今自分たちが接続しているサーバの、位置情報を。
サロは青夢の睨んだ通りいずれも現実世界戦を伴うものだったこれまでの仮想世界での戦いよろしく。
彼女たちを仮想世界に釘付けにし、その間に現実世界から該当サーバの置かれた施設を焼き払おうとしていたのだ。
「早くなさい! この役立たず共が!」
「は、はい!」
サロの苛立ちを背後から受けつつ部下は、必死にデータ解析をしていた。
◆◇
「まだか、強制ログアウト操作は!」
「だ、ダメです! 恐らくは敵側からロックが!」
「……くそっ!」
一方。
巫術山や力華たちも、現実側から救済を試みるがうまく行かず。
かと言って無理矢理物理的に青夢たちを筐体から引き剥がすと何があるか分からず、手を拱いていた。
◆◇
「……魔法塔華院マリアナ! 自発的ログアウトができないのはさっき確認したけど、あんたのカーミラでハッキングしてログアウトできない?」
「……それには、恐らくあの鳥さんを倒さなくてはならないとわたくしは睨んでいてよ魔女木さん!」
「やっぱりか……」
再び、仮想宇宙空間では。
青夢はマリアナの言葉に、頭を抱える。
先ほど予知能力を使おうとも試みたが、やはり今回も何か事情があってか限定的にしか使えず。
それでも何とか、やはりサロが予想通りの企みをしていることは突き止めつつ。
早く彼らを倒さなければ脱出は不可能であると知り考えアグぬいていたのだった。
「俺たちも!」
「分かってるわよ方幻術!」
「あたしだって!」
「わたしも!」
「わ、私も!」
他に法機持つ者たちも、果敢にもロックバードに突撃して行く。
「くっ、僕たちにも!」
「法機があれば!」
それを見るしかないジニーたちは、歯軋りする。
「(そうね……ここは出し惜しみしている場合じゃないわ! けれども、まだ極力悟られないように……セレクト、九姉妹 エグゼキュート!)」
が、ついにそこでレイテが動き。
彼女が密かに唱えた術句により――
「! こ、これは!?」
「な……これって!?」
「な、何か力が!」
ジニー・武錬・雷破は、何やら自機に力が芽生えたことを悟った。