#102 チーム対抗仮想宇宙飛行訓練
「はあ、はあ……」
「何をしている!? そうか、今回のプロジェクト参加者にはなりたくないらしいな!」
「は、はいっ!」
辺境の山でのサバイバル訓練と予期せぬ魔男との会戦後。
別の場所で行われているサバイバル訓練中、後ろをヨタヨタと走っている青夢たちに。
巫術山は厳しい言葉を浴びせる。
その巫術山は今、空飛ぶ人力法機を駆使して低空を飛行しつつ青夢たちの前を行っている。
争奪聖杯が終わり、一か月と半月ほど後。
魔男襲撃に備えて厳戒態勢が敷かれていた市井も、その態勢が解かれ日常が戻って来た矢先。
青夢たちはまたも、大きな動きに巻き込まれることになっていた。
それが、この空宙都市計画。
争奪聖杯の一件により信頼性が低下した法機に代わり、宇宙ステーションへと吸引光線により上昇し宇宙ステーション間は新たな飛行手段たる空宙列車により移動するというものだ。
しかしそのためには、実際に女神の杼船――すなわち、スペースシャトルに乗り宇宙作戦に従事する必要があり。
そのための訓練が、今日この僻地の山奥でのサバイバルをもって開始されていたのだが突如として魔男の十二騎士団が一つ・狼男の騎士団が襲来し。
これを教官たる巫術山たちが、その新兵器たる仮想電使戦機により迎え撃っていたのだが。
狼男側の現実世界にまで影響を与える技により、術里の擁する仮想電使戦機がやられてしまい窮地に陥った所に赤音率いる元女男の騎士団がやって来て攻防となるが。
そこへ参戦したマリアナと元女男ら、そして巫術山らとの共同戦線が何とか危機を回避したのである。
「(まったく……勝手に出撃したことでマリアナを脱落させられると思ったのに!)」
そうほぞを噛むのは、レイテである。
彼女の今の弁にあった通り、マリアナは出撃の件ではお咎めなしだったのである。
ちなみに術里は、奇跡的に軽傷で済んでおり。
「ほうら、ケツ蹴り上げるわよ!」
檄を飛ばす。
「(まあ、いいわ……ここは自分の手で潰す楽しみができたと思わないとね!)」
しかし、マリアナを疎ましく思うは彼女だけでなく。
尹乃もまた、同じであった。
◆◇
「いいか、貴様ら全員が信用されていない! これは敢えて言っておく。ので訓練場所はあらかじめは知らされず、目隠しをした状態で現場まで送る。そう、心得ておけ!」
「は、はい!!」
今の山に来る前に巫術山が青夢たちに告げた言葉である。
僻地での彼女らの訓練場を魔男側が把握していたことから、選抜候補者の中に内通者がいるのではとの疑いが持ち上がり。
かといってメンバーを選び直す時間もないということから取られた措置である。
しかし、その甲斐もあってか。
「くう!」
「さあ凄まじい重力だ……耐え抜け! 耐えなければ、プロジェクトメンバーにはなれないぞ!」
「は、はい!!」
「さあ水中における、擬似無重力下での作業訓練だ……しかし! 水中は厳密には無重力ではない、ここで使い物にならなければ本物の無重力下――すなわち宇宙での活動など夢のまた夢だぞ!」
「はい!!」
その後の大気圏離脱時の高重力耐久訓練などは順調に進み、魔男の横槍は入らずに時は流れた。
「(まあ魔法塔華院マリアナに負けるなんて癪だし!)」
「(これで魔女木さんを降して飛行隊長の座を奪い……更に、龍魔力や王魔女生に呪法院をも降して見せてあげてよ!)」
「(マリアナ様……私はあなたに、ついて行きます!)」
「(俺は大気圏を飛び越え……魔男をも超える!)」
「(少なくとも妹たちなんかには負けていられないわ、私は長女!)」
「(あたしは姉貴にも妹たちにも、他の奴らにだって負けていられるか!)」
「(お、お姉様方も頑張るなら……私だって!)」
「(マルタちゃんたち強かった……だから頑張る、私も!)」
「(マリアナ……海選での借り、今こそ!)」
「(レイテ様、私たちはずっとついて行きます!)」
「(もう後がないのよ、私の王魔女生グループには! だから死んでも離すもんですか!)」
皆、それぞれの思いを胸に必死に訓練について行った。
◆◇
「よし、ではこれより……VRシミュレーション空間での模擬戦闘を行なってもらう!」
「は、はい!!」
そうして厳しい訓練を乗り越えて来た青夢たちは、一人として脱落することはなかったが。
ある日訓練場として連れて来られた施設で彼女たちは、巫術山の言葉に驚いていた。
そこには、何やら大きな筐体が数台置かれていたのだ。
「今言った、VRシミュレーション空間での模擬戦闘だが……今回の空間は、宇宙空間を再現したものになっている! そしてシミュレーションされた任務は、宇宙飛行用ブースターを着けた法機による戦闘任務だ!」
「は、はい!!」
またも皆内心では驚きつつも、かつての山での訓練時のごとくそれを表に出すことはなく。
平然として、返事をしていた。
「そして……この訓練では、チームに分かれてもらう! 全部で四チーム、内訳はこの通りだ!」
「(!? あ、あれって!)」
巫術山の言葉と共に、二つに折り畳まれた紙を持って来た力華と術里は左右に間隔を取り。
それにより紙も広げられ、そこに書かれた内容を皆に見せる。
その内訳は、青夢たちを驚愕させるものだった。
チーム1 魔女木青夢 魔法塔華院マリアナ 龍魔力夢零 呪法院レイテ
チーム2 雷魔法使夏 空魔法ジニー 龍魔力英乃 金女武錬
チーム3 方幻術剣人 亜魔術雷破 龍魔力二手乃 龍魔力愛三
チーム4 巫術山麻由 妖術魔力華 白魔術里 王魔女生尹乃
「ここで勝ったチームの四人が、最終的に選抜される!」
「……!!」
巫術山の言葉に青夢たちは、動揺と興奮を必死に堪えている。
「……では、各チームブロックに配置された筐体を」
「教官。一つ、ご質問をよろしいでしょうか?」
「……なんだ。」
巫術山のこの発表に、尹乃が手を挙げる。
「ありがとうございます。では……チーム4に教官方がおいでなのは人数が足りないためとお見受けします。しかし……もし、そのチーム4に他のチームが負けた場合は、どうなるのですか? 申し訳ございません、愚問かもしれませんが。」
「いや、むしろ良問だ……その場合! お前だけはこの日本からの唯一の選抜となり、他はアメリカ・中国・韓国の選抜で占められる!」
「……!!!」
尹乃の質問に、巫術山は。
更に青夢たちにとって驚くべき言葉を返す。
他国でも、選抜が?
それはマリアナも、知らぬことだった。
「ああ、全員知らなかったようだな……そうだ! 我々自衛隊としても、そして政府としても! 選抜される四人は我が国だけで占めたい、しかし! ……人数合わせの我々にすら負けるような者たちを、宇宙に行かせればむしろ日本の恥だろう? それこそ、人数合わせではないんだからな!」
「……」
青夢たちは必死に言葉を飲み込んではいるが、内心の動揺には凄まじいものがあった。
「ちなみに言っておくが。……王魔女生、とやらか? 貴様も私たちにおんぶに抱っこで勝ちを取るようなことになれば、選抜はされない! 情けないが選抜は全て、他国のものになる!」
「……はい! (名前を覚えられていないのはまあいいとして、なあるほど……それじゃあ、尚更止められないわね!)」
尹乃は巫術山の言葉遣いはひとまず気にしないこととしつつ。
状況を理解し、闘志を燃やす。
「……では、各チーム持ち場につけ! 今回は先ほど言ったように、貴様らだけが恥を掻いて終わりというどうでもいいことではない! 我が国の名誉がかかっていることを忘れるな!」
「はい!!!」
いや、闘志を燃やしたのは尹乃だけではなく。
他の選抜候補者たちも、闘志を燃やしていた。
「では……直ちにログイン用意! 遅れればその時点で失格だ、ぼやぼやするな!」
「はい!!!」
そうして全チームが、与えられた各自の筐体に入り。
「……ログイン、エグゼキュート!!!」
ほぼ同時に、術句を唱える。
これは電賛魔法ネットワークには接続していない、スタンドアロン式システムである。
これならば、魔男の横槍を気にする必要もない。
そうして青夢たち選抜候補者たちは。
その世界へと、入って行く――
◆◇
「……!? こ、これが今回の仮想空間か……うわ、身体がフワフワと!」
青夢は割り当てられた自機内にて目覚め。
早速地上とは違う様子に戸惑う。
ここは偽物とはいえ、巧妙に作られた宇宙空間である。
下には、青い地球も見える。
更に、青夢も言う通り無重力状態まで再現されている。
「ま、まあこんなことしてる場合じゃないわね! さあ、周りにも機体がひい、ふう、みい……ってあれ、十二機?」
気を取り直し周りを見渡す青夢だが。
ふと異変に気づいた。
周りに見える、円を描いて並ぶ本体よりも大きなブースターを付けた法機型機体。
その機体数が、足りないのである。
「ああ、自分を忘れてた……って! いやいや、それでも三機足りないやないかーい!」
無意味なノリツッコミはさておき。
「教官方! どちらにいらっしゃるのですか? ……もう、散々人には偉そうにしといて!」
いや、尹乃も気づいていた。
それも、いない機体はよりにもよって教官機たちだったのだ。
「!? み、皆さん! 三時の方向より未確認飛行物体多数! こ、これは!」
「! む、夢零さん! え? こ、これは!?」
その時。
夢零が気づいた迫りくる影たちに場は更に混乱する。
◆◇
「!? な……何だこれは、何故ログインできない!」
「教官、私サーバー室を見て来ます!」
一方。
現実世界では、やはり巫術山たちがログインできずに困り果てていた。
「!? ま、待って白魔二等空曹! 巫術山教官、これは!」
「!? なっ!」
しかし力華や巫術山も。
仮想空間を映し出すモニターに釘付けになる。
それは――
◆◇
「ああら、やっぱり魔女ちゃんたちがいるわ! さあ……私たちも行くわよ!」
言葉からして女性かと思うかもしれないがさにあらず。
彼は、女魔男でもない正真正銘の魔男である。
「はい、サロ騎士団長!」
鳥男の騎士団長タンガ・サロによる巨鳥型幻獣機父艦数隻が、何故かこのスタンドアロン式の仮想空間内に現れていたのである。