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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第六翔 空宙都市計画
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#99 魔狼の牙

「う、ウルグル騎士団長!」

「ふん、舐めんなクソアマ共があ! こんなの○×#@」

「はあ……はい、ウルグル騎士団長。」


 混乱する魔男の十二騎士団が一つ・狼男の騎士団艦隊。


 その一つにして旗艦を務める幻獣機父艦クリプティッドファザーフードマーナガルム。


 その司令室を構成する輸送用大型幻獣機・ガルミックスパルトイ内で尚も毒づく騎士団長ウルグルに、いつものことだと側近も諦めて口を噤んでいた。


 争奪聖杯が終わり、一か月と半月ほど後。

 魔男襲撃に備えて厳戒態勢が敷かれていた市井も、その態勢が解かれ日常が戻って来た矢先。


 青夢たちはまたも、大きな動きに巻き込まれることになっていた。


 それが、この空宙都市計画(コード・ザ・シティ)


 争奪聖杯の一件により信頼性が低下した法機に代わり、宇宙ステーションへと吸引光線により上昇し宇宙ステーション間は新たな飛行手段たる空宙列車エンジェレクトロンズマーチにより移動するというものだ。


 しかしそのためには、実際に女神の杼船(アテナーズシャトル)――すなわち、スペースシャトルに乗り宇宙作戦に従事する必要があり。


 そのための訓練が、今日この僻地の山奥でのサバイバルをもって開始されていたのだが。


「クソアマ共お! ……おい側近、クソアマ共に目にもの見せてやれ!」

「! う、ウルグル騎士団長……やっと、文章に起こせるレベルのことを言っていただけましたね! ……承知いたしました!」


 自分が側近と名前で呼ばれなかったことを差し置き、ウルグルの(元が酷すぎるだけにそう見えづらいが)正直幾分か改善された言動に喜んだ側近は。


「hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 月喰(ムーンバイティング) エグゼキュート!」


 早速に旗艦たるマーナガルムの技を、詠唱する。


 ◆◇


「くう!」

「くっ! ふ、巫術山教官これは」


 一方。

 新兵器搭載の戦闘車両(ウォーワゴン)から狼男の騎士団を攻撃していた巫術山・力華・術里だったが。


 突如として衝撃が走り、攻撃を一時中断する。

 それは皮肉にも、先ほど彼女らが敵たる狼男の騎士団に与えたダメージに似ていた。


「い、今のは」

「敵の攻撃だ……だが! 我らもこんなものでやられていい訳がない、さあ! 攻撃を続けろ!」

「は、はい!!」


 しかし巫術山が、力華と術里を奮い立たせ。

 再び戦闘車両(ウォーワゴン)搭載の新兵器・仮想電使戦機より攻撃を開始する。


「(そうだ……おそらくは敵も電使戦を仕掛けて来たのだろう。しかし……その程度で我々を叩けるなどと!)」


 巫術山は自分自身を奮い立たせて戦いに臨む。

 しかし彼女のこの考えは半分正しく、そして半分間違っていた。


 ◆◇


「ウルグル騎士団長! 奴らからまた」

「ああ、本当にクソアマ共はクソだな! さあ側近、もう一度だ!」

「はっ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 月喰(ムーンバイティング) エグゼキュート!」

「ああ、そうだ! あのアマ共を現実のデバイスまで食い尽くしてやれ!」

「はっ!」


 一方、自衛隊側から再度放たれた攻撃に狼男の騎士団側も気づき。


 こちらもまた、再度自衛隊側に向けて攻撃を放つ。

 すると――


「おお! 生意気にも向かってくる仮想上の敵機が三機も!」


 仮想空間内で側近は、すぐにこれまた仮想上の自艦マーナガルムに迫る仮想電使戦機三機を見つけ。


 マーナガルムの矛先を、それらへと向ける。


「巫術山教官、こちらへと敵艦が!」

「狼狽えるな! 攻撃続行、仮想恋電使之弓矢バーチャルキューピッズアロー発射!」

「は、はい!」


 敵艦隊の中でも一際目立つ巨狼がこちらに牙を剥いて来たとなれば、力華や術里も動揺を隠し切れないが。


 すぐに教官たる巫術山の指示に従い、攻撃を放つ。


 それは、見た目には誘導銀弾(シルバーブレット)のようにも見える兵器・仮想恋電使之弓矢バーチャルキューピッズアロー


 実態は仮想空間上の的に当てることにより、そのシステムをクラッキングするものなのだが――


「そんなものにさっきはやられていたのか! しかし、見るがいい……我らが旗艦マーナガルムによる、月喰(ムーンバイティング)を!」


 が、側近が命じるや。

 たちまちマーナガルムは、その巨大な口を開き。


 そのまま高速で前へと進み、そのまま――


「!? く、ぐああ!」

「! し、白魔二等空曹!」

「な!? くっ、仮想空間でよかった……」


 たちまちマーナガルムの口は、放った仮想恋電使之弓矢バーチャルキューピッズアロー諸共に術里の仮想機体を一呑みにしてしまった。


 これを見た力華も巫術山も、息を呑むが。

 気を取り直してまた、自身の仮想機体でもって向かって行く。


 ◆◇


「……くっ!? はあはあ、私は生きてる……まあ、仮想空間の中で食べられただけだからそうよね……」


 現実の山奥では。

 術里は飛び起きるように、強制的に現実帰りさせられ息を切らす。


「……さあ、私もまた」


 と、術里が再び仮想電使戦機を起動させようとした時だった。


「!? 動かない……いえ、それどころかこれは!? くっ!」


 ふと違和感に気づく。

 何と操作盤が通電しておらず。


 どころか、そこかしこから小さな電流が漏れていたのだ。


 これは、まさか――


「くっ、これは()()()()……だけど、ここは! なら!」


 術里はこれから起こるであろうことを察知し、周りを見る。


 近くには、当然巫術山や力華の操作している戦闘車両(ウォーワゴン)が。


 ならばと術里は、自身のいる戦闘車両(ウォーワゴン)のハンドルを切り。


 できる限り遠くに、移動を開始する。

 が。


「くっ! これ以上は保たなそう……なら! ……ぐうっ!」


 術里は移動させつつも。

 やはり恐れていた事態――車体の爆発は、避け切れなかった。


 ◆◇


「!? な、何だ警告か?」

「! ふ、巫術山教官! 白魔二等空曹の車体が!」

「!? こ、これは……ひとりでに爆発を? いや、それは考えがたい……まさか……」

「うぉおん! 攻撃に隙が出来てるぜえクソアマ共めがあ!」

「! くっ、回避!」


 一方仮想空間内でも。

 現実の術里の車体が爆発したことはすぐに伝わり、その原因を思索していた巫術山ははっとする。


 先ほどの映像を見たところ、あれは表面上はひとりでに爆発したようであるが。


 もしあれが、何かの攻撃によるものだとすれば。


「……妖術魔二等空曹、気をつけろ! 白魔二等空曹の車体はまさかとは思うが、恐らく先ほどのこの仮想空間内で受けた攻撃により爆発したのだろう!」

「!? な!」


 巫術山の言葉に力華は、愕然とする。

 まさか、そんな。


 しかし力華は分かっている。

 巫術山は冗談を言うような人ではないと。


 ならば、本当に?

 しかしにわかには、信じがたい話である。


 仮想空間での攻撃が、現実に――


「妖術魔二等空曹! 気をつけろ!」

「! は、はい!」


 しかし知らず知らず呆けかけていた力華は巫術山の言葉に、慌てて我に返る。


 そうだ、ここは戦場だ。

 仮想の攻撃が現実に影響を与えるのならば、むしろそれはますます現実での戦いと同じように考えればいいというもの。


 さすがは自衛官といえるほどに早く思考を切り替え、力華は今一度目の前の巨狼の群れへと突き進んで行く。


 ◆◇


「!? こ、この爆発は?」

「あれは……恐らく、少なくとも一台の戦闘車両(ウォーワゴン)――仮想電使戦機搭載の車が爆発したのであってね。」


 一方。


 下山中の青夢ら凸凹飛行隊、龍魔力四姉妹、レイテら旧新候補組、尹乃にもこの事態は音や地鳴り、遠くに見える爆炎でもって伝わった。


「! し、しかしマリアナ様。敵弾や敵機が発射された様子はなかったです!」

「そうね雷魔さん、だとすればまさかとは思うけれど。」

「! そうね……仮想空間での攻撃が現実の車体を。」


 法使夏の言葉にマリアナも、青夢も先ほどの巫術山や力華と同じ結論に至る。


 まさかとは思いつつも。


「え、うそ!? 仮想の攻撃が?」

「まあ前例と言えばあのナイトメアの騎士があったわ愛三……でも、まさか。」


 龍魔力四姉妹も驚く。


「れ、レイテ様!!」

「狼狽えないで雷破、武練!」

「まあそうね。あたしたちはこの四姉妹や凸凹飛行隊さんとやらとは違って法機を持っていない訳だし。狼狽えても仕方ないんじゃない呪法院エレクトロニクスの令嬢一味さん?」

「! お、王魔女生さん……」


 レイテは動揺する取り巻きを制するが。

 尹乃もそこへ、やや嫌味混じりに言葉を紡ぐ。


「まあそうね、よくわかっておいでじゃなくって王魔女生さん?」

「……魔法塔華院のご令嬢。」

「ま、まあ待った! すみません皆さん、うちの魔法なんちゃらが! まったく、ほんとにあんたはそういう嫌な言い方しかできないんだから!」


 そこへマリアナも尚、嫌味を吐き。

 青夢は飛行隊長の立場として謝る。


「あら魔女木さん、せめて隊員の名前ぐらい覚えたらどうかしら?」

「人様に対して身内は落として言うもんでしょ! 第一、私たちはとにかく下山が第一なの!」


 尚も空気を読まないマリアナを、青夢はさらに叱責する。


 そう、事実ここでくだらない言い争いをしている場合ではないのだ。


 一刻も早く、ここは山を――

 と、その時だった。


「待たせたなあ姉ちゃん方! 邪魔するでえ!」

「!? あ、あのほ、法機にこの声……まさか!?」


 夜の空を突如、二機の法機が通過する。

 このタイミングで法機が来たとなればまずは、自衛隊を疑うべきなのだろうが。


 そのうち一機が二機を連結させたような形で尚且つ、もう一機から威勢のいい関西弁が聞こえたとあらば、それを疑う余地は少なくとも青夢たちにはなかった。


「ま、魔女辺赤音!?」

「み、ミリア!?」


 元女男の騎士団の、面々だった。


「!? き、騎士団長! 一時の方向より、法機三機接近中! これは……形状より恐らく、元女男の騎士団です!」

「がるっ!? 何だと……あのクソアマ共がああ!」


 それにはレーダーを睨んでいた狼男の騎士団所属騎士も気づき、報告を受けたウルグルは思わず吼える。


「ご安心を、ウルグル騎士団長! …… hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 遠吠えの言霊(ハウリンガル)、エグゼキュート!」


 しかし、それを聞きつけた側近の動きもまた素早く。

 そのまま、術句を詠唱する。


 すると――


「ん!? こりゃあ……あのナイトメアの時と同じ感じや!」

「姐様、赤音さん!」

「心配すんな、ミリア!」


 赤音・ミリア・メアリーは、三人揃って仮想空間へと誘われていく。

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