#9 魔男護送機 直衛任務
「ううむ……魔法塔華院さんはともかく、何故魔女木までもが……」
「いや、何ですかそれえ!」
訓練学校の、職員室にて。
強力な空飛ぶ法機を操り幻獣機を撃破した青夢らに驚く教官の言葉に、青夢は口を尖らせる。
訓練学校を襲った、ソード・クランプトンの一件から数日後。
その次には幻獣機タラスクが、この訓練学校を襲い。
青夢は自機であるジャンヌダルクを発進させて対処するが、未来予知によりジャンヌダルク単機では対処できない敵と分かり。
止むを得ず青夢は、マリアナに新たな空飛ぶ法機・カーミラを得させ。
彼女が操る空飛ぶ法機・カーミラと、それにより子機化された法使夏機・ミリア機との(不本意ながらの)共闘により、どうにか幻獣機タラスクは撃破されたのだった。
しかし青夢は、あることを胸に抱えていた。
それは。
「(だけど今回の戦いでは……全ては救えなかった。だって、あの怪物……)」
そう、青夢の胸に引っかかっていたのは。
あの幻獣機タラスクのこと。
「ところで教官。あの怪物を操っていたものは、見つかりまして?」
「ああ……魔男のことか。」
青夢は教官とマリアナの会話に、はっとする。
まさに青夢が懸念していたことと、同じことを話しているのだ。
「魔男? あの男――わたくしたちを襲ってこの前捕らえられた男のことですの?」
「ああ……奴らは、この魔女社会を脅かそうとする過激派サイバーテロリスト集団だ。そして君たちが相手取った怪物の名は、幻獣機。」
「エ、幻獣機ですって!?」
「……」
マリアナも、法使夏・ミリアも驚く。
ただ一人、青夢は黙りこんでいる。
幻獣機。
かつて空飛ぶ法機と魔法検索システムインフラとしての地位を争い、事故を起こして製造禁止になった機種である。
だがそんな機種が、今更どうして?
そうマリアナと法使夏・ミリアが傾げた時だった。
「お、おほん! ……教官、それで何の御用ですか?」
青夢が教官に、呼び出された訳を尋ねる。
「あ、ああ……今回来てもらったのは他でもない。君たちに、任務を仰せつかっている。」
「え? に、任務ですか?」
が、教官のこの言葉には。
マリアナ、法使夏・ミリアのみならず青夢も首を傾げている。
任務?
しかし教官は、次には極秘事項であるとばかりに声を潜める。
「……今、校舎の一室に拘置している魔男の男だが。その者を警察に引き渡すことになった。しかし……今言った通り、魔男は過激派集団だ。戦闘用の空飛ぶ法機ですら、そうそう相手にできる代物ではない。」
「なるほど……それでわたくしたちに?」
教官の言葉に、マリアナは合点する。
「……その通りだ、さすがは魔法塔華院さん。君たちの空飛ぶ法機であれば、奴らを相手取れるかもしれない。そう、今回仰せつかった任務は……題して、『魔男護送機 直衛任務』だ。」
◆◇
「まさか、もう任務だなんて……ねえ、お父さん。私、お父さんの約束守れなかった……本当に、そんな責任のある任務についていいのかな?」
自室にて。
青夢はスマートフォンの中に保存された父の写真に呼びかけていた。
「ふふふ、腕が鳴るわ! さあ幻獣機だかアイドロンだか知らないけれど、かかっていらっしゃい! わたくしが……返り討ちにして差し上げますわよ!」
マリアナも(魔法塔華院家の七光りによる特別製)自室にて、鼻を鳴らしていた。
「ねえミリア、いよいよ私たちマリアナ様のお役に本格的に立てるのね?」
「その通りね、法使夏! ……ただ、あのトラッシュは邪魔だけどね。」
自室の浴室にて。
法使夏とミリアはシャワーを浴びながら、話していた。
髪もサイドテールではなく解いており。
完全に、どちらがどちらか分からない。
「まああのトラッシュは役立ちそうな時に使えばいいわ……それよりも、私たちはどうすればマリアナ様のお役に立てるかだけ考えましょ?」
「そうね……この心と身体も、マリアナ様に捧げましょう!」
「ええ……私たち、二人で!」
法使夏とミリアは、シャワーの雨の中抱き合う。
◆◇
「さあて……揃っているな、12騎士団長諸氏。」
魔男の、円卓にて。
先に席に着いていたアルカナは、他の騎士団長らに呼びかける。
果たして、その呼びかけに応え。
「……用があるのは、私に対してだろう?」
捕らわれたソードと、前回撃破された幻獣機タラスク。
いずれもの所属である龍男の騎士団長、ギリス・バーンが照らされる。
「ご自覚があるのならまだよろしい。しかし……この汚点をどう払拭するおつもりかな? 若き騎士の失態を埋め合わせするつもりが、また失態をお重ねになるとは。」
アルカナは少し意地悪く、バーンを見る。
口元には不敵な笑みが張り付いている。
「……情けないが、返す言葉もない。だがこの失態は、もう一度わが子飼いの」
「おっと失敬! ……思わせぶりな言い方をして申し訳ないが、貴氏騎士団の此度の失態はもはや貴氏自らの手に負えぬ物と見させていただいた。」
「……何?」
アルカナのこの言葉に、バーンは眉根を寄せる。
それはつまり。
「ああ、誠に心苦しいが……この一件は蝙蝠男の騎士団に尻ぬぐいしていただくとしよう。」
「何!?」
「ああ……この件は、すでに仰せつかっていてねえ。」
バーンは激怒するが、そこで蝙蝠男の騎士団長が照らされ、立ち上がる。
ブラド・ヒミル。
彼は気障にも、長く縮れた髪をさらりと流しながら口を開く。
「失態を演じたものにつけてやる薬はない、ってね! なあにギリス、安心したまえよ。僕の下で選りすぐりの騎士共を見繕ってやったからさ!」
「ふん……それはありがたい、迷惑だな!」
半分は自分に酔っていることが感じられるヒミルのまなざしを鬱陶しがりながら、バーンは軽口をたたく。
とはいえ、確かにこの場で彼ができることはもうないようだ。
バーンもそれを自ら悟り、力なく背もたれにもたれかかる。
「ははは……相変わらず、まったくつれない男だねえ! ま、いいさ。僕が君の失態を尻ぬぐいしてやると言っているんだ、せいぜい果報を寝て待っていてくれよ!」
「ああ……重ね重ねどうも。」
ヒミルの嬉々としての言葉を、バーンはまたもすげなく受け止めた。
「(ふうむ……しかし。こうも立て続けに幻獣機がやられるとは。これは、私自ら繰り出すか。)」
一方、アルカナは。
ひそかに、たくらみごとをしていたのだった。
◆◇
「では……発進!」
「はい! …… hccps://jehannedarc.wac/、サーチ コントローリング ウィッチエアクラフト・ジャンヌダルク! ……エグゼキュート!」
「…… hccps://camilla.wac/、サーチ コントローリング ウィッチエアクラフト・カーミラ! ……エグゼキュート!」
「エグゼキュート!」
「エグゼキュート!」
そうして、ソード護送の日。
護送機と、それを取り囲み守るためジャンヌダルクにカーミラ及びその子機である法使夏機・ミリア機は発進する。
皆それぞれ、機体後部にある花弁状プロペラからエネルギーを噴射して。
護送機の前衛をジャンヌダルクが、後衛をカーミラが。
そして右側を法使夏機が、左側をミリア機が詰めていた。
他の生徒にも極秘にするため、夜のうちの発進である。
「さあて……どうだい魔男さん? まあ死刑になる訳じゃなかろうが……まあ更生してくれれば」
「……お前らだ。」
「……何?」
護送機の中で。
捕縛されているソードに付き添っている青夢らの教官は、彼に声をかけるが。
ソードから返って来た言葉は。
「……お前らだ! 更生するのはなあ。お前ら……魔女の下働きになっている男など、もはや生ける屍と同じだからなあ!」
「何? ……くっ!」
言うが早いかソードは。
縛られていながら軽やかに立ち上がり。
力ずくで足を縛るロープを引きちぎり、教官に蹴りを加える。
「ふん、縛る縄まで軟弱とはなあ……まったく、これだから所詮魔女の下働きは!」
ソードは腕のロープも引きちぎる。
◆◇
「…… hccps://jehannedarc.wac/、サーチ! コントローリング ウィッチエアクラフト・ジャンヌダルク! ……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート! ……な、これは!」
一方、護送機の前衛たるジャンヌダルクでは。
青夢が未来予知を行い、驚いていた。
彼女はそれによって、護送機の現状をも知ったのである。
「まずい……よりにもよって!」
青夢は慌てる。
しかし、その時である。
「! く、二時の方向より幻獣機が多数接近中……! 魔男たちも、本気を出し始めたみたい……」
またも未来予知による、未だレーダー圏外の敵襲の予見である。
数としては圧倒的に分がある敵に、青夢は身震いする。
「え? 敵襲ですって! しかも……護送機内でトラブル!?」
青夢から報告を受け、カーミラ内でマリアナは驚く。
「くっ、魔男め!」
「随分、舐めてくれちゃってるじゃない!」
法使夏とミリアも、報告に怒りを抱く。
「さーてよお! 俺たちであの若造の青いケツ拭いしてやろうぜえ、マギちゃん!」
「ダルボ……はしたないですよ。」
一方、護送機部隊に迫る幻獣機部隊では。
幻獣機ドラキュラを操るダルボ・アンフィスと幻獣機グレムリンを操るマギー・フェルゼンが各幻獣機に騎乗しながら話をしていた。
周りを取り囲む幻獣機は、ドラキュラの分身である。
幻獣機ドラキュラはカーミラのごとく、子機を操ることができるのだ。
「あーあ、相変わらずお堅いねえ!」
「ええ、お堅くて結構ですよ……私のグレムリンは、私の頭脳でなければ機能しないのですから。」
ダルボの非難も、マギーはどこ吹く風であった。
かくして戦いの時は、刻一刻と迫る。
◆◇
「この二つ……もしかしたら。」
その頃、訓練学校の整備舎では。
矢魔道が幻獣機ドラゴンの竜炎心臓と幻獣機タラスクの堅牢外装を前に、思索を巡らせていたのだった。