か弱きテナジー
こんにちは。これから面白い話書きます。
<登場人物紹介>
村椿了
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南塚
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濱岸
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廣田
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まるでバスケットボールのドリブルみたいな要領で床にボールを弾ませながら、静かにサーブの構えに入る南塚。
対する村椿はどこかイソイソとした落ち着きがない調子で腰を落とすと、レシーブの体勢に入る。挙動不審な村椿に得も言われぬ不安を感じ取った濱岸は、チラリと廣田に問いかける。
「ぶっちゃけ強いん?あの村椿って人」
聴いてはみたものの、ド素人な自分にだって大体は想像つく。――「きっと弱いだろうな」って。
何しろ自分よりも背が小さい。女子として平均よりちょっと背が高い程度な自分よりも小さな体格だ。
半袖のシャツとパンツから伸びる短くて細い手足は、どれだけポジティブに捉えたとしてもフォロー出来ないレベルで弱々しくて頼りない。「腕相撲したらワンチャン、アーシでも勝てんじゃね」なレベル。
あの腕になら、たぶん抱き締められても何も感じない。
日頃から「抱かれるなら細マッチョがいいよね」と異性の好みを語る彼女にとっては何ともザンネンな容姿だ。
冷ややかな感情を目に浮かべて尋ねてくる濱岸に対して廣田は「まー、見とればわかっちゃ」とはぐらかした。
すると。
「――おいおい、何けよ、このイベントは」
盛り上がりを見せていた館内に、1人の3年生がやってきた。
背の高い黒縁の眼鏡をかけた刈上げ頭。角ばった輪郭の内側で、冴えない顔に笑みを浮かべている。年期の入った学ランは少し色落ちして、彼自身の顔立ちとの相乗効果で何とも"残念"な印象を受けてしまう。
「あ、御疲れです、舟橋センパイ。何か久し振りじゃないすか」
広田の挨拶に対して「受験生は目下、繁忙期やからな」と低い声でサラリーマンぶった冗談を飛ばす。
「副部長である俺がなんの指示も出していないというのに……。アレか?もう引退直前の副部長なんて、“レームダック”に過ぎないってか?」
レームダックって何だっけ。そこそこ体格が良い眼鏡面の3年生を見上げながら、濱岸は考えていた。
「まったくもう」と苦笑しながら辺りを見回した舟橋。「コレは何なんだい」と困惑した表情で笑みをこぼしながら、一番近くにいた廣田に問いかける。
そこで「いや、それが」と事情を話し出した廣田。舟橋は「何け、そのドラマティックないきさつは」と目を開いて、ギャハハと声を出した。
「新入生には丁度いいイベントかもしらんわ」となにやら先輩らしいアイデアを思いついたらしい。
「――ちょっと、一年生は集まってぇ」
間延びした大声。
練習場にいる生徒の中では最年長の3年生部員・舟橋健吾の声を受けて、1年生が集まっていく。
「せっかくの試合や。観戦した方がいくないけ?」
顎を撫でながら笑った。
「未経験な子は見とった方がいいぞ。良いお手本になるハズやから」
語り口に濱岸は「何か偉そう」という感想を抱えていた。
フレームが太い黒縁の眼鏡が顔に馴染んでいる舟橋からは、別段スポーツが得意そうな印象は受けない。第2次性徴を完了させて、高校生活で一通りの体育を修了した2つ年上の男子はがっしりとした体つきではある。それこそ、村椿とは比べ物にならないくらい。
ただ、逞しくもいくらか毛深い手足が「大人っぽい」というより「オヤジ臭っ」というネガティブな状態で完成しているのが惜しまれる。
数日前に入部してからというもの、まだ本格的な練習にはありつけずにいた未経験者の部員達がおずおずと前にでる。
もっとも、濱岸だけは初めから最も試合を見やすい位置である卓球台の真横の最前列を陣取り、ふてぶてしく腕を組んでいた。
グッと身を買かがめて顔を卓球台につきそうな程に近づけていたため、廣田から「邪魔邪魔」と引っ張られた。
「あのぉー、舟橋センパぁ~~イ。一個質問してもいいですかぁ?」
ダラっと語尾が伸びただらしない口調で、歳も背丈も上の上級生相手に緊張感が一切ないクタッとしたイントネーションの敬語で問いかける。
「南塚先輩って、強いんですか? 私って先輩が試合してるとこ、まだ見てないんですよね」
「ん?あぁ。アイツは小学校の時からやっとったらしいからな。つっても、別に地域のクラブチームとか『スポーツ少年団』で本格的にやってた――って訳じゃなくて、学校のクラブ活動でチョロッとやったり、休みの日ぃに友達同士で遊んでた程度っぽいけど」
「そーなんですか」
大したことないか、と濱岸が思いかけたところで舟橋が言葉を続ける。
「それでも、アドバンテージとしては十分やろ。卓球は『技術の錬度』が異様に求められるスポーツやから『一日の長』の価値が大きい」
「うっわ、またコムズカシイワード使いだした」と考えている少々派手な格好をした小生意気な後輩の質問に、舟橋は落ち着いて答えた。
「らぶおーーる」
審判役になった森本が随分と面倒くさそうに――まるで面倒くささを積極的にアピールしているかのように――だらしない口調でコールした。
開いた掌の上に乗せたピンポン玉。
宙に放ると
ダンッと左足で踏み込む音がギャラリーの耳まで届く。
「でた。“右肩下がり打法”」
南塚はラケットを持っている方の腕――『ラケットハンド』を極端に下げるのが特徴で 肩の傾斜が大きく、 左肩に対して右肩が上がる姿勢から「南塚の“右肩上がり打法”とイジられていた。
サーブの際は特に顕著に表れ 腰を捻って放り上げたボールを見上げながら 頂点に達して落下するピンポン玉を スレスレの高度で
そして村椿のコートに着弾。 鋭い弾道で駆け抜けんとするボールを迎撃する度に村椿が振り抜いたラケットが――
「……えっと、1-0」
大きな弧を描いた空振りした。審判の森本が戸惑うほどに間抜けなフォルムで。
「おぉい」「ありり?」
冷やかす様な目線で見ていたギャラリー達も、予想だにしなかった状態に冷やかすのを忘れてしまう。
コン コン
南塚が気を取り直そうと、音を立てて卓球台の上でピンポン玉を弾ませる。
再び、南塚がサーブを放つ。
ダシムっ
力強い踏み込みと共に発射。
敵陣の中央を射抜いた。2バウンド目の地点が台の縁スレスレにくる弾道。
それに対して明らかに慌てふためいた様子でラケットを出した村椿だったが、彼の手元に勢いよく突き込まれたサーブの球威を十分に制御できてはいない。
どうにか南塚のコートに返すのが精一杯。
レシーブしたボールは「うってくだせぇ」と言わぬばかりに高々とバウンドしてしまう。完全なチャンスボールに対してフォアハンドでスマッシュを一発叩き込んだ。
万全の態勢で打ち込まれた攻撃に対して村椿は一歩たりとも動けない。
「2-0……」
森本は出っ歯で下唇を噛みながら気まずそうな表情を浮かべた。
「だ、ダメじゃん……」
予想以上の酷さに濱岸は困惑。
舟橋が「うわー」と唸りながら「ロングサーブがまともに通っちまったな」とぼやいた。
「ロングサーブっていうのは、今みたいなサーブのことですか?」
浜岸の質問に頷いてみせる。
「そうやな。2バウンド目がネットの近くなら『ショートサーブ』、台の縁に近ければ『ロングサーブ』って区別しとっちゃ」
「今のは完全に成功例やな。 スピードのあるボール-言い換えると“”ど真ん中に深く差しこまれて、手が打ててなかった」
じゃ、どうすればいいワケ?
頭に浮かぶ疑問は解決しないまま放置して、わからないまま観戦を続ける。
口々に拍子抜けしたギャラリーの声が飛び交う。
「次は漁湊の子のサーブか。どんな打ち方するんやろ」
サーブを打つ姿勢はバリエーションに溢れている。
「卓球のサーブに対してはいくつかの決まりがある」
「まずは、一つ。ラケットで打つ前にさ、空いてる方の手でボールを放り上げるやろ?この『トス』ではボールを16㎝以上高く上げないかんがいぜ」
「そう。そして投げるボールの軌道が台に対して垂直でなければならないし、投げる時の手の平はしっかり開いて、一度止まらないとルールに抵触する」
「南塚は多分50㎝くらい上げとるな。やや高めってところ」
「へぇ。なんか思ったより高く上げてたから、ちょっとビックリした」
「――じゃあ……」
廣田がニマっとほくそ笑む。
「村椿のサーブ見たらもっとビビっちゃ」
会話されている間、彼はカツーン とバスケットボールのドリブルのような要領で、ピンポン玉をラケットの床 ウォームアップらしい鞠つきを済ませると、
最悪の出だしを見せた人物にしては、背筋を伸ばして 1m程の感覚が開いているラケットの床の間で垂直に 往復させる佇まいは存外に“凛”として様になっていた。
キャッチすると、 掌からスルリと零した ピンポン玉はピンピンと微かな音を立てて小さく弾むと、そのままコロコロと台の際に沿うように転がってゆく。
それに目もくれず、村椿はラケットをまるで扇のように 首筋を扇いでいた。そのまま ジッと敵陣を 何かを考えているふうに睨みつけていた村椿だったが、考えがまとまったらしく スッと手を伸ばしてゆっくりと転がっていたピンポン玉を手に取り、そのまま腰を落とし、上体を下げてサーブの体勢に入った。
妙に手慣れていた一連の動きは、恐らく彼のルーチンワークであろう。卓球どころかスポーツ全般に詳しくない濱岸でも、野球選手 ラグビー選手 ニューズ番組のVTRでちらりと目にした経験はある。
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すると、バッと 勢いで上半身が跳ね上がると同時に、天井目がけて高々とピンポン玉を垂直に射出した。
「ッへ!?」
濱岸が驚きの声を上げた時、村椿のトスは体育館の2階に達した。
思いもよらぬダイナミックな動作に呆気に取られながら
南塚に背中を向けるほど大きく腰を捻じり、 ラケットの先端は卓球台の遥か下まで深々と潜航している。
楕円を描いて 荒々しく振り抜かれたラケットとピンポン玉が一瞬の接触――と同時に「ダシンっ」と 打ち鳴らす程強く右足を踏みこんで 打ち出された。
「――『』」
アイツ、サーブに名前付けてんのカヨ、漫画カヨーーって、いやいや、待って待って、そこじゃない。色々とツッコみ所があって渋滞してる。ヤバい、何、今の。
「ウウワッ」
「成程。『投げ上げサーブ』を使うのか」
舟橋が呟いた。
人差し指の腹の上にコルクを引っかけたラケットをブラブラと垂らしながら、空いた左手の甲で村椿は頬を伝う汗を拭っていた。
「ビックリした?」
細い指で南塚を指さすパフォーマンスは、"陰キャ"丸出しの虚勢の張り方だった。
込河:チッキーーーーッターーーーー!!(卓球ファンの間で「お前ら元気かコノ野郎バカ野郎くそ野郎卓球やろう」の意)
「底辺卓球部には自力でラバーの張り替えが出来る部員などいない説」
ーの、説を提唱していることでお馴染みの込河お兄さんだよ!
前田:いや、流石にそこは出来るだろ
込河:ほほう、お前さては底辺卓球部のリアルガチな現状を知らないな?
前田:うるせえ。……あと「リアルガチな現状」って、リアルと現が重複してるだろ
込河:細かいねえ、そんな細かいこと言ってたらニューヨークじゃ嫌われるぞ。
前田:
込河:……で、そもそもオマエはラバーの張り替えの腕はどうなんだい?
込河:ではではではタイトルコール!
前田:おい待てま、なんけよ、そのスルーは
込河:タイトルコールを早く!
前田:次回、紅の蜃気楼旋風
『』
込河:次回もこのページへ、ピーンポーンパーン!
前田:俺のラバーに文句あらぁかよ
込河:次も絶対読んでくれよなっ
前田:だぁからラバーの張り替えに何か文句があらぁk――――