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ウズラとゴリラ  ―村椿・武者修行編―②

お疲れ様です。面白い話を書いています。



<登場選手人物>

村椿了

・プレースタイル:異質反転型。カットブロックとループドライブを多用する“打たせて獲る”タイプ。

・卓球暦:3年

・使用ラケット:反転型日本式ペンホルダー『ストリーク』

・使用ラバー:表面―裏ソフトラバー『マークV』{スポンジ―極厚}/裏面―粒高ラバー『オクトパス』{スポンジ—厚}

・特徴:技術や打法、戦術の幅が異様に広いが完成度は低いという極端な器用貧乏型。主なプレー領域は中陣だが本人は後陣でのプレーを好んでおり、下がり癖がある。


南塚

・プレースタイル:ドライブ型。ひたすらスピードドライブで攻めたてるゴリゴリのストライカー。

・卓球暦:6年{内2年は小学校時代の軽いクラブ活動}

・使用ラケット:シェークハンド『コルベル』

・使用ラバー:表面―裏ソフトラバー『スレイバー』/裏面―裏ソフトラバー『テナジー64』

・特徴:前陣でドライブ中心の速攻を繰り出す。肩甲骨打法によるフォアハンドのスピードドライブを中心に試合を組み立てている。フォームのクセが強く、ラケットを持った右肩を極端にさげてスイングする。筋トレに熱心で、分厚い胸襟と背筋が特徴。


廣田昌

・プレースタイル:???

・卓球暦:???

・使用ラケット:???

・使用ラバー:???

・特徴:???



 卓球の試合では、基本的な打ち合いでウォームアップを済ませるのが習わし。

 何の変哲もないフォアハンドやバックハンドで打ち合う。

 互いにフォアハンドで打ったり、両方バックハンドで打ったり。それか片方がフォアで一方がバックで打ったり…。


 この準備運動は探り合いでもある。トップクラスの選手対決ならいざしらず、そんじょそこらの底辺卓球部同士の対決となれば双方共に無名の選手。

 事前情報もろくにない相手の腕前をここから判断する。

 基本的なフォアの打ち方で日頃どれだけ基礎的な練習を積んでいるのかは一発でわかる。

 フォームの特徴や、リズムの速度。情報を得る。


 南塚は肩幅よりやや広めに開いたスタンスで構え、腋もしっかり開いて顔に似合うどっしりとした上半身の動きでラケットを振る。

 一方で下半身は対照的な軽快さ。元々筋肉質な体つきだという特徴もあり、 つま先に重心を乗せて踵はフンワリと接地しているだけの足元からは 軽やかな動きを見せていた。

 

 一方の村椿は細い足をこれでもかとばかりにパッカリと開いた極端なオープンスタンス。水平に構えた左右の踵を完全に浮かせて、背骨をグニャリと曲げてる端な前傾姿勢が特徴的だった。

 あそこまで猫背に構えて、果たしてプレーしやすいのだろうか。つむじからクエスチョンマークを浮かべる濱岸は、村椿の垂らした首とグッと前に突き出した顎、大振りな軌道でラケットを振るう姿から挑発的な印象を受けた。


 加えて濱岸の興味を引き寄せたのは、彼の手元。何のケガを負ったのか解らないのだが、左手の人差し指と中指には絆創膏を巻いている。

 一方、右手にはまるでボクサーのようにバンテージをグルグルと巻いていた。

 バンテージなんて現実で見る機会は今まで一回もなかっただけに、瞳に焼きついた。


 か細い手首には黒字に赤で何やらアルファベットで言葉が書かれたリストバンドをはめている。首からは謎のネックレスだか何だか黒い物体を提げていて、白い肌に浮き上がる鎖骨の上で黒く光っている。


 筋道が通っていないチグハグな特徴の数々が、継ぎ接ぎされているかのようで。体中に剥き出しのステッチ、肌から釘が飛び出た「フランケンシュタインの怪物」を濱岸は頭の中に描いていた。


 もう一つ。自分や廣田、南塚とは違う変わった握り方をしていた。

 それを見て、同級生の男子が呟いた。 


「へぇ。アイツって“ペンホルダー”なんやな」

「おぉ。珍しいことにな」

 元同級生の廣田が笑いながら答える。

  

 ペンホルダー。入部したばかりの頃、ラケットを買う時にチラリ聴いた気がする単語。 

 濱岸は廣田に質問する。

「アーシ、未だによくわかってないんやけどさ、まずラケットって2種類あるんよね」

「ザックリいうとね。」

 横で訊ねてくる濱岸に、廣田が答えてゆく。

「濱岸とか南塚先輩がやっとる持ち方は『シェークハンドグリップ』。略して『シェーク』って言い方もするね」

 実際に自分のシェークハンドグリップ用のラケットを握って見せながら、廣田は濱岸に説明を続ける。

「へー。なんか、普通の持ち方やわ」

「なんけよ、『普通』って」

 初心者のリアクションにニマニマする廣田。


「いや、なんか相手の道場破りクンの持ち方と比べたら、普通の持ち方やな~って思って」

「あ~……。ま、そう見えるかもしれんね」

  

 ラケットの面の部分を親指と人差し指で挟み、柄は残りの3本指にくるんで握っている

 握手をするようにラケットを掴む「シェークハンドグリップ」という握り方は、卓球発祥の地・ヨーロッパの人々が元々始めた握り方。

 某かの物体を掴む人間の動作としてはもっとも自然な指の使い方だろう。

 初めて道具を握った原始人も、きっとこうして棒切れや石ころを掌中に収めていたのではないか。


 卓球発祥の地であるヨーロッパ選手から好まれた持ち方で、今や現代卓球の主流として用いられているスタイルだ。


 一方の南塚とのラリーの合間、ラケットの上にピンポン玉を弾ませてウォーミングアップしている村椿はまた違った形で、自身のラケットを手の平に収めていた。

 まるで鉛筆でも握っているかのように、親指と人差し指でラケットの柄を抓みながら。


「村椿の握り方は『ペンホルダー』。どっちかっていうとマイナーやね」

「そうなんや。確かにウチの卓球には一人もおらんもんけど、他のとこでもそうなん?」

「あぁ。ってか、世界的に観てマイナー」


「へー。そもそもラケットの形自体が、もう南塚さんのと違っとるよね?」

 濱岸が指さす村椿のラケットは、南塚が使っている方と比べれば歪な印象を与える輪郭だ。

 ボールを打つ楕円形の面{ブレード}部分との境界部分で柄{グリップ}が大きく角ばりながら突き出て、 滑らかな凹凸を描いている。


「まーな。握り方が違い過ぎとっからさ。そもそものラケットの形自体も変わって来るんぜ。試しに今度、備品のシェーク用のラケットをペンホルダ―の握り方でつかってみ?すっげー手首に負担かかってくっから」

「ガチで?」

「おう。それぞれの握り方専用のラケット使わんと、とてもじゃないけどプレーできんわ」


 言いながら、廣田はラケットを指さす。 


「ホラ、見てみ?なんか持ち手の部分が出っ張っとんなか?あそこについとる『コルク』がシェークのラケットとの一番の違いなんぜ」

 コルクなんて、濱岸にはワインの蓋 というぞんざいなイメージしかない。

「村椿 親指と人差し指でラケット持っとんなか?アソコであの持ち手の出っ張った部分がフック的な感じで指に引っかかっとるんやちゃ。そうするとラケットをスイングする時に、ラケットが安定して振りやすくならぁよ」


「昔はスゴイメジャーやったらしいよ。 爺さん婆さんとかは結構おるし。なんやったら今度さ、市立の体育館覗いてみ?ほとんどの人がペンやから」

「『昭和』の握り方ってことや」

 軽く笑いながら「ま、そんな感じ」と 腰に手をあててポカリスエットを呑んだ。

「平成育ちの大半はシェークで始めとるちゃよ。単純に振りやすい バドミンとかテニスのラケットの持ち方にも近いしさ」

 ペットボトルか

ら口を放すと、

「『令和』にまた巡って来る的な?」

「どーやろなぁ……。実際にいま有名な選手はみんなシェークやし、テレビでも日本代表の吉村真晴って選手がペンのこと『時代遅れ』呼ばわりしとったし」


 手首を捻る動きが特徴的で 特にバックハンドを振り抜く際は、肩やひじ、手首を大きく捻って 押さえつけるように打ち込んでゆく。『ジョジョン奇妙な冒険』に登場するキャラクター達の立ち姿を連想していた。


「でも、何でワザワザそんなマイナーな持ち方する必要があるん? 別にみんなと同じような持ち方すればいくないけ?」

「つってもペンはペンなりにメリットあっから。例えば、今やっとるようなフォアハンドはペンの方が打ちやすい」

「何で?」

「実際にやってみれば解るとおもうけど――」と前置きしたうえで、廣田はラケットの面を指さしながら解説する。


「ペンホルダーはラケットの中でもボールを当てる部分――面{ブレード}に指が近いんぜ。場合によっては面の裏側に直接指を当てるパターンもあるから、指の神経が使いやすいというか、ボールのコントローンがしやすいんぜ」

「へー……」

 買ったばかりの自分のラケットを、今見た通りのペンホルダーグリップで手にしてみながら濱岸はボンヤリと相槌を打った。

「ボールタッチは卓球の肝やからな」


 

 そろそろアップを終えて試合を始めるタイミングだ。


「じゃ、やります?」

 人差し指をフニャリと立ててオズオズと切り出すと、南塚は「おぅ、いつでも来いや」と強気で返事。

 どっちが挑戦しかけて来たか解らない恰好だ。


 村椿は対面する南塚へとピンポン玉を弾ませる。

「急な挑戦を受けてくれたお礼的なヤツっす。サーブ権はソッチからで」

 瞼を細めながら、村椿が表情を決めてみせる様を観て思った。つくづく彼――村椿了は『厨ニ病』だ。

 初めて会う人ではあるけれど、十分に解る。

 中学時代にクラスで浮いていた冴えない人ら。

 その癖、妙に周囲に対して強気で上から接していた感じの奴ら。

 そのものだった。


「面白ぇ」

 南塚は、日ごろから仲が良い同級生・森本蒼汰を手招きした。

「おぅい森本、審判やってプリーズ」

「俺かよぉ」

 天然パーマをクシャクシャと掻き毟りながら、1人の2年生が前に出た。色白な痩躯に地味なフレームデザインの眼鏡、どこか不潔感があるシャツを着た森本の姿は如何にも「冴えない卓球部員」といった様子だった。


 正直濱岸は余り良い印象を持っていない先輩だった。

 森本のような人間がいるから卓球部を下に見て来たとまで言える。


「よろしくおねがいします」

 村椿が深く腰を曲げて挨拶する。グッと上半身を倒しながらも目線は南塚から離れず、爛々と光っている。

 対して、「ヨロ」と至極単純な返事を返してまるで敬礼のように握ったラケットを掲げるとコンコンと自らの額に当てた。

 

「試合開始だ」

 南塚はほくそ笑むと、

「かかって来いよ、道場破り」


 そして試合が始まった。


推奨脳内BGM:Brian the Sun『ロックンロールポップギャング』


込河:チキータぁあ!!(卓球ファンの間で「盛り上げってるかい?今日もみんなでアガッてパーリーしようぜぇい!」の意味)


おはようからお休みまで、卓球部のみんなを見守る込河お兄さんの後書きの時間だよ!


前田:あのさ、チキータの意味変わってね?

込河:いやいやいや、何をおっしゃいまするか。そもそも色々な意味を含んだ言葉やから、チキータは。辞書で「チキータ」つて引いたら3番目くらいに今日使った意味が書いてあるちゃ。

前田:テキトー言うなよ。大体「そもそも」って何だよ。

込河:今井華の「バイブス」と同じくらいに豊かな言葉やから。

前田:また中途半端に懐かしいネタを……

込河:

前田:お前のそういうちょい古いネタって、もうちょっと置いといたら面白くなるかもしれないのに

込河:そこを敢えて今言うっていうね。

前田:なんで一番マズイタイミングで言うんけよ。

込河:俺は底値を恐れずに株を売れるような、そんな度胸がある人間なのだよ


ーそう……卓球で言えばナックルのロングサーブを連続で打てるくらいのな!!


前田:無理やり卓球に話持ってったなぁ……。

込河:ほんじゃあ前田君、今日も次回予告をしておくれよ!


前田:次回、紅の蜃気楼旋風。


『か弱きテナジー』


いよいよ試合が始まっちゃ。


込河:次回もこのページへアクセスしようぜ、

前田:だからオイしくなるまで待てって。

込河:次も絶対読んでくれよなっ

前田:


==参考動画リンク==

練習、アップの風景:https://www.youtube.com/watch?v=lkHX54744pg


Brian the Sun『ロックンロールポップギャング』PV:https://www.youtube.com/watch?v=IxPJowkXx7A




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