小さなマークV -村椿・武者修行編-①
よろしくお願いします。面白い話書きます。
*推奨BGM サイダーガール『ドラマチック』
ピン。
第1体育館の隅っこで、2人の卓球部員の男女がボールを打ち合っていた。
ポン。
力感がなく蛇行した軌道で振られた新品のラケットから打ち出されたピンポン玉は弱弱しい音を立てて飛んでゆく。
卓球台から大きく左に剃れると、一昨日雑巾がけをしたばかりである板張りの床に落下した。
「もーー、ムズいんやけど、マジでー」
パーに開いたを口に当てて笑っている女子卓球部員・濱岸。
彼女の指先で水色に艶めくネイルを見ていると、対面している男子は、自分が「高校生」という新しいマス目へ進んだのだという実感が少し沸き起こる。
中学生とは違う“大人っぽさ”を垣間見せる一方で、昨日の部活では授業中にグラウンドの土で擦ったらしい膝がしらを少しばかり黒ずませ、小学生から変わらない“子供っぽさ”も感じられた。
頬にそばかす 彼女の雰囲気をより引き立てていた。
「あ」っと言う間に、踏みつぶしてしまった。
「部室から新しく取ってこんなんわ」
中村は中学生がそのまま高校生になったようなモッサりした格好で、喋っている時もどこかドギマギとした様子だった。
「え、待って。部室のカギってさ、どこからとって来るんやったっけ」
廣田はついてく流れになる。
濱岸はついていこうかとも思ったが、 第一メンド―臭いから「男子に任す」「おい!」という軽いやり取りを交わし、1人体育館に残った。
単に「規則が緩そうだから」というだけの理由で入った彼女は、望み通りの気楽な時間に満足――とはいかないまでも、不満は持っていなかった。
「」等と休み時間に冗談交じりとはいえ、いくらかは本気で語っている女子に「わかるぅ」と愛想笑いを返しながらも、心の奥底ではいくらか冷めた視線を送り続けて来た。
来る途中のコンビニで購入したタピオカ
っとしてて飲みづらい。だけど、みんなが飲んでる 自分だけ詳しくないわけにもいかないし。
そういえば、ちょっと前にハンドスピナー みんなどうしてる?
彼女は流行に対して人並みに敏感な感性の持ち主だった。だが、心の底から「みんなとおなじことをやってる」というだけの理由で楽しめるほど単純でもなかった。
「周囲の目」っていうのが、いつだって
春じゃん。
もう上着もいらなくなったし
続けて、チョコミント味の大福を開封しようと爪を立てたタイミング。聞き慣れない声が、彼女の指を止めた。
「あのぅ」
大きな声だった。同時に、とても震えている声だった。不安定な声だった。
声がした方向、体育館の入り口を見ると初めて見る男子生徒が首を竦めて、片足だけを体育館の中に踏み入れてオズオズと自分のことを見ていた。
手元や口元がモジモジと落ち着かずに動いていて、内気そうな印象を色濃く放っていた。
「卓球部の練習場ってココっすか?」
がらんどうになった体育館をシゲシゲと見渡しながら、少年はすまなさそうに言った。
「そうですけど」
肯定の文句を絞り出す。
「えと、何年生?」
「一年生です、けど」
僅かながら言葉に詰まりながらも、
「あ、じゃあ一緒やね」
年月を感じさせる程にくすんだ『滑沢高等学校』の文字は、元々塗られていた黄金色の塗料もすっかり剥げ落ちてしまっているので、グッと目を凝らさなければ読み取れない。
「て、まず敬語はいくない、もう。学年が一緒って判明したワケやしさ。タメ語でいこ、タメ語で」
両方の手の平を合わせて喋り掛ける
「けど卓球部にいなかったよね?」
「あ。わかった。他の部活から移ってきた感じ?」
「俺、そもそもこの学校の生徒じゃないですし」
怖くなった。
待って待って。ヤバいヤバいヤバい。不審者?
警戒心が沸き起こった 一旦冷静になって考え直す。友達に会いに来たのかもしれない。
まだ少し寝ぼけた頭で結論付けると、濱岸は「え~っとぅ」と若干言葉を詰まらせながらも精一杯愛想よく話しかけた。
「誰なんですか?」
はっきりと怯えが見て取れる、今にも崩れそうな作り笑いを浮かべている初対面の女子生徒に、少年はグッと制服の を掴んで襟につけた校章のバッジを見せつけた。
「漁湊高校の1年。村椿」
2匹の魚が 象った 赤地に金色のラインが光る。
おっけい。ヤバい人やんかこの人。
*推奨BGM MOBY 『RUN ON』
カラーリングのリップでバッチリ決めた唇も台無し。間抜けにポカンと口を開けて、女子高生は初対面の男子を半笑いで眺めることしか出来なかった。
「俺、校章のバッジを見せてつけてくるヤツ初めて見た」
後ろから聞こえた男子の声に、濱岸は心の底から同意する。
持っていることを自覚することも少ない。校則に定められているから洗濯が済むたびに制服へ指しているだけのバッジだ。
「大人しそうな顔しとる奴やけどな。 変な事するようには見えんルックスなんやけど」
「思った。」
漁湊高校。富山県北東部の市内に位置し、海にほど近い場所に校舎は経っている。
地区内ではトップ、県内でもそこそこの進学校だ。
とはいえ――とはいえ、だ。所詮は一地方の枠組みの中での話。「進学校」と言えば聞こえは良いが、大半は所謂“F欄”大学に進むし、仮に名の知れた大学に行ったとしても、そのまま大企業に進んでめでたしめでたし、とは限らない。
その時誰かが一際大きなヴォリュームで「ブハッ」と吹きだした。
沈黙をビリッと破いた声の主を探して部員達がキョロキョロする中で、呆れたような失笑を漏らしながら1人の部員が前に出た。
「――何しとるん気よ、村椿」
声だ。
「久しぶり、廣田ッ!」
すると怯えがちな声のトーンがパァ―っと明るくなり、廣田の方へとズカズカ歩き始めた。
「そうでもねーやろ。俺ら先月中学卒業したばっかやぞ。ついこの前まで顔合わせ捕ったやろーが」
目を細めて「そやったけー?」とおどける村椿の腰を、廣田がパンと軽く叩く。
「つか、先週もカラオケ言ったろ。岡本とかと」☞実は、数えるほどしか行っていない。
「まぁまぁ。細かいことはいいにかよ。」
なんだ。廣田クンの友達か。
少しだけではあるけれども、ホッとした。
彼も本来の調子に戻ったみたいだし。
「何しに来たんよ」
「決まっとんにか。――打ちに来たんよ」
安堵が吹き飛んで、再び濱岸の背筋に戦慄と緊張が走った。
やっべ。やっぱ、フツーじゃねーぞこのヒト。
鞄から何かを取り出したのだが、その時の仕草や顔つき 不自然な陽気さ いやに芝居がかった笑い方を
あ。ヤバい。コノ人ガチで “アレ”じゃね。
「お、村椿まだその『ラケットケース』使っとらぁかよ」
卓球のラケット入れるケース、というかバッグか。
濱岸は卓球について知らないことばかり。
布製のケースは黒い生地に赤いラインが入っていて、例えるのならば親戚のオジサンが小脇に抱えているセカンドバッグ程の大きさだ。
「チャリで来たの……?」
自転車を漕ぎ続けた脚には着実と疲労が蓄積されていたが、脹脛や太腿へと走る多少の痛みなどどうでもよいのだろう。
それ以前に、 アドレナリンとかそういう名前の「脳内ナントカ物質」が大量に分泌されて、脚の疲労を掻き消しているに違いない。
いくら友達の前だからって、流石にキャラクターが変わり過ぎている。
直接喋ってる時なら解るけれども、初対面の南塚さんにまで強気の接し方だ。裏表があり過ぎる ふり幅が大きな2面性に
「俺が相手してやるわい」
シェークハンドグリップのラケット
2年生の彼は卓球部においてムードメーカーであり、学年を気にせずコミュニケーションを取る、先輩と後輩の“架け橋”というべき存在だった。
濱岸からは「卓球部らしくないバリバリの陽キャ」と言われる人柄で知られる彼は、突然現れた非常識な来訪者にも「クラスの友達が遊びに来ました」と 対応力を発揮して楽しげに笑いかけている。
「おもろなってきたな」
廣田が、笑った。
*推奨ED曲 レルエ『時鳴りの街』
込内:チキーーターー!! (卓球ファンの間で「コンニチワ!元気かい!?元気なのかい??」の意)
やぁチミ達、元気かい! お笑い第7世代の中で一番好きな芸人は かが屋 なイケてる高校生・込内さんが予告をしに来たよ!
前田:卓球について話せよ。
込内:君が好きな第7世代はアレだっけ? 「ビシバシステム」 だっけ? それとも 「フォークダンスDE成子坂」 だっけ?
前田:それ正確にツッコめる人間が令和の日本に何人おらぁけよ。(※「何人いるんだよ」と富山弁で言ってます。)
込内:あ、じゃあ、あれか。『男同志』か
前田:何が「じゃあ」に接続しとるんけ
込河:いやだって、お前はウチの卓球部でいち早く『エガチャンネル』に登録しとったなかよ。しぃやったら、どうせ元々エガちゃんが組んどったコンビも好きながやろ?
前田:……もうお前の相手するの面倒臭いから、次回予告進んでいいけ?
込河:つ、つめてぇ~~
じゃあ、気を取り直して次回予告だっ!次回、紅の蜃気楼旋風は
『ウズラとゴリラ』
前田:相変わらず内容が想像しにくいタイトルやな。
込内:で、結局のところ第7成大の『ランジャタイ』って売れるの?売れないの?
前田:何が伝えたいんけよ、お前は。