Fatman After School
お疲れ様です。今から面白い話書きます。
<登場人物>
石動昴:名前負けしてるデブ。名前に似合わない刈り上げヘアと、名前にそぐわない陰気な顔が特徴。しゃべり方が芝居がかっている。
朝倉真凜:おそらく全国各地どこの高校にもいるタイプのチャラい感じの女子。流行りもの好き。特にタピオカ。タピオカ超好き。理由は味。味一筋。
「――で?いよいよ幕を開けた高校生活を飾るために、デブはどこの部活に入るん?」
「失礼だな、いきなり」
休み時間の教室で、一人の男子はハァとため息をついていた。
デブ呼ばわりされた件に特段腹が立つことも無い。僕が立派な肥満体である事実を疑う余地は猫の額程もないし、現実を指摘されて立腹する程センシティブな性格でもない。
ただ、自宅で十分に取れなかった睡眠を補填するための時間を奪われるのは我慢ならない。
まして、この女子にされるのなら尚更だ。
「ちなみにアーシはチアかな。チアリーディング部。なんかイー感じでおもしろそーで最高じゃん?」
クシャクシャに波打たせた髪型は、いかにも都会で流行りのファッションに憧れて失敗した、という風体。雑誌だのインスタだのから得た情報を鵜呑みにしてまねたのだろうが、所詮田舎なんて、伝言ゲームで後列に控えているような立ち位置なのだから、何か齟齬がでるものだ。
「その語彙力でよくぞ高校受験に通ったものだ」
「やっぱさ、やっぱさ、高校生なったわけやからさ、中学ん時よりヤバい経験したくならんけ?」
「…こんな至近距離で話しかけられてる言葉も聞こえないのか?」
何ら生産性のない上っ面なコミュニケーションをとるために使う意電子端末を見ながら、我が不肖のクラスメイト・朝倉真凜は、入学式から3週間が経過してそろそろクラス内の人間関係が創り上げられ始めた教室内で、1人勝手にベラベラと喋り始めた。
下品、粗暴、低俗、世俗、軽薄……。
これらがキーワードになっている女子 中学時代から クラスが被り続けている。腐れ縁かと思っていたら、ついに進学先の高校まで被ってしまった。
そして迎えた高校一年生の4月。先月に同じ中学で卒業式を共にした相手と、またも僕は同じクラスに放り込まれたのである。
全く気が合わないくせに バカにするためにまとわりついてくる迷惑極まりない存在だ。
教室の中央、後ろから2列目に配置された僕の席にまで届く春風の心地よさも、1人の女が排泄する喧騒で台無しだ。
「応援してる相手より目立とうとするーそんな物事の趣旨を履き違えた滑稽な集まりに入って楽しいのかい?」
「うわ~ひねくれてる~ヒクわ~、マジ陰キャってキモいわ~」
「失敬な奴だな相変わらず」
「大体その喋り方とか何なん?中学の時からやっとる、嘘くさい言葉遣い」
「何がさ?」
「ソレソレソレ」
まるで肌へ差し込まれるかと思うほど顔面スレスレまで人差し指を突き出して朝倉が何かを肯定してきた。特定の距離以内まで他人に接近されると人間は不快に感じる生き物だという学説を眼前の女に今すぐ教授した方がよいだろうか。
「で?どうするん?またアレ?中学の時と同じアレ?」
言いながら、クイクイと前腕を振るジェスチャーをした。
向こうの考察通りの解答を口に出すことは憚られたが、虚偽の報告をするのも情けない。
「そうだよ――卓球部だよ」
「」
「殴るよ?」
部活動はすぐに中学時代と同じ卓球部へ入部すると決めた。
しかし、勘違いされたら困るのだが、僕自身は全く卓球と言うものに情熱は無い。
僕が中学時代に卓球部へ入った理由はたった一つ。「楽そう」だから、である
健康面を鑑みてもせめて身体だけは動かしておきたい、という至極消極的な理由で入ったに過ぎない。
果たして中学3年間で一日当たり平均1時間以上を費やした部活動では、輝かしい成績の類は何一つ残せず、部員と未来永劫絶えることなき固い絆で結ばれるでもなく。立派な大人なるための経験や、先生方がやたらと口にだす「社会」、とやらで成功するための訓練にもなりはしなかった。
ただただ長々と、「土曜日は誰の家でスマブラをするか」といった話などして泡のように時間を浪費した。
「っていうかさ、どうすら? デブが部活参加して何すら?」 ※1
「ほっといてくれよ」
「デブみたいなんが部活行ったとしてもさ、一緒に練習してくれる人おるんけ?おらぁけ?おらんやろ?おらんがんやろ?どうせ」
「いるよ」
無視しようとも思ったが、この女は強引に堰き止めでもしないと、決壊したダムの如く言葉を垂れ流す気質だ。
「へぇ~。優しい人もおるんやね」
「うん。なんか――『才能がある』って言ってきながら練習相手してくる人が」
「――ッハぁ!!??」
どうでもよさそうに喋り続けてた朝倉が、ここで初めて教室中に聞こえるほどに大きな声を上げた。
「は!? デブが!? 才能があるって言われたん!? デブなのに? デブの分際で!?」
「……怒るよ」
デブだデブだと繰り返し言われたことではなく、大声を上げてクラスメイト達の視線を集めた無神経さに怒りを覚えながら筆記用具を締った。
「僕自身、全く納得いってないから」
「おぉ。流石陰キャでも頭がいいだけのことはあるね。アーシがメッチャ努力して入った漁湊高校にほぼ勉強ゼロで入っただけのことはある」
「まーね」
「うわ、謙遜しないとか。このデブやっぱヒドイわー」
此方としては、一応は進学校にカテゴライズされている県立漁湊高校に、中学生活の前半を遊びのみに消費していたこの女が侵入成功している点が不満なのだが。
あの時、とても とは思えない同級生の男子がつらつらと並べ立てた向上は奇妙に記憶へと染み付いた。
『君は丹羽孝希みたいな“舐めプ”ができるし、張一博みたいな両ハンドのプレースタイルがマスターできるはずやぜ。頑張れば、ワルドナーみたいな“ノールックカウンター”だって夢じゃないんやちゃ!』
まるで某有名RPGの『ふっかつのじゅもん』のコマンドみたいにややこしく、字面だけみれば――少なくとも僕にとっては――意味不明の言葉をまくし立てた。
小さい声で並べ立てる彼の発言は、異様に自分の脳内に深々と突き立てられた。
オリエンテーションに 会話、 授業……。
新しい知識が怒涛の勢いで流れ込んでくる高校生活その1学期を以てしても、彼の不安定な声は我が海馬から出ていかなかった。
「え……どんな奴……?」
どんな奴。ザックリした聴き方にそぐうように、コチラもザックリとした簡単な人物説明をしようと試みた。しかし、いざ彼の人柄を紹介しようとすると、簡単には語れない自分に気がついた。
「そう聴かれると難しいなぁ……。なんかねー、テンションが話す度に変わるんぜ」
躁鬱的、とまで言って良いと思う。そんじょそこらの気まぐれ、気分屋な性格の人間とは一線を画す異常性が彼にはあった。
「名前は?何組の誰?どこ中?」
「名前はムラツバキ。確かフルネームはね、ムラツバキリョウ」
「ふーーん....誰やろ」
「いや、中学は漁湊の西中。クラスは普通科の4組」
「えー西中かぁ……待って、誰かおったっけ、知り合いで……」
ぺたりと僕の机に自分の胸を乗せて、リラックスしきった様子で考え込み始める。
「『待って』ってさ、それ僕が何かを待つ必要があるの?」
そう訊ねても、答えてはもらえない。
「誰かおった気がするんやちゃ……クラスの子やったかな、それともtwitterで知り合った子やったっけかな……」
「どうぞ、悠々と思い出してくれたまえ」
それだけ答えて、机に突っ伏した。
しばらく眠ることにしよう。後は、他のみんなに任せて。
そして不足した睡眠を取り戻さんとした僕の脳味噌がスリープモードに突入した。リュックサックの底でスマートホンがメールを知らせるためにランプを点滅させていることにも気づかずに。
※1-富山弁で「どうすら?」は「どうすろの?」、「何すら?」は「何するの?」の意
<次回予告>
込河:チキーータァ!(卓球ファンの間で「こんにちわ!元気かい!?」の意)
やぁ君達!元気かい!
「村守実には前陣速攻を貫いて欲しかったよね☆」
の持論で、お馴染みな孤高の卓球ラヴァー・込河サンだよ!
前田:村守実を知ってるのは結構古い世代になるだろうなぁ
込河:それでは、異世界に転生したいけど、したらしたで慣れないこと色々勉強しなきゃなんないからいやだな――とかネガティブなこと考えがちな前田君のご挨拶からどうぞ。
前田:笑点かよ。
込河:さぁ、それでは次回予告をレッツラゴン!
前田:うっぜー、こいつ……。
込河:次回、紅の蜃気楼旋風! 『小さなマークⅤ』
前田:次回からポツポツ卓球やってる場面出てきますんで。よろしくお願いします。
まぁ、このサイトでスポ根ものみたい人がどれだけいるのかわかりませんけど。
込河:それも面白いじゃないか。そう-「僕たちは、『なろう』界のエンタイトルツーベースです」
前田:それも通じる世代古いだろうなぁ....