外周
遮る物なんて何もありはしない田舎道。
小洒落た喫茶店も 流行の最先端を走る洋服屋も ライブハウスだとかそんなもの一切合切ありはしなくて
フジツボとか 貝がびっしりついた港のコンクリート 半袖から伸びる腕に直撃する海風は生臭くい、
港町特有の
漁港高校の生徒でこんなとこランニングする奴なんて一人もいない。
みんなが走ってるコースを走った時に自分に寄せられるに決まってる目線。
灰色の曇り空と灰色の日本海と灰色の立山連峰に囲われた、『青春』なんて言葉をあてるには余りにも灰色の高校生活。
青い春は何処。 青い鳥みたいにちかくにいたなんて在り来たりなオチ?
そろそろ2キロは走っただろうか。
左には波飛沫で穿たれたテトラポットの大群。殺風景な
努力を人前でやるだなんて、才能がある奴だけの特権だ。
人前に立って何かをやるには、何であれ“資格”が必要だ。
「みっともない奴」のレッテルを張られて終わりだ。アロンアルファよりもよっぽど強力な瞬間接着力で。
『才能とかセンスとかの正体を暴いてみないか』
また恥ずかしいこと口走っよな自分。黒歴史にまた一ページ。
***
「越間君だけやよ」
「マジ?」
四十内が来ないって連絡よこされてたけど。
石動くらいは来てると思った。
村椿が大分部内の雰囲気悪くしてくれたからな。
外周に行ってるのも、この現場から逃げてるからなのか。
だが、もしも。もしも自分が中学校の時からーーいや、小学校の時から卓球をやっていたらどうしていただろうか。野球を始めた小学校1年のあの日、バットとグローブではなく、ラケットをラバーを選んでピンポン玉を追いかけていたら?
小さな白球を卓上で追いかけていたら自分は村椿と一緒に進めたか。
越間は考えを巡らせる。
「一歩踏み出すのは良いことだろ」
「走り出しちまうとさ、少なくとも惰性で少しは走れるもんなんぜ。『慣性の法則』ってやつ?」
「走り出すことにためらうようなチキン野郎は、人前で始めた走りを中断することにもまたためらう。結果、しばらくは走り続ける。そうすれば、多少の経験にはなる」
「それは何?野球やってた時の監督の名言かなにか?」
「いいや、漫画やちゃ」
「俺の好きな漫画に出てきたんぜ。そういうセリフが」
あれは週刊誌であっという間に打ち切られた無名の漫画家が書いた作品。
出会いなど勝手に来ない現実で、俺たちは漫画だとかドラマを通して誰かが考えた名言や哲学をシェアするしかない。
「たっかぎーーん、一緒に基礎練やってーー」
「うわ、うざ!」




