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道化は戦う

こんにちわ。面白い話をかこうとしているところなんです。


<試合内容>

夏季新河地区大会 男子シングルス 2回戦

村椿了(漁湊高校) VS 径崎司(生里川高校)


<登場人物紹介>

村椿了

・無勝のルーキー

・饒舌な陰キャ


径崎司

・頭脳派チンピラ

・寡黙な陽キャ


「アイツ、ウチらのことバカにしとらぁ....?」


 小さな得点表がめくられる。




※推奨脳内BGM『PSYQUI』/ Are You Kidding Me


 思わず口をついた。

 いや、違うだろう。

 あの彼女が


 小さな体躯と小手先が魅せる奇妙なダイナミズム。




「俺の目標は


 シャドーボクシングはただのパフォーマンスじゃなかった。あの卓球部連中の身内ネタじゃなかった。ボケでもなんでもなく、プレーに必要な練習としてあの男はやっていたんだ。

「村椿ィッ....」


「ペンホルダーだけあって、フォアサイドはそれなりに機能しとるんやね。まぁ、ペン唯一の利点が生かせんようじゃ、ペンホルダー失格やけど」

 生里川高校の女子部員がつぶやく。

「....で、お前いつまで男子部に混ざっとらぁよ」

「だって女子はもう敗退しとっからやることないもん」

 一重のポニーテル。

 だが、この女子・馬場美楼が一番卓球に詳しく、最も練習熱心だった。

「今時時代遅れのペンホルダー」


「今のプレーはたぶん、あの人の真似やね」

「誰?」

「かずおまつもと」


 聞き覚えのない日本人の名前にポカンとする。


「ちゃんとYOUTUBEみんとダメやぜ~~」

「真面目な顔して何言ってんだ、お前」


「カズオマツモトやね」

「な?日本の選手?」

「あんた、ほかのスポーツ見る前に卓球ちゃんと勉強せんまいけ」

「うっせぇ」


 カズオマツモト。ブラジル代表選手として活躍している日系ブラジル人だ。

 今では珍しい日本式ペンホルダーグリップで、片面にのみラバーを張った裏面打法によるバックハンドを使わない選手である。


 オーソドックなドライブ型だがベテラン選手特有の無駄な動きをそぎ落としたコンパクトなフォームや、フットワークを スタイル 

 ペンが抱えるバックハンドの弱点を変則的なクセ技でカバーしている。

 時折、共通の技術として確立されていない、彼ならではの技術を見せる。


「あの村椿って子も一緒やね。あの子しか使えんオリジナル技でカバーしとる」

 本江は考える。バックハンド技術。左に目いっぱい引きこんだラケットを右に振りぬく。ラケットの面は地に対して垂直に立ててラケットヘッドは上向きにあげながらスイングする。



「ムググ....まだだ」


 藤さんを誘うことはできない!


 7-5という村椿がリードを守ったまま3セット目を迎える。


「これ、珍しく村椿が勝つんか!?2回戦を!」

 越間がテンションを上げる横で、四十内は冷静だ。


「松田に授けた戦法に似てね?」

「思った。俺がやっとったんに似とるっちゃ」

 しかし、決定的な違いがあった。


「けど、村椿は『粒高』なんよな」


 速球を打ち出す表ソフト。

 変化球を打ち出す粒高。


 違いは、表面に突き出た粒の高さのみ。



「深層水が足らんよ、それでも生里川市民けね」

「いや、俺生里川の市民ではないから。榑羽の市民やから」

 

 馬場が揶揄うのをサラリと流す。


 俺にしてはよくやったーーじゃ、だめなんだ。

 「俺にしては」なんて言ってられない。

 だって、その「俺」という基準は果たしてどれだけ低いか。


「あ、逆突かれたッ....え、反応した?」

「」


 誰が見てもよくやりたい。そのために俺は頑張った。頑張ってみた。頑張ってみようとした。

 正解かどうかはわからないけれど。分かるほどの、人並みの頭脳は持ち合わせていないのだけど。


「もしもこの世に神様なんていないなら、俺たち人間はたまたま生まれた黴菌が偶然進化してできた命だ」


偶然できた生き物がすることに、偶然がないはずはない。

ものにしろ。偶然を。偶然を逃すな。まぐれを掴みとれ。

“引き”の弱さは承知している。

トレーディングカードゲームでも一回だって切り札を引けたことはない。

牌を引けない非力な運だ。


偶然の裏で身を潜めている理を。

ソイツを探しだして握りしめるのが人間だ。

強い人間がすることだ。


「俺が今からそれをやる」


『私は決して偶然を逃しはしない』 -ウィリアム・ターナー


「総掛かりの乱戦って様相ですか」

 湯上は冷静だ。


(湯上名人よりも、藤さんに来てほしかったとこやけど)


『ムラツ、ボクサーみたい』『ムラツ、ピエロ感ヤバい』『ムラツ、キモイオブザイヤー』


 藤さんの言葉を海馬がいちいち掘り起こす。


「おいおいおいおい、やっぱやばいおんじゃねぇの、村椿さんよ」

「大丈夫です」

「あ?」

 後間が怪訝そうな顔を湯上に向ける。

「一点、村椿に有利な点があるんです」

「何よ」


「相手は、村椿君を、『頭を使って』倒そうとしています」


「は?それってどういう....」

 四十内は読み取った。

「な~~るほど、ね」


「噛み合うわけだ。頭使って戦いたがる村椿にとって。ガチャプレイをしない中級者ってのは」

 コクリと頷いた。


「彼のようなハッタリ、騙し、意表を突いた戦術を好み得意とする選手は、相手が知識を持っていれば持っているほど強いんです」


「おそらく、彼自身よりも、後ろにいる女子ではないでしょうか」





 ノートに書きこまれていた言葉ーー


「『Tリーグチームの立ち上げ』--だ、そうやちゃ。俺らのリーダーさんの夢は」


『一八番クリムゾンミラージュ』というクラブチーム名まで、ご丁寧に書かれたページ。


「おいおい....」


「現実のこと揶揄っとるんか、こいつ」



<参考動画>

カズオマツモトの試合動画:https://www.youtube.com/watch?v=ucNy2eZV4lo&t=169s

☝1:38あたりで、独特な変化球でバックミドルに来たドライブを処理する場面が見れるぞ。


PSYQUI - Are You Kidding Me (ft. Mami) :https://www.youtube.com/watch?v=_0DmXKXJ-no&list=PLECOKMFG7rFBa2Wv4XI4cBtmqNpf6y9px&index=228&t=0s

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