PC部
<中学時代の思い出>
あの日、俺は市立体育館の二階通路に座り込みながら精一杯目を凝らしていた、
卓球台を挟んで対峙している二人の姿を、俺は必死に記憶の中に焼きつけるために。
(何で家を出る前にちゃんとスマホを充電しておかなかったんだんけよ、俺のバカが……)
後悔しながら、 サーブの構えに入った 動きに意識を集中する。
奥のコートで 選手は、 ピンポン玉を乗せた左の掌をそっと台の淵に寄せ 上半身を屈める。
背中に「四十万」と書かれたゼッケンを貼っている手前側の選手は
水色のユニフォームを靡かせながら ヘソの辺りでスイングしたラケット シューズを履いた脚で「ダムンッ」と踏み込みながら ラケットに貼られた赤いラバーから放たれたピンポン玉は軌道を描き 鋭く相手コートの向かって右側の外深くに突き刺さる。
自分の利き手とは逆方向――「バックサイド」に飛んできたボールに対して四十万はラケットを下から上へと振り抜いた。バックハンドドライブ―― ボールに対して 擦り上げて、上向きの全身回転をかける攻撃技術。
脇を開いて ラケットを合わせて 直角に開いた肘から先を少しだけ動かして、繊細なラケット操作で返球。 見事なカウンターブロックが 四十万コートの中心に食い込む。
ラケットの表面でフォアハンドを打つか、裏面でバックハンドを打つか。微妙な位置。四十万は状態を左側に傾け、 スペースをひねり出しながらフォアハンドで しかし、迷った コンマ何秒か遅れて選んだスイングでは 緩いボールがネットを超えただけ。
ネット際。台の浅瀬で高々と弾む白球に素早く右足を踏み出した相手は、台の下まで踏み込んだ右足に体重を預けながら大きく状態を挙げると、 ラケットで振り払った。
構えた軸足に対して、左脚の爪先が台よりも高く上がる程勢いをつけて撃ち込んだ攻撃は、相手コートを抜けたまま 帰ってくることは無かった。
息を呑んでしまう攻防。口からは思わず「おぉ……」と間抜けな声が漏れてしまう程に。
だが、目下で繰り広げられる闘いは、誰もの心に響くわけではないらしかった。
「村椿さぁー、いつまで見とるんけ?」
「そりゃ当然、最後までみるちゃよ」
俺――村椿了にとって、中学最後の部活の試合
部活仲間で同じ三年生の木間樹生は、呆れ笑いを隠そうともせずに突っ立っていた。
「はぁ?我らが富山県、屈指の実力者同士の試合を見届けずに帰れるかよ」
チームメイトが
「もう待っとるんダヤいがやけど」
「木間もメモってったら?あの奥側の選手のプレー
「『選手』って……。『選手』ってお前……」
笑いを浮かべながら、わざとらしく肩を落としてため息をついた。
「そこらへんの卓球部の部員のこと、『選手』とか言ってプロみたいな呼び方すんなよ。キモイな」
「何でだよ、
同学年、楽山も「もぉ帰ろぉずぇー」と
「ほんッッッと、村椿って厨ニ病やよなー」
「行こ行こ。一緒におったら、俺らまで勘違いされるぞ」
「そうやね。コイツの厨ニ病が感染したら堪らんし」
目線を試合に戻せば、広いスタンスで構える奥の選手が、長い脚を生かした軽快なフットワークで、ラリーを進めていた。
「
「あのさぁ――」
手にしたキャンパスノートに動きの特長を書きつけながら、「そうやってかっこつけとってもしょうがなくね?」と二人に言い返す。
「かっこつけとらんから!何でそんな言い方をされんなんが?」
「もう、そうやって ノートとっとるところとかさぁ……」
「思った。マジで“強豪アピール”っていうか『俺は卓球ガチ勢なんです』みたいな演技が激し過ぎるよね」
「結果出してから言えま。この初戦負けのザコ」
「あと、少し背も伸ばせ。筋肉も付けろ。骨も太くしろ。そんで神経をもっと反応がいいのに取り換えろ。あと―脳細胞も増やして、運勢も伸ばして――」
「木間君、木間君。流石に言い過ぎじゃないっすかね?」
「ムシかよッッ……」
「もう自分の世界に入ってしまったんぜ。放っとこ」
少し目を離してる隙に、次の一本を見逃していた。スコアボードを見ると、今度は四十万が得点したようだ。卓球のサーブは2本ごとに交代だから、今度は四十万のサーブだ。サーブのトスを上げる前に、極端に顔を手の平に寄せる独特な構えに目を惹かれながら、
まだ帰れない。少なくとも
「いや、反対側回り込めよ」
「したら遠すぎてゼッケンの字なんか見えんもん!」
「あーそうですか、ハイハイハイ」
齧りついていた。
「こいつ全然反省せんな」
「思った。どんだけ嫌われれば気が済むんやろな?」 ・厨ニ病が収まった最大のキッカケとは?
その陰口には聞こえないふりをして、また1つ自分の好感度が下がった事には、平気な振りをしていた。
「で?お前さ、そんなに卓球好きなんやったらさ、やっぱ高校も卓球強い学校を狙っとるん?」
「俺が目指すのはなぁ―――」
体育館は、ていた。
俺の最後の中3の夏はそんな感じで終わった。
<夏>「夏の色になった」⇒「夏の匂いがする」
中学時代、最後の試合が 月の地区大会。だから、あれかれもう1年以上は経ったことになる。校舎の窓から見える空はすっかり 夏の色になった。
小林クラスで唯一、俺から話しかけられる相手だ。
「
「今日は石田女流名人の所に言って将棋差してくるから」 ・お前の方が名人呼ばわりしてるよな。
「そっか。今日木曜日か」
文芸部の ただ小説を書いてる部員は少数で、大半は読書が好きだったり、 もしくはただのインドア派な“陰キャ”
将棋指してる人もいる程にカオス 小林は自分が入部しているパソコン部が で活動時間が短い木曜日は文芸部に顔を出して、将棋好きの湯上という部員と
「うん。え、何曜日やと思っとったん?」
「いや、なんか最近曜日の感覚亡くなっとった」
「何があったんよ」
ケタケタと笑う。
「いや、もう最近さ徹夜は多いし 同じ一日の繰り返しで……」
細い腕で頭を搔いた。
「俺はもう時間割がある時点で曜日感覚無くなるとかないもん」 ・学校生活以外の時間感覚
「あ、それか」
「村椿も別に来ていいからね?文芸部とかパソコン部やったら」⇒まとめ動画作成依頼。
すこし心配そうな顔をして、そう言った。
「
まず間違いなく社交辞令ってやつだろうな――そう思いながら受け取った。 ・昔は、言われたこと何だって真に受けていたけれど、 国語の授業で作者の気持ちを考えまくった効果が出たのか、見聞きした言葉をそのままうけとらないようにする習慣が身に着いた。空気を読むとかウラを読むとか。おかげで、こんなに立派な人畜無害なボッチになりましたけど。
賑やかになればなるほど、相対的に もうちょっと考えてスタートダッシュ切ればよかったなとか、けど中学でも浮いてたし小学校からボッチだったから考えた所で底知れてるなとか色々考えながら
廊下に出て、窓からグラウンドの方を見ると 向こう側に覗く海は 港だらけで海水浴場が少ない富山県の海は、いわゆるチャラチャラした青春のイメージに持ち出される キラキラした浜辺も 波もない どんよりと広く静かに広がっている。
太平洋が羨ましい。
これって夏だな。 ⇒「“夏い”じゃん」「日本語が乱れすぎててパッと聞いて解んなかった」




