キョウヒョウ
「お前ダラじゃねぇがかよ」
クラスメイトはまるで物分かりの悪い子供に言い聞かせるように。
「漁湊高校は一応は進学校やぞ?部活だけにそんなに集中させてくれるわけねーにかよ」
先生は意見を聞く気もないようで。
「あなたは『文武両道』って言葉をしらないんですか?」
大人は新しい知識を得ようともしないで。
かけられる言葉はいつだって向かい風。
「ペンホルダー?今更?何で?それも反転式?何で?え、あれ?『マイナーなラケット使ってる俺ってかっこいいー』的なナルシスト?」
彼らにとっては紛れもない真実らしい。
「知らんがんけ?凧は向かい風に乗って空を飛ぶんぜ。で、風が強く向かってくれば来るほど、高く高く飛ぶんぜ」
背が小さかった。
骨も細く、筋肉は少なかった。
関節は平均以下までしか広がらないように設計された。
健は短かった。
歯並びは悪く、長い間矯正器具をつけても不規則な配列だった。よく噛んでご飯を食べても、キシリトールガムを噛んでも噛んでも。
脳の皴は少なめで、神経の伝達速度は遅く不正確で。
信号のやり取りは誤作動が多かった。
兄弟2人とも。なんなら親も。
「血なんだな」と思うには十分で。
車だったらリコールされたであろう出来。
だけど人間は人権があるからリコールされない。
なんでも、これは全て『故障』ではなく『個性』なんだそうだ。肯定したければいけない特長であり、「直してください」だなんて後ろ向きな言い方はすべきではないらしい。
そういっている。
当人には『故障』が見当たらない人達が口を揃えて。
つまり、そのまま走り続けなければいけないということ。
例え搭載したエンジンが法定速度で走っただけで火花を散らす様な危険を孕んでいたとしても、それは自身の個性だからって。
クラスメイトは「個性的でいいじゃん」とか「変わってておもしろくね」とか「天然で面白いわ」とか「イジリがいがあるわ、お前」とか。
まるでペットショップの商品を品定めする客みたいですよね、その喋り方なんて。
口が裂けても言わないけれど。
それを言ったら最後、卒業まで消えない『陰キャ』という烙印を押しつけられる。
烙印を旗印に、色々な権利が奪われる。
だから“イジラレキャラ”という同い年のクラスメイトが敷いたレールの上を走る。
走り続けなければ怒られる。
走るのを中断すれば。
永久にレースには勝てない。
飛べない蝶。
蛹から出て、思い切り羽を伸ばして気付いた羽の短さ。
悪いことをしなければ、一度だっていいことをしなくても「真面目」だと勘違いして。
一度だって悪いことをすれば、いくらいいことをしていても「本性」は汚いと喝破した気になって。
で、ここで自問自答。
――おまえ、本当にそんだけちゃんとキシリトールガム噛んだか?
***
「出たよ、理屈バカの“エクセル卓球”が」
「はぁあ?パソコン部の技術力の粋を集めて計算したデータやぞ?信頼できんって言うがけ?」
小林がガナリ立てる
「いや、各部員の1試合当たりのドライブの成功率とかスマッシュの成功率を適当に集計してエクセルにデータぶち込んだだけやろうが!何をどう信用しろっていうが!?」
「数字は嘘をつかないんだよ君たち! まぁ、数Ⅱや数Bに打ちのめされて文系に進んだ君のような男にはわからないだろうけどね! 文系は文系らしくこのシステムの作者たる僕の気持でも考えたらどうだい!?」
「むっかつくぅ!
「おいおいおい。卓球部の門外漢は黙っててくれないかな?」
「いや、おめーも卓球部じゃねぇやろ!」
「確立で言うと、こっからも3球目はミドルにフォアハンドドライブをストレートに打ってるって結論?」
「やな。っつか、アイツ全力で打ったらストレートにしか打てんがんじゃね?何かそんな気ぃする」
「そこはエクセルに入れとけよ」
「なんだよ、また項目増やさなきゃじゃん」
「どんどん横長になってくな、そのファイル」
「つか、そろそろファイル分けて計上しろよ」
「いつからパソコン部は卓球部の情報部になったんだですかね...」
「俺、こんなことするためにタブレット買ったんじゃねぇんだけどな」
「じゃ何のために買ったんけ? エロ画像見るため?」
「どっちにしろダメなんだよ。ここで勝たないと」
「特に村椿はな」
「あの"強烈に強固で強靭な鬱"と" あ」躁"を抑え込む必要があるんだ。そのためにあいつをガチガチに武装してやんねーと。理論武装に情報武装に哲学武装で」
「一応アイツのおかげではあるんやちゃ。今ここが面白くなってるのは。最低限の協力はしてやんねぇといけんくね?」
※推奨脳内BGM PSYQUI/「RaiseYourHands feat.Such」
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※推奨脳内BGM amazarasi/『もう一度』