第4章 違和感は①
さて、今俺たちは、二度目になる食堂のドアの前にいる。
そして、なかなか、中に入れないでいる。
どんな顔で言ったらいいのか、心の準備がなかった。
「入らないの?」
とミライが尋ねてきたので、しぶしぶノックをしよう…と叩こうと思った瞬間勢いよくドアが開いた。
その結果、ドアを開けた加害者ともいえる人物は、フィーネ。
そして、今さっき被害を受けた被害者ともいえる人物、まさに俺。
こいつの気配は感じにくいというのを忘れていた。
だが、こいつの行動は前々から腹が立っていた。もう頭にきて仕方ない!
「いい加減にしろよ…!このアホ!」
前々からキレていたが、今日は最もというところだ。
清々しい気持ちでキレてやった。
そう、笑顔で清々しく!追いかけてやった。
「にゃー!ごめんごめんごめん!今回はわざとじゃないよ~!」
「ほー。『今回は』ね…?」
次の瞬間、ノアの目は怒りをあらわにして、逃げるフィーネを追いかける。
フィーネはフィーネで、命の危険を察知しノアから逃げる。
こんなやり取りは、何回目だろうか。
こいつは馬鹿であほで本当に仕方ないくらいだ。
そう、仕方ないくらいだが、目に余る!
私生活の最悪さ、無理強い、などなど。
こいつは、何でもできる知的な雰囲気に見えて何にもできない女である。
ただ、剣の才能は誇れるくらいのものだ。自分でほめているくらいだ。
救われたのか、偶然だったのか…さっきの緊張がなくなったようだ。
少しは感謝して…あだで返せるようにしとこう!
「ほれ!やめんか!ノア。フィー。」
聞き覚えのある声の方向を向くと『リクべエ』がいた。
『リクべエ』とは、おっさんである。
瞳の色は、大地の土の色、髪の毛は、黒っぽく…すこし老けている。
さっきまでいなかったはずなのに…。
「いつここに来たんだよ!おっさん!」
「今さっき来たんじゃよ。会議でお前さんがいなかったからどうしたんかと思ったぞ。…おっさん?」
威圧を感じる。
おっさんはおっさんでも、おっさん扱いしてほしくないのだろう。
おっさん呼びは、なぜか俺だけ禁止され『リクベエ』と呼ばなければならない。
ため息交じりに「リクベエ」と訂正する。
とにかく、後ろに固まって動かないミライがいたので紹介することにした。
「このおっさ…この人は『リクべエ』っていうんだ。で、お…リクベエ、この子が『ミライ』」
身長差と体格はやっぱり違いすぎる。
「お~!ミライと申すか!これからよろしくの~。呼び名は何でもいいぞ。」
この話し方からもいかにもおっさんっぽい感じがするが、口調が変だ。
「じゃあ、おじさん?」
この子は、学習能力が早いのかと感心した。
『おじさん』という名前でリクベエはすんなり了解した。
というのも『おっさん』と言ってはダメな理由は、自分と同列の強さを持った人とはライバル(?)でいたいかららしい。
だけど、やっぱり一番のライバルはあいつだけしかいない。
あいつじゃないと…ダメなんだ。
ふと、俺のライバルだった奴の影を脳裏に浮かばせる。
今の俺の姿を見たらどんな顔するのかなと考えた。
考えても無意味で叶うことのない場景。
昔よりも今を…と誰かが言っていた気がする。
そのとおりでもあるし、違い気もしている。
今の…目の前の幸せを守る…それが、みんなの願いだ。
ともかく、食堂に入ることにした。
フィーネは、簀巻きに処して置き去りでいいだろう。
「早かったな。もう、決心はついたか?」
…ケインズもここをここにある幸せを守るために戦っている。
「今回だけだぞ」
俺だって同じ気持ちだ。守りたいものくらいある。
満足したような笑みをケインズがする。
「さーてと、作戦を実行するとしますか。」
背伸びをしているがスイッチが入ったみたいだ。
ケインズは、スイッチが入ると口癖のように言うことがある。
「一網打尽にしてやる」
その声は、ゾクッとするが同時に勝てる策があるということ、指揮が上がる合図だ。
この場にいた全員が静まり返る。
戦況は、危機というまでもないようだが今までにないほど押されている。
この地を守るために何ヵ所に砦が設置されているが、その中の一ヶ所、【雨の砦】に近づいている。
敵の数は、およそ六千。今までは百や千とあったが六千は一番多い数かもしれない。
それに比べ、こちらも人数が少ない…となると俺も出なくてはならない。
「各自、持ち場についてくれ!」
少し…いや、結構嫌な予感がする。
ケインズも考え込むような顔をしていた。
気のせいだったらいいのだがな。
違和感を覚えながら、作戦を実行する準備をすることになった。