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八話 下層の民という事

7



 夜会の後、寮とやらに行った。

 全て個室で、俺に当てられた部屋は男子寮の2階。ベッドが一つと、机や椅子が置かれた簡素な部屋だ。宿屋よりか豪華だな。

 それから翌日。

 早速、学校が始まる。

 今度は遅刻せず、真面目に登校して来ると、正面エントランスにクラス分けが張り出されていた。


「クラス分けなあ……。確か、勇者のお勉強はクラス毎に時間を分けてやるんだったっけか」


 教員の数を考えれば、まあ、合理的な方法か。

 クラスはAからFまであり、俺はFクラスだった。

 とりあえず、教室まで足を運ぶ。道中、妙に周りから冷たい視線を浴びたが無視した。

 教室まで着くと、どこか異様な空気を感じた。まず、扉がボロい。建て付けが悪く、明らかにここだけ整備がされていなかった。


「なんだ?」


 俺は不思議に思いながらも扉に手を掛けて開く。

 教室内も扉同様にボロく、数ある机は脚が折れていたり、虫に喰われていたりなど、色々と悲惨だ。


「なんだこりゃあ?」


 まさか全クラスがこの有様であるという事は考え難い。となると、Fクラスだけだ。しかも、時間的に他のクラスメイトが居てもおかしくないが、誰もいない。

 どういう事なのかと、俺のその疑問に答えるかの様に背後から声がした。


「おら、そこを退きな!」

「んあ? って、なんだあんた」


 振り向くと、葉巻を口に咥えた男勝りな女がバットを肩に担いで立っていた。スタイルは悪くないが、如何にも柄が悪そうだ。

 女は不機嫌そうな顔を、より一層濃くする。


「なんだとは失礼な餓鬼だね。あたいは、あんたの担任教師だよ。名前はレオノーラ・アペンド。さあ、さっさと席に座りな!」

「席れつってもどこに座ればいいんだ?」

「どこでも構わないよ。どうせFクラスの生徒は――あんたしか居ないんだからね」


 レオノーラと名乗った女は、言いながら煙を吐く。


「どういうこったそりゃあ」

「そいつは今から説明してやるよ」


 そう言うので、俺は言われた通り、とりあえず適当な席に座った。

 レオノーラはそれを見て教壇へ上がる。


「さて、改めてあたいがFクラスの担任。レオノーラさ。で、続きだけど。このクラスの学生はあんたしかいない」


 レオノーラが言うには、このクラス分けはただのクラス分けではないらしい。入学試験時の実力順に、AからFクラスに振り分けられるというのだ。

 つまり、Aクラスが一番優秀であり、Fクラスはダメな奴の吹き溜まりという事だ。


「この学校じゃあ、Fクラスの扱いは酷いからね。まあ、階級社会の縮小図みたいな所さ。下は虐げられる。それだけさ」

「面白くねえなあ、そりゃあ」

「だが、それが現実。そんな訳で、大抵は毎年の様にFクラスの学生達は一人残らず入学の前に辞めるのさ。だから、今年は担任持たなくて楽できそうだったってのに……あんたが残ってるからね」

「ああ、悪いな。レオノーラ。俺は辞めるつもりねえよ」

「だろうね……全く。本当はあんた、最初はAクラス行きが確定していたんだ。どんな手を使ったか知らないけど、あの『紅蓮の勇者』と顔見知りなんだろう?」


 俺はレオノーラの問いに頷く。


「ああ、しっかし、最初はAクラスだったのか。俺は入学試験受けてねえのに?」

「あのエレシュリーゼ・フレアムの推薦だよ? 無条件にAクラスに決まっているだろうさ。だけど、途中でこんな情報が舞い込んで来てね。あんたは一気にFクラスまで降格さ」


 レオノーラは俺に手紙を差し出す。開けて中を確認すると、俺に関する事が書かれていた。


「オルトなる学生は第1階層の出身……か。よく調べたもんだなあ」

「ああ、その手紙が投函されて学校側が調査した結果、事実だった。幾らなんでも、エレシュリーゼ・フレアムの推薦とは言え、最下層出身をAクラスに無条件に入れるとなると、学生達が色々と勘繰りを入れて面倒になる。だから、Fクラスに決まったのさ」

「ふうん……まあ、どうでもいいけどな。むしろ、こんなでかい教室を独り占めできんのは、中々悪くねえ」


 俺が不敵に笑いながら言うと、「ポジティブだねえ」とレオノーラは葉巻を吸う。


「ああ、そうそう。Fクラスは特に授業はない。好きにしな」

「そりゃあまた自由な学校な事だな」

「ゴミダメに金を掛ける必要はないって事さ。まあ、あんたが何を目的にこの学校に来たのか知らないけどね。面倒な貴族には目を付けられない事だね」


 レオノーラはそれだけ言うと、「じゃあ、あたいは帰るよ」と教室を去って行った。

 古びた教室に残された俺は、暫く頬杖を付いたまま窓の外を眺める。


「んーあれだな。まずは、掃除でもするかな」


 俺は掃除をする事にした。

 数分後、雑巾やバケツ、箒などの掃除用具を一式借りてきた。そして、三角筋とエプロン、マスクを着用。

 うむ……準備万端!


「さてと……やるかあ!」


 どうせボロい設備だ。俺が何をどうこうしようと、どうせ何も言われない。何か言われたら、エレシュリーゼに借りを作って置けばなんとかして貰えるだろう。後で精算する時に怖いけど……。

 俺は机や椅子を外に出す。

 Fクラスは1階の端にあり、窓を開けると直ぐ目の前は雑草だらけの庭だ。机や椅子を置いても、苦情を言われる事はない。

 更に俺は、特殊な身体技法を用い、無音で作業を行う。一切の音を立てずに教室内の清掃を遂行する。


「塵と埃は箒で掃いたし、床は雑巾で拭き終わったな」


 後は、底が抜けそうな床や脚の折れた椅子と机の修繕だな。

 俺はその材料を集める為に庭へ出て、手頃な木を刀で切り倒し、加工する。

 そうして、色々と追及して行った結果――俺だけのマイクラスルームが完成した。


「ふっ……我ながら天才的だな」


 俺は粘土を焼いて作ったお手製の茶器を使い、庭で採取した茶葉を、水に入れて沸騰させたお茶を作る。

 椅子には、先程街の外で狩って来たモンスターの毛を刈り取って作ったクッションが敷かれ、お茶菓子にクッキーを作って見た。材料はモンスター製で無料だ。

 俺は椅子に胡座を組んで座り、お茶を啜りながらクッキーを食べる。

 そんな優雅なひと時を過ごしていると、


「おい、まだいるかい? って、なんだいこれは!?」


 様子を見に来たらしいレオノーラが、教室の変貌っぷりに驚愕して目を丸くさせている。


「ちょっと手を加えただけだ。我ながら天才的だよな?」

「ちょっと!?」


 それからレオノーラにもお茶とお茶菓子を用意し、一緒に一息吐く。


「たったの3時間足らずでこれだけ良くもまあ……いやあ、それにしても美味しいお茶だね。このクッキーも……甘すぎず苦すぎず」

「甘くしても良かったんだけどな。甘いクッキーは焦げやすくて、焼くには難しい。まあ、俺にできんのはこんなもんかね」

「いやいや、十分過ぎる……。しかも、クッションやら何やら。あんた、勇者じゃなくてこっちの道に進んだらどうだい?」

「その気はねえよ。まあ、用事が終われば、それも有りかな」


 レシアと結婚したら、そういう店を開くのもありかもしれない。振られるかもしれないけど……って、


「あ」


 俺は大事な事を思い出す。

 そういえば、俺……レシアに会いに来た筈なのに、一体何をやっているのだろう……。





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