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四十四話 蟲と炎


 エルキナに引っ付かれながらも、オルトが巨大繭にできた穴から外を覗き見ると……遥か下で、巨大化した蝿の王と、なにやら得体と知れない炎の塊が争っていた。


 遠目から見れば大怪獣バトルである。


「なんじゃありゃあ……ん?」


 ふと、オルトの視界にエレシュリーゼが映った。それも、炎の塊の肩上でだ。手には、いつもの剣とはデザインの違うものが握られており、彼女を中心に地面が灼熱焦土と化していた。


 グツグツと煮え滾る溶岩に焼かれ、蝿の王は苦しみからか大暴れしている。仮にも、魔人の中でも強者の部類である蝿の王に効果があるということは――。


「神器か……? あれ……たしかに、レシアの持ってるやつと似た気配はあるが……」


「うわ! 怖いっすー! 助けてっす〜!」


「お前本当に邪魔なんだけど……こっから突き落とすぞ? おい?」


「酷いっすー! やめて欲しいっすー! あ! ああ! 本当に突き落とそうとしないでー!」


 オルトは額に青筋を立てて、エルキナを引っぺがそうとする。しかし、エルキナも本気で抵抗するものだから、中々引き剥がせない。


「だあああ! うるせえなあ! てめえに構ってる暇はねえんだよ! こっちはレシアを助けに来てんのに、蝿の王はムカつくし、エレシュリーゼはなんか燃えてるし! つーか、モニカの方も不安なんだよ! これ以上、俺の心労を増やすな!」


「ひいいい!? お、お願いするっすー! 助けてくださいっす〜! た、助けてくれたら……いいことを教えるっすから……!」


「……いいことだあ? どうせくっだらねえことだろ……いいから離れろ!」


「ち、違うっすー! 本当にいいことっす! な、なんで人間がここにいるのかとか……き、気にならないっすか……?」


「……なんか知ってんのか」


 オルトが興味を示したからか、エルキナはこれでもかと首を縦に振る。


 オルトも不思議には思っていた。

 この階層に人間がいる理由については、単純に考えれば魔族が秘密裏に下の階層へ移動して、攫ってきているのではないかという仮説が立てられる。


 しかし、やや問題がある。

 まず、魔族が下の階層に移動した時点で、オルトやラッセルが気配を察知できてしまう。


 もちろん、蝿の王みたいな例外はいるが……。加えて、これだけの人数を一度に攫うとなれば、人類サイドで騒ぎになるはずだ。


 それが、騒ぎにもならず、何百、何千という人間が魔族達の手に渡っている。


 これがまさか第三〇〇階層だけの光景とは考え難い。他の階層にも、魔族に囚われ、惨い仕打ちを受ける人々がいるはずなのだ。


 エルキナは、オルトの興味を引くために言葉を振り絞る。


「に、人間側に裏切り者がいるっす……」


「……」


 オルトは刹那の思考を行い、「はあ……」と深い溜息を吐いた。


「分かった……別に、丸々全部信じたわけじゃあねえが、とりあえずこの場は助けてやる。だから、とりあえず離れろ」


「ほ、本当っすか!? あ、あざす!」


「……」


 オルトはやや癪に障りながらも、仕方ないと切り替えて、改めて変わり果てた姿のエレシュリーゼを見下ろした。


「なにがあったか知らねえが……とりあえず、声でもかけてみるか」


 状況の把握できていないオルトは、まずは現状を知るために繭から飛び出して急降下――蝿の王と炎の巨人が争うを間に自ら飛び込んだ。


 ズンッと、オルトが着地すると同時に衝撃波が轟き、二体の怪獣が体を仰け反らせて後退する。


 さらに、着地の衝撃によって溶岩となっていた地面の表面が吹き飛ばされて、しっかりとした地面の足場ができる。


「さて……と、無事でなによりだぜ、エレシュリーゼさんよ。あのいけ好かない女はどこに行ったんだ?」


 オルトが刀を肩に担いで、問いかけるものの、エレシュリーゼから反応はない。


 巨人の肩に乗って、紅蓮に燃える瞳で冷然とオルトを見ている。それを怪訝に思ったオルトは、一歩……エレシュリーゼに近づくと――突如、巨人が動き出した。


『ヒーハー! 無駄だぜ、兄ちゃん! 今のご主人に自我はねえのさ! 紅蓮の怒りでヒートアップしてるご主人は、ただ全てを燃やす本能に従ってるだけなのさ! だからよお! てめえも燃えちまえよ!』


「お前、喋れるのかよ……というか、自我がないってな――」


 オルトが言いかけたところで、巨人の極太な腕がオルトに向かって振り下ろされる。燃え盛る業火の拳がオルトに直撃――刹那、大爆発が起こる。


「あちっ……!?」


 爆発で吹き飛ばされたオルトは、宙を舞いながら呑気なことを呟いていた。


 今の一撃で、服が燃える……というよりも溶けてしまい、今は辛うじて生き延びたパンツ一丁という際どい恰好になっている。


 拳が直撃する間際、『建御雷』で皮膚が硬化されたことで致命傷は与えられていない。しかし、微かに皮膚が焼かれてしまったのか、ところどころに火傷の跡が出来ている。


 ふと……宙を舞っていたオルトに向かって、今度は蝿の王が動き出した。


『ごあああああ!! にく! ニク! にくううううう!!』


「ちょ……」


 空中で身動きの取れないオルトを、蝿の王は膨張した手で地面に向かって叩き落とす。


 べちっと、間抜けな音とは程遠い威力で、オルトは地面に叩き落とされる――尋常ではない速度で地面に突き刺さる。


 再び、衝撃波が辺り一帯に走って、もの凄い爆発と共に土埃が舞う。

 オルトは体の半分が地面にめり込んだ状態で、苦悶の声を上げた。


「ぐっ……こ、この野郎……エレシュリーゼが仲間だと思って油断してたところに、連携プレイだと……?」


 まさかエレシュリーゼ……というか、エレシュリーゼに従っているっぽい巨人に攻撃されるとは思っていなかった。


 オルトの読みでは……ミラエラとの戦いで、なにか秘められたパワーに目覚めたエレシュリーゼが、ミラエラを下した。そして、これからオルトと一緒に蝿の王をコテンパンにするというのが、彼の読みであった。


 強ち、間違っていない辺り間抜けとも言えない。

面白い!

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スーパーやる気が……出ます!


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