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四十三話 蟲の息


 『死翔の魔翔』蝿の王は、混乱していた。

 死翔とは、『死』という概念そのものを運ぶことから名付けられた、死を体現した名前だ。


 多種多様な蟲を操り、ラッセルすら死の危険を感じるほどの魔人……だというのに、オルトが相手では、まるで歯が立たない。


 神器を使っているわけではなく、特別な武器を所持しているわけでもない。ただ、純粋な力を前に、蝿の王は叩きのめされた。


 全一〇〇〇階層からなる塔の世界エルダーツリーで、トップクラスの力を持つ魔将が足蹴にされるなどあってはならない。


 蝿の王は、気色の悪い繭でできた玉座の前で、従者共に用意させた"人間"の血肉を貪り、力を蓄えていた。


 少しでも力を蓄えて、あの"化物"に対抗するための力を――蝿の王の耳に、生きたまま喰らわれる人間の絶叫が響く。


 それは、血肉と共に彼の体内で蟲達に分解され、強力な力へと変化されていく。徐々に、蝿の王の体が膨張を始め、近くで控えていた従者達は恐れをなして後退りする。


『ニクー!! ニクが、ニクに、ニクを、ニク、肉、にく、肉を寄越せ! もっとだ……あの男を殺すには、まだ足りぬ。ああ……ああ……!!』


 ブチブチと、肉の千切れる音を立てて、彼の体はさらに膨張――怯えたメイド服を着た上級悪魔は、足が思うように動かず、尻餅をついてしまった。


 大した音ではなかった。


 しかし、どんどん自分の中で膨張していく力に酔ってしまい、理性の枷が外れてしまった蟲の集合体――蝿の王は、耳障りだったのかグルリと首を回し、メイドに目を向ける。


 彼のハエ目は、いくつもの目玉で構成され、その全てがぎょろぎょろと蠢きながら、一斉にメイドへ向けられる。


 明らかな敵意を向けられたメイドは、「ひっ」と顔色を真っ青にし、すぐさま地べたに額を擦り付ける。


「も、申し訳ございません……!」

『……ニク』


 蝿の王は、ニッと口の端を三日月に歪めると、おもむろに巨大になった手を伸ばして、メイドの体を握り潰した。


「ひぎいいいい!?」

『ニク……ニク! 肉!!』


 力を過剰に蓄えすぎた結果――正常な判断力を失った蝿の王は、あろうことか握り潰したメイドを口の中に放り込み、呑み込んだ。


 周りで見ていた他の悪魔達は、なにが起こったのか分からず、この場に一瞬の静寂が訪れる。だが、蝿の王が骨だけを口から吐き出した途端に、阿鼻叫喚の渦が巻き起こった。


 悪魔達は、今度は自分が喰われてしまうと怯え、我先にと逃げ出すが――蝿の王の背から巨大なカマキリの腕が生え、逃げ出した数人の悪魔を一瞬で両断してしまう。


『ニク! 肉! ああ……ああ! 肉よ! ニクを寄越せ!』

「ぎゃああああ!?」


 ぐちゃぐちゃと、音を立てながら、一人、二人と……次々に彼の口へ悪魔が放り込まれる。


 悲鳴と鮮血が飛び交い、しばらくすると玉座の間にいた悪魔達は、全て彼に喰われた。今は、腹の中に収まり、悲鳴を上げる者は、誰一人として残っていない。


『ニク……! 肉ー!!』


 それでも、彼は肉を求めて辺りを見回す。

 実は、この場にはまだ喰われていない悪魔がいた。


 柱の陰に隠れていたことで、運良く目に付かなかったのだろう。蝿の王の視界に映らない柱の後ろで、口元を抑えて息を殺す一人のメイドがいた。


 体は、カタカタと恐怖で震え、目尻に涙を流し、死にたくないと心の中で泣き叫ぶ。


(は、はわわ……! ま、まさか蝿の王のところに、潜入調査で来たらこんな目に遭うなんて……! さ、最悪っす……!)


 と、己の不運を彼女は恨めしく思った。


 そう。彼女は、蝿の王に忠誠を誓う悪魔ではなかった。"上司"の命令で、蝿の王の内部調査をしていた悪魔――ではなく魔人であった。


 彼女の名前は『催眠の魔人』エルキナ。闇色の髪を後ろで一本に結んだポニーテールで、極めて可愛らしい容姿をした魔人であった。


 エルキナは、まさか潜入調査中に、こんなことに巻き込まれるとは思いもよらず、命令した上司を恨む。


(こ、こんなことになるなんて聞いてないっすよー! まさかあの"オルト"が来るなんて誰が予想できるっすかー!)


 などと、内心で上司に向かって悪態を吐いている間に、蝿の王が徐々に近づいてきている気配を感じ、肩を強張らせる。


 蝿の王は、肥大化した巨体で王座の間を隈なく探していた。エルキナの存在に気付いているわけではないだろう。恐らく、本能的に肉を求めて探してしまうのだ。


 とはいえ、このまま息を殺していれば見つかる心配もない……はずだったが、彼女の不運は折り紙付きであった。蝿の王の数多ある瞳が、偶々エルキナを発見してしまった。


 エルキナもそれに気がつき、「こんちくしょー!」と泣き叫びながら、上手く力の入らない脚で、出口に向かって走り出す。


 言うまでもなく、蝿の王は逃すまいと、『肉ー!!』と叫びながら、背中に生やしたカマキリの刃を、逃げるエルキナの背に伸ばす。


 エルキナとて魔人――そう簡単に追いつかれはしないが、またもや不運が彼女を襲う。


 ただでさえ、上手く脚が動かないところに、小石で蹴つまずいてしまい、盛大にすっころんでしまう。エルキナは、「んぎゃっ」と間抜けな悲鳴を上げる。


 そして、彼女が振り向いた頃には、目前にまで蝿の王の刃が迫っていた。


 エルキナが死を悟った――その瞬間。


 玉座の間を覆っていた繭の壁を吹き飛ぶと同時に、爆煙の中から人影が飛び出し、蝿の王の顔面を蹴り飛ばした……!


『ぐぼあっ!?』


 蝿の王の数メートルはあろうかという巨体が、軽々と後方へ大きくぶっ飛ぶ。繭壁を幾枚もぶち破りながら、蝿の王は繭の外まで消えて行った。


 後には、蝿の王を蹴り飛ばした張本人――鬼の形相で佇むオルトと、唖然とした間抜けな表情を浮かべるエルキナ。そして、舞い上がった塵や埃のみ。


 オルトは刀を担いだ姿勢で、ふと……エルキナに目を向ける。エルキナは睨まれて、ハッと我に返ると、慌てて取り繕う。


「ち、違うっす! 待って欲しいっす! うちは、蝿のところの悪魔じゃないっす……! だから、殺さないで欲しいっす〜!」


 エルキナはとにかく、この場を切り抜けるために必死の懇願をするしかなかった。


 エルキナは内心で、


「ぎゃあああ!? 一番会っちゃいけない相手が来たっす〜!?」


 と絶叫していた。

 どうやらオルトのことを知っているらしい。

 そんなことはつゆ知らず、オルトは怪訝な眼差しを彼女に向ける。


「悪いが、こっちは気が立ってんだ……泣き落としは通用しねえぞ……」

「ひいいい!? う、うちは悪い悪魔じゃないっす〜!?」


 エルキナがとにかく縮こまって懇願するものだから、オルトも非常にやりにくい。抵抗しない相手を問答無用で斬るほど、オルトは冷静さを欠いていなかった。


 どうするべきかと、オルトが顎に手を当てたところで――先ほど、蝿の王を吹っ飛ばして破壊した繭壁から、咆哮が轟いた。蝿の王のものだ。


 オルトはそちらの方向に注意を向けながら、玉座の間に広がっている惨状に舌打ちをする。


「ちっ……敵も味方もお構いなしかよ」


 気分が悪い。

 いよいよ、堪忍袋の緒が切れるというもの。

 オルトのこめかみに青筋が立ち、刀をにぎる右手に力を入る。


 さて、ついに蝿の王と決着を付けようと、オルトが一歩踏み出した折、エルキナが「ひえええ!?」とオルトの腰にしがみ付いて横槍を入れた。


 蝿の王の咆哮が余程怖かったのだろう。涙で目が腫れている。


「ちょ……おい! 離れろ!」

「ひ、一人にしないで欲しいっす〜! 助けて欲しいっす〜! 喰われるのは嫌っす〜!」

「じゃかあしい! いいから離れろ! ちょ……鼻水を俺の服で拭くなよ!?」


 オルトが振り解こうとしても、なまじ魔人なだけあって力が強く、振り払うにも時間がかかる。

 オルトは頭を掻き、「お前マジで邪魔だな!」と叫んだ。


 それから、しばらくオルトとエルキナの押し問答が続いた後――突如として、階層全体を揺るがす大爆発が起こったのだった。


 

こんばんは!

青春詭弁です!


しばらくは、毎週日曜日の定期更新にしようかと思います!


先週も更新しようと思っていたのですが、"忘れてしまた"!


……すみません。


実は、私大学3年生なのですが、近頃は進路の関係であっちこっちに行っています。


最近では、目黒に行きましたね。すごかったです。満員電車が。もう、あれダメですね。苦痛です。


電車の中でギュウギュウに押し込められるのを、通勤時に毎回味合うなんて、「そりゃあ精神的に参りますわ」って思いました。はい。


ということで、僕はニートになろうと思います。

これからは人生を舐めながら、小説を書いて行こうと思いますので、よろしくお願いします!


本当は、フリーランスで働こうと思っているので、ニートにはなりませんけど……。

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