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四十二話 蟲の巣


 蝿の王に従う人間達には眠ってもらい、すぐにその後を追うオルトだったが、すっかり姿を見失ってしまった。


 気配を探ってみても感知ができない。

 思えば、蝿の王が人間の階層まで降りた時にも、オルトは感知することができなかった。


 なにかしら気配を消す方法が、蝿の王にはあるのだと考え、オルトは必死に動かしていた足を止めた。


「くそっ! あんにゃろう……どこに逃げやがった!」


 悪態を吐き、近くに転がっていた小石を蹴飛ばす。

 レシアの件で、ただでさえイラついているというのに、加えて人が捕らえられて酷いことをされていると知れば、腹に据えかねるというもの。


 以前から、魔族の人間に対する外道な行いは、ラッセルから聞いていた。


 キュスターの別荘地下に直接趣いて、オルトも信じられない現実を目の当たりにしている。あれと同じ悲劇がここでも起きている。


 否……おそらく、どこでも起きている。


 魔族にとって人間は食料みたいなもの。どこへ行っても、同じ光景を目にすることになるだろう。これから上を目指すというのなら尚更だ。


 気に食わない……実に、気に食わない。


 オルトは額に青筋を立てる。


 幼少期、自分が搾取される側の人間であったからだろうか。搾取する側の存在が、オルトはどうにも気に食わなかった。


 かつて、レシアと共に苦渋を舐めさせられた記憶が、オルトの中にこびり付いている。


 別に同情をしているわけではない。

 ラッセルみたいな正義感があるわけでもない。


 ただ、気に食わない。


「ちっ……あの野郎、さっさと取っちめてねえと……。しっかし、どこに行きやがったんだか……」


 まだ、この階層にいることは確実だと、オルトは考えていた。


 転移魔法を使ったのなら、魔力の残滓が残る。しかし、そのような痕跡は見当たらない。


 オルトでも知らない移動手段があれば別だが……八割方ここにいる可能性が濃厚だと考えられる。


 とはいえ、階層というのは非常に広いものだ。

 基本的に、その半径は一〇〇キロ前後ある。しかも、この階層は一面が荒野であり、蝿の王が住んでいた屋敷を除けば、建物など一切存在しない……。


 ふと、オルトはなにか引っかかりを覚えた。

 

 屋敷以外に建物がない――魔族の生態系など知らないが……では、他の魔族は一体どこにいるのだろうか。


 まさか、この階層にいる魔族が全て、あの屋敷にいるはずがない。


 試しにと、蝿の王ではなく、この階層全域に意識を広げると……ある一箇所に、魔族の気配が集中していることに気づいた。


 そこは思いがけない場所で、オルトは咄嗟に空を仰ぐ。


「おいおい……さすがに、盲点だったぜ」


 オルトが見上げると……空を覆う天井の面に、巨大な白い繭がへばりついていた。逆光となっていて、注意して見なければ、白色の繭など気づきもしない。


 巧妙に、自然の中に隠された巨大なコロニー……そこから、魔族達の気配が感じられた。


「……もし、捕らえられた人がいるとしたら、あそこか」


 そして、そこにおそらく……蝿の王も逃げ込んでいる。


 オルトはすぐに地面を蹴って駆け出すと、膝を屈曲させて跳躍――音速を突破する勢いで、辺りに衝撃波を撒き散らしながら繭へ頭から突き刺さる。


 ドカーンッと、爆発音が轟く。


 白い繭の壁を破壊して侵入を果たしたオルトは、辺りを見回す。


 繭の中は、広大であった。

 どこもかしかも白い糸の塊が、壁や床となっており、ところどころに虫の卵が植え付けられている。


 大きな卵で妙な粘着性の液が滲み出ている。見るからに気味の悪いものである。


 オルトが侵入した場所は、巨大コロニーの育成所であった。卵があるのは、そういう理由であり、オルトは眉を寄せる。


「卵……」


 オルトが派手な爆発音と共に侵入してきたこともあり、騒ぎを聞いて駆けつけた上級悪魔や下級悪魔達が、続々と育成所へと向かっていた。


 オルトも気配で察知しており、早いところこの場から離れたいところであったが――嫌な予感がした。


 ここは卵を育てる場所、そして子供を育てる場所だ。


 オルトは少し移動し、すぐにそれを見つけた。


 彼の視界に映っているのは、同じ人間だった。


 白い糸の塊で作られた寝台の上に横たわっている。その腹は、無残に裂かれている。


 かつて内蔵のあった部分には巨大な蛆虫が、葉っぱでも食べるかのように、むしゃむしゃと肉を噛みちぎっている。


 蛆虫が肉を噛みちぎる度に、寝床とされている男性が悲痛の叫び声を上げる。それは、その男性以外も同じだった。


 男性の横には、さらに寝台がいくつも横に並び、全く同じ悲劇が繰り返されている。


 惨いなんてものじゃない。


「っ……」


 オルトは思わず口元を覆った。

 悍ましい光景に、下唇を噛み、怒りを覚える。


「この……クソ虫共が」


 見たままの光景に顔を顰めたまま、オルトは刀を引き抜く。


 もはや、彼らを助けることはできない。


 だから、せめて安らかに眠れと……引き抜いた白刃の刃が煌めき、『ヒギイッ!?』と蛆虫達が悲鳴を上げ、緑色の血を撒き散らし絶命。


 同時に、蛆虫の寝床となっていた数十人の人々も、声なくその命を落とす。


 神速の刃で安らかな死を与えたオルトは、刀を鞘に納めながら、ギリッと奥歯を噛み締めた。


「ああもう……てめえら、もうダメだわ……」


 と、彼が呟いた直後。

 騒ぎを聞きつけた悪魔達がゾロゾロと現れ、オルトを発見するなり武器を構えた。


「おい、貴様! 侵入者だな! 大人しく――」


 カマキリの頭をした上級悪魔がなにかを言う前に、その首が宙を舞った。


 後ろに控えていた悪魔達は、なにが起こった分からず、目を見開いて戦慄する。


 そんな彼らにオルトは、


「本当にてめえらはよ……レシアを攫った挙句に、こんなクソ外道なことしやがってからに! いい加減にしろ!」


 完全にブチ切れていた。

面白い!

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