四十話 正義執行
あ……あー……なるほどね。
なるほど。なるほど。
え?
なにが?
※
第三〇〇階層の広い荒野。剥き出しの乾いた岩肌に剣を突き刺し、スズメバチを前に余裕の笑みを浮かべているラッセル。
そんなラッセルの表情が、気に食わないのか、スズメバチが蜂特有の大顎をカチカチと鳴らす。
「キキッ! 人間……何をするつもりか知らないが、させるとでも思ってるのか! キキッ!」
「もう遅いさ」
ラッセルは腕を組み、仁王立ちする。そして、足を上げ踵を地面に叩きつけた。
奇妙な行動に首を傾げたスズメバチを他所に、ラッセルを中心にして地面が割れる。
割れた地面から青白い光が空に向かって伸び、殺風景だった荒野を美しく彩る。
光は徐々に電気を帯び、放電を始める。
その奇怪な変化にスズメバチが眉根を寄せた。
「なんだ……? なにをするってんだ!?」
「……俺の生まれは第五〇階層でな。魔力は、エレシュリーゼ殿ほどはない。しかし、オルトやレシア殿よりは魔力を持っている」
ラッセルの体が青白い電気を帯び始める。プラチナブロンドの髪が静電気でふわりと浮く。やがて、青白い電気は大きくなり、彼の全身を青白く発光させるほど、バチバチと音を立てて放電する――。
「本気で戦う時以外は、使わないようにしているのだ。俺は不器用で、ただ真っ直ぐに突っ込むしか脳がなくてな。魔力の制御ができず、手加減ができないのだ」
「…………っ」
どくっと、スズメバチの体が跳ねた。
全身の筋肉が、得体の知れない緊張と恐怖で収縮したためだ。
ラッセルを中心に濃密な魔力の塊が集まっている。それが青白い電撃の正体であり、スズメバチはラッセルがなにをしようとしているのかに勘付き、大きくその場から飛び退いた。
スズメバチが怯えているのを気にも留めずに、ラッセルは不敵な笑みを浮かべて、小さく呟いた……『エレメンタルアスペクト』と――。
瞬間――ラッセルの体が青白い雷となり、周囲に電気エネルギーを放出。莫大なエネルギーが熱エネルギーへと変換され、電撃が駆け抜けた地面はドロドロに溶けてしまう。
「か、雷属性の『エレメンタルアスペクト』……!? 今まで隠して……!?」
「はっはっはっ! 魔力が多いわけではないからながもちはしないのだがな! これが正真正銘! 俺の全力全開だ!」
ラッセルは地面に突き刺した剣を抜き、切っ先をスズメバチへ向ける。
「さあ! 行くぞ! スズメバチ!」
「キキッ!?」
スズメバチの視界からラッセルの姿が消えたかと思うと、稲妻が宙を駆け、空中で静止していたスズメバチの背後にラッセルが姿を現わす。
スズメバチは思わず声を上げ、堪らず上へ上へと飛翔――とにかく、ラッセルに近付かれてはいけないと、その一心で上へ逃げる。
しかし、『エレメンタルアスペクト』によって雷となったラッセルの肉体は、先ほどとは異なり容易に宙へ足を延ばすことができる。
「空へ逃げても……無駄だ!」
稲光が走ると、拳を固めたラッセルがスズメバチの眼前に現れる。
そして、固めた拳をスズメバチの顎に向かって情け容赦なく振り抜き、遥かに上空の天井まで殴り飛ばす。
スズメバチは天井に頭から突き刺さり、爆発音とともに天井の岩が崩れる。瓦礫の一部が地面へ落下する。
『エレメンタルアスペクト』によって、強化されたラッセルの一撃――そこに雷属性も付与され、スズメバチの体の芯を、電撃と衝撃が貫いた。
「がはっ…………っ」
スズメバチは重力で天井から頭がすっぽ抜け、力なく地面へと落下。
ラッセルは追撃の手を緩めることなく、スズメバチに向かって剣を振るう。
空中で、四方八方から雷速で襲いかかる尋常のものではない剣戟――。
スズメバチは地面に落ちることも許されず、空中で針の筵となっていた。
「どりゃああああ!!」
ラッセルは渾身の一撃とばかりに、上から剣を振り下ろす。しかし、スズメバチにも魔人としてのプライドがあった。
「キキーーーー!!」
飛びそうになった意識をプライドだけで繋ぎ止め、なんとか振り下ろしを間一髪で躱す。
同時にラッセルから距離を置くため、尻先の毒針を発射――毒針は途中で破裂し、周囲に毒の煙を撒き散らす。
「む」
ラッセルは眉を寄せ、全身から電撃を迸らせて毒の煙を吹き飛ばしてしまう。
「くそっ……! 足止めにもなりゃしないのか!? 人間の癖に……!」
スズメバチの人間を見下したような発言に、ラッセルが額に血管を浮かべ、稲光を走らせる。
「人間を甘く見るな!」
落雷の轟音と共に、ラッセルは再びスズメバチと肉迫する。
スズメバチは驚愕に顔を染め、あからさまに怯える。
そんな彼女にラッセルは剣を構えて、こう口にする。
「貴様ら悪魔は、自分の快楽のために罪のない人々を食い物にし、数々の外道な手段で殺す……! 俺はそれが……絶対に許せない!」
「に、人間なんざどうなろうが関係ねえだろ!?」
「それが許せないと言っているのだ! 貴様らの行いは……俺にとっての邪道だ! 正義こそ! 我が正道! 我が王道! 征くぞ! 『正義執行』!」
構えたラッセルの剣に青白い光が収束――美しいその光を前に、スズメバチはただ震えて――。
「ま、待て……! 待ってくれ……! そうだ……お前……俺様の部下にしてやってもっ……!」
それが最期の言葉となった。
莫大なエネルギーが臨海に達し、ラッセルは躊躇いなく剣を振り下ろす。
「――『ロード・ライトニング』!」
青白い、正義の雷が轟音と共にスズメバチを呑み込んだ。
一瞬だった。
稲光と轟音が一体を駆け抜けた後には、粉々に砕け散り焼け焦げた大地と、身動きが取れずに大の字で横たわるラッセルの姿のみ。
スズメバチの姿は塵も残さず、綺麗さっぱり跡形もなくなってしまっていた。
ラッセルはすっかり魔力切れと、スズメバチから受けた幾らかのダメージで動けなくなっていた。
「ぜえぜえ……やはり、無理矢理に魔力をフル活用するから、堪えるな……ぜえぜえ……。いやー疲れた……疲れた……」
魔人の相手は、やはり一苦労だと肩を竦める。
とはいえ、このままここで横たわっているわけにも行かない。ラッセルは仲間達が無事か気になり、剣を支えにしてなんとか立ち上がる。
荒野に風が吹き、それに身を任せるように瞳を閉じる。
「蝿の王の気配は……やや離れたか……? オルトはその近くにはいないか……。モニカ殿も……魔人と戦っているような気配がするな。む……? これは……エレシュリーゼ殿の気配……か?」
いつもとはやや……いや、常軌を逸脱した気配を感じ取り、ラッセルは危機感を覚えた。
「なにか……予期せぬ事態が起こっているような……」
ラッセルの予感は、正しく的中していた、
刻一刻と、階層全体に灼熱焦土は広まりつつあった――。
面白い!
続きが気になる!
そう思っていただけたら、ぜひブックマークとポイント評価をいたたげると嬉しいです!
スーパーやる気が……出ます!
あとtwitterで更新などの通知をしているので、ぜひフォローしていただければと……!
TwitterID:oneday_8013




